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食肉パッカーによる家畜所有の是非が争点に(米国)


【ワシントン駐在員 渡辺 裕一郎 1月24日発】米連邦議会では昨年末、次期
農業法案についての年内成立も視野に入れた精力的な議論が続けられたが、結局、
上院本会議での全条項を通じた法案採決に至ることなく越年となり、その帰趨は
1月23日に再開した議会審議に委ねられることとなった。

 その上院本会議に現在上程されている法案(番号S1731)と、下院通過済みの
法案(番号HR2646)には、数多くの相違点が見られるが、なかでも、すでに関係
者の間で物議をかもしており、今後の大きな争点となることが予想されるものの
一つが、食肉処理・加工業者(パッカー)における家畜の所有を禁止するという
条項である。これは、昨年12月13日の上院本会議において、ジョンソン議員(民
主党・サウスダコタ州)ほか7名の超党派議員によって提案され、51対46(棄権
3)という小差で可決されている。

 ジョンソン議員の提案理由説明によれば、現行の「パッカー・ストックヤード
法」には明らかな欠陥があり、近年、パッカーの寡占化が進展する中で、パッカ
ー自らの家畜の所有によって、生産者の競争力が弱められ、不当に低い家畜の価
格設定が許容されているとしている。このため、同法に「と畜の15日以上前から
家畜(家きんは含まれない)を所有、飼養または管理しているパッカーを違法と
する」という条文を挿入するというのが、その提案の内容である。ただし、農協
経営のパッカーや、生産者経営のパッカーで全と畜頭数の2%に満たないものは
禁止対象から除外されることが規定され、また、ここで言う「管理」には、パッ
カーと生産者とが交わす先渡し契約(forward contract)や販売合意(market 
ingagreement)は含まれないとの見解もジョンソン議員によって示されている。

 こうした中、米農務省(USDA)穀物検査・食肉流通部(GIPSA)は1
月18日、パッカーによる「とらわれの家畜(captive supply)」に関するレポー
トを公表した。今回、GIPSAは、「とらわれの家畜」を、と畜の15日以上前
から、@パッカーによって所有または飼養されている家畜、A契約や販売合意に
よってパッカーに購入されている家畜、またはBパッカーに預託されている家畜
と定義し、これらに該当する肉牛は、99年では全米4大牛肉パッカー(IBP、
コナグラ、カーギル、ファームランド:この4社で全米の約8割のと畜シェア)
のと畜頭数のうち32.3%を占めていたとする調査結果を明らかにした。この水準
は、ブロイラーや豚に比べると低いが、少なくとも全米の肉牛の4分の1にはす
でにパッカーの息が掛かっているとも言え、前述のジョンソン提案への賛同者を
勢いづかせることになるとの見方もある(上記@がジョンソン提案の定義に一致)。

 ただし、これまでのところ、ファーム・ビューローや、ファーマーズ・ユニオン、
R−CALF USA(肉牛生産者団体)、アイオワ養豚生産者協会などの家族
経営を重視する立場の団体は、本提案への賛意を表明しているが、パッカーが会
員のアメリカ食肉協会(AMI)は当然のこと、全国肉牛生産者・牛肉協会(N
CBA)も、「生産者における販売の自由を制限すべきではない」として、本提
案には反対の立場をとっている。

 次期農業法案は、仮に現在の条文のまま上院を通過したとしても、その後の上
下両院協議会における調整、さらには大統領による署名(あるいは拒否権発動)
というハードルをクリアしなければならず、その成立時期、内容とも、現段階で
は不透明な状況にある。 


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