調査・報告 専門調査 畜産の情報 2016年4月号


成長産業化ファンドを活用した養鶏の6次産業化
〜福岡県の潟^ケノフードサービスの取り組みを事例として〜

中村学園大学 流通科学部 准教授 中川 隆



【要約】

 わが国で一世帯当たり最大の鶏肉消費量を誇る福岡県において、鶏肉をはじめ鶏料理を提供す る飲食店には相対的に厳しい差別化努力が要請されている。養鶏の6次産業化による高付加価値化はその重要な一手段であり、そこでは、1次事業者とパートナー企業の連携を促す株式会社農林漁業成長産業化支援機構のサブファンドがきわめて重要な機能を果たしうる。

 株式会社タケノフードサービスの取り組みは、同機構の農林漁業成長産業化ファンドの活用を自らの養鶏の経営成長および農業生産者の支援・育成の促進につなげている好事例である。

1 はじめに

6次産業化の推進に向けた株式会社農林漁業成長産業化支援機構(以下「A-FIVE」という)による出資案件の形成が全国各地で展開されている。言うまでもなく、国の農林漁業の成長戦略の1つであり、注目度も高く、6次産業化に取り組む事業体にとっても対外的なPR効果が期待できるとされている。以前、筆者は農林漁業成長産業化ファンド(以下「成長産業化ファンド」という)を活用する養豚の6次産業化の事例を調査したが、販売する畜産物の認知度を着実に高めている実態を確認することができた(中川〔1〕)。

本稿では、福岡県の株式会社タケノフードサービスの取り組みおよびそれを支援するNCB九州6次化応援投資事業有限責任組合(以下「NCB九州6次化応援ファンド」という)の取り組みを事例として、成長産業化ファンドを活用した養鶏の6次産業化の実態や特徴について検討する。とりわけ、畜産経営(1次事業者)とパートナー企業(23次事業者)の連携を促すサブファンドの役割の重要性および6次産業化による出口(出荷先・販路)確保の意義といった視点を踏まえ、考察したい。

2 NCB九州6次化応援投資事業有限責任組合の取り組み

(1)NCB九州6次化応援投資事業有限責任組合の概要

2015年10月現在、わが国では、53のサブファンドが設立されており、出資可能総額は750億円となっている。そのうちの1つであるNCB九州6次化応援ファンドは、2013年4月26日に設立されている(西日本シティ銀行法人ソリューション部資料〔2〕)。ファンド総額は20億円で、ファンドの運営は西日本シティ銀行関連会社である株式会社NCBリサーチ&コンサルティングが担っている。資本構成は、西日本シティ銀行9億9500万円、NCBリサーチ&コンサルティング500万円、A-FIVE10億円であり、A-FIVEが50を占める。また、投資対象地域は九州を中心とする当該銀行の営業エリアで、対象事業体は「農林水産業の成長産業化につながる農林漁業事業者とパートナー企業の商工業者(23次事業者)が共同出資した合弁企業体」である。投資実行期間は5年(予定期間)、存続期間は2027年12月31日までである。

2016年1月現在、NCB九州6次化応援ファンドの出資決定案件は9件であり(全国のサブファンドの中で2位)、出資金額は6億3700万円と、地方銀行ではトップの実績である。出資先の業種は農業、畜産(養蜂含む)、水産と多岐にわたり、重点分野は、とりわけ高付加価値化の見込める畜産や水産としている。NCB九州6次化応援ファンドの概要を図1に示す。





(2)相談から出資決定にいたるまでの流れ

NCB九州6次化応援ファンドの実質的な営業を担う部署は、西日本シティ銀行に設置された法人ソリューション部である。法人ソリューション部は、(1)コーポレートアドバイザリーグループ、(2)フィナンシャルアドバイザリーグループ、(3)リスク管理グループから構成される。(1)のグループのなかで農業経営アドバイザーの資格を有する農業チームと(2)のグループが連携し、6次化ファンドの営業を展開している。事業者による相談から出資決定にいたるまでの流れを図2に示す。





(3)A-FIVEの出資実績からみた九州・沖縄地域の位置づけ

A-FIVEの出資実績からみた九州・沖縄における位置づけを検討しよう。2016年1月現在、A-FIVEの全国における出資決定件数は81件であり、出資金額は62億円である。地域別にみると、九州・沖縄での件数は21件、出資金額は25億3400万円(全国の40.9%)とトップの実績を誇っている(表1)。





