政府は農業生産者団体に対する姿勢を軟化(アルゼンチン)
2008/09年度のアルゼンチンの穀物生産量は、降雨不足の影響により前年度に比べ減少する見込みである。
生産量の減少が明らかとなった1月頃から、生産者団体からの大豆の輸出税引下げを始めとした政府に対する要請が強くなり、政府と生産者団体は協議を続けている。
政府は1月、降雨不足による被害が発生していることを踏まえ、
などの対策を発表したが、生産者団体の求める大豆の輸出税引下げは含まれていなかった。このため、生産者団体は、輸出税引下げを協議する会合を求めたものの、政府はこれに応じなかったことから、生産者団体の不満は高まり、2月20日から4日間、道路封鎖を行わずに農畜産物の出荷を停止するスト活動が行われた。
さらに2月27日、現地各紙の一面に「大統領府において、穀物取引の国営化を検討」と報道され、突然の記事に関係者は大いに驚かされた。
以前アルゼンチンでは、国家機関が農畜産物の輸出を独占し、生産者販売価格と輸出価格の差益を経済開発のための資金として活用していた時期があり、昔に戻るのかという憶測もあったが、政府からの関連発表はいまだない。また一方では、価格下落から生産者は大豆を売り控えているため、9百万トンの在庫を抱えていると言われており、この大豆在庫を早急に売却させることにより、輸出税収入(注大豆9百万トンの輸出により得られる納付される輸出税は1,130億円)を得ることが真の狙いとも憶測されている。
注:筆者試算(9百万トン×363米ドル(大豆FOB価格)×35%×98.81円/ドル)
生産者団体との対立を終結したい政府
このように政府と生産者の間の緊張が高まる中、3月3日、両者の会合が開催された。この会合には予告なくフェルナンデス大統領が現れ、政府側の出席者も含め関係者は大いに驚かされた。大統領から新たな提案は無かったものの、大統領の出席は、生産者団体に対する姿勢を軟化する兆しであると、世論からは好意的に受け止められている。また両者はこの会合において、下表の事項について合意に達した。
(合意事項)
牛乳乳製品
○1日3,000リットル以下の経営に1リットル当たり10センターボ(2.7円:1ペソ=27円)の補助○130キログラム以上の乳雄肥育牛を飼養する経営に200ペソ(5,400円)を補助
○乳製品輸出に関する変動輸出税の廃止
牛肉
○肉用牛生産者にとって有効な関係法令の整備
○部分肉流通の促進
○400キログラム以上の肥育牛の生産振興に関する法令の整備
○干ばつの影響から損害を受けた繁殖経営への補助制度創設。繁殖めす牛600頭までの経営に最高1.1万ペソ(29万7千円)を補助
○牛肉輸出について年6万トンの追加枠割当
○第1四半期末までに輸出用牛肉の在庫率を65%に引き下げ
○輸出向け高級部位に対する輸出許可の迅速化
小麦
○国内市場向け製粉工場に対する補助制度見直し
○品質に応じた生産者販売価格が支払われる仕組みの整備
地域経済
○農業情勢が好転した際に、地域産品に対する50%までの輸出税の引下げに係る知事との協議
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また、これまで生産者団体に対する非難を続けていた与党党首のキルチネル前大統領も「会合での生産者団体の対応は適切で責任ある態度であった」とその姿勢を評価している。
政府がこれまでと異なり、生産者団体に対する姿勢を軟化しているのは、生産者団体との対立を早急に終結させるため、政府と生産者団体の農業問題は解決したと世論に印象付ける意図があるものとみられる。一方、生産者団体は「いくつかの事項に合意しただけで、農業問題は解決していない」と述べ、大豆の輸出税引下げを引き続き要請する姿勢を示している。
【松本 隆志 平成21年3月6日発】
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