調査・報告 専門調査  畜産の情報 2015年7月号


酪農家を包み込むさまざまな連携
〜北海道・十勝を中心として〜(前編)

畜産・飼料調査所「御影庵」主宰 阿部 亮



【要約】

 北海道の酪農家を取り巻く諸機関の技術支援の形について、「繁殖成績の向上」、「濃厚飼料の生産拡大」、「草地植生の改善と自給飼料生産力の増強」をテーマに、道内4機関に対し、2014年11月に聞き取り調査を行った結果、地域内においては、酪農家と関係機関が、問題点、解決方策、改善目標を共有し、目標に向かって努力する姿を確認できた。また、連携の推進および新しいテーマである濃厚飼料自給率の向上を図るための基盤的な調査・研究という、外延的な酪農家支援についても、諸機関の連合・連携の具体的な姿を把握できた。

はじめに

 昨年(2014年)の「バターの不足」という新聞・テレビの報道によって、国内における酪農家戸数と乳牛頭数の減少を多くの国民が知った。この状況を転換させねばならないと考える中、本稿では、2014年11月に実施した道内4機関(注)への調査に基づき、地域社会の中で、諸機関が酪農家を包み込むネットワークを形成し、地域全体と一軒、一軒の酪農家の「経営と技術」について、具体的な素材とデータを皆が共有し、それをベースとして相談し、議論し、問題の解決・改善を図り、最終的には、「地域酪農の発展・充実」と「所得を高める」ことを目標とした地道な努力の形を、技術的な側面から考えてみたいと思う。

注:・明治飼糧株式会社北海道事業部・経営サポートセンター(以下「明治飼糧」という。)
   ・国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター酪農研究領域(以下「北農研」という。)
   ・地方独立行政法人北海道立総合研究機構畜産試験場(以下「道総研畜試」という。)
   ・十勝農業協同組合連合会(以下「十勝農協連」という。)
   ※本稿記述順

1 繁殖成績向上のための飼料会社と酪農家、そして、その周辺の人達との連携

 明治飼糧では、「まきばの彼女.net」(以下「まきばの彼女」)という。)という乳牛の繁殖状況を可視化するシステム(ソフトウェア:図1)を2003年に開発し、2006年から北海道を始め全国の酪農家に供給し、運用支援を開始した。このシステムを通じて、牛群情報を、酪農場の家族・従業員、授精師、獣医師そして飼料会社、所によっては農協が共有し、それを核(コア)として、繁殖成績の向上に取り組んでいる。

 本項では、まきばの彼女の機能とその有用性について紹介する。

図1 まきばの彼女のイメージ図(明治飼糧提供)

(1)日本の乳牛の繁殖成績(調査の背景として)

 繁殖成績の善し悪しを判断する指標として、「分娩間隔」がある。2013年度の牛群検定成績における分娩間隔の全国の平均値は437日である。理想はもちろん1年1産、分娩間隔は365日であるが、それにはほど遠い。そして、この値は経年的に長期化の傾向にあり、1983年が395日、1993年が406日、2007年が433日という具合である。

 2003年に十勝のある酪農家が明治飼糧に、「農場の規模が大きくなって、どの牛がどういう状態でいるのかが分からなくなってきた。受胎しているか否かについてなど、牛の様子や状態について、家族や従業員がデータとして共有出来なくなった。台帳をめくるにしても、それが分厚くなり、それも大変、何かよい方法はないか」という相談を持ちかけた。会社側も以前から、営農のサポートを販売活動に併せて行ってきたが、「経営に大きく影響している技術的な課題として、繁殖がキーワードとなっている。疾病にしても、生産効率にしても、結局は繁殖成績にその根底がある」という認識があった。この2つ、酪農家の要望と会社の問題意識とから、まきばの彼女の開発と普及が始まっている。

(2)まきばの彼女の機能

 まきばの彼女では、牛舎の模型のような区分の中に、4桁の牛の番号(No)が振り分けられている。群飼養の場合には、その区分は、縦軸に泌乳、育成、乾乳(前期、後期)の群分けがあり、それぞれの区分毎に横軸の、繁殖対象外、授精対象((1)分娩後、(2)0〜59日、(3)60〜190日、(4)120日以上)、妊娠鑑定予定、妊娠(+)牛の分娩予定付月(1〜12月)に該当する牛のNoを見ることが出来る。つなぎ飼養の場合には、縦軸に乳牛のNoが係留順に配置され、横軸には上記の項目が並び、その牛の今のステージの所に牛の絵が張り付けられる。牛舎内の乳牛がそれぞれの状態毎に一塊となって、視覚的にグループ化されている。そして、ある牛が次のステージに変わる際には、酪農家が画面上で牛を動かすことによって、牛群全体の状況を動的に、リアルタイムで把握することが出来るという仕組みである。

