グラフで見る牛肉需給


最近の牛枝肉価格の推移(昭和63年4月〜平成3年3月)

企画情報部企画課長 渡部 紀之


 最近における牛肉をめぐる諸統計の時系列分析については、当事業団が発行して
いる「畜産の情報」の平成2年5月号から8月号に、その分析結果を掲載してきた
ところであるが、平成3年4月1日に牛肉の輸入が自由化になったのを期に、自由
化が決定された昭和63年度からの3年間について、再度牛枝肉価格を中心に時系
列分析を行ったので、その結果を紹介したい。

 前回、牛枝肉価格の時系列分析を行ったときは、昭和63年4月に牛枝肉取引規
格の改正があり、EPA法による高度な分析に必要な時間が短かったことから単純
な12カ月移動平均法で処理をしたが、丁度3年を経過したこともあり分析に必要
な期間が揃ったことから、今回はEPA法で季節調製を行った結果について見てゆ
くこととする。

 (EPA法については、「畜産の情報」平成2年5月号等を参照されたい。)

1. 牛枝肉価格の動向
 分析に用いた原データは、前回と同様に牛枝肉価格のリーディング市場である東
京食肉卸売市場における規格別の卸売り価格とした。

 なお、価格動向についてはEPA法による季節調製済みの動向で見てゆくことと
するので、読者にあっては、実際の価格動向にはさらに季節変動が加わって推移し
ていることに留意していただきたい。

(1) 和牛(図1.「和牛の卸売り価格(季節調製済み、東京市場)」参照)
 この3年間の価格動向を見ると、一部例外的な動向があるものの、概ね平成元年
いっぱいまでは値上がり傾向で推移したと見ることができる。

 また、その値上がりは規格上位のものほど大きく、和牛の需要は「霜降り」志向
が強いことを物語っている。

 昭和63年の値動きに若干の値下がりや急激な値上がりが見られる等の例外的な
動向は、同年の4月1日に実施となった枝肉規格の改正が影響したものと思われる。

 平成2年以降は、規格上位のものはほぼ横ばいであるもののそれ以外は値下がり
傾向にあり、特に規格下位のものほど値下がり幅が大きく、規格上位と下位のもの
の価格差は拡大する傾向にある。

 この値下がりについてその開始時点を規格別にみると、規格下位のものから順に
値下がりとなり(下表1.「規格別の値下がり開始時点」参照)、昨年の「畜産の
情報」5月号で言及した通り次第に規格上位へと及んでいる。

 値下がりが開始した時点の需給状況は、和牛のと畜頭数は増加してたものの、乳
牛のと畜頭数が減少傾向で推移し、国内産全体の牛肉生産量減少となっていたが、
牛肉の輸入量は対外合意に基づき大幅に増加した時期と重なっており、牛肉全体の
供給量は増加した時期であった。

 したがって、和牛は牛肉が自由化されても影響を受けないとの意見もあるが、今
後の推移を十分見守る必要がある。

表1. 和牛の規格別の値下がり開始時点
 
  種 類「規格」  値下がり開始時点                    
 
 去勢和牛「B−1」 平成元年  5月                     
 めす和牛「B−1」  〃    7月                    

 去勢和牛「B−2」  〃    8月                    
 めす和牛「B−2」  〃   10月                    
 
 去勢和牛「A−2」  〃    8月                    
 めす和牛「A−2」 平成2年  1月                    

 去勢和牛「B−3」  〃    1月                    
 めす和牛「B−3」  〃    2月                    
 
 去勢和牛「A−3」  〃    5月                    
 めす和牛「A−3」  〃    4月                    
                   
 去勢和牛「B−4」  〃    6月                    
 めす和牛「B−4」  〃    4月                    
 
 去勢和牛「A−4」  〃    6月                    
 めす和牛「A−4」  〃    6月                    
 
 去勢和牛「B−5」  〃    5月                    
 めす和牛「B−5」  〃    5月                    
 
 去勢和牛「A−5」 値下がりなし                      
 めす和牛「A−5」 平成2年  7月                                       

 
 なお、昨年12月以降の直近傾向では下げ止まりとも見られる値動きとなってお
り、規格上位のものは上昇傾向に転じたように身受けられるが、この傾向が今後も
続くかどうかは、後述する生産の動向と併せて見守る必要がありそうである。

(2) 乳牛(図.2「乳牛の卸売り価格(季節調製済み、東京市場)」参照)
 乳牛のこの3年間の価格動向は、平成元年までの値上がりはそれほど大きなもの
ではなく、規格上位と下位との価格差もあまり大きなものではない等の違いがある
ものの、ほぼ和牛の価格動向と同じ推移を辿ってきたと見ることができる。

