海外駐在員レポート 

EUの共通農業政策改革について

ブラッセル駐在員事務所 島森宏夫、井田俊二




T はじめに

 本年3月26日、EU首脳会議において、2000年以降に実施される共通農業政策
(CAP)の改革について合意された。その概要については、6月号で紹介したと
ころであるが、その後、EU理事会規則が公表されたことから、共通農業政策の重
点事項の1つである農村開発援助政策を追加し、再度紹介することとしたい。


U 改革の目的

 共通農業政策は定期的に見直しが行われているが、今回の改革に当たっては次
のような課題があった。

・世界の需要増加、市場の拡大に対応するための国際競争力の強化
・在庫の積み増しを防止
・CAPの受益を均等化
・中東欧諸国の加盟、EUの拡大への準備
・世界貿易機関(WTO)次期交渉に向けての対応

 これらを達成するため、政策価格の低減、補助金の見直しを行うとともに、EU
型の農業(@競争力のある農業、A環境に優しい農業、B農村の維持や雇用の維
持創出につながる多面的な農業、CEU一律に実施する部分と加盟国に任せる部分
のすみ分けをした農政、D農業の役割に照らし財政負担が大衆に受け入れられる
農政)を推進しようとしている。


V 牛肉分野について

1 改革期間

 牛肉の介入買い上げ価格は、2000年度(7月〜翌年6月)から2001年度にかけ漸
減し、2002年度に通常買い入れを廃止し、民間在庫補助を実施することとされた。
(支持価格は2002年度までに20%低下。)これに伴い、直接所得補償が拡充され
ることとなった。


2 市場介入制度

 EUは、牛肉の介入買い上げ価格(以下「牛肉介入価格」という。)を定め、市
場価格がその一定の割合を下回った場合、牛肉を買い上げて市場価格を支持して
いる。この市場介入には、通常買い上げとセーフティーネット買い上げがある。
通常買い上げは、域内および加盟国・地域の牛肉市場平均価格がそれぞれ84%、
80%下回った場合に一定の限度数量の下で発動される。また、セーフティネット
買い上げは域内および加盟国・地域の牛肉市場平均価格がそれぞれ78%、60%を
下回った場合に発動されるもので買い上げ数量の制限はない。

 2000年度、2001年度に牛肉介入価格の段階的引き下げが行われる。2002年度か
らは通常買い上げが廃止され、セイフティーネット買い上げ制度のみが維持され
ることとなった。2002年度からは牛肉介入価格に代わり発動基準価格が定められ、
加盟国・地域の牛肉市場平均価格が2週間連続して発動基準価格を下回った場合
に買い上げが発動される。域内価格は発動条件から除外された。

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 参考:1ユーロ=122円(以下同じ)
  注:牛肉年度は7月1日から翌年6月30日


3 民間在庫補助

 2002年度(同年7月)以降、「基本価格」を定め、市場価格がその103%を下回
った場合、民間在庫補助が行われることとなった。これまでは、民間在庫補助は
明確な基準がなく、89年を最後に発動はなかった。この結果、今回の改革におけ
る介入価格の引き下げ幅は現行トリガー価格と2002年度の基本価格との比較で20
%減となった。


4 直接所得補償

 牛肉介入価格の引き下げの代償措置として直接支払いの単価の増額、メニュー
の新設が決定された。


4−1 奨励金

 現在、EUでは、@雄牛の特別奨励金、A雄牛の季節是正奨励金、B繁殖雌牛奨
励金、C粗放化奨励金、D子牛のと畜奨励金、E子牛の早期出荷奨励金が生産者
へ直接支払われている。今回の改革では、@〜Cの単価が引き上げられ、Dの適
用が加盟国の判断に委ねられることとなり、Eは廃止された。新たにFと畜奨励
金が設置されることとなった。

(1)特別奨励金(対象は雄牛(非去勢牛)および去勢牛)

 次の雄牛および去勢牛を飼う農家に対し、特別奨励金を交付する。

・9カ月齢以上の雄牛(1頭につき1回)
・9カ月齢(1回目)および21カ月齢以上(2回目)の去勢牛(1頭につき2回)

 農家1戸当たりの交付の上限頭数はそれぞれの月齢区分ごとに年間90頭以下と
する。ただし、加盟国は上限頭数を変えたり、設定しないこともできる。また、
加盟国は特別奨励金の交付時期をと殺時とすることができるが、その場合には雄
牛の要件は月齢に代えて枝肉体重185kg以上とする。