 もう1つの特徴は、状態がよくない牛、例えばなかなか種が付かなくて、もう妊娠鑑定のグループに入っていなければならないのに、未だ授精対象の群で、しかも分娩後日数がかなり経過した中にいる、あるいは、妊娠鑑定の予定群に入っていながら、そこから妊娠(+)の群に移れない牛などには、赤や黄色の色が付く、要注意牛の警告であり、個体の「ケア」が必要であることを認識させる仕組みがある。

 さらに付属の機能として、牛群検定成績を利用しながら、「繁殖管理指標」、「乳量予測」、「乳量・乳成分分析」、「除籍状況分析」、「初回授精分析」が示される。表1に繁殖管理指標の例を示す。

表1 繁殖管理指標の一例
資料:明治飼糧説明資料

(3)まきばの彼女をコアとした連携

 まきばの彼女は、ネット上で多くの関係者が個々の乳牛についての情報を共有することが出来、関係機関との連携において、繁殖成績表を皆で見ながら、成績を評価・検討したり、改善策を検討したりすることが出来る。

 関係機関との連携は地域によって異なるが、まきばの彼女を使っている拠点の酪農家が、「家に来ている獣医師さんに見てもらいたい」とか、「授精師さんに見てもらいたい」ということがきっかけとなって、明治飼糧と酪農家と周辺技術者とのトライアングルの形が整うケースが最も多いが、中には酪農家とのコミュニケーションを深めるツールとして、農協がまきばの彼女を用いる所もあるという。

 また、公的機関への提出書類(情報)の作成の際にも、システム内に蓄積されているデータを活用することで、双方の事務負担の省力化にも寄与している。

 このように、人と人とが、データを共有して問題解決を図るツールとして、このシステムを利用するという素晴らしさと同時に、筆者は、これに牛群検定成績を組み合わせる、つまり、牛群データの総合化に貢献しているということを評価したい。これからは、さらなるデータの総合化を目指して、粗飼料分析結果報告書、飼料設計書、代謝プロファイルテスト(血液分析)成績などを加えた情報の総合化につながっていくことを期待したい。

 今回の調査を通じて、「なるほど」と感心したことが2つある。1つは、情報の公開である。それ無しには連携はありえず、得られた情報は囲い込むことなく、農家の了解が得られれば、何処でも、誰でも自由に利用できるようにオープンにしているということである。もう1つは、費用対効果比、コストパフォーマンスに関してである。

 まきばの彼女の年間の契約料金は1万円であり、周囲の関係者が利用・共有する場合には、1農家当たり年間1000円が必要となる。明治飼糧におけるシステム開発費や維持費を考えると、ここからの利益はないという現状である。

 それでは営利企業にもかかわらず何故、このような事をするのか。明治飼糧担当者は、「こういう時代だからこそ、生産者の経営が良くなってもらわなくてはならない。農家と関係機関との間に深い関係を作っていかねばならず、そこに我々も参加していく必要があるだろう、そういう考えが根底にあり、農家の人を勇気づけるためには、我々はオープンでやっていこうと話している。最初、始める時には、もっと貰おう、いやタダでいいんじゃないか、と両論があったが、タダというのでは、その価値をお互いが見失いがちになるので、最低限のところで料金設定をした」という。

(4)ユーザーによる使用の感想

 ここでは、調査時の聞き取りと、明治飼糧発行の情報誌「モーモータウン」から、まきばの彼女を使っての感想を紹介する。

(1) 家族内のデータの共有:「ある繋ぎ飼いの酪農家で、息子さんが就農したことがきっかけとなって、まきばの彼女を始めた。そこは牛群検定には入っていなかったので、繁殖成績を把握する手段がなかった。データを見ると、考えていたよりも繁殖成績は悪く、改善しなければとなり、息子さんの入力したデータを基礎に作業カレンダーを作り、皆がそれを見ながら牛の観察をキッチリとする、要注意牛についてはその状態を記録することをルール化した。今までは、種を付けたら、妊娠鑑定日が来るまで、気にもとめていなかったが、種付けをした次の周期、その次の周期と、必ず様子を見ることを習慣づけるようにしている。そのために、発情発見率が上がり、牛をよく見るようになったことから初回の受胎率も改善されてきた」

