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米国の酪農家団体、新農業法に向けた提案を公表


現行事業の継続・改善とあわせ、新たな事業を提案

  米国の酪農家団体である全国生乳生産者協議会(NMPF)は3月6日理事会を開催し、2007年農業法
の制定に向けた包括的な提案を承認した。

  先頃公表された概要によれば、この提案には酪農に特化した政策だけでなく、土壌保全事業や再生可能
燃料の生産振興など、農業法の改正において論点となるポイントが包括的に含まれている。また、酪農部
門については、国際化の進展を意識した事業構成の変更を行うとともに、新たに直接支払いの導入を求め
ていることが大きな特徴である。

  NMPFのコザック会長は、この提案が1年間にわたる意見交換と内部検討を経て、生産地域や規模の
大小を問わずすべての酪農家を支援する観点から作られたものであるとするとともに、現行事業の継続・
改善の提案とあわせて、新たな事業の提案も盛り込んだものであるとしている。


政府による乳製品の市場介入は事業構成を変更しつつ実質的な維持を提案

  商品金融公社(CCC)による乳製品の買い上げを通じ、生乳販売価格を支持価格(現行9.90セント/
ポンド)以上に維持する生乳価格支持事業は、酪農家にとって実際の経済的効果以上に高く評価されてい
る事業である。USDAが2007年農業法提案を公表した際、NMPFはこの事業が継続予定とされている
ことに言及し、提案全体を評価する声明を発出している。

  今回、NMPFは生乳価格支持事業について、政府による乳製品の買い上げという市場介入措置は維持
した上で、価格支持の対象を「生乳」から「特定乳製品」に変更し、乳製品の買い上げ価格を直接定める
制度に変更することを提案している。

  コザック会長は、この変更により、農家レベルでの生乳価格の下落に対するセーフティーネットが強化
されるだけでなく、事業が単純化されて行政負担も軽減できるとしている。


MILCを廃止して生産とリンクしない直接支払いへ

  飲用向け生乳価格を指標とした不足払いである生乳収入損失契約事業(MILC)については、東海岸
北部の飲用乳地域の利益を確保する目的で導入された経緯があることに加え、1戸当たり給付額の上限設
定により大規模経営に不利となっていることから、地域間、経営間でその評価が大きく分かれていた。

  今回の提案では、直接支払いに要する財政支出の水準をMILCに要する経費の範囲内とし、価格と切
り離した支払いとするとしているものの、具体的な直接支払いの給付方法については説明されておらず、
また、1戸当たり給付額の設定の有無についても示されていない。


WTO農業交渉における国内支持の削減にも影響する可能性

  米国における牛乳乳製品の関連補助事業は、生乳価格支持事業だけでWTO協定における米国の産品特
定的国内支持(AMS)実績の約3分の1(約144億ドルのうち約45億ドル(2001年度))を占めており、
2007年農業法における酪農政策の行方が現在進行中のWTO農業交渉における米国の交渉ポジションに与
える影響は大きい。一方、生乳価格支持事業に関する実際の財政負担額はAMSに比べると極めて小さい
ことから、財政赤字の削減に取り組んでいる中で、行政府にとっては「手の付けにくい」政策でもある。

  今回の提案に関し、コザック会長は、「酪農家に可能な限り最良の支援を提供すると同時に、連邦政府
の財源や国際貿易上の制約を踏まえた幅広い事業が求められている。」としているが、主要な農業団体が
昨年秋に次期農業法に対する提案を相次いで公表する中で、これまで団体としての考えをとりまとめてい
なかったNMPFが、行政府による新農業法提案が提出された後のこのタイミングでこのような提案を公
表したことは、非常に興味深い。

  なお、米国の酪農政策の根幹をなす連邦生乳マーケティングオーダー制度については、今回の農業法と
は関係なく継続することが決まっており、NMPFも具体的な提案は行っていない。




【ワシントン駐在員 郷 達也 平成19年3月30日発】


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