規模拡大により低コストを追及する酪農経営体


◇絵でみる需給動向◇


● ● ● 西部、南西部を中心に酪農経営の大規模化が進展 ● ● ●

 米国農務省経済調査局(USDA/ERS)は、9月に92、97、2002年に実施した調査結果を基に、酪農家の収益、コスト、構造変化についての報告書を公表した。これによると、2006年の酪農経営体は7万5千戸と2000年に比べて約3万戸も減少している。規模別に見ると小規模層ほど減少傾向が著しく、全体のおよそ50%を占める飼養頭数1−49頭の経営体は3万5千戸となった。その一方で、全体のわずか2%を占める1,000頭以上の大規模経営体は、2000年から48.0%の伸びとなる1,443戸に増加し、大規模経営体の拡大がうかがえる。

 また、同報告書によると、このような大規模経営は全米最大の生乳生産量を持つカリフォルニア州に集中しており、同州を含む西部の新興生産地域では500頭以上の経営体による生産量の州全体に占める割合は84.2%に及ぶとされる。また、アリゾナ、ニューメキシコ州を含む南西部でも同87.3%となっている。これに対し、伝統的な酪農地帯とされる東北部(ニューヨーク州を含む)での500頭以上の経営体による生産量の州全体に占める割合は21.3%、中西部(ウィスコンシン州を含む)においては15.6%にとどまっている。

規模別、酪農経営体戸数


● ● ● 大規模農家拡大の背景 ● ● ●

 大規模経営体が増加している理由として、同報告書は、大規模経営体の生産費が小規模層に比べて低いことを最大の要因として挙げている。中でも、生産費のうち約30〜55%と高い割合を占める飼料費(購入飼料、自家飼料、牧草)の負担が、経営体が拡大するほど小さいとされている。大規模経営体(999頭以上)の飼料費が100ポンドの生乳生産量当たり9.74ドル(1キログラム当たり25円:1ドル=117円)であるのに対し、小規模(1−49頭)では同12.3ドル(同32円)と、大規模経営体の方がおよそ20%も割安となっている。また、大規模経営体も、小規模層と同様に家族経営は多いが、メキシコや中南米からの外部労働者を雇用しており、小規模層に比べて、経営者およびその家族による労働負担や拘束時間が少ないため、全体の間接経費も同3.85ドル(同10円)と小規模層よりかなりの程度低くなっている。このようなことから、一般的に大規模経営体の方が、家族による労働負担や資本回収費が少なく、生産費の合計を上回る収益を上げているとされる。

 一方、減少傾向にある小規模層でも、収益を上げている経営体は存在する。さらに、最近の米国における有機畜産物の需要の高まりを受け、小規模ながらも(同報告書の中の慣行的生産を行う小規模層には含まれない)有機生産に特化している経営体もあり、このような有機生産は、慣行的な生産に比べて飼料費が割高になるが収益性も高いことが挙げられる。

規模別生産費(2005年)


● ● ● 今後の見通し ● ● ●

 このように、経営規模拡大に伴い生産費が低くなるという結果から、今後も酪農経営体の規模拡大は継続していくことが予測されている。

 一方、米国環境保護庁(EPA)が畜産経営体に対する環境規制の強化を進める中、大規模経営体は、(1)小規模層に比べて面積当たりの飼養頭数の密度が高く、環境汚染・公衆衛生へのリスクが高いこと、(2)大規模経営体(特に伝統的な酪農地帯に比べて、購入飼料の割合の高い西部の新興生産地域)においては家畜排せつ物を肥料として還元する農地が十分にないこと、(3)大規模経営体では導入が始まっている家畜排せつ物処理のための技術(排水の浄化処理、メタンガス化など)の普及がまだ十分でないこと−など、取り組むべき重要な課題も存在している。


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