ホルモン牛肉紛争にWTO上級委員会が裁定
1月16日に裁定報告を公表
EUのホルモン牛肉輸入禁止措置が、 世界貿易機関(WTO) の衛生植物検疫措置に
関する協定 (SPS協定) に違反しているとして、 米国などがWTO紛争処理機関に提
訴していた問題で、 上級委員会は、 1月16日、 裁定報告を公表した。 昨年、 小
委員会 (パネル) が裁定を公表 (EUの敗訴) したが、 EUが上訴したため上級委員
会が審議していた。
EU・米国双方の主張が認められる裁定
ホルモン牛肉紛争の経緯と今回の報告の主要部分の概要は次の通りである。
1 危険性の評価 (SPS協定第5条1項)
(1) 協定の概要
衛生検疫措置は、 ヒトへの健康等に対する危険性の評価に基づくこと。
(2) パネルの裁定
適正な危険性の評価が欠如している。 第5条1項違反。
(3) 上級委員会の裁定
EUが提示した科学的報告は輸入禁止措置の根拠にならない。 さらに、 パネルの
設置した専門家会合で述べられたホルモンとガンの関係は一般論であり、 本件の
評価に必要な牛肉中のホルモン残留とその危険性に関する陳述ではない。 したが
って、 パネルの裁定を支持する。 ただし、 危険性の評価は、 必ずしも実験室内の
数値データや科学的意見の本流に基づかなくともよい。 また、 不適切な使用も危
険性の評価の対象とすべきであるが (パネルはこれを否定) 、 EUはその評価は実
施していない。
2 恣意的かつ不正な保護水準の適用 (SPS協定第5条5項)
(1) 協定の概要
検疫衛生措置の保護水準を恣意的かつ不正に区別し、 貿易に差別や偽装した制
限をもたらしてはならない。
(2) パネルの裁定
成長促進用、 治療用、 カルバドックス (豚用抗菌剤、 成長促進効果がある) の
使用基準など、 ホルモンの使用基準に恣意的で不正な区別を設け、 貿易を差別化
している。 第5条5項違反。
(3) 上級委員会の裁定
成長促進目的のホルモンとカルバドックスの使用基準の区別は恣意的であるが、
貿易の差別や制限にはつながっていない。 したがって、 第5条5項違反ではない。
3 保護の水準 (SPS協定第3条)
(1) 協定の概要
衛生検疫措置の水準は、 国際基準に基づくか (第3条1項) 、 科学的な根拠や、
危険性の評価を踏まえて独自に定めることができる (第3条3項) 。
(2) パネルの裁定
輸入禁止措置は、 国際基準に基づいておらず、 また、 独自の水準を採用できる
規定にも該当していない。 第3条1項違反。
(3) 上級委員会の裁定
パネルは、 国際基準に 「基づく」 ことを、 同様の水準とすると解釈したが、 誤
りである。 また、 独自の水準を採用できることは加盟国の自明の権利である。 し
たがって、 第3条1項違反ではない。 ただし、 第3条3項に基づき独自の水準を
採用する際は、 第5条の危険性の評価の実施が必要である。
依然として予断を許さない状況
今回の裁定でも、EUの輸入禁止措置はSPS協定違反とされた。 ただし、 理由は適
正な危険性の評価手続きの欠如に絞られた。 このため、 EUは15カ月以内に所要
の危険性評価を行うと述べるなど、 今後根拠固めを行う姿勢も見せている。 その
一方で、 米国はこの裁定を受け、 EUに何らかの是正措置 (輸入禁止措置の撤回あ
るいはその代償措置) を求めていくものとみられる。
WTOの紛争処理のプロセスでは、 今後、 紛争処理機関での裁定の採択、EUの態度
表明と続くが、 まだまだ予断を許さない状況である。
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