LIPC WEEKLY

米・EU間の牛肉貿易問題、WTO裁定へ


    

【デンバー駐在員 堀口 明 5月23日発】 EUとの農業問題を話し合うた

め、5月初旬にウイーンを訪問した米国のグリックマン農務長官は、農業関係諸

問題についてEU側と話し合いを行った。懸案の牛肉貿易問題については進展が

得られず、米国は、世界貿易機関(WTO)にパネル設置を要請し、これが認め

られた。



 EUは、89年以来、成長ホルモンを投与された牛から生産された米国産牛肉

の輸入を禁止しており、両国間で長年にわたり、この問題の解決に向けての交渉

が行われてきた。しかし、当事国間の交渉による問題解決が不調に終わった米国

は、WTOを通じて問題解決を図ることを決断し、今年1月、EUに対して協議

実施要請を行い、3月には、ジュネーブで協議が行われた。しかしながら、この

協議でも問題解決には至らなかった。



米国は、WTOにおける紛争解決への次の段階として、5月8日に紛争調停機構

(DSB)にパネル(専門委員会)設置の要請を行ったが、この時はEUの反対

により実現しなかった。しかし、WTOの規定では、同一問題について2度のパ

ネル設置要請があれば、これを阻止することはできないものとされており、5月

20日に米国側から再度のパネル設置の要求があったことから、同日付けでパネ

ルの設置が承認されることとなった。               



  設置されたパネルは、今年末頃までに報告書を提出するとみられており、報告

の内容によっては、今後の牛肉貿易に大きな影響があるものと思われる。



  米国は、パネル設置が承認されたことを、5月20日にグリックマン農務長官

とバーシェフスキー通商代表代理との共同声明の形で発表した。この中で、通商

代表部のバーシェフスキー通商代表代理は、「ホルモン投与牛肉の輸入禁止を定

めたEU指令は、正当性を欠くものであり、設置されたパネルにより、同指令が

WTO規定に違反するものであるとの報告がされるものと信じている」と述べ、

米国の主張が認められることへの自信を表明した。グリックマン農務長官もまた、

「適切なホルモン投与は、牛の健康にも人体にも何ら悪影響を与えるものではな

い」とし、「EUの科学者グループでさえ、これらが適切に使用されれば問題は

ないとしている」と米国の主張が認められることへの期待を表明した。



  米国の肉牛関係団体もまた、EUへの輸出が解禁となれば、供給過剰や飼料価

格の高騰により苦しい状況にある肉牛生産者には、大きな福音となると考えてお

り、WTOによる裁定結果に期待している。なお、同団体は、EUの輸入禁止措

置により、米国の肉牛産業は、年間2億ドルの損失を被っているとしている。


元のページに戻る