海外駐在員レポート 

アジェンダ2000をめぐる状況

ブラッセル事務所 池田一樹、 井田俊二



I はじめに


 EUにとって、 中・東欧諸国の加盟と共通農業政策(CAP) の更なる改革は、 通貨
統合に次ぐ歴史的な挑戦と言えよう。 EU委員会は、 昨年発表した報告書 「アジェ
ンダ2000」 で、 これらの課題の方向性を非公式に提案し、 各界の意見を待っ
た (畜産の情報海外編97年10月号参照) 。 

 CAP改革についてみれば、これまで、 価格支持から所得補償への市場政策のシフ
トをめぐる課題を中心に議論されてきている。 すなわち、 支持価格の引き下げ幅
と、 相応する所得補償の程度にまず焦点が当たっているが、 さまざまな議論の根
底に、  「ヨーロッパモデルの農業」 の維持発展という考え方が登場していること
を忘れることはできない。 北から南までさまざまな自然条件の下で、 経済の一分
野としてだけでなく、 環境保護や地域社会の維持への貢献など多様な機能を発揮
しているヨーロッパの農業を、 ヨーロッパ地域独自の農業モデルと位置付け、 そ
の独自性の維持発展を、 一方では域内農業政策の根幹とし、 他方で次期の世界貿
易機関 (WTO) 交渉等、 対外交渉の後ろ盾にしようとしている。 

 また、 いわゆる 「モデュレーション」 をめぐる議論も注目される。 モデュレー
ションとは、 広義には補助金交付の条件や差別化といった意味で使われている。 
ただし、 目下の議論の中心は、 農家あるいは生産者単位での補助金交付額の上限
導入の是非とその方法である。92年のCAP改革によって生じた補助金交付総額の
農家間格差や穀類部門の過剰補償の改善、 あるいは財政支出の抑制が目的である。 
導入に対しては根強い反対があるが、今後のCAPの方向性に関わる大きな課題のひ
とつである。 

 こういった議論を背景として、 農相理事会は11月、 欧州理事会は12月にそ
れぞれ意見を取りまとめた。 これを受けて、 EU委員会は、3月25日にCAP改革案
を正式に提案することとしている。 そこで、 今回は、今後のCAP改革の方向性を理
解するためにも、 アジェンダ2000をめぐるこれまでの議論を取りまとめるこ
ととする。 


II CAP改革についての農相理事会の意見


 農相理事会は、 昨年11月、アジェンダ2000を踏まえて、 CAP改革について
の意見を取りまとめ公表した。 この中で、 まず、 ヨーロッパモデルの農業に関し
て、 その特徴と維持発展への決意が述べられている。 次いで、 改革の継続を決意
し、 アジェンダ2000を議論のたたき台として認めている。 

 モデュレーションについては、 注目すべきことに、 理事会自らが、 生産者間で
の補助金配分のバランスを図る必要性を述べている。 さらに、 生産部門、 加盟国
の間での既定の予算配分をバランスのとれたものに見直すことも強調しているが、 
これは、 農業ガイドライン (EUの将来にわたっての農業予算シーリング) の維持
が約束されている中で、 いわゆる 「ケーキの分け方」 に関係者の議論が偏ること
をけん制したものである。 

 国際競争力に関しては、 その追求が必要であるとしているものの、 環境破壊や
小規模農家の切り捨てといった潜在的な危険と裏腹な競争力の追求は、 ヨーロッ
パモデルの農業の範囲内で行うべきであるとクギをさしている。 これは、 農村地
域の維持を強調したものであり、 農業の多様な役割に注目した地域対策の必要性
を掲げている。 

 CAPの運営については、施策の実施における一層の地方分権化の推進をうたって
いる。 EUの農業が、 地理的特徴だけでなく、 民族、 文化、 産業の発展段階も異な
る多くの加盟国で行われていることを踏まえれば、 地域に即した施策が必要なこ
とは言うまでもない。 ただし、 農産物の自由な取引を実現している共通市場を維
持し、また、 CAPの目的を実現するため、 各国の施策が独自のものに偏らないよう
クギをさしている。 

以下は、 農相理事会の意見の要訳である。 

1 EUの農業には以下の特徴がある。 

 (1) それぞれ特徴を持つさまざまな地域があること:条件不利地域、 山岳地域、 
   遠隔地、 乾燥地域と準乾燥地域、 北極圏、 都市地域あるいは高人口密度地
   域
 (2) 農村人口が多く、 また家族経営農家が多いこと
 (3) 生産品目が多様であることや生産量が異なること
 (4) 多様な役割を発揮していること

