食肉生産流通部、企画情報部
今月号は流通面、特に牛肉の小売段階(特に量販店)で、自由化後における食肉 の販売状況がどのように変化したのか、また、今後どのような傾向で推移するのか 等について、販売の実務に当たっておられる量販店の皆様から座談会形式で意見を 伺ったので、その概要について報告します。 開催月日及び参加者 日 時:平成3年6月28日(金)正午から 場 所:畜産振興事業団 2階会議室 参加者:以下のとおり(敬称略、順不同)。 入江 敬造 潟_イエー ミートライン商品本部 ミニアマーチャンダイザー 熊崎 弘 潟Cトーヨーカー堂 畜産部 総括マネージャー 本田 真一 叶シ友フーズ 畜産部 商品部部長 鈴木 信行 ジャスコ梶@畜産商品部 牛肉総括セントラルバイヤー 松岡 剛 潟jチイ 食品戦略部畜産担当 自由化の幕開けは、大幅な値引きで始まった 今回参加した各企業の販売責任者の話によると、3月下旬から4月上旬にかけて、 「輸入自由化記念セール」などと銘打った販売促進活動を展開し、通常販売価格よ りも3〜4割引き、また、一部企業では5割引きの特別販売価格により、セール期 間中に通常売上げ量の2〜4倍の数量を売り上げた。もっとも、大幅値引きにより 各社とも直接的な利益は計上できなかったとのことである。 特に、輸入牛肉の伸びが牛肉全体の売上げ増につながっており、和牛についても、 輸入牛肉の売上げの増加に引っ張られる形で、売上げが伸びたかもしくは横ばいで あったが、乳おすの売行きはどこの量販店でも落ち込んでいる。 お祭り去り、一服した5・6月 輸入自由化記念セールにより輸入牛肉は好評を得たものの、通常販売に戻った5、 6月の売上げは、平年の2割増し程度であり、和牛は平年を若干上回ったかもしく は横ばいであった。 また、乳おすは平年を1〜2割程度下回る結果となり、牛肉の種類による売れ筋 が、輸入自由化記念セールの時と同様な傾向を示しているとのことである。 5、6月の輸入牛肉の売上げが、平年の2割増し程度であったことについては、 販売責任者はむしろ当然と受けとめており、「4月が輸入牛肉の一時的なブームで あった。」との共通した認識をもっていた。 また、この2割増しの原因については、 @ 輸入牛肉を置きだした店舗の増加。 通常は和牛のみを販売している店舗に輸入牛肉を置いてみたところ、予想以上の 売れ行きを示した。特に、いままで牛肉消費が少ないとされていた北海道や東北地 区の売場に輸入牛肉を置いたところ、非常に高い伸びを示した。 A 輸入自由化記念セール以降、輸入牛肉の売場面積を増やした店舗が増加した。 B 輸入牛肉が、夏場へ向けてのステーキ、焼き肉需要にマッチしていた。 と分析しており、今後ともこうした傾向で推移するものと見込んでいる。しかし、 すきやき、しゃぶしゃぶ等の鍋もの需要をむかえる冬場に用途的にマッチしない輸 入牛肉の消費減退を懸念する声も聞かれた。 反対に乳おすはこうした需要にも向いており、冬場に期待がもてる。 現在の輸入牛肉の小売価格は、先取り売価 現在の輸入牛肉の小売価格は、関税率が60%になる1年先に見込まれる小売価 格並みに設定してあり、まさに、先取りした販売価格であるという声も聞かれた。 このため、利益率は、豚、鶏肉又は国産牛肉に比べて極度に低い水準にある。 他方、現在の乳おすの枝肉相場なら小売価格は100グラム当たり200円台が 可能で、この価格なら十分輸入牛肉と対抗できる価格水準であり、利益率から見て も現在の乳おすは輸入牛肉より高い。しかし、数量、品ぞろえ等の理由で、結果的 に輸入牛肉への依存度が高くなっているとのことである。 また、小売価格を取り巻く環境として、枝肉のカットに係る人件費、輸送費等、 卸売価格から小売価格に至るまでのコストが上昇しており、卸売価格が直に小売価 格に結び付かない状況になっていることが今後懸念される。このため、量販店の求 める部分肉流通の一層の促進等が必要だという意見も出された。 輸出国豪州のお株を奪う米国産チルド 米国産チルドの輸入量が豪州産に比べ増加傾向にあり、この要因として次の三点 をあげている。 まず一点目は、米国産チルドのシェルフライフ(商品寿命)が延びていることで ある。