(2) 親子の会話:「牛舎のこちらの列は父親が、こちらの列は息子がと分け、会話のないままに日常の仕事をやってきていた。まきばの彼女を利用し、画面を見ると、一目瞭然、色がついている所と、付いていない所が分かってしまう、パーッと視覚的に分かる。それによって、親子の会話が始まった。」

(3) 管理の善し悪しの判断材料:「契約の後、初期データを入力し、それを画面で見せると、こんなに色が付いているんだ、悪いんだとビックリする酪農家が多い。やるべきことをやっていないと、画面が賑やかな色に染まってくる。それを見ながら、何を忘れたか、しなかったかが分かってくる」

(4) し忘れ:「使ってみて、良かったことは何ですかと聞くと、おやおや、意外に、乾乳忘れがなくなった、という人がいるんです。やはり、今は頭数が増えて、見逃してしまうことがあるんだと思います」

(5) 見落とし:「繁殖管理は基本的には母と2人で行っています。発情や授精の情報は共有しやすいですが、それでも見落としてしまうことがあります。そういった見落とし防止のツ−ルとしてとても役立っています。色で識別できるので、すぐに気づきます」

(6) 分娩の偏り:「妊娠鑑定をして、妊娠(+)の群に移動すると、分娩予定の月の頭数が一目で分かります。一覧表を確認して、分娩の偏りがあれば何があったかを考えることができるし、偏りをなくす目標もできます。入力していればどんどん変化していきます。導入してから、偏りはだいぶ無くなりました」

2 飼料用穀類の生産拡大のための北農研と諸地域、諸機関との連携

 北農研は2009年〜2011年の3カ年間、「国産濃厚飼料の安定供給に向けたイアコーンサイレージの生産技術の開発」というプロジェクト研究を実施し、トウモロコシの雌穂(子実、芯、外皮)から高栄養価のサイレージを調製するための基礎技術を創り上げた。現在、そこで蓄積された知見・成績を基に、北海道内の3地域(帯広市、美瑛町および安平町)において、多くの関係機関、農場と連携して「飼料用穀類イアコーン」を生産し、利用するための実証試験が行われている。ここでは、その内容を紹介する。

(1)イアコーンサイレージとは

 従来、日本のトウモロコシの飼料利用では、収穫時に茎葉と雌穂(イア)の全植物体を細断し、トウモロコシホールクロップサイレージ(トウモロコシサイレージ)として貯蔵し、給与するという形が全てであった。

 それに対して、イアコーンサイレージは雌穂の部分だけを収穫し、破砕し、ロールベールサイレージとして貯蔵されるものである。

 その場合に、雌穂全体を収穫しサイレージにする場合と、子実だけを収穫しサイレージにする2つの方法があるが、前者はイアレージ、後者はハイモイスチャーシェルドコーン(HMSC)と呼ばれる。イアレージが国内では通称、イアコーンサイレージと呼ばれてきたが、これと区別するために、HMSCを北農研ではプレミアムイアコーンと命名した。

 以下、これに習って本稿では、HMSCを「プレミアムイアコーン」と記述する。

 これまで北農研では、イアコーンサイレージの研究を主として行ってきたが、現在はプレミアムイアコーンの研究開発に取り組んでおり、各地での実証試験においてもプレミアムイアコーンを主対象としている。

 栄養価を見ると、プレミアムイアコーンは繊維が少なく、でん粉が多いために、TDN含量も乾物中87〜92%と濃厚飼料と呼ぶに相応しい性質を持っている(北農研:イアコーンサイレージ生産・利用マニュアル、第1版、2013年)。

 それでは、イアコーンサイレージやプレミアムイアコーンサイレージを調製する際に廃棄される茎葉をどうするのか。これは畑にすき込み、土壌改良資材として利用することになるが、これには別の狙いもある。それは耕畜連携に、このサイレージ調製を1つの核として組み込んでいこうというものであり、耕種農家(畑作農家)にトウモロコシを作ってもらうというものである。

 一般的に言って畑作では、土壌の有機物が不足になりがちなので、子実収穫後の茎葉・外皮を有機物素材として利用することによって農地の滋味を涵養かんようし、同時に濃厚飼料の国内生産を推進していこうという計画であり、そのために、茎葉・外皮の土壌改良効果について、現在、北農研において研究中であるということである。