 また、 CAPは、 基本的な目的として生産性の向上、 農村の生活水準の確保、市場
の安定、 供給の確保、適正な消費者価格の確保と定められているが、EUの域内外の
社会経済状況に応じて、 常に発展しまた適応を続けてきた。一方、環境保護、 社会
面および動物愛護に対する消費者の要求や社会の意識といった新たな側面も徐々
に組み込んできている。 

 したがって、 農相理事会では、 EUの農業を21世紀の課題に対処できる独自の
ものにすることを目標とし、 ヨーロッパモデルの農業を推進し、 また、 域内外に
その独自性を強く主張することを堅く決意する。 EUの農業は、 経済分野として、 
多様性、 持続性および競争力を有し、 ヨーロッパ全域に展開するものでなければ
ならない。 また、 農村地域を維持し自然環境を保全することができなければなら
ず、 農村社会の活性化に貢献する要でなくてはならない。 また、 食品の質や安全
性、 環境保護および動物愛護に対する消費者の懸念や要求に対応できなければな
らない。 

2 92年に始まったCAP改革は、 まだ終わっていないが、 総じてみれば、評価で
 きる点が多々ある。 ただし、 部門間、 地域間あるいは農家のタイプ間で効果が
 一様ではない。 

  アジェンダ2000に掲げられた主要農作物市場の長期需給見通しは、 不完
 全な部分もあるが、 トレンドを示すものとして議論の基礎にすることができる。 
 ただし、 必要に応じて最新のものに見直し、 農相理事会が重要な決定を行う際
 に的確な状況判断ができるようにすべきである。 

  また、 現状維持では、 生産部門によっては、 アジェンダ2000に述べられ
 たような過剰生産を招くことで認識が一致している。 

3 以上述べたことを勘案し、 92年に始まった改革を継続し、 一段と進め、 調
 整し、 さらに、 成就すべきであると結論する。 このため、 特に以下のことを提
 言する。 

−大局的にみれば、 価格支持措置の縮小と直接補助や側面支援措置との組み合わ
 せを主とするアプローチは有効である。 ただし、 個々の状況への適合状況や施
 策の総合的な方法については、 域内外のあらゆる情報に基づいて、 ケースバイ
 ケースで評価しなければならない。 

−各部門の改革の細則は、 社会的に容認されるような経済的に健全でかつ実現可
 能なものであり、 適正な所得を実現し、 生産部門間、 生産者間および地域間で
 適正なバランスを保ち、 さらに、 競争原理を妨げないように策定する必要があ
 る。 

−改革のプロセスは、 何よりもまず、 ヨーロッパの農業独特の課題に立脚し、 ま
 た、 各部門の本質や問題点を踏まえて行われなければならない。 同時に、 EUの
 拡大や国際約束の影響や結果を踏まえなければならない。 

−ヨーロッパの農業は、 国際市場で確固とした存在を示すことができなければな
 らず、 また、 域外市場で予想される消費増加の恩恵をあずかるものでなければ
 ならない。 これは、 ヨーロッパの農業や食品産業が現在取り組んでいる、 域内
 外における競争力の改善プロセスを継続することを意味する。 将来的には、 こ
 ういったより強い競争力を達成する努力は、 前述したヨーロッパモデルの農業
 の発展と可能な限り共存させなければならない。 

4 農村地域の基本構造を、 ヨーロッパモデルの社会ともども生き生きと保つこ
 とが重要な目的であり、 その意味で農村地域の雇用問題は中心的な課題である。 

  農業はいまでも農村経済のカギとなる部門であり、 そのため市場政策は引き
 続き不可欠なものとなっている。 

  ヨーロッパ全域の農村の基本構造を活き活きと保つためには、 多機能な農業
 がヨーロッパ全域に広まる必要がある。 特に、 自然の制約やハンデに対して適
 切な補償が提供され、 また、 土地利用、 農村地域の維持および自然資源の保全
 における農業者の貢献が反映されるように配慮されなければならない。 

  また、 農業か農業以外かにかかわらず、 雇用の維持、 創出に関して、 農村開
 発政策は市場政策と並んで重要な役割を持つ。 以上を踏まえ、 農村開発政策は
 以下の点を主要目的とすべきである。 