従来は、45日程度のため日本に到着後、デリバリーから売場へと急を要し たが、現在では60日をクリアーしており、中には80日まで可能なものまで出て きており、包装技術の向上に伴い中西部からの輸出も可能になってきている。 二点目は、米国産チルドの品質である。豪州は格付けをおこなっているものの格 付割合がまだ低く、バイヤーが規格を選択できる段階ではない。その結果として、 輸入される牛肉のバラツキが大きい。それに比べ米国産チルドは、日本での格付が B2〜B3規格に近いトップチョイスを選択できる確率が高い。 三点目は、豪州産はセットで取り扱うため必要部位以外の処分に困る。これに対 して米国産は単品で取り扱うため必要な部位を必要な量だけ買入れることが可能で ある。 以上のことから、豪州産に比べ米国産チルドに対するウェイトが急速に高まりつ つある。 乳おすの販売不振−それは量販店での扱いづらさ− 乳おすの販売量が減少している理由についての意見をまとめると以下のとおりで ある。 @ 輸入牛肉の流通形態は、ストリップロイン(サーロイン)のステーキレディ (ステーキ用カット)やトップラウンド(うちもも)のキャップオフ(トップラ ウンドに磨きをかけたもの)に見られるように、ポーション化(小割化)されて いるので、量販店では非常に使いやすいと同時に歩留まりが良い。 それとは対照的に国内流通している乳おすの部分肉は、チャックロール(肩ロー ス)にネック(首)の部分が付いているように、ポーション化されていないため使 いづらく、その結果として歩留まりも悪い。 特に、小売店では一度ポーション化された「いいもの」を持ち込んだ後に、「そ れ以外のもの」を持ち込むとクレームの発生につながるとのことであり、ある量販 店ではトップラウンドもキャプオフにした結果、取り扱い量が急激に増加したとの ことである。 A 量販店では輸入牛肉は、焼き肉製材のチャックリブ(肩ばら)やショートリブ (ともばら)に見られるように必要な部位を、必要な時期に、必要なだけ手当て できるため販売計画が容易に立てられるに比べ、国産の乳おすは、特定部位のみ でなくセットで取り扱うため、必要部位以外の処理に困る。また、必要とするB 3規格が少なく(B2規格は品質か落ちるとともにバラツキが大きく、量販店で は取扱えない。)、全国の店舗で一斉にセールをかける場合、特定部位を必要量 集めるのに品ぞろえができずプロモーションがかけにくい。 B 消費量が量なら輸入牛肉、質なら和牛と使いわけをしているため、企業側とし ては、乳おすのプロモーションをかけるにしても切り口に明確なものがなく模索 している状態である。 C 牛肉はアイテムが多いにもかかわらず売場面積に限度があるので、必然的に 「量の輸入牛肉」、「質の和牛」に売場面積を押しやられがちである。 なんとかしたい乳おす これからの戦略として、和牛を伸ばしたいという販売責任者の声が聞かれる一方、 和牛も最近肥育されているF1和牛や海外での一部肥育が試みられていることによ り、和牛の評価が落ちるのではないかということを危惧する意見も聞かれた。 一方、今後は、和牛が2割、乳おすと輸入牛肉がそれぞれ4割ずつの販売割合に あるのではないかとの見方もなされた。 乳おすの販売割合も高い、また、利幅も高い、中は乳おすを飼育しているスーパ ーも多いことから、なんとかして乳おすを売って行きたいというのが共通した認識 のようである。 乳おすの今後の販売は、品質的にB3以上のものを販売したとのことである。そ のためには、B3規格以上の枝肉を今以上にコストアップせずに作り、かつ、B3 の割合も拡大させるとともに(現在は、B2の方が多い。)、小売店で使いやすい ポーション化(小割化)段階における規格の統一が期待されている。 グレンフェッドの輸入牛肉と乳おすとの競合点は、まさに価格である。輸入牛肉 の増加により枝肉価格、低落を招いているとはいうものの、今の乳おすの枝肉価格 であれば十分輸入牛肉に対抗できるとの見方である。乳おすは、焼肉、薄切り用途 中心であり、消費者側の基準というよりはむしろ供給者側の基準である、マーブリ ングに重点を置いた現在のB3格付にこだわる必要はなく、生産コストの低下こそ 重要であり、100グラム200円台で乳おすが販売できれば、輸入牛肉に充分対 抗できると意見が出された。