96年農業法が成立 (米国)





● 従来の方針を大きく転換、 より市場志向に

 クリントン大統領は4月4日、 3月下旬に上下両院の調整を経て議会を通過し た96年農業法案に署名し、 同法は当初の予定から大幅に遅れて成立した。 1996年 連邦農業改良・改革法 (The Federal Agriculture Improvement and Reform Act of 1996) という名称を付与された今回の農業法は、 財政削減要求等を背景に、 60年間にわたって米国農業政策の中心となってきた穀物等の不足払い制度を廃止 するなど、 従来の方針を大きく転換する内容を含んでいる。 また、 農産物をめぐ る国際市場環境の改善等も考慮して、 作付け品目を原則的に自由化するなど、 よ り市場志向を強めている。  なお、 農業法の有効期間は、 従来5年間であったが、 今回は7年間となってい る。

● 主な内容

 今回成立した農業法の主な内容は以下のとおりである。 (1) 商品計画 (飼料穀物などが対象) ア. 不足払い制度を廃止し、 固定額による直接支払措置に移行する。 生産者は、 その間は、 対象農産物の価格にかかわらず、 一定額の助成金 (毎年漸減) を受け られる。 イ. ローンレート制度 (対象作物を担保とする融資制度) は維持する。 なお、 90年農業法では、 不足払いやローンレート制度を利用する要件として、 政府の減 反計画 (APR) への参加が義務づけられていたが、 今回の農業法では、 これが削除 されている。 ウ. 契約対象農地には、 野菜、 果物以外の農産物であれば、 自由に作付けする ことができる。 (2) 酪農関係 ア. 間接的な生産調整機能を担ってきた生産者賦課金 (現在のレートは0. 1ド ル/100ポンド) を廃止する。 イ. 乳製品 (バター、 脱脂粉乳、 チーズ) の価格支持制度については、 加工原 料乳の価格支持水準を96年の100ポンド当たり$10. 35の水準から毎年15セントづ つ低減させ、 99年は$9. 90とする。 2000年以降は、 この制度を廃止し、 この価格 水準でローンレート制度に置き換える。 ウ. プール乳価の対象となるミルク・マーケティング・オーダー地域の数を現 在の33地域から、 10以上14地域以下に整理・統合する。 エ. 乳製品の輸出補助金制度である乳製品輸出振興計画 (DEIP) は、 ウルグア イ・ラウンド合意で認められている水準まで最大限に実施する。 オ. 乳製品海外市場開発を行う貿易会社の設立・維持に対し、 必要な助言や支 援を与える。 (3) 貿易関係 ア. 海外市場での販売促進などを行う市場開発計画 (MPP) は、 目的を明確化 するため、 市場参入計画 (MAP) と名称を変更し、 助成対象を中小企業や農業関 係団体に限定する。 毎年の予算限度は9千万ドルとする。 イ. 輸出補助金制度である輸出振興計画 (EEP) については、 ウルグアイ・ラ ウンドの合意内容の範囲で、 2002年まで毎年の予算限度を定めて実行する。 (4) 環境保全計画 ア. 土壌保全計画 (CRP) は、 対象農地面積を現在の3, 640万エーカーに維持 する。 一部の契約については、 解除を認め、 保全効果の高い農地を対象として、 新たな契約を結ぶことができることとする。 イ. 畜産農家などに対する環境保全対策補助事業の実施  水質保全計画、 大平原保全計画等の環境保全計画の一環として実施されるもの で、 環境保全対策を実施する畜産農家などに補助金が支払われる。 (5) その他 ア. フードスタンプ事業 (経済的弱者に対する食品供与事業) の2年間の継続 実施 イ. 教育、 遠隔地治療等、 農村開発事業の強化

● 大統領は価格下落時の影響を懸念、 生産者は自由度の拡大を歓迎

 法案に署名したクリントン大統領は、 この農業法について、 農村地域の環境や 経済を改善する多くの要素が含まれていると一定の評価を下している。 しかし、 同大統領は、 価格下落時の家族農業に対するセーフティネット機能が十分でない として、 同法に対する不満を表した。 クリントン大統領は、 「今後、 そうした機能 を設けるよう、 議会に働きかけていく」 としている。  このような批判があるものの、 この農業法により、 作付けする農産物を自由に 選択できることや、 農産物価格の高騰時においても、 補助金が一定期間交付され ることなどから、 主要な農業団体は農業法の成立を歓迎している。
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