さらに、表2は、九州・沖縄における成長産業化ファンドの出資決定の状況を県別にみたものである。



出資決定件数では熊本県が7件と最も多く、出資決定金額では鹿児島県が13億2600万円と最も多い。福岡県は5件、2億6500万円となっている。畜産・水産が相対的に盛んな九州・沖縄では、当該分野への出資件数が多く、全国的に見ても出資が活発化している状況である。

ちなみに、A-FIVEが初めて出資した案件は、NCB九州6次化応援ファンドの案件である(2013年9月に出資決定した沖縄栽培水産)。当該サブファンドの場合、出資決定案件9件(2016年1月現在)の内訳は福岡県4件のほか、熊本県3件、沖縄県1件、広島県1件となっている。

(4)出資実績からみた成果と課題

2016年1月現在、NCB九州6次化応援ファンドの9件の出資実績から考えられるひとまずの成果は、企業からの問い合わせが増えるといった企業のファンドに対する認知度の向上である。

課題として、ファンドの活用を検討する事業体は、一定以上の事業規模の企業でないと事業計画の作成や記録の遂行に困難な面がある。そのため、出資先の候補企業はおのずと限定的になるきらいがある。さらに、他の出資金融機関などとの競合も生じてきている。

また、サブファンドの重要な機能であるマッチングにおいては、同一グループ企業の1次事業者と23次事業者を結びつけるのと「赤の他人」同士の連携とでは、実現可能性が異なってくることが挙げられる。

3 成長産業化ファンドを活用した養鶏の6次産業化の実態

(1)タケノファーム株式会社(あかね農場)の概要

タケノファーム株式会社は、福岡県飯塚市内で「あかね農場」という名前で養鶏を営んでいる。2013年6月に操業が開始されている。資本金は400万円であり(日本政策金融公庫からの融資も受けている)、従業員数は6名(正社員4名、パート2名)である。同県糸島市で平飼いの採卵鶏経営を展開する有限会社緑の農園から技術指導を受け、養鶏を開始した(タケノファーム株式会社資料〔3〕)。緑の農園の「つまんでご卵」は県内ではすでに高い知名度を有するブランド鶏卵である。ネーミングの由来には「指で黄身がつまめるほど丈夫な卵」という意味がある。タケノファームで生産される卵も「つまんでご卵」のブランドを使用して販売されている。





あかね農場で肉用鶏「あかねつちどり」の生産を開始したのは2014年10月ごろのことであり、既存の平飼い鶏舎を利用している。「あかね土鶏」の名称は、当該農場の立地が「日の丸」をわが国で初めて染めた「あかねぞめ」発祥の地であることに由来している。なお、「あかね土鶏」の種鶏はフランスのサソー種である。

現在、採卵鶏・肉用鶏の飼養規模はフル稼働で1万羽、鶏舎(1000羽棟)は12棟ある。全体的な稼働率は5060%(採卵鶏で70〜80%、肉用鶏で20%)である。また、敷地内には800キロワットの太陽光発電施設を併設し、再生可能エネルギー利用の促進を図っている。鶏舎内で発生する鶏ふんは、完熟堆肥にしたのち無償で近隣水田農家に配布し、もみ殻はライスセンターから無償で引き取る形での耕畜連携を実現している。このような資源循環と後述のアニマルウェルフェアに最大限配慮した養鶏業を展開している。パートナー企業の飲食店(タケノ)の従業員が、川上の現場である当該農場に見学に来ることもある。通常の食鳥処理は飯塚市の石丸食鳥で処理を行っているが、成鶏については南薩食鳥株式会社で処理を行っている。将来的には、食鳥処理場の併設も考えており、従業員数も増員する意向とのことである。





(2)畜産物の出荷実態

鶏卵の出荷個数は月間7〜8万個、売上額は月間360400万円である。また、肉用鶏の出荷羽数は月間900羽、売上額は月間300万円弱である。需要増による出荷個数・出荷羽数の増加に伴い年ごとに売上額は伸びてきている。

肉用鶏「あかね土鶏」および成鶏は全量、自社の飲食店で利用している。鶏卵「つまんでご卵」の出荷先はネット通販、オーナー制度での販売、県内各社の量販店、飲食店(タケノ)であり、自社およびパートナー企業での利用が過半を占めている。

「つまんでご卵」の主要な出荷先である量販店ハロディの店舗は県下30店舗に上り、店頭価格は6個入り428円(税込)である。とりわけ安全性へのこだわりを持つ消費者が購入し、評価はおしなべて高い。

