アルゼンチンにおける体細胞クローン牛の生産


ひとくちMemo

 97年2月の英国ロスリン研究所における体細胞クローン羊「ドリー」の誕生をきっかけに、98年7月にわが国では近畿大学農学部のチームが体細胞クローン牛「のと」、「かが」の誕生に成功するなど、世界中で体細胞クローン家畜に関する技術開発が進められているところである。

 アルゼンチンの民間企業であるゴヤイケ社は、米国バイテク企業の買収をきっかけに2004年2月に体細胞クローン牛の誕生に成功している。同社は体細胞クローン牛に関する技術を向上させ、現在では体細胞クローン牛の生産を請け負っている。ゴヤイケ社の体細胞クローン牛に関する部門には7名のスタッフがおり、これまで50頭(2006年10月現在)の体細胞クローン牛を生産している。

 なおアルゼンチンでは、 2002年8月にビオシドゥス研究所がヒト成長ホルモンを組み込んだ牛「パンパ」の誕生にも成功している。


(胚検査室と核移植室)
 体細胞から取り出した核を移植するための未受精卵は、食肉処理場から採取している。このうち状態の良い未受精卵を胚検査室で選別し、核移植室で核を未受精卵に移植する。現在では平均すると、15〜20頭の雌牛に胚を移植し、そのうち1頭の子牛が60日齢を超えて生存するということである(これはわが国の研究機関の生存率と同程度である)。このように体細胞クローン牛の生産には多くの雌牛を必要とすることから、広大な土地をもち、多くの牛を飼養するアルゼンチンは有利な立場にあると考えられる。

   

(分娩舎と出産検査室)
 分娩が近づいた雌牛は分娩舎に入り、分娩間近になると出産検査室で検査が行われる。体細胞クローン牛の生産を始めた2004年当初は、分娩間近になった雌牛を出産検査室で切開することにより出産させていた。しかしながら現在は、自然分娩と切開分娩の割合は半々である。


(育成室)
 出産直後の子牛の様子や血液成分の検査を実施し、子牛の状態を判断している。子牛に異常が見られない場合、母牛と一緒に分娩舎に戻す。母乳が飲めない、体温が上がらないなどの異常が見られた場合、育成室で1頭ごとに管理される。育成室にはエアコン、酸素吸入器が取り付けられている。現在、誕生した子牛のうち約4割が育成室で管理され、うち半数は死亡しているものの、育成室での管理は子牛の生存率の向上に寄与している。

 

(親子放牧)
 子牛は通常、分娩舎で10日間過ごした後、親子放牧される。調査当日はヘレフォード種およびアンガス種の体細胞クローン牛が親子放牧されていた。子牛は60日齢に達すると、DNA鑑定書を付けて、親子とも依頼先に移送される。
 同社は体細胞クローン牛の生産を1頭につき1万米ドル(117万円:1ドル=117円)で請け負っている(15〜20頭の雌牛に胚を移植し、そのうち1頭の子牛が生存することを条件にした価格であり、無事多くの子牛が生存した場合は1頭当たりの価格を割引くこともある)。このため主に、優良な精子や卵細胞を得ることを目的とした高能力牛の体細胞クローンの生産を依頼されている。


ブエノスアイレス駐在員事務所 松本 隆志、横打 友恵


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