ALIC/WEEKLY


米国のBSEをめぐる豪州の反応(豪州)


  米国において初の牛海綿状脳症(BSE)が発生したことで、日本では今後の供
給のひっ迫見込みを反映し、昨年末から輸入牛肉価格が急騰したことは各種報道の
とおりである。日本政府も年明け早々、豪州とニュージーランドに牛肉需給事情調
査団を派遣し、1月15日に調査結果が公表され、同日、豪州側も豪州大使館と豪州
食肉家畜生産者事業団(MLA)の共同声明を日本で発表した。この調査団の訪豪
に呼応するかのように豪州でも業界と政府がそれぞれ声明を発表したので紹介する。

 
 
業界団体は早期市場安定を切望

  MLA、豪州フィードロット協会(ALFA)、豪州食肉産業協議会(AMIC)
、豪州肉牛協議会(CCA)は1月12日、共同声明を発表した。4団体を代表して
MLAのクロンビー会長は次のように述べた。

@  豪州にとって米国は牛肉の国際市場における競争相手であるが、現下の米国牛
   肉業界に同情
      豪州は、米国の業界と政府がこの問題の対応に努力していることを評価して
   おり、米国において牛肉に対する消費者の信頼を確保することは、米国の生産
   者だけでなく、米国市場に供給する他の国々の生産者にとっても重要である。
  
A  豪州牛肉業界に対する米国のBSEの影響を判断するには時期尚早
     短期的には、一時的な輸入停止措置で日本や韓国からの追加需要があるかも
  しれない。しかし、環太平洋の牛肉市場は複雑に融合しているため、1つの市
  場の混乱はすべての市場に影響を与える。従って、米国のBSEによる貿易中
  断が早期に解決され、市場の安定を速やかに回復することがすべての供給者と
  消費者にとって重要である。
  
B  豪州はBSE清浄国であるが、米国の経験は重要な教訓
   今回の米国の対応ですべての家畜は出生牧場からと畜場まで迅速かつ正確に
  追跡されることの必要性が強調されており、いかなる家畜疾病においてもトレ
  ースバックが確実なシステムを実施することは極めて重要である。
  


政府は対日輸出増に努力を表明

  一方、豪州連邦政府のトラス農相は1月9日、日本の調査団の訪豪に関連し、「
米国産牛肉の対日輸出再開までの間、牛肉の輸出増に最大限の努力をする」と表明
し、次のように述べた。

@ 豪州は米国産牛肉の輸入停止から生じる供給問題を利用するつもりはないが、
  日本は重要な市場であり、日本の消費者が高品質な牛肉を入手する手段を維持
  することは重要であるため、豪州はこの困難な期間に最大限の努力をする。

A 豪州は米国産の不足分すべてを補うことはできないが、日本市場が求める追加
  の輸入量をある程度供給する能力を持っている。

B ただし、日本の牛肉関税緊急措置については、特に2005年における発動の可能
  性を懸念しており、日本政府に対して再考を促していく。(また、ベール貿易
  相も1月8日、中川経産相に牛肉関税緊急措置について即時の撤回と将来的な
  発動基準数量の低下の懸念から本措置の再考を要請する書簡を送付している。)



豪州にとってもカギを握る米国の対応

 豪州は総じて、国際的な牛肉貿易が早期に回復することを望みつつ、日本市場へ
の供給増の可能性を示唆している。ただし、豪州にとって米国は日本と同様に重要
な市場であることは間違いなく、特に米国業界に配慮したコメントが印象的である。
 
 豪州業界内では、米国のBSEのニュースが飛び込んだ以降の数週間でかなりの
利益を上げたとの話も流布されるが、中・長期的には米国の輸出再開の時期がカギ
を握っており、計画的に導入を考える必要のあるフィードロット業界をはじめとす
る関係業者は、今後の見通しに頭を悩ませているのも現状の一面である。

 MLAのバーナード部長は、豪州にとって今回の貿易中断は長期的にはほとんど
追い風にならないとした上で、「豪州は短期的には利益を得るだろうが、真の利益
ではない」と語っており、このコメントに豪州の置かれている立場が如実に表され
ている。




【シドニー駐在員 粂川 俊一 平成16年1月21日発】 
 
 
 

元のページに戻る