特別レポート

EUにおけるBSE対策の概要と見直しの方向

ブリュッセル駐在員事務所 山崎 良人、関 将弘

1 はじめに

 EUにおけるBSEに関する主な出来事としては、(1)86年、英国でBSEが発見されたこと、(2)96年、BSEが牛肉摂取を通じ人にも感染する可能性が発表されたこと(第1次BSEクライシス(危機))、(3)2000年10月、フランスでBSE感染の疑いのある牛肉が販売されたこと、また、同年11月にドイツ、スペインで初めてBSE患畜が確認されたこと(第2次BSEクライシス)−などが挙げられる。第1次および第2次BSEクライシスでは、EUにおける牛肉の消費が激減した。

 EUでは、BSE撲滅のため、特定危険部位(SRM)の除去、動物性たんぱく質の飼料給与禁止措置(フィードバン)、BSE検査などの数々の対策を実施してきた。一方、欧州委員会が本年7月に公表したBSE検査の結果に関する報告書によると、EU25カ国におけるBSE陽性牛の頭数は、年々減少し、2003年の1,364頭から2004年には838頭と、前年に比べ39%の大幅な減少となっている。欧州委員会は、このことは、明らかにこれまで実施してきたBSE対策の効果であるとしている。

 このような中、欧州委員会は、BSE陽性牛頭数の減少傾向などBSE撲滅に前向きな傾向が続き、科学的な条件が整えば、現在実施しているBSE対策について、消費者の健康を危険にさらすことなく、その見直しを検討できる状況になるとして、本年7月に今後のBSE対策の見直しの方向を示した「TSE指針(Roadmap)」を公表した。

 今回のレポートでは、EUにおいて現在実施しているBSE対策の概要および2004年におけるBSE検査の結果とともに、TSE指針に示されている今後のBSE対策の見直しの方向について紹介する。

 

2.EUにおけるBSE対策

 EUは2001年5月、「伝達性海綿状脳症(TSE)の防疫、管理、撲滅に関する規則(EC/999/2001、以下「TSE規則」という。)」を制定した。EUでは、TSE規則が制定されるまでは、改正を含め60余りに及ぶ委員会決定(Commission Decision)などを制定し、それぞれの時点において必要とされた対策を実施してきた。TSE規則は、制定時点における最新の科学的知見や国際基準を考慮し、それまでの対策を一つに統合したものであり、現在のEUにおけるTSE対策の根拠規則となっている。同時に、TSE規則は、これまでの対策に加え、BSEリスクを管理するいくつかの新たな対策を導入した。主なBSE対策は以下のとおり。


(1)SRMの除去

 SRMの除去は、公衆衛生を保護する上で最も重要な対策の一つであると位置付けられている。SRMについては、新たな科学的知見に基づき、指定部位の改正が行われてきた。

 EUでは、2000年10月1日から、全加盟国での家畜からのSRMの除去を義務付けた(委員会決定2000/418/EC)。現在は、TSE規則においてSRMを規定している(同規則別表XIのAの1)。((注)同規則では、国際獣疫事務局(OIE)のBSEに関する国際基準(BSEコード)に基づく国などのカテゴリー分けを参考に加盟国などのカテゴリー分けを行い、SRMもそのカテゴリーに対応して規定している(同規則第8条)。しかし、まだ、OIEのカテゴリー分けが適用されていないため、同規則に基づくカテゴリー分けによるSRMは適用されていない。そこで、OIEのカテゴリー分けが適用となるまでの移行措置として、EU全体でのSRMを同規則の別表XIのAの1に規定し適用している。)

 英国とポルトガルにあっては、他の加盟国に係る部位よりも多くのものがSRMとして指定されていたが、ポルトガルについては、同国でのBSE陽性牛頭数が減少したこと、また、TSE規則に基づくBSE対策を確実に実行していることから、2004年11月20日からは英国を除くほかの加盟国と同じ部位がSRMとして指定されている(委員会規則EC/1993/2004)。現在のSRMとして指定されている部位は表1のとおりである。

表1 SRMとして指定されている部位
(TSE規則別表XIのAの1(委員会規則EC/1993/2004最終改正)