(3)飼養管理の特徴
〜アニマルウェルフェアに最大限配慮した飼養管理〜

あかね農場における飼養管理上の主な特徴は以下の5点である。

(1) 薬の成分が卵に残留・影響しないよう、鶏には薬剤投与を行っていない。

(2) スペースのある運動場付き鶏舎で、平飼いを行っている。水平運動、羽ばたき運動、上下運動、砂遊び運動など、鶏が欲するまま動き回れる運動場併設の平飼い鶏舎で飼育している(写真3、4)。



一坪当たり飼育羽数は13羽である(平均的な平飼い鶏舎では約40羽)。

(3) ストレスフリーの無公害鶏舎で、飼育している。片流れ屋根で、正面の網壁にはカーテンを張り、強風・雨を防ぐ風通しの良い構造の鶏舎で飼育している。また、床は土を盛り上げ、もみ殻を敷き、鶏ふんが分解されやすいようにすることで、ストレスフリーに配慮した悪臭や害虫を発生させない構造にしている。

(4) 栄養バランスに配慮した飼料と浄水器で処理した水を給与している。採卵鶏に給与する飼料は全て、non-GMO飼料(トウモロコシ、大豆)である。

(5) アニマルウェルフェアを第一に考え、強制換羽(一時的に絶食させるなど、強制的に栄養不足にさせ、産卵率を高める手法)を行わず、飼育している。

また、飲食店などに出荷する鶏卵は菌の侵入を防ぐ効果のある「無洗卵」である。無洗卵は菌の侵入を防ぐクチクラ層が卵殻を覆ったままであるため、賞味期限は長く約1カ月間である(通常の鶏卵は約2週間)。飼養管理により鶏卵の味も大きく異なるとされている。タケノファーム鰍フ代表取締役である竹野とおる氏は、このようなアニマルウェルフェアに配慮した養鶏が広く全国に普及することを望んでいる。

(4)ファンド活用の背景と今後の展望

NCB九州6次化応援ファンドがタケノファーム6次産業化するに当たりファンドの活用について打診を行ったのが2014年初ごろのことである。当該経営は鶏卵を量販店などに販売しているが、競合品が多く、ブランド化や販路拡大の面で課題があった。ファンドを活用した最大の理由は、それが新たな資金調達手段であったことである。

今後は、鶏舎の稼働率を可能なかぎり高めることを目標としている。店舗で利用する「つまんでご卵」「あかね土鶏」の量を増やし、店舗数自体も増やしたいと考えている。

農場で生産したものは全量販売を目標に店舗数を増やすことを展望している。詳しくは後述するが、23次事業者(タケノ)との統合により、原料の出口としての飲食店が確保されているからこそ可能な目標設定であり、かつ実現可能な取り組みといえる。

(5)直営店の概要
〜あかね農場直営たまごかけごはん屋の概要〜

タケノファーム鰍ヘ飲食店「あかね農場直営たまごかけごはん屋」を福岡市博多区の上川端商店街に展開している(写真5)。



来客のピークは12〜13時であり、夜の営業はない。来客は女性客が多い。ごはんにかける卵は食べ放題であり、一食につき平均3個消費される。たまごかけごはん屋には、あかね農場のアンテナショップとしての位置づけがある。

(6)パートナー企業の概要
〜株式会社タケノの概要〜

本事例のパートナー企業(23次事業者)である株式会社タケノは1976年に創業されている。2015年現在、福岡県および大分県の33店舗で飲食業を展開している。店舗内訳は、メイン業態である居酒屋の竹乃屋、ビストロ、とんかつ、天ぷらなどである。福岡市中心部に立地する店舗などでは、週末は予約で埋まるほどの盛況ぶりである。カウンター席で提供する生ビールを低価格に設定するなど活気が出るような仕組みを作っている。店舗で利用する食材は基本的にタケノファームで生産された鶏卵(つまんでご卵)である。鶏肉(あかね土鶏)については利用店舗の拡大を図っているところであり、こうしたなか、後述の6次産業化事業体であるタケノフードサービスが設立される。





(7)6次産業化事業体の経営実態
〜潟^ケノフードサービスの取り組み〜

タケノフードサービスは、タケノファームが3600万円、タケノが3400万円、サブファンドのNCB九州6次化応援ファンドが7000万円を共同出資して設立された新会社である(図3)。



1次事業者の出資が上述のパートナー企業の出資を上回る資本構成であり(ファンドの出資要件でもある)、当該経営の実質的な経営権を担保している。福岡市中央区に店舗「鶏鮮竹乃屋大名店」を構えている(写真7)。



鶏すき焼き・水炊きなどを提供する飲食店経営を展開しており、「つまんでご卵」「あかね土鶏」を原料にした鶏すき焼きや水炊きなどの鶏料理を中心としたメニューを提供している。ファンドの出資決定時期は2015年3月である。