特別奨励金の単価
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特別奨励金の国別交付上限頭数
(9ヶ月齢以上の雄牛と9ヶ月齢〜20ヶ月齢の去勢牛の合計頭数)
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 注:イギリスについては6ヶ月齢以下の子牛の輸出が可能となるまでの
   間の上限頭数は、さらに10,000頭を上乗せし、1,519,811頭とする。

(2)季節是正奨励金(対象は雄牛(非去勢牛)および去勢牛)

 次の要件を満たす加盟国においては、特別奨励金に加え、季節是正奨励金を交
付する。(注:実際には、アイルランドおよび北アイルランドのみで実施。)

@基準年にと殺された雄牛全体(非去勢牛+去勢牛)に占める去勢牛割合が60%
 を超えること

A基準年にと殺された去勢牛の35%以上が9月1日から11月30日までの期間にと殺
 されたこと

基準年は当該年の2年前の年とする。

 また、アイルランドまたは北アイルランドのいずれかの国(地域)において上
記2要件を達成した場合、本奨励金はアイルランドおよび北アイルランド両国
(地域)において支給される。

 イギリスでのこの要件の適用については、北アイルランドを別個地域と見なす。

 季節是正奨励金の単価は、現行とほぼ同じで以下の通り。

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 また、これまで同奨励金を交付してきた加盟国で上記Aの要件が達成されなか
った国は60%の季節是正奨励金を交付できることとする。この場合、奨励金の支
払いを実施する対象期間を第2期間(17週まで)、または第3期間(21週まで)に
限定できる。また、財政の中立性を確保するため、21カ月齢以上の去勢牛に対す
る特別奨励金および追加支払いも同様に減額するものとする。この適用(@の要
件の計算すなわち資格条件)に関し、アイルランドおよび北アイルランドを1地
域と見なす。

(3)繁殖雌牛奨励金

 次の繁殖雌牛飼養農家に対し、繁殖雌牛奨励金を交付する。

・申請後12カ月間牛乳乳製品の出荷がないこと

または

・牛乳生産割当量が120トンを超えないこと。ただし、加盟国はこの制限を変更
または撤廃できる。

 奨励金は、申請農家が、その後少なくとも6カ月間繁殖雌牛を申請数の80%以
上および未経産牛を20%以下飼養した場合に交付される。

繁殖雌牛奨励金の単価
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 このほかに、加盟国は国内畜産農家の差別にならないという条件で、50ユーロ
/頭以内の追加奨励金を交付できる。

 2000年1月1日における農家ごとの交付上限頭数は、1999年12月31日現在の繁殖
雌牛奨励金権利数とする。この権利は他の生産者に移動できる。家畜の移動無し
に権利を移動する場合、生産者はその権利の15%以内を、当該国に対し予備権利
として補償無しに返還するものとする。

 加盟国は繁殖雌牛奨励金権利の予備を維持するものとする。その予備は、特に
新規参入者、若者その他の優先すべき生産者に再配布するために使用される。

繁殖雌牛奨励金の国別交付上限頭数
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 加盟国は2000年1月1日以降、繁殖雌牛権利数が本表に示す頭数を超えないよう
にするとともに、国内に権利の予備を確保するための措置を講ずるものとする。

 なお、繁殖雌牛および未経産牛の60%以上(超)が山岳地帯で飼養されている
加盟国においては、未経産牛に対してその国が別に定める制限頭数以内で繁殖雌
牛奨励金を交付できる。未経産牛上限頭数は上の表の20%以下とし、この場合、
繁殖雌牛に対する奨励金上限頭数は未経産牛上限頭数を差し引いた数とする。
 
(4)と畜奨励金(新設)

 生産者が、次の牛を別に定める期間飼養後にと殺または域外に輸出した場合、
別に定める国別上限頭数以内で、と畜奨励金を交付する。

・8カ月齢以上の牛(雄牛、去勢牛、経産牛、未経産牛)
・1カ月齢を超え7カ月齢未満の子牛で枝肉重量が160kg未満のもの

と畜奨励金の単価
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 国別上限頭数については、1995年のと殺頭数および域外輸出実績の合計を国別
上限頭数として、それぞれの区分ごとに定める。

(5)飼養密度制限

 特別奨励金および繁殖雌牛奨励金の交付申請頭数の合計は飼料畑1ha当たり2家
畜単位(LU)以下とする。ただし、飼養頭数規模が15家畜単位以下の小規模農家
は飼養密度制限を適用されない。

