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混乱が続くマレーシアの養豚業界



【シンガポール駐在員 外山 高士 6月22日発】マレーシアでは、98年から99
年に死者約100人を出したウイルス性脳炎の影響により、国内の豚約100万頭が処分
され、養豚産業は壊滅的な打撃を被った。しかし、最近では、豚肉需要の回復から
豚の農家販売価格の上昇などが見られている。国内取引消費者行政省の調査による
と、豚の農家販売価格は、昨年100s当たり460リンギ(約1万2,900円:1リンギ
=約28円)であったものが、今年5月上旬で500リンギ(約1万4,000円)、下旬に
は520リンギ(約1万4,600円)となっている。

 このため、政府は生産者との緊急会合で、価格の高騰について緊急輸入を含めた
対策を行うことを示唆した。しかし、生産者から、供給量に問題はなく、現在の価
格の上昇は季節的な需要の増大によるものであるとの意見が出され、結論として、
需要が通常に戻る7月には価格も低下するとの見通しにより、緊急輸入は当面見送
られることとなった。

 また、ウイルス性脳炎発生時に処分された豚の約7割を占めるヌグリスンビラン
州では、新しく州政府の設置する養豚団地に被害にあった養豚農家を受け入れる準
備を進めるなど、養豚産業復興に向けた動きが見られている。さらに、今般これま
で処分された豚に対する補償金(1頭当たり50リンギ(約1,400円)に、70リンギ
(約1,960円)の上乗せを実施することも決定している。しかし、この上乗せは、
同州で近く実施される国会議員の補欠選挙のためとみられており、同州の6割以上
を占める中華系住民の人気取りとの見方が強いようである。

 このような中、ウイルス性脳炎の初発地であるペラ州では、最近になって養豚農
家1戸、約1,700頭の豚が処分された。これは、政府の定期検査で、ニパウイルス
に陽性と疑われるものが検出されたため、豪州にサンプルを送ったところ、ニパウ
イルスであることが確認されたことによる。処分の対象となった農家は1戸のみ
(今月17日までに全て終了)であるが、政府は、全養豚農家に対して衛生水準を高
レベルに維持することと、政府のマニュアルに沿った飼養方法を採ることを指導し
ている。また、今回の検査で人間からも陽性反応が出たことに対し、政府では、ニ
パウイルスは1回感染すれば、その後の検査で陽性の反応が出ることから、今回の
ものも、前回感染したもので発病の心配はないとしている。

 初回の発生が確認されてから、2年近くがたとうとしているが、同国の養豚業界
はいまだに混乱の中にあるようである。


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