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遺伝子組み換え作物の自由化をめぐる綱引き(ブラジル)


【ブエノスアイレス 犬塚 明伸 3月26日発】ブラジルでは、遺伝子組み換え作
物の生産・販売などについては、科学技術・環境・保健等の関係省庁の代表7名と、
バイオテクノロジー技術者8名および消費者団体代表1名を含む民間代表3名から
構成される国家バイオ安全技術委員会(CTNBio)の管理下に置かれている。

 農務省は、モンサント社の遺伝子組み換え大豆(ラウンドアップ・レディ)は、
環境および人体に負の影響を与えないとの報告を98年9月にCTNBioから受け、
商業的な生産・販売につながる品種登録の受け付けを開始する予定であった。しか
し、消費者保護団体などが連邦地方裁判所に、遺伝子組み換え大豆の生産・販売に
係る差し止め訴訟を起こしたことや、スーパー等で遺伝子組み換え作物を原料とす
る食品がすでに販売されているとの告発が相次いだことにより、同省の品種登録開
始は延期されていた。その後、関係省庁が生産・販売を認めることを合意したため、
品種登録は翌99年5月から受付が開始されることとなった。

 しかしながら、消費者保護団体などの訴訟が繰り返され、連邦地方裁判所は2001
年3月に、遺伝子組み換え大豆の生産・販売を禁じるとともに、環境および人体へ
の安全評価指針の提出と表示義務規則の策定を政府側に求める仮処分を下した。こ
のため、CTNBioと国家衛生監督庁はそれぞれ「環境に対する安全評価指針」、
「人体に対する安全評価指針」を連邦地方裁判所に提出するとともに、政府は遺伝
子組み換え作物を4%以上含む食品に対する表示を義務付けた法令第3871号を同年
7月18日に公布した。これらの措置を講じたことにより、輸出競争力を高めるため
に遺伝子組み換え作物の自由化を目指している政府は、連邦地方裁判所が遺伝子組
み換え大豆の生産・販売を解禁する判決を下すことを期待している。一方、消費者
保護団体などからは、遺伝子組み換え作物が原料として含まれているものすべてが、
遺伝子組み換え食品であり、4%の数字に係わらず表示義務をすべきであると反論
している。

 今年1月に入りカルドーゾ大統領は、環境法・衛生法・消費者保護法に基づいた
消費者保護団体などからの反対で自由化が進まない状況を踏まえ、遺伝子組み換え
作物に係る法律面での対外発表は全て連邦総弁護庁が一元的に取り扱うこととし、
各省の発言を禁止した。

 また、3月12日、下院の遺伝子組み換えに係る特別委員会は、CTNBioが遺
伝子組み換え作物に関して、@環境および人体に対する最終安全評価を実施する、
A環境に対する影響の事前調査を免除する権限を有する、B生産・販売に対す許認
可権を有する、C試験計画と試験場の検査を所管することなどから成る遺伝子組み
換え作物の作付けおよび販売法案を承認した。しかし、遺伝子組み換え作物に対す
る権限が過度に集中しているとして、消費者保護団体などからは問題視する声があ
がっている。また下院および上院での同法案の審議・可決、併せて連邦地方裁判所
の遺伝子組み換え大豆の生産・販売を解禁する判決が必要となることも踏まえれば、
自由化までの紆余曲折はまだまだ続きそうである。



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