(2)各地での実証連携

(1)帯広市川西地区

 帯広市川西農業協同組合が中心となり、地域内での耕畜連携をプレミアムイアコーンを軸として実証試験を行っている。畑作農家と酪農家が参加し、生産、収穫・調製、給与のシステムにおける技術的、経営的な価値を評価し、実用化の課題についても、今後の努力の方向が提示されることになろう。北農研では上述のプロジェクト研究の中で、乳牛へのイアコーンサイレージの給与についての基礎的な研究が実施されているが、ここでは、現場での給与方法が提案されることとなろう。また、市内の肉牛牧場(トヨニシファーム)にも参加してもらい、そこでは肥育牛への給与試験が予定されている。

 連携の輪は、帯広市川西農業協同組合、十勝農協連、農業改良普及センター、北農研、道総研畜試、独立行政法人家畜改良センター十勝牧場、酪農家、畑作農家、肉用牛肥育農場によって形成されている。

(2)美瑛町

 美瑛町は、イアコーンサイレージの生産と利用に、先駆けとなって取り組んだ地域である。2008年、トウモロコシ価格の高騰時に町内のTMRセンター(ジェネシス美瑛)がTMR製造の材料としてイアコーンサイレージの利用を始め(写真1)、現在も継続しているが、美瑛町の取り組みは、乳牛によるTMRの嗜好性の高さと、TMR製造コストの削減が評価されている。

 現在行われている実証試験では、畑作農家と酪農家との間の耕畜連携をジェネシス美瑛が中核となって行っているが、ここには、ホクレン農業協同組合連合会も連携の輪に加わっている。

写真1 イアコーンサイレージの収穫(美瑛町 2014年)(北農研提供)

(3)安平町

 安平町は、北農研、農業改良普及センター、コントラクター、北海道チクレン農業協同組合連合会(チクレン)が畑作農家、肉用牛肥育牧場と広域的な連携を行っており、日本農業新聞において以下のとおり取り上げられた。

 「安平町の農家がトウモロコシを生産し、コントラクター事業を手がける株式会社共成レンテムが専用機で収穫しサイレージ化した。それを同町から100キロメートル以上離れた芽室町の美生ファームの牛に給与した。給与試験は北海道チクレン農協連が同ファームの協力を受けて6月から実施。ホルスタイン雄牛1250頭を飼育する同ファームで、約50頭に与える濃厚飼料のうち半分以上をイアコーンサイレージに置き換えた。チクレン十勝事業所の佐藤正勝所長は、食い込み、増体ともに普通の配合飼料と同等かそれ以上と手応えを示す」(日本農業新聞2014年11月4日)。

 このように、安平町の取り組みは、一般的な配合飼料と同程度以上の品質のサイレージ生産に成功したものとして評価されている。

3 牧草地の植生を追って、諸機関の調査、点から面へ
  〜草地植生改善のための基盤的調査の展開〜

 現在、北海道の各地域で牧草地の植生改善の取り組みが盛んに行われている。その理由は、「草地からの良質な牧草サイレージの高い収穫量を目指し」、それによって、「高価格が続いている配合飼料の一部を代替し、飼料費の削減を図る」ことにある。

 今のこの気運は、北海道の草地植生の悪化の状態を調査し、警告ともいうべき報告に触発された結果であり、それを端緒としている。調査・警告は最初は一地方の点として始まり、それが面的な拡がりをもってなされてきた。種々の調査には、試験研究機関、農協・連合会、農業改良普及センター、種苗会社などが参加している。ここでは、これまでの「点から面への拡がり」を情報共有のための連携の形の1つとして捉え、紹介する。

(1)最初の警告(2007年〜2009年)

 2007年に道総研畜試(新得)の専門技術員の、牧草・飼料作物の研究者に対する「草地の様子がおかしい、調査をしたらどうか」という発言を発端に、農業改良普及センター、道総研畜試、十勝農協連が連携して、十勝管内12戸の酪農家を対象に、チモシー主体草地76ほ場の植生調査を実施した。その内容は草地の経年数とチモシーの被度、地下茎型雑草の被度調査であり、その結果は、以下のように報告されている(道総研畜試説明資料)。

ア 更新初期(1〜4年)で、すでにチモシーの被度が5割を切っているほ場が少なからずある。

イ 十勝管内の平均草地更新率8%から、平均経年数を6〜8年として算出した結果、チモシーの推定被度は41%にとどまっている。

ウ 対極にあるのは、シバムギやリードカナリーグラスといった地下茎型のイネ科雑草である。

(2)十勝農協連はこの状況を重く受け止め、調査を拡大(2009〜2010年)