−農業政策および食品構造政策を新たな課題に沿ったものとし、 また、 若年層の
 新規参入を奨励すること。 

−環境に優しい取り組みや自然資源の保全、 ならびに、 製品の質と安全性の改善
 を、 より一層配慮し、 かつ支援するなど、 より積極的な政策を実施する。 

−農村地域で、 農業以外の雇用の創出と農家所得の補填を実現しうる経済の多角
 化を奨励し、 農業生産者に十分な水準の所得を提供すること。 

  こういった農村開発計画は、 補助金の原則に従って、 加盟国が実施している
 政策を補完すべきであり、 EUと加盟国との共同アプローチとすべきである。 現
 段階では、 EU委員会が提案している構造基金の運営の再編についてコメントし
 ないが、 農村開発計画を明確に区別できるような方法を探求することは支持す
 る。 

5 農業関連規則や手続きの合理化、 およびEUレベルの措置の実施において地方
 分権化を一層推進すべきである。 その際、 競争を妨げず、 また、加盟国がCAPを
 自治化したり、 あるいは、CAPの予算負担が加盟国間で傾斜することがないよう
 注意しなければならない。 

6 将来のCAPの財源についての問題は極めて重大である。 一方、これまで述べた
 アプローチに基づいて改革を完成し、 また、 理想とするヨーロッパモデルの農
 業を実現するために十分な財源を得ることも重要である。 こういった中で、 EU
 の予算の規律を遵守しながら、CAPの運営を続けるとともに改革を実施すること
 を強く決意する。 農業ガイドライン (注:予算シーリング) を、 予算の大きな
 枠組みとして、 また、 現在の算定に従って維持することが必要である。 

  農業ガイドラインに関するEU委員会の提案とその理由については、 後日、 欧
 州農業指導保証基金 (EAGGF) の保証部門がカバーする措置について、より詳し
 いことが明らかになった段階で判断する。 

7 農相理事会は、 ヨーロッパの農業の独自性を主張し、 また、 そのアプローチ
 を策定する際に、 EU拡大の内容や時期に関する見通しに留意してきた。 また、 
 EU拡大が円滑に進むよう、 加盟を申請している国の農業政策に明確な方向性を
 与えられるよう努力してきた。 

  ヨーロッパモデルの農業は、 改革により強化、 発展することを願うものであ
 るが、 加盟申請国の将来の農業政策の判断基準の中心になるものであり、 後に
 は、 拡大EUにおける統合に大きな影響力を与えるものと信じている。 

8 将来のWTO交渉に当たっては、 CAP改革のプロセスの進ちょく状況にかかわら
 ず、 その結果を最大限に活用するとともに積極果敢な方針を採ることにより、 
 二度と譲歩せず、 また、 次の二つの目的を達成する必要がある。 第一は、 ヨー
 ロッパの農業の特徴や、 高い品質および安全基準に合った農業生産を引き続き
 発展させることができるようにすることであり、 第二は、 農産物貿易や市場の
 自由化について、 ヨーロッパの農家や農産物に課せられた制約を国際的に認知
 させ、 また、 域内優先の原則や開発途上国との連帯の原則が認められる状況に
 置くことである。 


III 欧州理事会の意見


 欧州理事会は、 昨年12月、 農相理事会の意見を踏まえて、 アジェンダ200
0とCAP改革についての意見を取りまとめた。 この意見は、ほぼ農相理事会の意見
の集約となっている。 この中で、 EUは、 中・東欧諸国の加盟に備えて、 あらかじ
め政策全般について必要な改革を行っておくべきであるとしたうえで、 アジェン
ダ2000を今後の議論の枠組みとして容認している。 特に、 CAPについては、EU
域内外での競争力獲得に努めながら、 現在のヨーロッパモデルの農業を引き続き
発展させると述べたうえで、 次のように結論している。 

1 EUの農業は、 経済の一分野として、 多様性、 持続性および競争力を有し、 さ
 らに、 ヨ−ロッパ全域で営まれること。 

2 92年のCAP改革を継続、 深化、 適応そして完成させること。 

3 改革は、 生産者の妥当な所得を実現すると同時に社会的にも容認される、 経
 済的に健全で、 実行可能なものであること。 また、 競争を阻害せず、 生産部門
 間、 生産者間、 地域間で公平なものであること。  

4 予算は、 既定の農業ガイドライン (シーリング) を逸脱しないこと。 

 中・東欧諸国のEU加盟については、 加盟を申請している10カ国のうち、 アジ
ェンダ2000で提案されたハンガリー、 ポーランド、 エストニア、 チェコおよ
びスロベニアを当面の加盟交渉の相手国とした。 これにより、 今春から、 既に交
渉開始が決定したキプロスを含めた6カ国との間で、 いよいよ加盟交渉が始まる
こととなる。 


