環境保全に影響を及ぼす集約的な家畜生産(EU)


EU、農業と環境保全の関連性に関する報告を公表

 EU統計局(EUROSTAT)およびEU委員会(農業総局および環境総局)は、EUに
おける農業と環境保全の関連性に関する報告を公表した。この報告には、今後農
業が環境に及ぼす影響を評価、監視する上で、適切な指標を確立するための検討
材料となる統計などが含まれている。

 EUにおける農業に関連した環境保全施策は、環境総局および農業総局により並
行的に実施されている。農業施策面では、持続可能な農業を目標とし、92年の共
通農業政策(CAP)改革以降、環境保全に配慮した農業施策が強く打ち出されて
おり、今後もこの分野の施策が強化されるものとみられる。


環境に対して負荷を与える畜産経営の集約化と生産量の拡大

 この報告では、最近20年間(75〜95年)におけるEUの畜産の変遷と環境に及ぼ
した影響について次の通り言及している。

 EUにおける畜産は、依然として主要な位置を占めているが、生産構造面で変化
が見られる。特にEUの中・北部加盟国を中心に、小規模で粗放的な経営から集約
的かつ専業化した経営に形態が変化している。さらに、家畜飼料の改善などが進
展した結果、畜産物の生産量の拡大および生産性の向上が図られた結果、大気お
よび土壌等に対する環境保全面で新たな負荷をもたらしたと指摘している。


いずれの畜種でも経営の集約化が進展

 畜種別に見ると、牛生産では、飼養戸数が減少した結果、1戸当たりの飼養頭
数が少なくとも2倍に拡大した。一方、農地面積は減少したが、単位面積当たり
の飼養頭数は大きな変化が見られない。これは、84年から導入された生乳クォー
タ制度などの影響であるとしている。クォータ制度は、制度導入後の酪農生産構
造および環境保全に大きな影響を及ぼしている。専業農家の比率は、約5割とな
っている。

 豚生産では、20年間で飼養頭数は増加する一方、飼養戸数が70%減少した結果、
1戸当たりの飼養頭数は大幅に増加した。特に、ベルギー、デンマーク、アイル
ランド、オランダおよびイギリスでは、1戸当たり平均飼養頭数が500頭以上とな
っている。95年の専業養豚農家の比率は、6%と低いが、20年間で5〜8倍に増加
した。単位面積当たりの飼養頭数はオランダが最も大きく、ベルギーが続いてい
る。

 鶏生産では、20年間で採卵鶏の飼養羽数は減少する一方、肉鶏は増加した。ま
た、飼養戸数は20年間で3分の2以上減少している。専業養鶏農家の比率は他の畜
種と比べて最も低くなっている。


指標となっている家畜単位の再検討が必要

 家畜生産が環境へ及ぼす影響の指標として、農地1ヘクタール当たりの家畜単
位を挙げている。ただし、環境への負荷は畜種により性質が異なることに留意す
るとともに、家畜単位は、国家レベルでは適切な状況把握が不十分であることか
ら地域レベルで検討する必要があるとしている。同報告書では、家畜の過密飼養
は一様でないので、環境への負荷をより正確に把握するため、地域レベルの家畜
単位の測定が必要であると指摘している。

注)家畜単位

 家畜単位(LU)とは、家畜の飼養密度を表す指標として用いられる係数で、2
歳以上の牛:1.0LU、6ヵ月以上2歳未満の牛:0.6LU、山羊・羊:0.15LUなどとな
っている。

 EUでは、各種奨励金の受給要件として、農家は家畜単位に基づいた飼養密度
の制限が課せられており、飼料畑1ヘクタール当たり2LUとされている。なお、
飼養密度が飼料畑1ヘクタール当たり1.4LU以下の農家に対しては、粗放化奨励金
が交付される。

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