海外駐在員レポート 

EUの豚コレラ対策

ブラッセル駐在員事務所 島森 宏夫、山田 理




1 はじめに

 EUでは、97年から98年にかけてオランダ、スペインなどの加盟国で豚コレラ
(classical swine fever)が大流行し、衛生問題としてのみならず、その後の豚肉
需給、環境問題にも大きな影響を与えるとともに、養豚業界も大きな損害を受け
た。このたび、当時の対策についての会計検査報告が発表されたので、同報告を
基にEUの豚コレラ対策を紹介したい。


2 豚肉生産事情

(豚肉需給)

 EUは、豚肉生産が域内消費を上回る豚肉の純輸出地域である(99年の自給率は
108%)。

 最近の需給状況を見ると、96年3月の牛海綿状脳症(BSE)問題による牛肉から
豚肉への代替需要や、97年の豚コレラ発生による豚肉生産量の減少により、96年
から97年にかけての豚肉需給が締まり、価格は堅調であった。その後、堅調な価
格を背景に生産が急速に増加し、98年、99年の生産量は、過去最高水準に達した
ことから需給が緩和し、98年後半から99年にかけて記録的な豚肉の安値が継続し
た。この価格低下や環境問題による豚飼養頭数の減少により、2000年の生産量は
やや減少すると見込まれている。順調な経済動向に伴い域内の消費が好調なこと
から、現在豚肉価格は回復しつつある。

(飼養動向)

 99年11/12月の豚飼養頭数を見ると、EU15ヵ国で1億2千4百万頭の豚が飼養さ
れている。これは世界全体(9億7千1百万頭、国連食料農業機関(FAO)資料に
よる)の13%に相当する。また、上位5ヵ国の合計飼養頭数がEU全体の72%を占
め、一部の国や地域における養豚の集中・専業化が進展している。養豚農家の規
模拡大状況は各国で大きなばらつきがある。

表1 EU15ヶ国の豚肉需給
re-eut01.gif (38618 バイト)
 資料:EU委員会農業総局
 注1:域内総生産量=生産量+生体豚輸出量−生体豚輸入量
  2:▲は減少

表2 国別豚飼養頭数(11/12月現在)
re-eut02.gif (25355 バイト)
 資料:EU統計局
 注1:国名の丸数字は上位5ヶ国の順位(99年)
  2:▲は減少

表3 養豚農家の規模拡大状況(95年)
re-eut03.gif (35344 バイト)
 資料:EU統計局


3 豚コレラの発生状況

(豚コレラとは)

 豚コレラウイルスによる豚の疾病で、人には感染しない。ウイルス株によって
は感染豚の致死率が高い。主な症状は発熱、元気の消失、食欲廃絶、結膜炎、歩
様蹌踉(ほようそうろう)、起立不能、下痢である。ウイルスの平均潜伏期間は
7日で感染性が高く、容易に伝播する。

 80年代末までは、EUの野生イノシシには感染が認められていなかったが、その
後感染が認められるようになり、ドイツ、イタリアおよびフランスの一部で野生
イノシシに風土病的流行がある。豚コレラウイルスは、野生イノシシから家畜の
豚に伝播する。


(発生状況)

 EUにおける豚コレラは、90〜98年に1,445件の発生が報告されている。特に豚
の飼養密度の高い地域での発生が多く、養豚の集中・専業化が、畜産環境問題と
ともに家畜伝染病の発生リスクの増加要因になっていると指摘されている。97〜
98年にEUで流行した豚コレラは、1戸当たり飼養頭数の増加のほか、繁殖、肥育
経営の分離に伴う子豚の輸送機会の増加や、人工授精センターを介在した多数農
家への精液供給がその要因として指摘された。  

 なお、豚コレラの大規模な発生は、98年7月のスペインでの発生を最後に終息
し、99年以降は毎月0〜数件の発生にとどまっている。最近の発生については、
野生イノシシの豚コレラ流行との直接または間接的な関係が示唆されている。

表4 豚コレラの発生件数(90〜98年)
re-eut04.gif (12032 バイト)
 資料:EU委員会農業総局


(97〜98年の大流行の経緯)