(2)フィードバン

 EUでは、ほ乳動物由来のたんぱく質の反すう動物への給与の禁止措置は、94年7月に導入された(委員会決定94/381/EC)。当初は、部分的な禁止措置であった。しかしながら、2001年1月1日からは、その対象を拡大しすべての家畜向けの飼料への動物性たんぱく質の使用を禁止している(理事会決定2000/766/EC)。現在は、TSE規則に以下のとおり規定されている(TSE規則第7条第1項および別表IVの1)。

 また、現在の規則では、一定の条件の下で反すう動物以外の動物に魚粉を給与することを認める特例はあるが、基本的には動物由来の成分が飼料中に存在してはならないと考えるゼロ容認(zero-tolerance)となっている。

(参考)TSE規則(抜粋)

第7条第1項
  ほ乳動物由来のたんぱく質を反すう動物に給与することを禁止する。

別表IVの1(抜粋)
  
第7条第1項で規定する禁止措置の適用を、次のものに拡大するものとする。

 (a)毛皮を生産する肉食動物を除く家畜に以下のものを給与すること
  (a)加工された動物たんぱく質
  (b)反すう動物由来のゼラチン
  (c)血液製品
  (d)加水分解たんぱく質
  (e)動物由来のリン酸二カルシウムおよびリン酸三カルシウム
  (f)(a)から(e)に掲げたたんぱく質を含む飼料

 (b)反すう動物に動物のたんぱく質そのものおよび動物たんぱく質を含む飼料を給与すること

 

(3)監視プログラム

 2000年の中頃までは、発見されたBSE患畜の大部分は、BSE様症状または疑いのある牛に対する検査である受動的(パッシブ)な監視によるものであった。2000年に、通常にと畜された牛の中からBSE陽性牛が発見され、その必要性が指摘されたことから、2001年初めにEU全体で30カ月齢を超える健康な牛にもBSE検査を義務付ける能動的(アクティブ)監視が導入された(委員会決定2000/764/EC)。この能動的監視は2001年7月からは検査対象範囲を拡大しており、その検査対象は次のとおり。

  • 24カ月齢を超えるリスクのある牛(死亡牛(Fallen stock)、緊急と畜牛、と畜前検査で臨床症状がある牛)全頭

  • 30カ月齢を超える通常にと畜される牛全頭。なお、スウェーデンは無作為サンプルでの検査が認められている。

 能動的監視の内容は、TSE規則の第6条第1項に規定され、その詳細は、別表IIIのA章に規定されている。

 また、モニタリングに使用する迅速検査法は、TSE規則に規定されており、現在規定されている方法は、以下のとおり。


(4)関連牛のとうた

 BSE患畜の確認後の対策として、BSE患畜の子牛、患畜と同一環境で育った牛、同一飼料を与えられた牛などは、とうたすることとしている(TSE規則第13条および別表VIIの1、2)。これらの動物および動物由来の製品は、SRMの処分方法と同じ方法に従いと畜され、完全に処分されることとなっており、2001年7月1日から適用されている。TSE規則では、関連牛の調査対象および処分対象を次のとおり規定している。

BSE患畜が確認された場合の調査対象およびその処分(別表VIIの1、2から作成)

BSE患畜が確認された場合の調査は、次のものを確認しなければならない(TSE規則の別表VIIの1の(a))

1. 疾病が確認された動物の農場における、当該動物以外のすべての反すう動物

2. 雌動物で疾病が確認された場合、当該雌動物が発病する前2年間以内および発病後に生んだ産子

3. 疫病が確認された動物の同一群(Cohort)のすべての動物
注)TSE規則別表VIIの2の(C)で同一群(Cohort)を次のように規定している。

    (1)BSE患畜が誕生した前後1年以内に同じ群で生まれた牛のグループ   

    (2)BSE患畜と生後1年間一緒に育てられた牛のグループ

4. 疾病の原因として可能性のあるもの

5. 疾病が確認された動物の農場の当該動物以外の動物、または他の農場の動物であってTSE病原体により影響を受けた可能性がある、あるいは同じ飼料または汚染した原因にさらされてきた可能性があるもの

6. 潜在的に汚染された飼料、そのほかの物質、またはその他のすべての伝達手段であって、疾病が確認された農場に、または当該農場から、TSE病原体を伝達する可能性があるもの

上記の調査で確認された動物の処分について(TSE規則の別表VIIの2)

