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家畜の個体識別に電子標識の採用を決定(豪州)



【シドニー駐在員 野村 俊夫 11月25日発】豪州の食肉安全性を管理するセ
ーフミートは、11月17日、来年から本格的に開始される全国家畜個体識別制度
(NLIS)で使用する標準個体識別装置として、電子標識を採用すると発表した。

 ビクトリア(VIC)州では、既に、今年7月から、同州政府の協力の下で1百
万個の電子標識(耳標)が無料配布され、個体識別装置としての有効性がテストさ
れていたが、今回は、その成果を踏まえて正式に全国レベルでの採用が決定された。

 この間、電子標識のほか、バーコード標識の採用なども検討されたが、電子標識
は、コストがやや高いというデメリットがある反面、他の装置に比べてデータの認
識・処理の自動化が容易であることや、誤認の可能性が低い点などが高く評価され
たとしている。

 電子標識は、牛の場合、耳標として装着するか、または第一胃の内部に据え置か
れ、そのデータの読み取りにはハンディタイプまたは固定式の専用機器が使用され
ることになる。

 NLISでは、この電子標識に、牛の出生から飼養管理、流通販売、と畜処理に
至るまでの多くのデータが記録される。これらのデータは、豪州食肉家畜生産者事
業団(MLA)によって集中的に管理され、牛肉の安全性が監視される。また、牛
肉の品質に関するデータを生産者にフィードバックすることにより、牛肉の品質改
善にも貢献すると期待されている。

 NILSは、世界的な規模で食品の安全性への関心が高まる中で、これに対処す
るべく推進されているものであるが、現時点では、その参加・不参加は、あくまで
生産者の任意となっている。実際、クイーンズランド州などで一般的に営まれてい
る大規模で粗放的な肉牛生産に、これをそのまま適用することは、極めて困難であ
ると想定される。

 現行の体制の下でも、と畜後の輸出検査で残留薬物などが発見された場合には、
速やかにその生産牧場が特定できることからも分かるように、既に食肉の安全性の
監視は、かなりの程度、達成されていると言える。

 このため、肉牛生産者の間には、コストのかさむ制度を新たに導入することに疑
問を呈する向きも強く、今後、NLISの義務化が具体的に検討される場合には、
かなりの抵抗が出ると予想される。

 なお、豪州検疫検査局(AQIS)は、食肉輸入に厳しい条件を課しているEU
の要求に基づき、EU向け輸出についてのみ、12月1日から、電子標識の装着や、
流通段階における他の牛との隔離を義務付けることとした。しかし、これはあくま
でもEUへの輸出を希望する関係者を対象とした措置であり、任意参加であること
に基本的に変わりはない。

 豪州は、世界の牛肉市場で競合するニュージーランドやカナダなどが相次いで牛
の個体識別制度の具体化を進める中で、この潮流に乗り遅れないように努力してい
ると言えよう。


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