干ばつの影響深刻化で、穀物減産を予測


冬作穀物の収穫量、前回予想を26%下方修正

 豪州農業資源経済局(ABARE)は、10月29日付けで穀物レポートの
干ばつ特別号を発表した。通常同レポートは四半期ごとに気象条件などを勘案
し、穀物の収穫状況を予測している。今回は、今年に入ってニュー・サウス・
ウェールズ(NSW)州を中心に発生し、拡大しつつある干ばつの穀物生産への
影響が深刻化しているため、特別号として臨時に発刊された。

 その内容は、今年9月に発行された季刊号の2002/03年度(6月〜7月)冬作
穀物(豪州における主要穀物である大麦、小麦、カノーラ、ルーピンの4品種)
の収穫予測を修正するものである。9月の予測では、これら4種の穀物の収穫量
は合計で約2,000万トンであったが、今回の予想では1,480万トンと26%下方修
正された。この要因としては、豪州の主要穀物生産地帯であるNSW州北部地域
やビクトリア(VIC)州北部地域で冬作穀物の作付けと成長期に当たる4月から
9月の降雨量が、今シーズンは平均40%から60%と極めて少なかったことが挙
げられる。ABAREのフィッシャー博士は、「昨年は3,400万トンの記録的な冬作
穀物の収穫があったが、今年は運が良くても1,500万トン程度になるであろう」
と悲観的な予想を述べている。

 今回のレポートでの穀物主要生産州の収穫量は、NSW州220万トン(昨年比▲
76%)、VIC州150万トン(同▲68%)、南オーストラリア州410万トン(同▲
50%)、西オーストラリア州630万トン(同▲42%)と前年に比べ大幅に減少
する予測となっている。

 フィッシャー博士は、現時点での干ばつによる被害で豪州の2002/03年度の
経済成長率が0.7%(約54億豪ドル(約3,780億円:1豪ドル=70円))引き下
げられると推計した。


家畜産業に広がる干ばつの影響

 豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)によると、肉牛生産者は家畜の飼料用
穀物を昨年はおおむね1トン当たり200豪ドル(約14,000円)で確保できていた
が、今年10月の平均では同350豪ドル(約24,500円)と急上昇した。特に大麦
やソルガムの値上がりが深刻である。MLAは、とりわけフィードロット産業で
は、価格の急上昇によって、小規模経営体では肉牛の導入を中止せざるを得な
い状況にあるとコメントしている。

 また、報道によると、VIC州の酪農主産地であるゴールバーン地方では、豊
富なかんがい用水を利用し、牧草地を維持管理していたが、干ばつの影響でか
んがい用水の使用制限により牧草の生育が阻害され、外部からの乾牧草などの
飼料購入を余儀なくされている。この地方の酪農生産者は乳牛の淘汰で対処し
ているものの、生乳生産量が30%も減少しており、この先さらに状況が悪化す
る可能性も残されている。VIC州の協同組合デイリーファーマーズの試算によ
ると、現時点でこの地域の酪農家1戸当たりの平均収入は約14万豪ドル(約980
万円)の減収が予想されている。

 さらに、オーストラリアン・ポーク・リミテッド(APL)によれば、各州政
府で干ばつによる被害に対し、主に肉牛や羊が対象に緊急支援措置が取られて
いるが、肉豚については補助対象とはなっていない。APLは、豪州の養豚産業
は経営コストの7割近くを飼料費が占めており、干ばつによる飼料価格の高騰
は非常に影響が大きいとして、トラス農相に支援を要請している。

 豪州では、これから夏を迎え降雨量が減少し、さらに気温が上がり乾燥が続
くことが予想され、今後干ばつが長引けば、豪州経済へ悪影響をおよぼすとみ
られている。

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