 上記の1、2、3の調査で確認された牛は、SRMの処分方法に従い、と畜し、完全に処分しなければならない

しかしながら、この措置の特例として加盟国は次の決定をしてもよい

  • 農場の動物の疫学的状況とトレーサビリティが確実な場合、上記の1の調査により疾病が確認された動物のいる農場のすべての牛をと畜、処分をしなくてもよい

  • 種雄牛センターで飼養されている種雄牛であり、それらの死後、完全に処分されることが確実である場合は、上記の3による調査により分った牛のと畜、処分を、これらの生涯を通じて延期してもよい


(5)英国に対する特別な措置

ア 30カ月齢を超える(Over Thirty Months:OTM)牛の処分対策

 英国は96年5月1日から、公衆衛生保護対策として、30カ月齢を超える牛の肉を食肉として流通することを禁止するOTM牛の処分対策を導入している。これは、英国主管官庁が、BSEの臨床症状を見せていない30カ月齢を超える牛を買い上げ、この牛を指定されたと畜場でと畜し、その肉などを染色し、密閉したコンテナで承認された焼却場またはレンダリング工場に運び処分するものである。このようなことから、英国では、30カ月齢を超える牛は食肉として流通しない。

  このOTM牛の処分対策で英国当局が生産者に支払っている金額は、(1)乳用牛は、生体重キログラム当たり0.64ユーロ(88.3円:1ユーロ=137.9円、枝肉キログラム当たり1.28ユーロ(176.5円))、(2)そのほかの牛は、同0.83ユーロ(114.5円)、同1.41ユーロ(194.4円))となっている。英国当局が、負担した経費については、EUが(1)乳用牛は、1頭当たり233ユーロ(32,131円)、(2)そのほかの牛は、同302ユーロ(41,646円)の助成をしている。

イ 生年月日に基づく輸出措置(Date-Based Export Scheme:DBES)

  欧州では、英国産の牛肉・牛肉製品の加盟国および第3国への輸出を、一定の要件を満たすものに限定している(委員会決定98/256/EC)。この措置は、生年月日に基づく輸出措置(DBES)と呼ばれており、その条件は以下のとおり。

(1)牛肉を生産するための牛は96年8月1日(肉骨粉の給与禁止措置開始日)以降に生まれたもの

(2)牛群および母牛の履歴が追跡可能であること

(3)牛肉・牛肉製品はと畜月齢が6カ月齢から30カ月齢のものからのものであり骨が除去されていること

(4)母牛は当該牛が6カ月齢になるまで生存し、BSEを発症しなかったこと


3.BSE患畜の確認状況

 欧州委員会は7月13日、2004年にEUの各加盟国において実施されたBSE検査の結果を公表した。

(1)検査対象

 BSE検査は、2の(3)に述べたとおり、TSE規則に基づいて実施されており、監視の対象は次のとおり。

ア 死亡牛:農場または輸送中に死亡した、あるいはと畜された牛であり、食用向けまたは伝染病対策に基づいてと畜されたものを除く。加盟国は、牛の飼養密度が低く、主要な生産地から離れた場所にあっては、死亡牛の収集・検査を免除しても良い。この場合、免除措置の対象となる牛の数は、当該加盟国の牛の飼養頭数の10%を超えてはならない。

イ 緊急と畜牛:事故や生理的、機能的に重大な問題により獣医の指示に基づきと畜された牛(理事会指令64/433/EECの第2条)。特別緊急と畜とは、動物の輸送が不可能であるまたは動物に余計な苦しみを与えると獣医が判断した場合に行われると畜場以外でのと畜。

ウ と畜前検査で臨床症状のある牛:通常のと畜のために出荷された牛のうち、次の理由によりと畜を延期されたもの

    a) 人および動物に伝染する疾病で苦しんでいる、または兆候を示している、あるいは疾病を起こすかもしれないと疑われたもの

    b) 疾病または人による消費に不向きな肉となりそうな異常を示すもの

エ 通常にと畜された牛:食用のために通常にと畜される牛。BSE以外の特定の疾病の撲滅のためにと畜されたもののうち当該疾病の臨床症状がない牛。

オ BSEとうた牛:BSE撲滅対策に基づき、とうたされた関連牛(同時出生牛(BSE患畜が誕生した前後1年以内に同じ群で生まれた子牛)、同居牛(BSE患畜と生後1年間一緒に育てられた牛)、BSE患畜に疫学的に関連するため、とうたされた産子およびそのほかの牛)