「鶏鮮竹乃屋大名店」は2015年3月に営業を開始している。従業員は15名(社員4名(うち1名はタケノからの出向社員)、パート11名)である。最大収容客数は240名である。客層はおよそ30代後半以降のアフター5の社会人が中心である。収容客数の多さを活かして宴会需要をいかに取り込むかを課題にしている。看板メニューは「あかね土鶏のすき焼き」(1人前1490円)である(写真8)。





代表取締役である竹野氏が鶏料理専門店を開店したかったからということがそもそもの6次化の経緯である。1次(原料生産)から3次(販売・飲食)まで全て自ら行いたい希望があった。ファンドによる出資を契機にして、前述のいわゆる大衆居酒屋から専門店へと業態転換を図った。店舗では、もちろん客層も異なっている。

(8)出口(出荷先・販路)の確保による生産者の支援と育成

1次事業(農業生産)において、農産物の出口(出荷先・販路)を常に外に求めなければならないことは大変なことである。現状では、飲食店という出口が自らの6次化事業の内に確保されているので、「これだけの量を生産すれば、これだけの量を消費できる」という計算が可能である。受け皿のキャパシティーにも余裕があるからこそ、23次事業との統合や生産者との連携など、さまざまな活動に挑戦できる。

目下、竹野氏は、多くの生産者と直接連携し、農産物を仕入れている。とりわけ、生産者といかに連携し、いかに支援できるか、ということに重点を置いている。生産者にはタケノ向けの専用ほ場を整備してもらうなどしている。生産者としても出荷先が確保されるというメリットがある。

例えば、口蹄疫発生後、出荷先のなかった健康に配慮した飼養管理を行う南九州の養豚経営のバラ肉全量を、プレミアを付けて買い取っている。また、環境保全に配慮する野菜生産者の思いに強く共鳴し、規格外で市場出荷されない無農薬人参や無農薬レンコンなど野菜のネット販売(タケノによる単独販売)なども手掛けている。生産者には出口をまず1つ確保してもらって、その後、拡販を検討してもらえばよい。そのように考えている。また、生産者には出荷先の紹介なども行っている。共通するのは、生産者を大切にするという姿勢である。このような取り組みは、自らが担う1次事業の出口の確保という意義だけでなく、6次産業化により連携した多くの生産者にとってのありがたい出口ともなっている。

苦境において奮闘するわが国の農業生産者にとって、このような出口を用意する主体の存在はきわめて重要である。また、竹野氏自らが1次事業を担う活動そのものが、他の生産者を支援しようという強い動機づけともなっている。

4 おわりに

本稿では、成長産業化ファンドを活用した養鶏の6次産業化の実態と課題について、福岡県のタケノフードサービスの取り組みを事例に検討してきた。わが国において一世帯当たり最大の鶏肉消費量を誇る福岡県では、鶏肉をはじめ鶏料理を提供する飲食店には相対的に厳しい差別化努力が要請されている。そのような中、NCB九州6次化応援ファンドの支援のもと、特徴ある品種とアニマルウェルフェアに最大限配慮した飼養管理を売りに差別化を図り、ブランド化および販路拡大を進める養鶏の6次産業化の実態が明らかになった。当該経営が成長産業化ファンドを活用する意義として、新たな資金調達手段としての位置づけがまずあったが、注目すべきはさまざまな農業生産者との連携であり、そこに関与・仲介しうるサブファンドのコンサルタント(相談者)としての機能である。苦境に立たされているわが国の多くの農業生産者にとって、6次産業化を進める主体との連携は、出口の円滑な開拓・確保となり、自身の生産した農産物を消費者に直接的・積極的に訴求できる有力な手段ともなりうる。

以上のように、本事例は、成長産業化ファンドの活用を自らの養鶏の経営成長および農業生産者の支援・育成の促進につなげている好事例である。

追記:本稿を草するに際して、調査に御協力頂いたタケノファーム株式会社代表取締役の竹野孔氏をはじめ、西日本シティ銀行法人ソリューション部、株式会社NCBリサーチ&コンサルティング、株式会社農林漁業成長産業化支援機構投融資部の各関係者に大変お世話になりました。記して感謝の意を申し上げます。

【参考文献】

〔1〕中川隆「成長産業化ファンドを活用した養豚の6次産業化〜北海道における「ひこま豚」のブランド化を事例として〜」農畜産業振興機構『畜産の情報』2015年7月、pp.49-58.

〔2〕西日本シティ銀行法人ソリューション部資料

〔3〕タケノファーム株式会社資料


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