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イギリス、BSEに関する調査報告書を公表


【ブラッセル駐在員 山田 理 10月31日発】イギリスの牛海綿状脳症(BSE)調
査委員会は10月26日、BSEと新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)に
関する調査報告書を公表した。

 同委員会は、98年1月にブレア首相直属の組織として設置され、以来2年半にわた
り、BSEとvCJDの発生経過および96年3月まで実施された政府による対策の妥
当性などについて精査していた。今回公表された報告書は、その結果を取りまとめた
もので、実に4千ページにわたる膨大なものである。その概要は以下のとおり。

(BSEの発生)
 BSEの初発は70年代と思われるが、実際には85年に罹患(りかん)牛が初めて確
認され、翌86年に牛における伝達性海綿状脳症(TSE)として公式に確認された。

(BSEの感染原因)
 BSEの感染原因は、罹患した牛などの飼料としての再利用であり、肉・骨粉の飼
料利用が感染性因子を拡散させた。

(BSEの人への感染リスクの評価・公表)
 BSEなどTSEの特徴の1つに、潜伏期が長いことが挙げられる。このため、BS
Eの人への感染については、長年明確な回答が得られなかった。農漁業食料省(MAF
F)は、87年末にBSEの兆候を示す牛の殺処分について検討を始めていたが、この段
階で、保健省(DH)との共同での検討は要請していない。88年8月、BSE罹患牛の
殺処分が開始されたが、MAFFとDHとの連携が密であれば、その措置の開始が数ヵ
月早まった可能性がある。
  
 88年3月、DHの下で専門家による検討チームが組織され、翌89年2月、BSEが人
に感染する危険性は非常に小さいとする報告をまとめた。当時、BSEは羊および山羊
のTSEであるスクレイピーに由来するものと考えられており、200年以上にわたってス
クレイピーが人に感染していないことがこの報告の根拠となった。

 しかし、その後の研究結果などから、BSEはスクレイピーとほぼ同様であるとした
説が疑わしいものになったが、一般には公表されなかった。当時の政府は、牛肉の摂食
は安全であるとの見解を繰り返したが、96年3月、vCJDの感染ルートとしてBSE
に罹患した牛の肉などの摂取が考えられるとの見解が公表されるに至った。

(BSE撲滅の対策)
 88年7月、反すう動物由来のたんぱく質を反すう動物の飼料に使用することが禁止さ
れた。その結果、BSEの感染は減少したものの、完全に終息したわけではなかった。
製造段階でほかの畜種向けの飼料が混入したことが原因とみられる。90年9月には、B
SE感染の原因となる危険性の高い牛の内臓など(SBO)を含む肉・骨粉を、豚およ
び鶏向け飼料に使用することが禁止された。しかし、SBOの定義が不完全であったた
め、製造段階での飼料混入問題は解決しなかった。その後、SBOに関する規定が強化
され、96年3月には、動物由来のタンパク質を飼料として使用することが禁止されてい
る。

 この報告書を受けて、ブラウン農漁食料相は同日、BSEなどの問題に対する前政権
の対を批判するとともに、vCJDによる死亡者の遺族や患者などに対する賠償などの
ため、基金を創設することを明らかにしている。


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