企画情報部企画課長 渡部 紀之
最近の牛枝肉価格に関係する諸統計の時系列分析については、EPA法による季 節調製済みの価格動向を「畜産の情報」平成3年6月号で紹介したが、先月号に引 き続き牛部分肉価格の時系列分析を行ったので、その結果を紹介したい。 分析期間は、牛肉の輸入自由化が決定された昭和63年度から直近(平成3年5 月)までの数値を用いた。 枝肉価格の全体的な動向及び牛のと畜動向については6月号を参照していただき たい。 なお、分析に用いた数値は、枝肉価格は東京食肉市場の卸売価格、国産牛部分肉 価格は部分肉流通センターの取引価格、輸入牛肉価格は当事業団調べの仲間相場で ある。 1.連動して動く枝肉価格と部分肉フルセット価格 (図−1.国産牛肉価格の推移、参照) 分析期間(昭和63年4月〜平成3年5月)の去勢和牛、乳用肥育のおす牛の部 分肉フルセットの価格動向は、ほほ牛枝肉卸売価格の動向と同様の傾向を示してい る。 昭和63年4月移行平成元年いっぱいは値上がり傾向で推移し、その後乳用肥育 おす牛のフルセット価格は値下がり傾向が続いている、去勢和牛のフルセット価格 は、平成2年9月まで値上がりした後、値下がり傾向に転じている。 これらの動向を数値的に表すと、牛枝肉(B−3規格)価格と部分肉(「3」規 格)フルセット価格の相関係数は去勢和牛では0.6867であり、乳用肥育おす 牛は0.7488と、若干去勢和牛の数値が低いが、枝肉価格と部分肉フルセット 価格はほぼ同じ値動きをしている。 なお、値動きの関係を昭和63年4月と平成3年5月の価格対比及びその間の価 格ピーク時と対比すると、去勢和牛枝肉価格は、昭和63年4月に比べ3.2%の 値下がりであり、価格ピーク時の平成2年1月からは11.1%の値下がりとあま り大きな値下がりとはなっていない。 一方、去勢和牛部分肉フルセット価格は、昭和63年4月に比べ3.0%の値上 がりとなっており、価格ピーク時の平成2年9月からは6.8%の値下がりとなっ ている。 同様に、乳用肥育おす牛枝肉価格は昭和63年4月に比べ0.3%の値下がり、 ピーク時の平成元年6月からは8.3%の値下がりとなっている。 部分肉フルセット価格は、2.8%の値下がり、ピーク時の平成2年1月からは 8.8%の値下がりとなっている。 なお、枝肉と部分肉フルセットの価格差は、それぞれの枝肉を1とした場合、去 勢和牛部分肉フルセットの価格は1.5352±0.0421、乳用肥育おす牛の 場合は1.5243±0.0265であり、歩留まり、処理経費及び流通経費を考 慮した場合の価格差にはほぼ一致している。 2.部位によって変化の違う部分肉(国産、輸入)価格 (1)較差拡大の高級部位 (図−2.牛部分肉(高級部位)価格の推移、参照) 高級部位については、国産牛肉は「サーロイン」、米国産は冷凍品の「bP80 ストリップロイン」、豪州産は冷蔵及び冷凍品の「ストリップロイン」の価格の動 向を見てゆくこととする。 なお、国産と輸入牛肉では整形(カット)等に違いがある。これらの違いについ ては、「畜産の情報」平成2年6月号を参照していただきたい(以下の部位につい ても同じ)。 昭和63年4月以降の価格動向は、国産牛肉はほぼ一貫して値上がり傾向で推移 し、輸入牛肉は一貫して値下がり傾向で推移している。 直近では、乳用肥育おす牛のサーロインは平成2年7月以降、去勢和牛のサーロ インは平成3年2月以降値下がりに転じている。 平成3年5月の価格水準は、去勢和牛「サーロイン」価格は、昭和63年4月に 比して24.0%の値上がりとなっており、ピーク時の平成3年2月からは1.2 %の値下がりとなっている。また、乳用肥育おす牛「サーロイン」価格は、5.9 %の値上がりとなっており、ピーク時の平成2年7月からは3.2%の値下がりと なっている。 一方、輸入牛肉は、米国産「bP80ストリップロイン」は33.4%の値下が り、豪州産冷蔵「ストリップロイン」40.4%の値下がり、豪州産冷凍「ストリ ップロイン」は22.8%の値下がりと、それぞれ大幅な値下がりとなっている。 枝肉やフルセット及び輸入牛肉の価格動向と比べると、国産の「サーロイン」は 高値で推移しており、特に去勢和牛「サーロイン」は値下がりに転じたものの、依 然として高価格水準にあり、高級高品質なものに対する需要が強いことを物語って いる。 なお、「ヒレ(テンダーロイン)」及び「リブロース(キューブロール)」等の 他の高級部位もほぼ同様の価格動向となっている。 (2)一定の価格差を保つ中級部位 (図−3.牛部分肉(中級部位)価格の推移、参照) 中級部位については、国産牛肉は「ウチモモ」、米国産は冷凍品の「bP68ト ップラウンド」、豪州産は冷蔵及び冷凍品の「トップサイド」の価格の動向を見て ゆくこととする。 昭和63年4月以降の価格動向は、豪州産冷蔵「トップサイド」を除くと、概ね、 平成元年の半ばまでは値上がり、去勢和牛「ウチモモ」を除いてはその後は一貫し て値下がりとなり、去勢和牛「ウチモモ」はほぼ横ばいで推移したのち平成2年1 0月から値下がりとなっている。 平成3年5月の価格水準は、去勢和牛「ウチモモ」は昭和63年4月に比して1. 7%値下がりであり、ピーク時の平成2年10月からは5.1%の値下がりとなっ ている。