カ 研究所の検査を条件とするBSEが疑われる牛:TSE規則の第3条の1の(h)で定義されたTSEの疑いがあるとして報告された牛(中枢神経の損傷に関連する神経的障害、行動性障害、進行性痴ほうの一般的な状態が見られる、生きている、と畜されたまたは死んだ牛。および、臨床試験、治療後の反応、と畜前検査またはと畜後の分析によって集められた情報からはほかの診断を下すことができない、生きている、と畜されたまたは死んだ牛。)

 EUにおけるBSE監視の対象となる牛の概要は表2のとおり。

    表2 BSE監視の対象となる牛の概要




(2)2004年のBSE監視結果

 2004年のEU25カ国での検査総数を見ると、前年比0.59%増の約1,105万頭であった。2004年において実施された監視方法は2003年のものと同様であり、対象区分ごとの検査頭数もほぼ同じであった。

 なお、加盟国間の比較を行う場合は、(1)加盟国によっては、異なった監視プログラムを実施していること(スウェーデンは無作為サンプリングのみ、英国では義務的検査なし(OTM牛処分対策実施))、(2)30カ月齢を超える牛より若い牛での自発的な検査を実施している国があること(イタリア、ドイツ、スペイン、フランスで24カ月齢を超える健康な牛全頭を検査(フランスは、2004年7月1日よりほかの加盟国と同様に30カ月齢を超える牛に引き上げ))、(3)さまざまに異なる生産形態があるため、飼養頭数に応じた年間の検査頭数について、死亡牛を含むリスクのある動物の頭数に違いがある可能性があること−が挙げられるので注意が必要である。

 そのほか、2004年の特徴的な事項としては、特定の国において、リスクのある牛の検査頭数を前年に比べて増加させる努力をしたことおよび新規加盟国で能動的監視の実施の努力をしたことにより、検査件数が増加したことなどが挙げられる。


(3)2004年のBSE陽性牛頭数

 2004年にEU25カ国で行ったBSE検査の結果、陽性となった牛の頭数は、2003年の1,376頭から865頭と39%の大幅な減少となっている。

 陽性牛の頭数を加盟国別に見ると、14カ国で陽性牛が確認されており、英国が依然として最も多く343頭となっているものの、前年に比べ44%減少している。これにスペインの138頭、アイルランドの121頭、ポルトガルの91頭が続いており、これらの加盟国ではそれぞれ前年に比べ20%、35%、32%の減少となっている。このような中、ドイツにおいては陽性牛の頭数が増加しており、前年に比べ2割増加の65頭となっている。このようにドイツにおいて陽性牛の頭数が増加したことについて欧州委員会は、全家畜に対するフィードバンが導入される前の98年から2000年に生まれた牛からBSE陽性牛が2004年の前期に多く発見されたためであると説明している。さらに2004年の後半には陽性牛の頭数は減少傾向にあったと説明している。

 新規加盟国では、チェコ、ポーランド、スロベニア、スロバキアでBSE陽性牛が確認されており、これらの加盟国ではいずれも、その頭数が前年を上回っているものの、数は比較的少ない。新規加盟国の中ではポーランドの11頭が最大である。

 2004年における検査の結果、BSE陽性牛となった牛の月齢は、加盟国によりその分布に幅はあるものの、全頭が36カ月齢以上であり、そのうち95%が60カ月齢以上であった。また、現在の検査方法を導入した2001年以降において、陽性となった牛の平均月齢を分類別に見ると、通常にと畜された健康な牛については、2001年は76.2カ月齢であったが、2004年には95.0カ月齢に上昇した。また、同様にリスクのある牛についても、2001年は88.7カ月齢であったが、2004年には113.5カ月齢に上昇している。

 欧州委員会は、BSE陽性牛の平均月齢が上昇していることについては、これまで実施してきたBSE対策の効果であり、その結果、若い牛の陽性牛が減少していると説明している。

表3 加盟国別、検査対象別の検査件数


 

