LIPC WEEKLY


95年の十大ニュース−欧州−


【ブラッセル駐在員事務所】 釘田 博文、東郷 行雄



1.95年7月からUR合意を実施

 UR合意に基づき、輸入については、輸入課徴金の廃止と関税化、現行・ミニマム

アクセスの設定、輸出については、輸出補助金の対象数量および支出金額の削減が実

施に移され、輸出入管理ルールについても、多くの見直しが行われた。特に、輸出補

助金の削減は、2000年に向けて、EU農業のみならず、世界の農産物貿易に大き

な影響を及ぼすとみられている。



2.最終年を迎えたCAP改革

 92年に合意されたCAP(共通農業政策)改革は、93年から3年間にわたる段

階的な「価格支持措置の引き下げ」と「直接所得補償の拡充」を主な内容とするもの

で、95年はその最終年に当たっている。多くの改革が実施された牛肉部門では、介

入在庫がほぼ一掃されたほか、大幅に拡充された各種奨励金は肉用牛農家の所得の大

きな部分を占めるようになっている。



3.輸出補助金を相次いで大幅カット

 UR合意の実施に伴う輸出補助金削減義務の履行と併せて、多くの農産物について、

域内在庫の減少、市場の堅調・ひっ迫などの要因が重なったことから、それらの輸出

補助金が、数回に

わたり大幅に引き下げられた。最も極端な例は穀物で、輸出補助金が停止されたばか

りでなく、12月には小麦に対する輸出課税の導入が決まった。畜産物も軒並み大幅

に引き下げられたが、今後市場が軟化した場合の対応がどうなるのかが、特に注目さ

れる。



4.乳製品市場は活況だが、将来は影

 95年の世界の乳製品市場は、豪州、NZの供給力低下を背景に、EUに非常に有

利な輸出機会を提供した。日本の脱脂粉乳輸入についても、EUがその大半を供給し

たほか、輸出価格も堅調に推移した。しかし、EUは、生産量の1割が過剰、生産量

の4分の1を補助金に依存、という構造的問題を依然として抱えており、今後の世界

市場における競争力の維持には、大きな懸念がもたれている。



5.豚肉の民間在庫補助は2回実施

豚肉に対する民間在庫補助が、95年2月と11月に実施された(おのおの約7万

トン)。前者は、UR合意実施を控えた域内市場の調整、後者は、日本の豚肉輸入セ

ーフガード措置の発動への対応を目的としたものである。日本の豚肉輸入の大きな変

動は、主要輸出国であるデンマークだけでなく、EU豚肉市場全体に連鎖反応的な影

響を及ぼすことから、関係者の日本への関心は高まっている。



6.中・東欧諸国のEU加盟問題論議開始

 注目されていた「中・東欧諸国のEU加盟に向けた戦略ペーパー」が11月農相理

事会に提出された。次のEU拡大が現実のものとなるのは2000年以降と言われる

が、その場合には農業問題が大きな論点となることは確実である。また、当面の焦点

である、92年CAP改革後の政策方向や今後深化してくるUR合意実施の影響への

対応についての検討、さらには次期ラウンド交渉への備えという点でも、中・東欧諸

国のEU加盟問題は今後のEUの最大のテーマとなるだろう。



7.動物愛護は依然として優先的課題

 6月農相理事会において、数年来の懸案であった家畜輸送に関する規則の強化問題

が決着した。域内外の生きた家畜の移動にかなりの影響を与えるとみられている。動

物愛護に関連した問題としては、ほかにも子牛のクレーツ(木枠)禁止など多くの問

題が取り上げられており、一般消費者の関心も高いことから、引き続きEU畜産政策

の中で配慮せざるを得ない優先課題の1つとなるだろう。



8.解決迫られる牛肉ホルモン問題

 牛肉ホルモンの違法使用問題は、2月のベルギーにおける獣医師暗殺事件を契機に、

クローズアップされた。一方、米国は、ホルモン使用牛肉の輸入禁止措置撤廃を強く

求めており、WTOの紛争処理に訴える構えも見せている。EUは、11月末に開催

したホルモン等に関する科学会議の成果を基に決着を目指すこととなるが、消費者団

体などの反対は極めて強く、苦しい選択を迫られそうだ。



9.BSE問題、牛肉消費にも悪影響

 イギリスにおける牛スポンジ様脳症(BSE)の発生件数は大幅に減少しているが、

その撲滅にはなお数年を要するとみられている。BSE問題は昨年ドイツで政治問題

化し、依然として消費者からの牛肉不信の大きな原因となっているが、最近イギリス

でも、当局の再三の安全宣言にもかかわらず、再びBSEと人の病気との関連が大き

な話題となっており、牛肉消費減少の加速が懸念されている。



10.激動続くイギリス酪農・乳業界

 イギリスの生乳流通自由化(94年11月)から1年経過した。これを契機に、同

国内では生乳流通・価格のみならず、酪農・乳業構造、乳製品販売戦略などにも、ダ

イナミックな変化が起きている。国内生乳の5割以上を集荷販売するミルクマークの

生乳販売方式には、依然として乳業者側から強い批判がある一方、激しい生乳獲得競

争も行われており、酪農・乳業界の変動は当分続きそうだ。


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