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ひき肉製品の安全性対策をめぐる官民の攻防(米国)



【ワシントン駐在員 渡辺 裕一郎 6月15日発】テキサス州の連邦地方裁判
所は5月25日、同州内にある大手ひき肉製品会社のシュープリーム・ビーフ・プ
ロセッサーズ社が米農務省(USDA)を相手取って起こした訴訟で、USDA
による危害分析重要管理点システム(HACCP)の実施に関する措置を否定す
る判決を下した。

 USDA食品安全検査局(FSIS)は、96年7月に制定されたHACCPに
基づく食肉検査規則により、すべての食肉処理・加工施設に対しHACCPの導
入を義務付け、また、それが病原菌の削減に有効に機能しているかどうかを確認
するため、生肉またはひき肉製品の工場に対しては、サルモネラ菌の削減達成基
準を設けている。具体的には、@一定のサンプル検査により、サルモネラ菌の付
着が認められた場合、当該工場は改善措置を講じ、Aその後の再検査にも適合し
ない場合には、さらなる是正措置をとる必要があり、B最終的に3回の検査もク
リアしなければ、FSISによる食肉検査が中止されるというもので、これは事
実上の工場の操業停止を意味する。

 同社は、この検査を3回ともクリアできず、99年10月、FSISによる食肉検
査の中止が宣告されたことから、その正当性を問うための訴訟を起こしていた。

 連邦地方裁判所による判決の要旨は、「USDAによるサルモネラ菌の検査が、
必ずしも食肉加工場の衛生状況を評価するための唯一の手法であるとは限らず、
連邦食肉検査法においては、食肉検査を中止することができるという権限は、U
SDAには与えられていない」というものである。これについて、パッカーや食
肉加工業者等からなる米国食肉協議会(AMI)をはじめとする業界12団体は、
「HACCPの適合状況を評価するため、微生物学的なサンプル検査を行うこと
自体には賛成だが、USDAによるサルモネラ菌の削減達成基準には欠陥がある
ことが今日の判決で明らかになった」として、現行基準の再考を促す共同声明を
発表した。

 一方、グリックマン農務長官は判決の下された25日、「この間違った判決を覆
すため、あらゆる法的手段を講じるとともに、米国産食品の安全性確保のために
必要な追加的規制を模索していく」と述べ、翌26日には、ホワイトハウスの報道
官も、同様の緊急声明を公表した。

 さらに、FSISは6月13日、同社が本年2月以降に行われた4回目のサルモ
ネラ菌検査においても不合格であったことから、同社に対して、牛ひき肉製品の
製造を自主的に停止するよう求めるとともに、基準に適合させるためのさらなる
改善措置を検討するよう要請したことを明らかにし、米国政府の揺るぎない立場
を改めて強調した。

 なお、同社は、連邦政府が行う学校給食プログラムで用いられる牛ひき肉製品
の約15%を供給しているとされており、6月15日付けの新聞各紙によると、US
DAは、現在ファストフードやスーパーマーケットがパッカーに課しているよう
な病原菌に関する検査を、学校給食用の牛ひき肉製品について導入する構えであ
るとも報じられている。


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