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米国農務省、政府保管脱脂粉乳の栄養支援対策向け放出を公表

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 ヴィルサック農務長官は3月26日、商品金融公社(CCC)が価格支持のために買い上げた脱脂粉乳を国内の栄養支援対策向けに放出することを公表した。生産者乳価の急落に苦しむ生産者団体は、年明けから議会や政府に対して酪農家への支援の要請を続けており、3月19日にはオバマ大統領に対して現在の苦しい状況を直訴する書簡を発出していた。

2億ポンドの脱脂粉乳を放出へ

 米国農務省(USDA)によると、今回CCCが放出する脱脂粉乳は2億ポンド(約9万1千トン)であり、このほかに、今後、海外向けの支援事業などに向けて250万ポンド(約1,134トン)以上の追加放出を予定している。国内事業向けに放出された脱脂粉乳は、二次加工用または他の食品との等価交換用に食品製造業者に引き渡され、USDAがその代価としてインスタントの脱脂粉乳、超高温殺菌乳、チーズ、スープなどを受け取って、栄養支援対策用に活用することになる。米国では、国民の5人に1人が何らかの栄養支援事業の恩恵を受けており、2008年農業法の審議過程では都市部選出議員の意向を反映して農業予算に占める栄養支援事業の割合が大きく引き上げられるなど、一般国民の関心も高い。

 USDAは、SNAP(いわゆるフードスタンプ事業)をはじめ15種類の国内向け栄養支援対策事業を実施しているが、今回の対策の対象となる事業は、(1)全米学校給食事業(保護者の所得が低い生徒・児童に無料または低価格で給食を供給する事業)、(2)TEFAP(緊急食料援助事業:連邦政府が州政府に食品を供給し、州政府が関係団体を通じて低所得者にこれを供給する事業)、(3)CSFP(主要食品追加支援事業:妊婦、乳幼児、高齢者等の栄養状態改善のために、主要な食品を供給する事業)、(4)FDPIR(インディアン居住区向け食品供給事業:インディアン居住区およびその近隣地域に居住する低所得者層向けに食品を供給する事業)である。また、脱脂粉乳の放出により調達する最終製品の種類は、脂肪分1%の超高温殺菌牛乳、栄養強化無脂肪乳、インスタントの栄養強化スキムミルク、低脂肪チーズ、マカロニチーズ、クリームスープ類とされており、それぞれが上記(1)〜(4)の事業のいずれかに利用される。今回の決定を通じてUSDAが調達した食品は、この春から供給が開始されて2009年末までこれが継続される予定である。

 なお、ヴィルサック農務長官は、今回の決定に際し、「オバマ大統領は、国民に必要な食料を行き渡らせることが、厳しい経済状況を乗り切ろうとしている多くの人々の助けになることを理解している。同時に、USDAの食料供給計画を通じて牛乳乳製品の消費を増加させることで、ここ数カ月間にわたって市場の消失と価格の急落に直面してきた酪農家にとっての利益にもなる。」とするコメントを発表し、今回の決定が酪農家だけではなく景気悪化の影響を受けた貧困層対策としても重要であるとする考えを示している。

生産者団体は今回の措置を評価

 全米生乳生産者協議会(NMPF)は、今回の決定を受けて直ちにヴィルサック農務長官に対する謝意を表明するとともに、USDAが脱脂粉乳の国内向け食料支援事業への使用を拡大する決定を行ったことは世界的な景気減速により苦しむ全米の酪農家と貧困家庭の両者が利益を受ける「双方両得」の代表例であるとして同農務長官に追従している。その一方で、NMPFのコザック会長は、「今回の措置は、不当に安い生乳価格に苦しむ酪農家の経済危機への対応を支援するために、ヴィルサック農務長官が踏み出した第一歩である。政府が対策の実施に時間を要したのは、多角的な方策を実施しようとしているためと理解している。」として、今回の決定で対策が終わりとなることのないようクギを刺している。

 今回の決定に先立ち、NMPFは1月8日にシェーファー前農務長官に対して酪農家の窮状を訴えたのに続き、1月26日には発足直後の新議会とオバマ政府に対して書簡を発出し、酪農家が直面する危機に直ちに対応するよう求めていた。この書簡の中で、NMPFは、牛肉団体が反発していた搾乳牛のとう汰事業については政府の支援を求めず、あくまでも酪農家の自主基金事業として取り組む考えを明示する一方で、政府による支援が必要な事項として、今回決定された栄養支援事業における乳製品の使用の拡大、価格支持対象に小売規格の乳製品を追加するなど柔軟な買入れ対応、米国産乳製品の海外販売の促進に向けた乳製品輸出奨励事業(DEIP)の復活の3点を強く求めていた。

 また、3月19日にはオバマ大統領に宛てて書簡を発出し、乳価がこの1年で約半額に低下したこと、1月の酪農家の生産コストは受取乳代を25%上回っているが、USDAの予測では2月にはこの割合が30%に上昇する見込みであることなど、改めて酪農家の置かれた窮状を訴えている。さらに、この書簡において、NMPFが求めているのは既に制度化されている事業の活用でしかないとして、USDAが酪農家支援への対応に消極的であることを暗示しつつ、価格支持事業をより有効に活用することと、地域を限定した上で短期間のDEIPの再開を認めることだけを要請していた。

脱脂粉乳の放出量は現時点の保管在庫量とほぼ同量

 今回放出される脱脂粉乳は、2008年農業法により改正された乳製品価格支持事業を通じて商品金融公社(CCC)が乳業者から購入したものである。CCCは、乳業者からの要請に応じて法定価格で無制限にこれらの乳製品を買い入れることが義務付けられている。
(畜産の情報:平成20年7月号参照http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2008/jul/gravure2.htm

 昨年秋口以降の乳製品価格の急落により、脱脂粉乳は10月7日からCCCによる価格支持買入れが開始され、現在もこれが継続中である。開始から本年3月25日までの累計買入れ数量は、奇しくも今回のUSDAの放出決定数量をわずかに上回る2億364万ポンド(約9万2,371トン。キャンセル分を除く)であるが、今後も買入数量は増加していく見込みである。これに対し、年明けの1月7日に開始されたバターの価格支持買入れは、2月24日を最後にこの1カ月間は実施されておらず、総買入数量も464万ポンド(約2,104トン)にとどまっている。また、年明けには時間の問題と言われていたチーズの買入れは、結局、実施されないまま現在に至っている。なお、CCCによる今回の乳製品買入れは全てカリフォルニア州で行われており、購入された脱脂粉乳の約8割(バターについては全量)は同州の巨大酪農協であるカリフォルニア・デイリーにより製造されたものである。

 年による変動は大きいが、一般に、米国の生乳価格は、2月から3月にかけて底を迎え、夏から秋口に向けて上昇傾向をたどる傾向が見られる。また、高騰していた乳牛用飼料価格もやや下落傾向に転じるなど、依然として苦しい状況とは言え、多額の負債を抱える一部の酪農家を除けば最悪の時期は脱しつつある。今回の政府の決定により、価格の下押し圧力となっていたCCCの乳製品在庫の処分に一定の道筋がついたことで、乳製品価格やこれにより算定される生産者乳価がどのように変動していくのか、今後の動きが注目される。
【郷 達也 平成21年3月26日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:藤井)
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