 豚コレラの流行は、ドイツのパーデルボルン(デュッセルドルフの東方約100
km)で始まった。

 感染源の農家では、飼養豚に給餌するために残飯飼料製造免許を持っていたが、
飼料内のウイルスを効果的に死滅させる加熱処理を怠っていた。また、治療に当
たった獣医師が適切な防疫処置をとらなかったことも問題とされ、同獣医師の診
療免許は取り消された。

 ウイルスは、ドイツからオランダに広がり、その後、感染家畜の移動を通じて
ベルギー、スペインへと広がった。

 スペインでは、97年2月まで約10年間豚コレラの発生記録はなかった。しかし、
97年2月1日〜24日にかけてオランダから輸入された22万頭の子豚と、1万9千頭の
成豚の中に汚染地域からの豚が混在していた。導入を行った2農家では、汚染地
域からの移入が確認されたため、豚群は予防的にと畜されたが、4月14日に最初
の疑似患畜が確認された。EU委員会では、豚コレラウイルスは既に2月からスペ
イン内で活動していたと結論付けた。96年11月から97年2月上旬までの間、コン
ピュータによる家畜移動監視制度が機能せず、スペイン当局が多数の輸入豚を追
跡できなかったことが問題として指摘された。

 最初に発生した2件は、2月にと畜を行った2農家のうち、1農家と同一グル
ープに属する農家での発生だった。

 ベルギーでは、97年6月30日に最初の豚コレラ発生が確認された。その後の発
生は、1件を除きすべてが、この発生と直接に結び付いている。初期予防が遅れ
たのは、発生農家の通報が遅かったためとみられている。


4 EUの豚コレラ対策と財政支出

(1)EU段階の豚コレラ対策

 豚コレラの防疫対策としては、@野生イノシシの疾病管理を基本的な目的とす
る疾病撲滅・調査計画、A不測事態対応計画、Bワクチンの使用可能性がある。

 豚コレラ発生時には、保護・監視地域が設定され、発生農場の豚は全頭と畜さ
れるとともに、一定期間、移動制限が行われる。発生が多発である場合には、移
動制限が比較的長期間にわたり、制限地域内の生産者は豚の出荷が禁止される。
この場合は、豚は、例外的市場支持政策の下で販売される。また、国境での移動
監視は、疾病の拡散を防ぐために重要であり、家畜移動監視制度(Animo)がこ
の目的のために設けられている。これら獣医学的政策および市場支持政策は、EU
内の各種委員会により現場管理が行われている。

 以下、順次これらの概要について説明する。

・疾病撲滅・調査計画

 最近の事例では、2000年3月31日にドイツのザクセンアンハルト州における野
生豚の豚コレラ撲滅計画が承認された。現在、野生イノシシの豚コレラ流行が確
認されているドイツ、フランス、イタリアの全域で撲滅計画が実施されている。

 また、調査計画は、ドイツの養豚農家で実施されている。

・不測事態対応計画

 80年のEU理事会指令(80/217/EEC)では、加盟国は93年1月1日までに同計
画を委員会に提出し承認を受けるよう求められていたが、97〜98年の豚コレラ流
行時には、計画を提出していない国が複数存在した。

 ベルギー、スペイン、オランダの計画は、遅ればせながら97年12月に提出され、
99年3月30日に承認された。また、ギリシャ、ルクセンブルグの計画は、2000年
1月14日に承認され、ようやく全加盟国の計画が出そろった。

・ワクチン接種

 77年にEU(当時はEEC)委員会は、「EECにおける豚コレラ撲滅に係る疫学お
よび経済性に関する研究」という題の論文を発表した。これに促されて、80年、
同委員会は、豚コレラ撲滅のため、恒常的なワクチン接種の漸進的廃止およびと
畜についての共通政策を決定した。この決定に基づきEU理事会指令(80/217/
EEC)により豚コレラ発生時における対策が定められ、90年までにすべてのワク
チン接種が廃止された。

 伝統的な生ワクチンの大きな問題点は、ワクチン接種をした豚と自然感染した
豚とを血清学的に区別できないことにある。この問題は、マーカーワクチンの発
展により解決される可能性があるが、現在、市場流通のための承認申請が出され
ている2種類のマーカーワクチンについて、試験が実施され審査中である。