 なお、

・24カ月齢を超える雄牛および未経産牛並びに繁殖雌牛、乳用経産牛は1家畜単位
・6カ月齢以上24カ月齢以下の雄牛および未経産牛は0.6家畜単位

 羊、山羊は0.15家畜単位として算定する。
 
(6)粗放化奨励金

 今回の改革で飼養密度条件が変更されるとともに奨励金単価が引き上げられた。 

 また、対象面積の50%以上が放牧地であることが条件に加わった。

 特別奨励金、繁殖雌牛奨励金を交付される農家で年間の飼養密度が1.4家畜単位
以下の場合、奨励金交付ごとに100ユーロの粗放化奨励金を交付す る(支払方法
1)。支払条件および方法は、加盟国の裁量で、下記支払方法2によることもでき
る。なお、山岳地帯において50%を超える生乳生産が行われている加盟国におい
ては、飼養密度にかかわらず、当該地域の乳用牛に対し粗放化奨励金を支給する
こととなった。

粗放化奨励金
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 注:現行は、1.4LU/ha以下の場合36ユーロ/頭、1LU/ha以下の場合52ユーロ/頭。


4−2 追加支払い(新設)

 これまで、奨励金は原則としてEU全域で一律の単価で支払われてきた。今回の
改革で加盟国ごとの裁量での追加支払いが認められることとなった。加盟国はこ
の措置のための予算範囲内で、以下の支払いを実施できる。

@と畜奨励金への上乗せ支払い。ただし子牛は対象としない。

A雄牛への支払い。8カ月齢以上またはと畜時に180kg以上の枝肉重量である雄牛
が対象。国別の支払い上限頭数を、特別奨励金の国別交付上限頭数、特別奨励金
の97年支払い実績頭数あるいは97年、98年および99年の年間と畜頭数の平均のい
ずれかとして定める。

B繁殖雌牛奨励金への上乗せ支払い

C乳牛奨励金への上乗せ支払い

D未経産牛への支払い。支払い頭数の上限を97年、98年および99年の年間未経産
牛と畜頭数の平均頭数とする。

E永年放牧地当たりの支払い

 上記A、BおよびDの支払いに当たっては、環境への影響を考慮し、特別な飼
養密度制限を設けることとされた。永年放牧地当たりの支払いは、この飼養密度
の算定対象以外の放牧地を対象にその面積当たり、次の金額を限度に支払われる。
95年、96年および97年の永年放牧地の平均面積を加盟国ごとの支払い上限面積と
する。

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 この追加支払いに関し、加盟国は2000年1月1日までに実施計画を作成し、EU委
員会に届けることおよび2004年4月1日までに実績報告をすること、EC委員会は、
これを受け2005年1月1日までに本措置の牛肉生産へ与えた影響等の評価を行うこ
ととされた。

国別追加支払予算(牛肉関連)
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W 酪農分野について

1 改革期間

 酪農分野の実質的な改革は、2005年度(7月〜翌年6月)から実施される。2005
年度以降2007年度までにバター、脱脂粉乳の介入買い上げ価格(以下「介入価格」
という。)の15%引き下げを行うとともに、乳牛奨励金を新設する。また、生乳
生産クオータの増加が行われることとなった。


2 市場介入制度

 EUは乳製品(バターおよび脱脂粉乳)の介入買い上げを通して、乳製品価格を
支持し、結果として生乳価格を支持している。

 バターについては、加盟国の市場価格が介入価格の92%を下回った場合、介入
買い上げを行うこととしている。委員会で決定される買い上げ価格が介入価格の
92%を下回った場合、委員会で決定される価格(介入価格の90%以上)で介入買
い上げを行っている。

 脱脂粉乳については、3月1日から8月31日までの間、介入価格による買い入れ
を行っている。

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3 民間在庫補助

 バター、クリーム、チーズについて民間在庫補助が行われる。


4 流通対策

・飼料用の脱脂乳、脱脂粉乳、バターミルク、バターミルクパウダーに対して補
 助する。

・カゼインに加工される脱脂乳に対して補助する。

・乳製品の過剰生産時またはその恐れがある時にバター、クリームの非営利団体、
 軍隊等向けの廉価販売に対し補助する。

・学校給食用乳製品に対して補助する。全乳の場合は、生乳指標価格の95%を補
 助する。補助の限度量は生徒1人・1日当たり0.25リットルとする。


5 直接所得補償(新規)

 これまで酪農政策には、直接所得補償支払いは実施されていなかった。今回の
改革で、牛乳・乳製品の支持価格を引き下げる代償として、生乳生産割当量に応
じて支払われる酪農奨励金が新設され、さらに追加支払いが行われることとなっ
た。