また、乳用肥育おす牛「ウチモモ」は12.3%の値下がりになっており、 ピーク時の平成元年7月からは13.6%の値下がりになっている。 一方、輸入牛肉は、米国産「bP68トップラウンド」は5.2%の値下がりで あり、ピーク時の平成元年6月からは20.8%の値下がり、豪州産冷凍「トップ サイド」は14.2%の値下がりとなっており、ピーク時の平成元年7月からは3 1.9%の値下がりとなっているが、豪州産冷蔵「トップサイド」は一貫して値下 がりが続き49.9%の大幅な値下がりとなっている。 なお、「かた」の部位と「もも」の部位では、値働きに若干の差異はあるが、 「カタ(クロッド)」、「カタロース(チャックロール)」、「ソフトモモ(シル バーサイド)」、「シンタマ(シックフランク)」及び「ランイチ(ランプ)」等 の他の中級部位もほぼ同じ値動きとなっている。 また、豪州産の冷蔵品を除けば、中級部位の値動きは、先の高級部位及び次に述 べる低級部位と異なり、分析期間中の品目間の値動きはそれほど大きなものではな く、国産牛肉と輸入牛肉の価格はほぼ一定の価格差(それぞれの間の品質格差と考 えられる)を保ちながら同一の傾向を示している。 (3)輸入ものの値下がりが大きく較差拡大の低級部位 (図−4.牛部分肉(低級部位)価格の推移、参照) 低級部位については、国産牛は「カタバラ」、米国産は冷凍品の「bP20ブリ スケット」、豪州産は冷蔵及び冷凍品の「フルブリスケット」の価格の動向を見て ゆくこととする。 昭和63年4月以降の価格動向は、豪州産の冷蔵品を除き、国産牛及び輸入牛肉 とも平成元年の4〜5月頃まで急騰し、その後去勢和牛は横ばい、乳用肥育おす牛 は平成2年4月まで値上がりした後急落、輸入牛肉は一貫して値下がりが続いてい る。 平成3年5月の価格水準は、去勢和牛「カタバラ」の昭和63年4月に比して2 0.6%値上がりであり、ピーク時の平成2年1月からは3.6%の値下がりとな っている。また、乳用肥育おす牛「カタバラ」は5.0%の値上がりとなっており、 ピーク時の平成2年4月からは15.7%の値下がりになっている。 一方、輸入牛肉は、米国産冷凍「bP20ブリスケット」は2.4%の値下がり、 ピーク時の平成元年5月からは32.3%の値下がり、豪州産冷凍「フリブリスケ ット」は21.2%の値下がり、ピーク時の平成元年5月からは46.6%の値下 がりとなっているが、豪州産冷蔵「フルブリスケット」は中級部位の豪州産冷蔵品 と同様にほぼ一貫した値下がり、38.0%の値下がりとなっている。 以上の部分肉の価格動向を見ると、高級部位は国産牛肉の値上がりが大きく、輸 入牛肉との価格差は拡大傾向にある。低級部位は輸入牛肉の値下がりが大きく、国 産牛肉との価格差は拡大傾向にあることから、高級部位は品質志向型の、低級部位 は価格志向型の需給動向と見ることができる。 また、中級部位は一定の価格差(品質の差)を伴って、国産牛肉と輸入牛肉の価 格はパラレルに動いている。しかし、国産部分肉フルセット価格は高級部位の価格 によって上方ニシフトした価格動向となっており、特に去勢和牛の高級部位は需要 が強いことから価格が高値にある。これが部分肉フルセット価格を押し上げ、結果 的には去勢和牛の枝肉価格を高値にしているものと思われる。 産の冷蔵品を除き、国産牛及び輸入牛肉とも平成元年の4〜5月頃まで急騰し、そ の後去勢和牛は横ばい、乳用肥育おす牛は平成2年4月まだ値上がりした後急落、 輸入牛肉は一貫して値下がりが続いている。 平成3年5月の価格水準は、去勢和牛「カタバラ」は昭和63年4月に比して2 0.6%の値上がりであり、ピーク時の平成2年1月からは3.6%の値下がりと なっている。また、乳用肥育おす牛「カタバラ」は5.0%の値上がりとなってお り、ピーク時の平成2年4月からは15.7%の値下がりになっている。 一方、輸入牛肉は、米国産冷凍「bP20ブリスケット」は2.4%の値下がり、 ピーク時の平成元年5月からは32.3%の値下がり、豪州産冷凍「フリブリスケ ット」は21.2%の値下がり、ピーク時の平成元年5月からは46.6%の値下 がりとなっているが、豪州産冷蔵「フリブリスケット」は中級部位の豪州産冷蔵品 と同様にほぼ一貫した値下がり、38.0%の値下がりとなっている。 以上の部分肉の価格動向を見ると、高級部位は国産牛肉の値上がりが大きく、輸 入牛肉との価格差は拡大傾向にある。低級部位は輸入牛肉の値下がりが大きく、国 産牛肉との価格差は拡大傾向にあることから、高級部位は品質志向型の、低級部位 は価格志向型の需給動向と見ることができる。 また、中級部位は一定の価格差(品質の差)を伴って、国産牛肉と輸入牛肉の価 格はパラレルに動いている。しかし、国産部分肉フルセット価格は高級部位の価格 によって上方にシフトした価格動向となっており、特に去勢和牛の高級部位は需要 が強いことから価格が高値にある。これが部分肉フルセット価格を押し上げ、結果 的には去勢和牛の枝肉価格を高値にしているものと思われる。 図−1.国際牛肉価格の推移(季節調製済) 図−2.牛部分肉(高級部位)価格の推移(季節調製済) 図−3.牛部分肉(中級部位)価格の推移(季節調製済)