 会計検査では、97〜98年の豚コレラ対策で多大の費用を要したことにかんがみ、
マーカーワクチンの使用可能性も含めて現行制度の経済性についての再評価の実
施が勧告された。これに対して、EU委員会は、99年6月までの試験では、マーカ
ーワクチンは胎盤感染を防止できなかったこと、ワクチン接種豚と(自然)感染
豚を見分けるための検査が個体検査に不向きであるとともに、その感度が従来検
査に劣ることなどの問題点を挙げ、まだマーカーワクチンは実用段階にはないと
の見解を示したが、今後も研究は続けていく意向である。

・豚コレラ発生時の対応

 EU理事会指令(80/217/EEC)に基づき、豚コレラの発生が疑われた場合、
加盟国は報告が義務付けられている。報告に基づき常設獣医委員会は、どのよう
な措置をとるか決定する。通常、委員会決定により、特定汚染地域からの豚の移
動制限が行われ、状況に応じた変更が加えられる。

 また、豚コレラ疑似患畜発生農場は公的監視下に置かれ、すべての豚の出入り
が禁止される。この監視は、豚コレラが公的に排除されるまで続けられる。もし、
豚コレラと確認された場合は、発生農場のすべての豚は速やかにと畜・廃棄され、
汚染が疑われる資材は、ウイルスが確実に死滅する方法で措置される。農場への
再搬入は、洗浄・消毒を行った後、15日目以降に可能となる。

 豚コレラが確認された場合、できるだけ早く、発生場所から最低半径3kmの保
護地域と最低半径10kmの監視地域を設定しなければならない。保護地域の豚は、
発生農場の消毒後21日までは、農場からの移動を禁止される。監視地域での措置
は基本的に同じであるが、移動制限が7日目までになる。感染農場の洗浄完了後
30日目に、保護地域は解除される。

 これらの対策は加盟国の責任であるが、流行を防ぐためには、加盟国が発生初
期から、疾病発生地域からの豚および子豚の移送を追跡し、検査・廃棄できるか
が大きなカギとなる。

・家畜の移動通知

 90年のEU理事会指令(90/425/EEC)では、域内市場形成完結の見地からの豚
を含む特定動物の獣医学的検査について定めている。これがコンピュータによる
家畜移動監視制度(Animo)の法的根拠となっており、搬出地における獣医学的
検査の確実な実施と移動記録が義務付けられている。

 93〜95年のドイツにおける豚コレラ発生についての原因分析によれば、一次発
生患畜数の過半が野生イノシシとの接触が原因とされる一方で、2次発生の4分の
1を超えるものが豚の取引が原因とされている。スペイン当局では、その主な原
因の1つとしてAnimoシステムの不調を挙げていた。また、ベルギー獣医局も、
Animoの情報記録を他の記録と比較し、不完全さ、速度不足、不正確さを指摘し
た。

 会計検査では、EU委員会に対し、同システムの迅速性、正確性、完成度の高度
化を増進するよう勧告した。

・例外的市場支持政策

 獣医学的政策が決められた直後に、各国の市場支持規則が採択された。保護地
域および監視地域において飼養されている肥育豚や、子豚のレンダリング向け出
荷等について助成が行われた。すべての政策は、EU委員会に属する豚肉管理委員
会で審議され、種類別に上限頭数が定められたが、加盟国の要望に対応して規則
が改正され、上限頭数は最初の110万頭から1千80万頭まで拡大した。この結果、
上限の拡大、対象家畜の種類/体重の変更、補助率変更のための規則改正は計44
回にも及んだ。

 スペインでは、雌豚およびイベリア豚のとう汰に特別補助率が導入された。オ
ランダでは、超若齢子豚が対象に加えられ、雌豚とう汰も行われた。ドイツでは、
とう汰豚を用いた缶詰の生産も認められた。

・現場管理

 EU委員会食品獣医事務局(FVO)は、獣医法令に関する視察権限を有している。
オランダでの流行の大きさにかんがみ、繰り返し同国で実地検査が実施された。
また、会計担当部局による実地検査も行われた。

 オランダでの豚コレラ発生が13件となった後、97年2月14日に特定地域からの
豚の移動が禁止された(委員会決定97/122/EC)。FVOは同じ週にオランダ
を訪問し、「接触による続発の可能性があるが、視察時における全体状況では、
オランダの関係部局は組織的に良好な管理政策を行っていると認められる」と結
論した。