(1)酪農奨励金

 生乳生産割当量(3月31日現在)当たり次の酪農奨励金が当該年(暦年)に支
払われる。

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(2)追加支払い

 加盟国はこの措置のための予算範囲内で、酪農奨励金への上乗せ支払い、永年
放牧地奨励金の支払いを実施できる。

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・酪農奨励金への上乗せ支払い

 酪農奨励金を含んだ合計額は次の限度額以内とする。

・永年放牧地奨励金

 牛肉と同様の措置である。牛肉での同奨励金支払額との合計支払限度額は2005
年以降350ユーロ以下とされた。

 この追加支払いに関し、加盟国は2005年1月1日までに実施計画を作成し、EU委
員会に届けることおよび2007年4月1日までに実績報告をすること、EU委員会はこ
れを受け2008年1月1日までに本措置の評価を行うこととされた。

国別追加支払予算(酪農関連)
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6 生乳生産クオータの増枠

 国別生乳生産クオータに関し、イタリア、アイルランド、スペイン、ギリシャ、
北アイルランドで2000年度(4月〜翌年3月)、2001年度に追加配分が行われるこ
ととなった。その他の国は2005年度から2007年度にかけて毎年0.5%ずつ計1.5%
の追加配分が行われることとなった。また、本生乳生産クオータ制度については、
2006年以降の制度廃止を目的に、2003年に中間見直しを行うこととされた。

生乳生産クオータの追加配分数量
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国別生乳生産クオータ(1999年度〜2007年度)
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 注:a=出荷量、b=直売量
   年度期間は4月〜翌年3月


X その他の分野にも共通する直接支払いに関する措置

1 環境保護条件

 加盟国は、直接所得補償の支払条件(クロスコンプライアンス)として、それ
ぞれの国の環境保全上適当と思われる措置を定めることとされた。また、条件に
違反した場合の罰則として、支払いの削除や停止といった措置を定めなければな
らないことともされている。従来、雄牛奨励金と繁殖雌牛奨励金の交付条件には、
加盟国が任意で環境関連の条件を付すことができるとされていたが、今回の改革
で、これが義務化された。


2 モデュレーション

 加盟国は、農家が以下の条件に当てはまる場合、年間(暦年)の直接所得補償
支払い総額について、その20%を上回らない範囲で減額することができることと
された。

@農家の労働力(労働単位に換算)が、加盟国の定める下限を下回った場合。1
労働単位は、加盟国あるいは地域における専業農業従事者の年間平均労働時間と
して定める。

A農家で生産した製品の価格と原価の差額が、加盟国の定める上限を超えた場合。

B農家が受け取った直接所得補償支払額の総額が加盟国が定める上限を超えた場
合。

 なお、このモデュレーション(直接所得補償支払いの調整)措置および前述の
クロスコンプライアンス措置の結果、生じた差額は、一定の期間は、農業と環境
保護や早期離農奨励制度、条件不利地域制度など農村開発に流用できることとさ
れている。


Y 農村開発(Rural Development)について

 持続可能な農村開発を支援するための農村開発援助は、

@開発の遅れた地域の開発促進および構造調整措置に融和すること(目的1)

A構造的困難のある地域の経済・社会転換を支援する措置に伴うこと(目的2)

とされている。

 今回の改革内容は大きく2つの区分に分けられる。

@1992年の共通農業政策改革に付随する政策

 (早期離農、農業と環境、植林、条件不利地域)

A農家の近代化および多様化政策

 (農場投資、若年農業者の就農、訓練、加工・流通施設への投資補助、林業へ
の追加支援及び農業の振興・転換)


1 1992年の共通農業政策改革に付随する政策

・早期離農

 10年以上農業を営んできた55歳を超える農業者でまだ引退年齢でない者または
5年以上農業を行った(労働時間の半分以上を農業に使った)社会保険に属する
同年齢の農場労働者が離農する場合に補助する。

 補助金の限度額は、農業者の場合、年間1万5千ユーロ、15年間、75歳まで、総
額15万ユーロであり、農場労働者の場合は、年間3万5千ユーロ、10年間、通常の
引退年齢まで、総額35万ユーロである。

 農場が他の農業者に引き継がれる場合は、引き継ぐ農業者は十分な技能を持ち、
5年以上農業を行わなければならない。このほか、農場は田舎の環境保全に資す
る、林業等の非農業目的で使用する者に引き継ぐこともできる。