IV ヨーロッパモデルの農業


 CAP改革議論の根底となっているヨーロッパモデルの農業については、EU各国の
主要農業団体の中央組織で、 農業分野の最大のロビー機関である COPA-COGECAが、 
アジェンダ2000に対する評価との関連で取りまとめているので、 アジェンダ
2000への評価とともにこれを紹介することとしたい。 以下は、 その要約であ
る。 

1 ヨーロッパモデルの農業とその維持発展について

 ヨーロッパの農業は、 健康に良い、高品質の産品を生産しているだけでなく、土
地利用、 都市計画や国家計画、 雇用、 農村地域での産業活動の創出、 自然資源・
環境・美しい景観の保全において、 欠くことのできない役割を果たしている。 さ
らに、 農産物輸出は、 EUの貿易収支に貢献する一方、 食糧援助として世界の食糧
需給にも貢献している。 

 ヨーロッパの農業の独自性は人的資源、 生産および地域の調和の上に成り立っ
ている。 これをヨーロッパモデルの農業として発展させるため、CAP改革案は、 以
下を目標とするものでなければならない。 

−他産業に匹敵する農家収入の増加を保証すること
−ヨーロッパの農業が次のような多機能性を維持できること


○食用/非食用を問わない健康的かつ高品質の農産物の域内外向け主要生産者で
 あること

○雇用、 都市計画および国家計画、 景観保持、 環境保護、 社会構造の維持のため
 の、 農村地域の屋台骨となること

−農業部門の構造および効率の改善を図ること

−条件不利地域 (LFA)に対する特別対策を強化し、 社会的に求められている同地
 域の役割を発揮させること

−適切な就農政策の実施による若年農業者の就農促進を図ること

−特に、 農業協同組合、 生産者グループ等を通じて、 農産物市場での正当な取り
 分を確保し、 また、 生産者の潜在能力を生かすこと

−ヨーロッパ全域の農業を守るため、 経済的および社会的な連帯を強化すること。 
 このため、 すべての農業生産部門を包括する広い戦略を策定し、 地域と生産部
 門が調和できるようにすること。 

−綿密な準備期間と十分な移行期間を経た中・東欧諸国の円滑な加盟を行うこと。 
 東側へのEU拡大は、 EUだけでなく世界平和と安全をもたらすものである。 拡大
 に要する費用については、 早急に追加財源を含む拡大準備基金を特別に創設し、 
 加盟国が平等に負担することとしなければならない。 

−社会における農業の役割を強調し、また、 この役割を次期WTO交渉においてヨー
 ロッパの基本的立場として展開することで、 ヨーロッパの独自性を維持するこ
 と。 

 EU理事会、 EU議会およびEU委員会は農業ガイドラインの範囲内で必要な財源を
確保し、 これらの目的を実現し、 自己責務を伴った農家の繁栄を保証すると同時
に、 ヨーロッパモデルの農業を維持することが非常に重要である。 

2 アジェンダ2000の評価について

 アジェンダ2000で示されたEU委員会のCAP改革案は、農業活動を阻害するも
のであり、 1の目的の達成に有効なものではない。 したがって、 賛成できない。 

 この提案を実行に移せば、 農業、 生産者および協同組合だけでなく、 農業とそ
の上流および下流の産業の雇用、 さらに、 EUの多くの農村地域の社会経済の繁栄
に大きなダメージを与えることは明らかであり、 また、 地域によっては、 存続の
危うくなる作目や生産部門が出現することも予想される。 さらに、 競争をわい曲
化し、 加盟国によるCAPの再自治化も招く可能性があり、 全く受け入れられない。 
一方、 財源については、 現行のCAPの財源だけでなく、改革に必要な財源の提案も
なされていない。 このように、 改革案は、 ヨーロッパモデルの農業の発展に資す
るような農業政策を何ら提示していない。 

 農業を人間的かつ活力に満ちた発展を遂げさせるような、 本当のヨーロッパの
農業政策を、 地域と密着して創り上げることにより、 生産者に対して明るい未来
を与え、 また、 若年生産者の新規参入を奨励することができる。 生産者は、 将来
設計には支持を寄せるが、 CAPを簡素化する目的に逆行したり、所得を引き下げる
ようなことには支持をしない。 ヨーロッパのための真の農業政策を描き出すこと
が、 ヨーロッパの独自性を形成し、 推進することになる。 


