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鶏肉の品質向上と生産コスト削減が急務


【シンガポール 小林 誠 8月29日発】 マレーシア農業省獣医局は、年明け
に迫ったアセアン自由貿易圏(AFTA)の発効に向け、各地で講演を行い、畜
産物の品質向上と競争力の強化を呼び掛けている。中でも、シンガポール向けを
中心に、すでに輸出実績のある鶏肉については、AFTA発効後、タイ産鶏肉と
の国内外市場における競争が激化するとみられる。同局によれば、国産鶏肉は、
高コスト構造となっており、品質的にもEUへ輸出可能なタイ産鶏肉に劣ってい
るとされており、ニトロフラン(抗菌剤)など同国でも使用が禁止されている薬
剤の不正使用が依然としてなくならないのも問題であるとしている。同国には、
EUの認定を受けた鶏肉処理場はあるものの、飼料の品質の問題から、同国産鶏
肉のEU向け輸出は認められていない。

  マレーシアの畜産は、粗生産額ベースの品目別シェアで見ると鶏肉55.7%、鶏
卵21.1%、豚肉17.4%、牛肉4.8%、生乳0.8%となっており、養鶏、中でも鶏肉
の比重がきわめて大きい。2000年の鶏肉生産量は、約80万3千トンで、このうち約
864万千トンが国内で消費され、15万トン程度が輸出されている。
 
  同国の鶏肉は、アヤマス社、レオン・ハップ社、シンマー社といった大手インテ
グレーターとその契約生産農家によるもののほかに、独立した中小零細農家もあり
、これらの一般農家では需給状況の変動による価格変動に苦しめられている。一般
農家は、流通をミドルマンとよばれる中間業者に押さえられており、実態として市
場への直接販売はできない仕組みとなっている。
 
  一般農家の場合、現状では高コスト構造となっており、新規参入は大手インテグ
レーターの契約農家に限られている。現在、大手インテグレーターは、自社農場の
生産分だけでは需要に対応できなくなっており、契約農家への一部アウトソーシン
グが経営戦略上不可欠となっている。
 
  契約農家の場合、インテグレーターがひな、飼料から動物医薬品に至るまで、す
べての生産資材を代金後払いで提供し、生産物全量を買い上げるため、経営リスク
はほとんどない。各契約農家は、約6週間鶏を飼育し、1.8〜2.2s程度に達したと
ころで、1羽当たり2.7リンギ(約86円:1リンギ=32円)以上の価格でインテグ
レーターへ売り戻すことになる。このとき、インテグレーターは、生産資材のコス
ト分を代金から差し引くが、それでも契約農家は、鶏1羽当たり0.8〜1.2リンギ(
約26〜38円)の純益を上げることができる。
 
  専門家の試算によれば、仮に、8千羽収容できる鶏舎4棟で契約農家を始めた
場合、単純計算だと、1サイクル当たり25,600〜38,400リンギ(約819,200〜
1,228,800円)の純益が上がることになる。しかし、平飼い方式でも鶏舎1棟の建
設には6万〜8万リンギ(約192万〜256万円)程度の費用に加えて、給水施設な
どの付帯施設も必要となり、4棟では少なくとも34万リンギ(約1,088万円)以上
の初期投資が必要となる。
 
  一方、同じ規模で自営の場合、ひなの購入に3.8万リンギ(約121.6万円:1羽当
たり1.2リンギ)、スターター飼料に4.1万リンギ(約131.2万円)、仕上げ飼料に
8万リンギ(約256万円)、動物用医薬品などに1万リンギ(約32万円)程度が必要
となる。労賃を除く総経費は16.9万リンギ(約541万円)であり、鶏1羽当たりの
販売価格がインテグレーターの買い上げ価格水準であれば、1サイクル当たり8.3
万リンギ(約266万円)の赤字が出る計算となる。実際に毎回これだけ大幅な赤字
を計上しているかどうかは明らかではないが、中小零細養鶏農家が赤字経営に苦
しんでいることは、畜産農家協会連合(FLFAM)も認めている。
 
  農業省は、畜産物の品質向上による国際競争力強化をめざし、来年から消費者に
対して品質を保証する保証農家制度への登録を義務付けるが、このことがさらなる
コスト増につながる可能性もあり、今後、FLFAMを中心とした畜産農家がどの
ように対処するか、その推移が注目される。

      
   
   

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