 発生件数が65件となった97年4月には、FVOによるオランダ訪問が再度行われ、
「汚染精液による病気の伝搬が考慮されていないことと、接触時における予防的
と畜を行わないことが疾病拡散の機会を与えている」と指摘された。97年6月の
視察では、レンダリング能力の不足から全群とう汰が一定数でしか実施できない
ことが判明し、授精禁止が導入されたが、総頭数の抑制には遅すぎた。また、例
外的市場支持政策が養豚経営の継続や豚の成長促進を誘導していることも判明し
た。

 会計検査では、最近の豚コレラ流行での経験および科学的知見の変化を踏まえ、
指令改正の必要性が指摘された。また、各国で実施された措置(例えば、オラン
ダでの予防的と畜の実施の中止および動物愛護の観点からの豚買い上げ(オーバ
ーネーム))が、委員会承認の対象として言及されていないことも問題として指
摘された。

・検査体制の強化

 過去20年以上にわたり、EU委員会では、すべての加盟国の公的検査機関が正確
かつ統一手法で豚コレラを診断できるように努めている。さらに研究への助成に
より、異なるウイルス株を迅速に判別する分子生物学的手法を開発した。この結
果、疫学的に疾病発生を追跡することが可能となった。

・EU拡大に伴う家畜衛生対策

 EU委員会では、中東欧に豚コレラが存在する国があること、および将来のEU拡
大に伴う問題を十分認識し、獣医師等の診断・国境監視手法についての研修、検
査機器の供給、不測事態対応計画の作成など、多数の政策に対する支援を行って
いる。


(2)EUの財政支出

 97年および98年におけるEUの豚肉関連支出額は、伝統的な共通市場政策につ
いては1億4千2百万ECU(146億2,600万円:1ユーロ=約103円(1ECU=1ユーロと
して最近の相場で換算))であった。一方、例外的市場支持に要した支出額(EU
は所要経費の70%負担)は、その4倍の5億7千万ECU(587億1千万円)であった。
97年の獣医学的政策に要した97年および98年の支出額(50%負担)は8千50万
ECU(82億4千万円)であった。会計検査では、例外的市場支持と獣医学的政策と
を明確に区分することが難しいことなどから、EU補助割合を同一にすべきである
と指摘された。

 支出額の内訳および豚コレラ対策による豚と畜頭数の内訳は、それぞれ表5、表
6の通りである。なお、表の支出金額は97〜98年の実績である。97〜98年の豚コレ
ラ発生に伴う負担額のすべてではなく、決定が遅れた後年の負担額は含んでいな
い。当時の豚コレラ発生に関するオランダへのEU負担額の総額については、2000
年5月25日に1億994万ユーロ(ECU)(113億2,400万円)と確定した(委員会決定
2000/362/EC)。

表5 EUの豚肉関連支出額(97〜98年)
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 資料:EU委員会農業総局
  注:獣医政策には、豚コレラ検査機関への補助(年間15万ECU)
    及び各国の調査・撲滅計画への補助(98年に2百万ECU)
    を含まない。

表6 豚コレラ対策による豚と畜頭数(例外的市場支持及び獣医政策)
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 資料:EU委員会農業総局


5 各国における豚コレラ対策

 97〜98年の豚コレラの流行に伴い、各国では4の(1)に記した対策を基本とす
るさまざまな対策を実施した。

・予防のためのと畜

 予防のためのと畜は強制措置ではないが、高密度の豚飼養地域では流行を防ぐ
有効手段となる。今回の流行時には、スペイン、オランダ、ベルギーで実施され
た。

 オランダでは、まず、最初の2件の発生農家から半径1km以内の農家で予防と畜
が採用された。97年2月に26件、2万6千頭の豚がと畜され、うち3件が後に汚染農
家と判明している。その後は、予防と畜により疫学データが失われるとの科学者
の指摘があり、2ヵ月間の中止期間を経て予防と畜が再開した。しかし、中止期
間中の発生件数は91件を数えたことから、結果として中止が適当でなかったと指
摘された。また、オランダでは、前述のとおりレンダリング能力の不足から、再
開決定から開始まで最高2週間も遅れがでるとともに、予防と畜の対象を発生農
家から半径500mの農家に縮小せざるを得なかった(97年5月12日に1kmに復帰)。
最終的には、予防と畜により合計1百万頭の豚がと畜された。あるシミュレーシ
ョンによれば、最初の予防と畜政策が厳格に維持されていれば、予防と畜の対象
農家数ははるかに少なく、発生件数も70件程度にとどまったであろうとの結果が
出されている。