 上記の結果を重く受け止めた十勝農協連は、十勝管内全域2794のほ場で植生調査を行った。この時には、牧草地ばかりではなく、トウモロコシ畑についても調査を行っているが、その結果を、北海道草地研究会報に以下のように公表している。

 「調査草地2794ほ場における冠部被度の平均値は、イネ科草38%、マメ科草7%、雑草・裸地55%で、雑草・裸地割合が牧草割合よりも高く、牧草割合50%未満のほ場割合は46%であった。また、主要な雑草はシバムギ、リードカナリーグラスの地下茎型イネ科雑草であった」として、上記(1)の結果が、管内全域の姿であることを確認している。

 また、トウモロコシは、「調査ほ場314カ所における畝幅と株間から計算した設定栽植本数の平均値は、10アール当たり8069本であり、8000本未満のほ場割合は41%であった。また、欠株率の平均値は8.8%であり、欠株率10%以上のほ場割合は36%であった」としている。

 そして、「草地の植生の悪化は牧草サイレージの栄養価の低下に影響し、トウモロコシ栽培では栽植本数の設定条件や欠株の発生により、10アール当たり8000本に達しない畑が多いこと、また、同一の栽植本数でも乾物収量やTDN収量にほ場間の変動が見られた」とし、この結果が後述の「飼料アップとかち運動」の基盤となっている。この調査は、十勝農協連を中心として、近隣農協、道総研畜試、農業改良普及センターの連携の下で行われた(写真2)。

写真2 植生調査と欠株調査(十勝農協連提供)

(3)根釧地域の植生調査(2009〜2011年)

 北海道立根釧農業試験場と釧路農業改良普及センター、釧路総合振興局が連携して、2009〜2011年度の3年間、釧路管内の50戸(248ほ場)の植生調査が行われた。その結果は、試験場の成績概要書に以下のように報告されている。

ア 2009〜2011の調査では、草地の経過年数に伴って地下茎型イネ科草の増大とチモシー割合の低下が認められ、5〜6年で前者が後者を上回った。これに対し、1979年の調査では、チモシー割合の減少と地下茎型イネ科草の増大が緩やかであった。

  近年では、以前よりも植生の悪化が加速していることが確認された。

イ 近年と1979年当時との違いは、主要地下茎型イネ科草種が1979年当時のケンタッキーブルーグラス、レッドトップから、近年では、チモシーをより抑圧しやすいシバムギ、リードカナリーグラスに変化したことなどによるものと考えられた。

ウ 更新後の経過年数が1〜5年目の新しい草地のうち、更新時の問題として地下茎型イネ科草が多い要因としては、除草剤の未使用や適期前使用が最も多く73%、次いで排水対策の未実施が32%、掃除刈りの未実施などによる雑草の繁茂が27%となった。

(4)全道の植生調査への拡がり
〜北海道自給飼料改善協議会としての展開〜(2012〜2014年)

 上記のような道内諸地域の動きの中で、2012年10月に「北海道自給飼料改善協議会」が設立された。その構成は北海道農政部、一般社団法人北海道酪農畜産協会、ホクレン農業協同組合連合会、雪印種苗株式会社、公益財団法人北海道農業公社、地方独立行政法人北海道立総合研究機構である。

 北海道自給飼料改善協議会は植生調査の範囲を道内全域に拡大し、各機関に依頼して8019ほ場のデータ(2008〜2012年)を収集・整理し、「北海道全体の姿」を把握した。その結果は以下のように報告されている(道総研畜試説明資料)。

 「全道平均ではイネ科牧草の割合は42.2%、マメ科牧草の割合は10.1%、雑草が35.3%、裸地が12.4%であり、地域別で見ると、根釧・宗谷・留萌の草地酪農地帯では他の地帯よりもイネ科牧草の割合が低く、雑草割合が高いということが観察された」。

 北海道自給飼料改善協議会では、これらの実態調査をうけ、効率的な植生改善を進めるべく、試験研究などに取り組んできており、それらの結果は2016年の春に「植生改善マニュアル(改訂版)」として取りまとめられる予定とのことである。


 次号では、十勝農協連が展開する「飼料アップとかち運動」の取り組みと、酪農家と地域関連機関との連携状況について報告する。


元のページに戻る