表4 BSE陽性牛頭数の推移



表5 加盟国別、検査対象別BSE陽性牛の月齢の推移



4.BSE対策の見直しの方向

 欧州委員会は7月15日、今後のEUにおけるTSE対策について、各加盟国、欧州議会および関係者と議論するための資料として、「TSE指針(Roadmap)」を公表した。

 これは、これまで実施してきたBSE対策の効果により、BSE陽性牛の頭数が減少し続けていることを踏まえ、EUにおいて実施している2に掲げたBSE対策に関して、短・中期的(2005〜09年)および長期的(2009〜14年)に区分して将来実施する施策の選択肢を示したものであり、その概要は以下のとおり。


(1)短・中期的(2005〜09年)見直しの方向

ア SRM

 引き続きSRMの確実な除去により、現在の消費者保護のレベルを確保・維持しながら、科学的知見に基づきSRMとする部位や対象月齢を変更

 SRMとする部位や対象月齢の変更については、EUでの消費者保護を高いレベルで維持しつつ、新しい科学的知見に基づいて行うべきである。また改正には、BSEの能動的監視からのデータも利用すべきである。

 欧州食品安全機関(EFSA)は2005年4月27〜28日、中枢神経組織の除去月齢を12カ月齢から21または30カ月齢に引き上げるというSRMに関する見解(opinion)を採択した。この見解は、現在のSRMとする部位や対象月齢の改正の第1段階となる。

イ フィードバン

 一定の条件が整えば、現在の全家畜を対象としたフィードバン(total feed ban)を緩和

 現在のフィードバンの改正を行う場合、そのリスクを考慮しなければならない。それと同時に、このフィードバンの適切な実行を評価し確実なものとする手段を考慮しなければならない。現在のフィードバンは、ゼロ容認となっているため、適切な実行のために、以下の検討項目が挙げられる。

・ビートパルプ

 ドイツの分析では、てん菜糖から製造される飼料(ビートパルプ)から骨が検出されており、これを避けることができないことが明らかにされている。これは、土中の野生動物の骨片がてん菜に付着している場合があるためであり、これが最終的にビートパルプに混入することがあると考えられている。ビートパルプにおけるこのような自然環境下での骨片の混入の容認量については、リスク評価の結果、交差汚染や肉骨粉(MBM)の意図的な混入がないことが証明されれば、検討される。

・魚粉

 現在、反すう動物向けの飼料利用が禁止されている。また、反すう動物以外の家畜向けの飼料には厳しい条件が適用されている。リスクの大きさに応じた政策として通用するために、反すう動物向け飼料の中に交差汚染によって魚粉が存在する場合の魚粉の許容レベルを導入することを、提案しても良い段階にある。この容認の提案は、反すう動物向け飼料に魚粉を利用することに反対している欧州議会の立場を尊重して行われることになる。

 なお、欧州議会は、2005年の中盤に魚粉についての議論を行う予定であり、魚粉の利用禁止を緩和する可能性については、欧州議会での議論の結果次第となる。

・反すう動物以外の家畜に適用するフィードバンの解除

 現在、畜産副産物に関する規則(EC/1774/2002)では、同じ種の中での再利用(いわゆる共食い)を全面的に禁止している。これについて、動物の種類を特定することができるたんぱく質の区別方法が開発されれば、反すう家畜ではない家畜、すなわち鳥の肉骨粉を豚の飼料として利用することが可能となる。

 たんぱく質の区別方法の確認結果およびわずかな量の肉骨粉に関連したリスクについて、EFSAの定量的なリスク評価の結果がまだ結論付けられていない。これらの結果が出た場合、飼料中の肉骨粉の容認レベル基準の導入は、現在のTSEの撲滅対策の水準を下げることなく提案されることになる。

ウ 監視プログラム

 牛の検査頭数を削減しつつ、対象を絞った監視の実施によるBSE対策の効果の把握

(ア)疫学的な面での検討

 現在の検査体制を長期的にEUの参照研究所(Community Reference Laboratory:CRL)のモデルに基づく監視とするための計画を定めるため、現在実施している監視プログラムの結果および新規加盟国での完全な検査結果に基づき、監視プログラムの改正が、2005年中に提案される予定である。この場合のオプションを、上記に掲げた目標とコストを考慮して、疫学者や統計学者とともに分析することになる。

