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米国市場を安定的な輸出先とするメキシコ産生体牛



【ワシントン駐在員 渡辺 裕一郎 5月23日発】メキシコにとって、米国は最
大の生体牛輸出市場である。その輸出頭数は、99年の約96万頭から、2000年にはカ
ナダを抜いて約122万頭にまで増加しており、メキシコは、米国における生体牛の
最大の供給国ともなっている。

 先ごろ米農務省(USDA)が公表したレポートによれば、メキシコ産生体牛の
対米輸出の大半は、肥育素牛として輸出されており、メキシコにおける総飼養頭数
の3〜5%、また、99年における全米の500ポンド(約225kg)未満の子牛飼養頭数
の約5%をそれぞれ占めている。一方、メキシコは、経済の回復に伴う消費の伸び
などから、97年以降、日本に次ぐ米国産牛肉の輸入国ともなっており、2000年の輸
入量は約18万トンに上っている。単純化するならば、メキシコで生産された肥育素
牛の一部が、国内で肥育される代わりに、国境を越えて米国で肥育され、年間その
約6割相当が牛肉としてメキシコに戻ってくるという需給構造にあると言っていい。

 こうした動きを後押しした要因の1つとしては、北米自由貿易協定(NAFTA)
に基づき、生体牛、牛肉ともに関税が相互に撤廃されたことが考えられるが(注:
昨年4月以降、メキシコ政府は、米国産輸入牛肉に対してダンピング防止税を賦課)、
対米輸出に関しては、メキシコの経済情勢や干ばつなどの気象状況、さらには、両
国の生体牛市況とも密接に関係しているとレポートは指摘している。

 通貨ペソの下落に加えて、深刻な干ばつに見舞われた95年においては、草資源の
不足から、子牛の早期出荷と繁殖雌牛の売却が増加したため、対米輸出頭数は、過
去最大の約165万頭を記録したが、翌年は子牛生産頭数が減少したため、約46万頭
にまで激減している。

 また、USDAの動植物検査局(APHIS)の分析によれば、生体牛の価格が
メキシコ国内よりも米国内の方が高い場合、輸出頭数が増加する傾向にあるとして
いる。メキシコの生産者は、米国のチェックオフ・プログラム(牛肉の消費拡大事
業)のために1頭当たり1ドルの賦課金を支払う必要があるが、一般的には、こう
した負担をしてまでも、米国市場の方が経済的な魅力があるとされている。

 季節的な変動もある。米国では、草資源の豊富な放牧地を求めて、子牛は全米各
地を移動する。これと同様のことがメキシコにも当てはまり、子牛は、夏場にメキ
シコ国内で放牧されるため、対米輸出は低調であるが、初霜が降りる時期になると、
米国の大平原地帯の穀物(冬小麦)放牧地などで育成されるため、冬場に輸出が増
加するという傾向にあるという(品種的には、ヘレフォードやアンガス(またはこ
れらの交雑種)に加え、耐暑性に優れたブラーマンとの交雑種(ブランガスなど)
が多いとされる)。

 なお、国境沿いには、10ヵ所の主要な通関手続所があり、APHISによる動物
検疫がNAFTA発効前と同様に行われ、各種検査を終えた牛は、約60フィート
(約18メートル)の薬浴槽をくぐった後、入国が許可される。

 レポートは、過去の例のようにメキシコ経済のサイクルや気象変化などによる影
響はあるものの、将来的にも、米国は、メキシコの生産者にとっての主要な生体牛
市場であり続けるであろうと述べている。


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