V 「モデュレーション (MODULATION) 」 について


 IVと同様に、モデュレーションの理解のためにCOPA-COGECAの事務局が同組織の
経済委員会の要請に応じて取りまとめた 「農業関連措置 (現行あるいは検討中の
ものを含む) に適用されているモデュレーション」 が参考になるので、 以下紹介
したい。 

1 モデュレーションの定義について

  「モデュレーション」 という用語をかなり広く理解すべきであるとする経済委
員会の求めに応じて、 以下の通り定義する。 

 (1) 生産部門別に設置された制度では、 モデュレーションとは、 EUの生産者が
  同一生産部門の中で異なった取り扱いを受けるように、 個々の措置を適用す
  ることと定義する (例:雄牛特別奨励金) 。 

 (2) 部門を越えて設置された制度では、 例えば、 条件不利地域措置や若年労働
  者措置などでは、  「措置そのもの」 をモデュレーションと見なすことができ
  る。 一方、 EUの生産者が一様に扱われないという意味では、 例えば、 投資補
  助に所得条件を付けるなどの 「措置の運用」 もモデュレーションと見なすこ
  とができる。 

2 生産部門別の制度におけるモデュレーション (畜産関係のみ抜粋) 

表1 生産部門の制度におけるモデュレーション

 注:

(1)モデュレーションの「目的」

 そのモデュレーションが導入されている理由。 例えば 「経済」  (競争力の強化、 
品質の向上など) 、  「社会」  (雇用の維持、 低所得者の支援) 、 環境 (粗放化の
奨励) 、 財政 (支出抑制) 、 柔軟性など。 ただし、 意図せずしてモデュレーショ
ンが導入されている措置もある。 

 (2) モデュレーションの 「基準」 

 モデュレーションを実行する基準。 例えば、 地域 (地方、 加盟国、 自然のハン
デ、 環境面で影響を受けやすい地域) 、 経営規模 (土地、 生産量、 家畜飼養頭数 
(家畜単位) ) 、 所得額、 生産者の状況など

 (3) モデュレーションの 「方法」 

 例えば、 シーリング、 生産者一人当たりの上限、 農家当たりの上限、 税金、 規
制、 除外、 ペナルティー、 補助額やEUの負担額の差別化


3 生産部門を越えて設置された制度 (構造政策) 

表2 生産部門を越えて設置された制度

 (注)GDPが域内平均の75%未満の地域


VI おわりに


  「ヨーロッパモデルの農業」 については、 域内政策の柱とすることはともかく
として、WTOの場では多くの議論が予想される。 EUやその他の国が独自性を主張す
れば、 まとまるものもまとまらない。 とすれば、 EUの狙いは何か。 農業の役割の
多様性をWTOで認知させることにより、 関連対策の実施、存続を有利に運ぼうとし
ているのかもしれない。 また、 ヨーロッパの農業の独自性とは、 つきつめれば多
くの国の寄り合い所帯としてのEUの独自性であることから、 その独自性の維持の
主張は、 農業問題を安全保障、 経済、 社会など諸々を含めたEUの維持と結びつけ
る狙いかもしれない。 予想はつきないが、 少なくとも次期交渉に向けて、 並々な
らない決意を持っていることは確かである。 

 一方、 モデュレーションであるが、 根強い反対がある。 直接所得補償制度では、 
その導入の経緯からして、 支持価格引き
下げ幅×生産量が補償されるべきであり、 何ら制限措置を加えるべきではないと
いう主張である。 ただし、 いわば経営規模に応じて無条件で約束された収入が、 
200万ECU(2億8千万円) /1農家に上るケースがあるという状況に対してい
かに対処するか、 あるいは、 農産物の品質向上や差別化の課題に対して、 どの様
に調和させるかなどについて、 反対論と質の異なる議論として展開されることに
なろう。 いずれにせよ、今回のCAP改革では、 前回に増して大幅な支持価格の引き
下げが予想されていることからも、 その導入の是非は最後まで議論されることと
なろう。 

 EU委員会は、 3月末に公式なCAP改革案を提出する予定である。 ただし、既にそ
の作業は各方面との連携を取りながら進んでいる。 今後は、 具体的な条件をめぐ
って、 議論が白熱するものと予想され、 その状況については再度レポートするこ
ととしたい。 



元のページに戻る