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豪州、飲用乳価格支持撤廃に大きく前進



【シドニー 藤島 博康 7月15日発】各州政府によって管理運営されている飲用乳
の価格支持制度に関して、ビクトリア(VIC)州政府の対応方針が14日、明ら
かになった。現行の価格支持制度については、この執行機関であるVIC州酪農庁
(VDIA)ともども2000年6月末をもって廃止し、乳製品の食品安全性に関
して責任を負う機関を新たに設立する。

 豪州の飲用乳価格支持制度は、牛乳の安定供給を目的に、飲用向け生乳生産者価
格を州政府が設定することなどを柱とする。加工原料向け生乳に関しては、国内向
け牛乳乳製品に課す賦課金を原資に、これを加工原料乳生産者に再配分する国内市
場支持支払制度(DMS)が連邦政府により実施されているが、2000年6月3
0日に廃止されることが既に決定されている。

 VIC州政府は「規制緩和によって、VIC州酪農乳業の産業としての競争力を
高めるとともに、より低価格での牛乳販売が可能になる」とし、消費者への利益を
訴えている。

 現在、豪州連邦政府は公共への利益を尺度に各種の規制緩和を推進しており、農
業分野では、豪州小麦ボードによる小麦の独占的販売などとならび、飲用乳価格支
持が重要な焦点の1つとなっていた。ニューサウスウェールズ(NSW)、クイン
ズランド(QLD)、ウェスタンオーストラリアの各州政府は、既に制度存続を答
申していたが、今回のVIC州の正式な意思表示により、再検討を迫られることに
なる。

 VIC州の生乳生産は豪州全体の63%に上り、その約7割が輸出向けの乳製品
として加工される。飲用向け処理量はわずかに8%にすぎず、NSW州の46%や
QLD州の47%と比較した場合には、規制緩和による影響ははるかに小さい。ま
た、酪農適地であるVIC州の生乳生産コストが他州よりも一般に低いことから、
需給構造上、他州はVIC州に追従せざるを得ない。

 今回の政府発表に当たり、VIC州を集乳基盤とする飲用乳メーカーは、価格競
争力の向上から、市場シェア拡大の機会到来と歓迎している。これに対しNSW州
やQLD州を基盤とする飲用乳メーカーは、乳価の大幅低下により大量の酪農家が
廃業する一方で、消費者購入価格は変わらず、規制緩和による利益は流通や小売部
門で搾取されるとし、否定的な見解を示している。

 現在の生乳価格支持制度を廃止することによって、需給構造が短期的に一変する
との見方は少ない。しかしながら、飲用乳メーカーを中心とした乳業再編は、これ
まで以上に加速されると予想される。

 偶然にも14日、ニュージーランド(NZ)では、法律に基づくNZ・デイリー
・ボードの一元輸出管理を実質的に引き継ぐ民営単一組識を認める法案が議会に提
出された。現在の酪農協の合併を認め、集乳ベースでほぼNZ全土を掌握する単一
乳業組識による一元輸出を目指す。豪州乳業界からは、国際競争力向上という観点
からこれをうらやむ声も出ている。一方で、外資乳業のNZへの進出規制も緩和さ
れるとみられることから、今後はタスマン海を挟んだ乳業再編が見られる可能性も
出てきた。


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