米・墨間の鶏肉貿易をめぐる状況        


米国からメキシコへの鶏肉輸出の状況

 このほど米農務省経済調査局(USDA/ERS)が公表した「Electronic Outloo
k」において、米国・メキシコ間の鶏肉貿易の状況などが報告された。概要は、
次の通り。

 米国の消費者は、健康志向の高まりや価格優位性などから、レッドミート
(牛肉など)よりホワイトミートを好む傾向にあるが、ホワイトミートは主に
鶏むね肉を指し、それ以外のもも肉などはダークミートと呼ばれ、国内では加
工原料などに利用されることが多い。卸売価格も、ホワイトミートはダークミ
ートより1ポンド当たり約80セント(骨付き)高く、日本を始め諸外国の卸売
価格とは逆の状況となっている。このようなし好の違いに基づく部位ごとの価
格差はダークミートの輸出を可能とし、メキシコ向けは、2001年には3億8,100
万ポンド(約17万3千トン)が輸出され、ロシア、中国(香港含む)に次ぐ輸
出量となっている。その内訳は、全体の44%をフレッシュ(生鮮)が占め、主
な取扱品目は、骨付きもも肉、グラウンドチキン(鶏ひき肉)などの低価格品
が中心となっている。報告では、メキシコはGDPが2000年の3,720億ドル(44兆
6,400億円、1ドル=120円)から2010年には5,450億ドル(65兆4,000億円)に、
人口も約1億人から1億1,500万人に増加すると予測しており、ブロイラー消費
量は今後も増加傾向にあるとしている。


規制が緩和された場合の両国の状況の比較分析

 メキシコから米国への鶏肉輸出については、検疫・検査を行うUSDAの動植物
検疫局(APHIS)と食品安全検査局(FSIS)により、防疫上(ニューカッスル
病など)の理由から加工済みの鶏肉のみが認められている(99年10月以降)。
これに対しメキシコ側はAPHISに対し、生鮮、冷蔵または冷凍の鶏肉の輸出許
可を要請しているところである。また、FSISに対しては、強毒性ニューカッス
ル病(exotic Newcastle Disease : END)の低リスク地域を、現在のソノラお
よびシナロア州以外の地域にも拡大するよう要請しているところである。

 報告では、仮にこれらの輸入規制が緩和された場合、両国の鶏肉貿易をめぐ
る状況がどのように変化するかを、シナリオ1(上記2州から加工製品のみ輸出
(現状))、シナリオ2(現状に対し生鮮肉などが輸出可能となった場合)、
シナリオ3から6(生鮮肉などの輸出可能なENDの低リスク地域が拡大した場合
(生産量割合で15、25、50、96%まで地域が拡大されたと想定))の6つの状
況を想定し、増産能力や生産コストについて一定の条件の下で比較分析してい
る。例えば、シナリオ6の場合、シナリオ1に比べると、米国の生産量は1%(1
4万3千トン減)の減少にとどまり、輸入量は6万3千トンの増加、輸出量は9万2
千トンの減少となっている。他方、メキシコでは、生産量が6%(13万4千トン)
の増加、輸入量が8万6千トンの減少、輸出量は6万3千トン増加している。この
場合の卸売価格は、米国においては変化が見られないが、メキシコではホワイ
トミートがキログラム当たり9セント上昇し、ダークミートは3セント低下して
いる。両国の価格水準について、シナリオ1(現状)では、丸どり価格は米国
が4セント高く、ホワイトミートも米国が19セント高い。ダークミートは、メ
キシコの価格が6セント高いとしている。シナリオ6では、丸どり価格はほぼ同
じであるものの、ホワイトミートは米国が10セント高い。ダークミートは、メ
キシコが3セント高いとしているが、シナリオ1に比べると両国間の価格差が小
さくなっている。

 このように輸入規制の緩和が行われた場合、メキシコ産ホワイトミートの米
国へ輸出が刺激され、丸どり価格の上昇に伴う増産によりダークミートの生産
も増加することから、米国産のダークミートのメキシコへの輸出量は減少する
としている。しかし、メキシコから米国への輸出量は、米国の国内生産量や消
費量に対して少量に過ぎないことから米国国内市場への顕著な影響はないとし
ている。


米国産家きん肉に対する暫定的セーフガードの発動

 なお、北米自由貿易協定(NAFTA)に基づく家きん肉の関税措置の取り扱い
については、本年1月からメキシコにおける米国産家きん肉に対する関税措置
(関税割当制度)が撤廃されることとなっていたが、両国の業界団体の思惑が、
もも肉に限って関税措置を存続する方向で一致し、両国政府間でやりとりが行
われていたところであった。これはメキシコの家きん肉生産者の要請を受けて
昨年11月に開始されたNAFTAの下でのセーフガードに関する調査を受けた動き
であり、今回メキシコ政府は、1月22日、今後6カ月間の暫定的なセーフガード
措置を講ずると発表した。その概要は次の通り。

・今回の暫定的なセーフガードの発動対象品目は米国産家きん肉のうち、もも
 肉のみとする(その他の米国産家きん肉に対する関税は撤廃される)。

・5万トンの無税枠を6カ月間の暫定措置として設けるが、この間に5万トンを
 超えて行われた輸入に対しては、98.8%の関税を賦課する。

・今回合意された無税枠の5万トンは、2001年のメキシコへのもも肉輸出量と
 ほぼ同じ水準であり、また、暫定的なセーフガード措置の下で賦課される関
 税率は2001年の適用税率(98.8%)と同率とする(2002年の適用税率は49.9
 %であった)。

 これを受け、ゼーリック米通商代表は、「米国の家きん肉業界とも相談しな
がら、メキシコ政府に働きかけた結果、これまでの数年間と同じような輸出量
が確保されることとなった。」と述べ、ベネマン米農務長官も同様のコメント
を出した。ただし、今回の措置は6カ月間の暫定措置であり、その後セーフガ
ード措置が発動されるかどうかは今後の調査結果による。ベネマン米農務長官
は、「今後も長期的な米国産家きん肉の市場アクセスが確保されるよう働きか
ける」と述べた。

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