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EUの動物愛護への対応を準備するタイの鶏肉業界



【シンガポール駐在員 伊藤 憲一 5月13日発】近々、EUで動物愛護を目的
とした採卵鶏に関する規則が制定されるのに伴い、タイの鶏肉業界では、同規則が
養鶏全般に及ぶことを想定し、EUマーケットの確保のために変更の準備に着手し
ている。しかし、これに伴う生産コストはかなり上昇するとしている。

 EUでは、間もなく、動物愛護を目的とした採卵鶏に関する基準強化の規則(以
下「規則」という。)が制定されようとしている。生産者などが家畜などを飼養す
るに当たっては、ケージなどに詰めすぎたり、危険な状況下およびストレスが発生
する環境下においてはならないとしている。

 タイの鶏肉輸出業者は、今回の規制強化が養鶏全般に及ぶことが想定されること
から、冷凍鶏肉の輸入に適用されるとしている規則の制定などを含めた正確な情報
の把握に努めている。この規則に基づき鶏肉などを生産することとなった場合、生
産コストの上昇を招き経営がますます苦しいものになるとして、一部の業者ではE
Uによる貿易障壁と非難している。

 しかし、タイは、EUへの冷凍鶏肉および鶏肉調製品の輸出量が96年は2万6
千トン、97年は4万7千トン、98年には7万7千トンと年々拡大し日本に次ぐ
重要な市場であるため、規則通りに鶏の飼養などを行わざるを得ない状況になって
いる。

 一方、規則の制定を支援しているイギリスでは、79年に同国政府によって設立
された動物愛護協会が、次の内容を主とする養鶏に関する愛護規則を98年8月に
制定し、EUに先駆けてスタートさせている。@十分な餌と水を与えること、A鶏
をケージに詰めすぎないこと、B危害、危険および感染の影響を受けないようにす
ること、C適正な飼養方法により給餌すること、D恐怖と苦痛の経験をさせないこ
となどとなっているが、さらに別途詳細な規定も定めている。

 先般、事前に同国政府がタイの輸出用養鶏および処理管理システムを調査するた
め、担当官を派遣し生産現場および鶏肉処理加工場などを検査したところ、同加工
場の多くは、動物愛護ガイドラインに沿った生産工程に変更したにもかかわらず不
十分であるとして、検査には合格しなかった。

 今回の規則強化では、自然のままに飼育を行うことに焦点が置かれている。採卵
鶏に関しては、照度の低下が鶏のホルモンバランスに影響し、また、飼料の多給で
過肥に陥るとともに産卵率が低下するとし、改善しなければ最終的には生産コスト
の増加につながるとしている。また、飼養スペースについては、1u当たりの生体
鶏重量の合計が25sを限度としている。

 このため、タイでは、かなり多くの点を改善しなければならないとしているが、
飼養スペースについては、生産農家にとって生産規模の縮小もしくは追加の設備投
資を要し、経営の悪化の大きな要因になるとみている。

 タイ輸出用養鶏生産者協会会長は、タイの大手鶏肉輸出業者であるチャロン・ポ
カパン(CP)などのように、最近減少しているEUマーケットへの輸出量のさら
なる減少を回避するため、養鶏施設、飼養方法、運搬ケージなどを改善するととも
に、従業員にもこれを徹底させるための研修などを行い、新しい飼養システムの採
用に取り組んでいるところもあるが、業界全体で対応が可能となるよう早急に準備
を進めるとしている。


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