 ただし、乳おすの「B−5」と「B−3」は他と異なった特異な動きをしている。

 和牛と同様に、規格別に値下がり開始時点を見てみると「下表2.「規格別の値
下がり開始時点」)、規格下位のものから値下がりが始まり順次上位へ及んでいく
パターンは同じであるが、「C−3」以下のものはほぼ同時に値下がりとなってお
り、牛肉の輸入急増となった時点と符号することからみて、規格下位の乳牛肉は直
接的に輸入牛肉と競合するとの論を裏付けている。

表2. 乳牛の規格別の値下がり開始時点
                    
  種 類「規格」  値下がり開始時点                    
                    
 乳おす牛「C−1」 平成元年  6月                    
 乳めす牛「C−1」  〃    6月                    
              
 乳おす牛「B−1」  〃    7月                    
 乳めす牛「B−1」  〃    6月                    
                   
 乳おす牛「C−2」  〃    7月                    
 乳めす牛「C−2」  〃    6月                    
                    
 乳おす牛「B−2」  〃    6月                    
 乳めす牛「B−2」  〃    6月                    
                    
 乳おす牛「C−3」  〃    6月                    
 乳めす牛「C−3」  〃    8月                    
                   
 乳おす牛「B−3」  〃    6月                    
 乳めす牛「B−3」  〃   10月                    
                    
 乳おす牛「C−4」 平成2年  1月                    
 乳めす牛「C−4」  〃    2月                    
                    
 乳おす牛「B−4」  〃    1月                    
 乳めす牛「B−4」  〃    2月                     
                    
 乳おす牛「B−5」  〃    5月                    
 乳めす牛「B−5」  〃    8月                    


 なお、規格下位のものは昨年半ば頃より下げ止まりとも見られる値動きとなって
おり、中位のものは依然として値下がり、上位のものは直近時点では若干の値上が
りに転じたようにも見られるような値動きと変化が見えてきており、和牛と同様に
生産の動向と併せて今後の動向を見守る必要がある。

図1 和牛の卸売価格(季節調製済み、東京市場)

図2 乳牛の卸売価格(季節調製済み、東京市場)

2.牛肉の生産動向
 (図3.「牛肉生産量(部分肉ベース)の推移(季節調製済み)参照)
 昭和63年4月以降についての国内産の牛肉生産量は、めす和牛及び乳めす牛の
と畜頭数が減少傾向で推移していたものの、去勢和牛及び乳おす牛のと畜頭数が増
加で推移していたことで牛肉全体の生産量は昭和63年7月までは増加した。

 その後、昭和63年に10月からはめす和牛のと畜頭数は増加に転じたものの、
乳おす牛のと畜頭数が同年7月から急速に減少しだし、乳牛はめす牛、おす牛共平
成2年3〜4月まで減少が続いた。なお、その間の和牛のと畜頭数は一貫して増加
が続いたものの乳牛のと畜頭数の減少の方が大きかったことから、牛肉全体の生産
量は平成2年2月まで減少となった。

 平成2年3月以降の動向は、乳牛のと畜頭数の減少の程度が鈍化からさらには増
加に転じ、和牛のと畜頭数の増加と相まって10月までの牛肉の生産量は急速に回
復したが、その後乳牛のと畜頭数は再度減少に転じ和牛のと畜頭数も平成3年1月
以降減少となったことから、牛肉全体の生産量は再び減少しだしている。

 今後の推移を注意深く見てゆく必要があるが、原因の一つには、生産者が自由化
に合わせての対応を慎重に行ってきたのではないかと考えられる。

 なお、和子牛の価格は比較的高水準で推移してきていること、及び去勢和牛のと
畜頭数の増加と比べてめす和牛のと畜頭数の増加がそれほど多くはなかったこと等
からみて、めす和牛の保留がかなり進んでいるとも見ることができ、また視点をか
えると、もともと和牛の生産基盤はそれほど拡大していなかったとも考えられる。

 さらに加えると、和牛のと畜動向は約7年のサイクルを描いて過去数回増減を繰
り返してきており、今回和牛のと畜頭数が減少し続けるとすると、若干サイクルの
期間が短縮しているもののキャトルサイクル通りの動向となるが、和子牛の繁殖経
営及び肥育経営の収益性は昭和60年以降好調で推移してきていることもあり、今
までのキャトルサイクル発生の説明とは異なった動きが生じているとも考えられる。

図3 牛肉生産量(部分肉ベース)の推移(季節調査済み)

(参考)肉牛等のと畜頭数の動向
1.和牛

2.乳牛


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