 スペインでは、97年5月7日に、豚コレラ発生農家から半径250m以内の農家を
対象に、繁殖豚(雄豚および雌豚)を除く全頭を予防と畜することに決定した。
また、繁殖豚は毎週体温に関する獣医学的検査を義務付けられた。しかし、EU委
員会の査察ではこれが規則正しく実施されていないことが判明した。また、レン
ダリング能力の不足から、市場支持政策を適用できなかった豚14万頭の枝肉を埋
却処理した。これらスペインでの部分的予防と畜については、EU補助の対象とし
て適当ではないとしてEU委員会から補助を留保された。

 ベルギーでは、発生農家から半径1km以内の農家の豚全頭(6農家、3,647頭)
を予防と畜した。また、オランダからの汚染が疑われた豚群(1万6千頭)とオラ
ンダ産精液を授精した雌豚(100頭)を予防と畜した。ただし、同一貨物トラッ
クで輸送された汚染地域外のオランダ産豚群は、予防と畜の対象とはしなかった。

・オランダのオーバーネーム政策

 97年3月のEC規則(413/97)では、市場支持の対象は肥育豚と子豚に限定され
ていたが、すべての種類の豚が移動制限された。オランダでは、養豚農家の専業
化に伴い豚の高密度化、動物愛護問題が容易に発生する。2ヵ所の人工授精セン
ターでの汚染により1,675農家で汚染が疑われ、問題は深刻化した。動物愛護の
観点から、オランダ当局は健康な豚のと畜を行う農家に対しても獣医学的支持政
策(オーバーネーム)を導入することとした。 

 ただし、この政策はEU委員会の補助対象にはならなかった。

・例外的市場支持

 [雌豚とう汰]

 雌豚とう汰は、オランダの要請に基づき、市場支持の対象となったが、動物愛
護が十分保証されないとしてオランダにおける実績はなかった。このため、雌豚
1千頭は、オーバーネーム政策の下でと畜された。 

 スペインでは、1万1千頭の枠で実績は半分の5,520頭だった。流行が短かった
ドイツ、ベルギーでは雌豚とう汰は導入されなかった。

 [ドイツの缶詰生産]

 ドイツでは、EU域外向けに缶詰生産が認められた。19,392頭の豚が缶詰生産に
仕向けられた。4,000トンの枠のうち、ロシア向けに約2,000トンの缶詰が作られ、
約1,600トンが輸出されたが、経済危機の影響もあり約400トンが売れ残った。

 [オランダの授精禁止] 

 オランダでは、97年6月3日に特定地域の雌豚の授精禁止が導入された。EC
規則(1564/97)で定められた上限の22万頭に対し、実績は約19万1千頭だった。

 なお、授精禁止に従わなかった農家が多かったことに加え、禁止解除後の一斉
授精実施により98年の子豚市場が混乱したことに鑑み、EU委員会では本措置を今
回限りとすべきとの意向を示している。


6 おわりに

 97〜98年のEUにおける豚コレラ大流行の原因としては、初動対策の遅れと感染
ルート究明の不備が指摘された。すなわち、感染ルートを明らかにして、早期か
つ小範囲に発生を食い止めるという、家畜衛生の基本を忠実に実行することの重
要性が改めて示された。本レポートでは、各国、特にオランダにおける対策の試
行錯誤ぶりがうかがえるものと思う。

 これを契機に、EU委員会では現在、理事会指令(80/217/EEC)の改訂に向け
て作業中であり、また、疾病の感染源である野生イノシシの豚コレラ撲滅計画も
推進し、大流行の再発防止に万全を期している。オランダおよびベルギーでは、
環境保全対策の必要性もあり、養豚農家の集中化を緩和すべく離農奨励計画を推
進中である。


参考資料:

COURT OF AUDITORS

 「SPECIAL REPORT No 1/2000 on classical swine fever, 
 together with the Commissionユs replies(2000年3月23日付EU官報C85)」

EUROPEAN COMMISSION

 「The Agricultural Situation in the European Union 1998 Report」

FAO
 
「World Meat Situation in 1999 and Outlook for 2000」

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