   このオプションとは、次の2つである。

・通常にと畜される牛および死亡牛の検査月齢の段階的な引き上げ。検査月齢の引き上げは、継続して実施されている監視の結果を踏まえて行うこととなる。

・その年に生まれた牛におけるBSE陽性牛の分布に関する十分な統計情報がある年に生まれた牛についての検査頭数の削減と近年または限られた情報しかない年に生まれた牛への検査の重点化。

(イ)費用対効果の検討

 監視プログラムに関係する費用は、監視を通じて得られる情報の取得状況に応じて負担されるべきである。例えば、30〜35カ月齢の通常にと畜された牛の監視において、2001年から2004年の間に1件の陽性牛を検出するために要した費用は、3億2百万ユーロ(約416億円)であったという結果がある。この費用は各加盟国から拠出され、EUからの助成も行われている(1件当たりのBSE迅速検査に要する平均コストは、約50ユーロ(約6,895円)であり、そのうちEUが8ユーロ(約1,103円)を助成している)。

エ BSEリスクによる各国のカテゴリー分け

 カテゴリー基準を簡素化し、2007年7月1日前までに各国のカテゴリー分けを結論付ける

 BSEリスクに応じた各国のカテゴリー分けの目的は、輸入国の公衆衛生および家畜衛生の保護を保証するために必要なカテゴリーに応じた貿易ルールを定めることである。このような貿易のための条件は、すでにOIEのBSEコードに定められている。  

 2005年5月のOIE総会において、異なるカテゴリーの監視に関する要件を含む簡素化したカテゴリー分けの方法について合意に達した。簡素化された3つのカテゴリー分けは、次のとおり。

カテゴリー1:無視できるほどのBSEリスクの国。5万頭につき1頭の罹患率の能動的監視が行われている国。 −制限なしに輸入が許される国

カテゴリー2:管理されたBSEリスクの国。10万頭につき1頭の罹患率の能動的監視が行われている国。 −SRMの除去が行われた場合輸入が許される国。

カテゴリー3: BSEリスクが不明の国。 −貿易できる食肉製品が制限される国

 この新しいBSEコードに基づき、TSE規則のカテゴリー分けに関する規定は改正されるべきである。新しいカテゴリー分けの基準の適用後、加盟国については、主な貿易相手国とともにカテゴリー分けを実施する。もし、OIEが2007年7月1日より前にカテゴリー分けを終了しなかった場合、EUは、新たな国際基準に従いカテゴリー分けをすべきである(現在の移行措置の期限は、2007年6月末までとなっている)。

オ BSEとうた牛

 関連牛を即時にとうたすることを中止

 現在の関連牛のとうたの代案として、牛の生涯を通じてとうたを延期すること、またはと畜された動物を迅速検査の結果、陰性であればフードチェーンに入れることを認めることを検討している。この緩和の実施は、繁殖と授乳などを許すことになり、輸出市場へ潜在的に影響を及ぼすことから、とうたを免除する措置を決定する場合は加盟国の責任となる。とうたの延期もまた、加盟国の決定となる。これらの緩和は、現在の消費者保護のレベルを危険にさらすことなく、経済的影響を削減すると同時に、とうた政策に反対する者に大きな影響を与えることになる。

 下の表は2003-04年にとうたされた関連牛についてBSE検査を実施した頭数と、そこから発見された陽性牛の頭数である。

 このようにとうたされた関連牛から発見された、BSE陽性牛の頭数はわずかなものとなっている。

 しかしながら、BSEの発生が減少するに従い、とうたに要する費用も削減されるが、特にBSEの発生がない、または発生がまれな加盟国の消費者はBSE陽性牛に関連する群全体をとうたすることを望むかもしれない。この判断は加盟国にある。

(カ)英国に対する特別な措置

 一定の要件を満たす状況であれば、英国産の牛肉・牛肉製品の輸出に関する現行の対策の解除を検討

 英国政府は2004年12月1日、欧州委員会にOTM牛の処分対策に代わり、ほかの加盟国と同様のBSE検査を実施する決定を通知した。その際、96年8月1日より前に生まれた牛は食品・飼料チェーンから永久的に除外するとしている。