・農業と環境

 5年以上環境保全および田舎の維持に資する農法を行う農業者に対し補助する。

 補助金は、収入の減少、コストの上昇、報償の必要性に応じて決定される。そ
の1ヘクタール当たりの年間限度は1年生作物に対し600ユーロ、特別の多年生作
物に対し900ユーロ、他の土地利用に対し450ユーロである。

・条件不利地域および環境規制地域

 山岳地域、その他条件不利地域において,今後5年以上農業を営む者に対し、
補償支払いが行われる。その額は状況に応じて農地1ヘクタール当たり25〜200ユ
ーロとする。また、環境規制地域で農業利用が制限される農業者に対し、土地1
ヘクタール当たり200ユーロを限度に補償のための補助が行われる。


2 農家の近代化および多様化政策

・農場投資

 農業収入、生活・労働・生産条件の改善に資するため、生産コストの低減、生
産性の改善、施設移転、品質改善、自然環境・衛生条件・動物愛護の改善および
活動多様化への投資に対し補助する。正規の市場販路の無い作物の増産投資には
補助されない。補助は加盟国の定める限度額内で投資の40%以内、条件不利地域
では50%以内とする。ただし、次に述べる若年農業者への限度額はそれぞれ45%
以内、55%以内とする。

・若年農業者の就農

 40歳未満の有能な若者が経営者として新規就農する場合、奨励金(限度額2万
5千ユーロ)交付または新規就農に係る借入金利息の補助を行う。

・訓練

 農業および林業に従事する者または関連する者の技術・能力を向上させるため
の職業訓練に対して補助する。

・農産物加工・流通の改善

 農産物加工・流通の改善、合理化の促進による競争力の増進、付加価値の添加
を図る投資に対し補助する。ただし、小売段階での投資、域外国からの農産物に
係る投資は除く。補助の総額の限度は目的1の地域で投資額の50%、その他の地
域で40%とする。

・林業

 農村における森林の果たす経済的、生態的、社会的機能の維持の観点から、持
続的な森林管理、森林開発、森林資源の維持改善を推進するための補助を行う。
補助の対象は民間または地方自治体、その関連団体が所有する森林および土地で
ある。農地への植林に関しては、植林費用に加え、5年以内の維持費用および20
年以内の所得補償支払いが行われる。植林に伴う所得補償支払い限度額は1ヘク
タール当たり農業者に対し725ユーロ、その他の民間人に対し185ユーロとする。
なお、早期離農補助対象者はこの補助の対象とならない。また、森林の生態的役
割、防火帯としての役割の維持のためにかかる費用が森林収入を上回る場合、1
ヘクタール当たり40〜120ユーロの補助が行われる。

・その他の農村開発・構造調整の促進措置
 
 土地改良、区画整理、良質な農産物の販売、農業活動の多様化、農業水源管理、
観光・工芸の推進等、上記に含まれない農業活動の改善・転換措置に対して補助
する。


3 予算措置および計画の策定

 農村開発に関する予算は、欧州農業指導保証基金、構造基金、各国の上積みで
賄われる。また、直接所得補償支払いの調整額(モデュレーション)から措置す
ることもできることとされている。早期離農、条件不利地域および環境規制地域、
農業と環境、植林等の政策実施については、欧州農業指導保証基金(EAGGF)の
保証部門から賄われることとされているが、その総額(303億7000万ユーロ、年
平均43億3900万ユーロ)および国別分配額が9月8日に決定された。

 また、加盟国は、理事会規則の発効6カ月後(1月3日)までに農村開発計画を
EU委員会に提出し、査定を受けなければならないとされている。

農村開発に係る欧州農業指導保証基金保証部門の国別分配額
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Z おわりに

 現在、EU委員会では、共通農業政策の細部規則について策定作業中である。

 今回の共通農業政策は、当初の委員会提案に比べると、保護の削減という観点
からは相当後退したものとなった。酪農の改革については、実質上2005年度に先
のばしされ、2003年(次期WTO交渉期間中ないし直後)に中間見直しが行われる
こととなっている。一連の直接支払いについては、現在はWTO規則上削減対象と
されていないが、その維持、拡充が図られることとなった。EUは共通農業政策の
堅持をWTO交渉の重要事項の1つとしている。特に、今回紹介した農村開発援助
については、農業の多面的機能の確保に必要な施策との位置付けであり、WTO交
渉における議論の行方が注目される。

 また、環境対策の重視が強調されたが、各国の運用状況、その結果としての畜
産・農業構造改革、生産および貿易に対する影響にも注目していく必要がある。

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