タイ畜産業界、関税引き下げに懸念


新景気刺激策により、15アイテムの関税を引き下げ

 タイ政府は、アセアン自由貿易地域(AFTA)で適用される関税が、2003年まで
に0〜5%に引き下げられることに伴い、段階的な関税引き下げを行うこととして
いる。

 これに先立ち、15アイテムの0〜5%への関税の引き下げを含む景気刺激策をパ
ッケージとした新景気刺激策が8月10日から実施に移された。

 今回の引き下げは、AFTAの関税率を踏まえつつも、国内で生産されていないも
のを中心としている。引き下げの対象となっている農産物には、アルファルファ、
ルピナスなどの飼料、養殖用魚介類、肥料、植物油などが含まれているものの、
農産物加工品、鉄鋼、石油製品などは、対象から除外されている。


その他の関税引き下げの前倒しには、疑問の声も

 タイ大蔵省は、15アイテム以外の物品について、未加工の原材料、半加工品お
よび最終製品の3段階に区分し、それぞれの関税率が1%、7%および15%となる
平易な関税制度を定める計画である。しかし、農産物は工業製品とは同列に扱え
ない部分があることから、今回計画されている制度からの分離を検討することと
しており、詳しい内容については、来年早々に公表される予定となっている。

 これに対し商業省は、畜産農家などへの影響を考慮し、WTOの履行期限である
2004年まで、関税を引き下げるべきでないとしており、政府内でも意見が分かれ
ている。

 なお、WTOで合意した2004年までの関税率引き下げ義務は、食肉が45%から30
%に、食肉調製品が50%から40%になっており、関税の前倒しには、畜産業界で
も大きな疑問を投げかけている。


急な関税引き下げに、畜産業界は危機感

 こうした関税の引き下げについて、飼料団体では、米国、EUなどから直接安価
な食肉などの輸入が増加することにより、飼料の需要が低下し、国内の畜産農家
や飼料原料を生産する農家は、大きな影響を受けるとみている。また、シンガポ
ールなど農産物の関税率が低い国は、衛生基準を強化するなど、関税以外の防波
堤を築いているともしている。このため、飼料団体は、シンガポールなどが輸出
国に課している指定農家制度などを参考に、タイにおいても確固たる独自の輸入
基準を設けるべきであると政府に提言している。

 また、鶏肉業界は、現在の国内生産費、原産地価格、外国為替などが2004年ま
で同じと仮定した上で、WTOで合意した関税率で試算した輸入鶏肉価格と、国産
価格とを比較している。これによると、99年は、国産価格が1kg当たり58.2バー
ツ(約162円:1バーツ=約2.79円)であるのに対し、米国から輸入した鶏肉は、
45%の関税により63.4バーツ(約177円)となり、国産を上回る価格となる。し
かし、2004年には関税が30%となるため、米国の鶏肉は56.9バーツ(約159円)
と国産を下回る状況となる。このため、関税を前倒しして引き下げる影響は計り
知れないとしている。

 このように、業界は関税引き下げの急な動きに対し危機感を募らせており、新
たな関税の決定までには、かなりの曲折が予測される。

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