 一方、英国からの牛肉輸出の解除について議論を始めるためには、英国でのBSE患畜が成牛百万頭につき200頭を下回ること、および2005年6月のEU食品獣医局(Food and Veterinary Office:FVO)の検査で好ましい結果を得ることが必要である。なお、EFSAは2005年3月10日、英国の成牛百万頭につきBSE患畜は200頭以下であることを確認している。

 両方の条件をクリアした場合、特にFVOの検査結果が好ましいものであった場合、英国からの牛肉の輸出解禁に関して加盟国との議論が、2005年の第4四半期にも開始されると見込まれている。


(3)長期的(2009〜14年)展望

 そのときの技術と新しい科学的知見に基づき、対策の修正を実施

 BSEの撲滅が前進した場合、短・中期的に実施された対策の緩和などを考慮して、さらなる対策の緩和を検討することになる。生体でのBSE検査が有効になれば、将来的にBSE患畜の追跡やとうたが可能となり、またそのために要する時間を短縮できる。

ア 監視

 長期的には、以下のシナリオを想定している。

・BSE撲滅に前進が見られる場合、限られた情報しかない年に生まれた牛、または同時出生牛に重点化する監視頭数の段階的削減を継続的に行うことになる。

・もしBSE患畜が10歳以上、すなわち2002年1月1日より前に生まれた牛のみから発見される場合、これらの牛を永久に食料・飼料チェーンから排除し、これらの牛には、と畜または死亡時にとうたするための援助資金を供給することとなる可能性がある。監視による最終的な対策は、臨床症状で疑いのある牛の検査(受動的監視)を減らし、OIE勧告に基づいた管理対策とすることである。

・生体でのBSE検査が実施可能となれば、一定の月齢での実施となる。

イ SRM

 もし、BSE患畜が一定の月齢を下回るものからは発見されなかったり、目標とした罹患率を下回るまで減少した場合、その月齢からはSRMを除去しなくても良いこととなる可能性がある。この代案として、特定の月齢の牛の神経組織(脳、脊髄)を恒久的に最小限のSRMとすることについて検討されることになる。

ウ 群の認証

  すべての牛について、生体でのBSE検査が可能となれば、その群のBSEに関するステータスの認証は、結核やブルセラ症の場合と同じく、農場認証と一致して導入することができることとなる。

(4)BSE撲滅が前進しなかった場合の対応策

 これまでのBSE検査結果から、BSEが将来増加することはありそうにないと考えられる。しかしながら、もし撲滅の傾向が特定の加盟国で確認されない場合には、ほかの加盟国に比べSRM除去をさらに厳しく実施し、最終的には、一時的な輸出禁止が検討されることになる。

 

5 おわりに

 EUにおいては、2000年末のBSE問題の再燃により、2001年の1人当たりの牛肉の消費量は前年の19.1キログラムから17.9キログラムにまで落ち込んだが、2003年には、同20.0キログラム(ZMP「Vieh und Lleisch 2004」推測値)まで回復しており、これは、第1次クライシスの前年である95年の20.2キログラムと比較しても遜色がないものである。このように、BSEに対する消費者の反応は一時のパニック的なものから冷静なものとなっており、これは、これまでの科学的知見の集積やリスク分析に基づいて、数々の対策を実施した結果と考えられる。

 欧州委員会は、TSE規則の次の目標として、過去10年間にわたるTSE対策の実施による高い食品安全の水準を維持しながら、対策の緩和を実施していくこととしている。この対策の緩和は、これまでの科学的知見の集積や技術の発展を反映したものであるが、欧州理事会およびさまざまな意見を持つ人々の代表である欧州議会と議論し定められることとなる。

 今後、新しいBSE対策がEUの消費者をはじめ、関連産業や農家にさらなる前向きな影響を与えることを期待するとともに、BSEを最も早く経験したEUがどのような対策を講じていくのか引き続き注目していきたい。

(参考資料)
・欧州委員会「The TSE Roadmap」
・欧州委員会「REPORT ON THE MONITORING AND TESTING OF RUMINANTS FOR THE PRESENCE OF TRANSMISSIBLE SPONGIFORM ENCEPHALOPATHY (TSE) IN THE EU IN 2004」
・規則EC/999/2001
・欧州委員会ホームページ ・OIE資料 (参考)EUにおける特定危険部位(SRM)の変遷(2000年10月以降)

(参考)EUにおける特定危険部位(SRM)の変遷(2000年10月以降)



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