★ 需給分析


輸入自由化2年目を迎えた牛肉の需給動向


企画情報部 企画課長 渡部 紀之


 牛肉の輸入自由化2年目に入り数ヵ月が経過し、また、牛肉需給に関する各種統
計も本年度第1四半期(4〜6月)の分がほぼ出揃った。そこで、本年3月号の本
紙上で掲載した牛肉の需給動向分析を再度試みた。

 なお、当該需給分析手法(EPA法)、その時々の分析内容、経時的変化等について
は、当畜産の情報の平成2年5月号〜8月号、平成3年6月号〜7月号及び平成4
年3月号の各号を参照して下さい。


1.牛肉の需給量

(1) 牛肉の生産量(図−1.参照)

 89年以降増加傾向の続いている国産牛肉の生産量は、自由化後も流れは変らず2
年8ヵ月連続して増加傾向で推移している。

 3月号の時点での分析では、対前年同月比がプラスでもTC値の対前月比がマイ
ナスに転-じた場合、生産の減少局面に傾向が変化する転換期にさしかかりつつある
とも考えられると説明したが、生産はその後の92年6月までは増加傾向で推移して
いる。しかし、以下のとおり畜種別の動向では、変化が目立ってきている。

 @ めす和牛のと畜頭数(図−2.参照)

 91年7月以降、増加傾向が鈍化しつつあったが、92年に入り一転してと畜が急増
し出している。

 最近3年半続いた増加傾向の中でも、一段と急増している。

 A 去勢和牛のと畜頭数(図−2.参照)

 91年12月までは、ほぼ一貫して増加傾向で推移してきたが、92年1月以降は、ほ
ぼ横ばいで推移しだした。

 その動向は、めす和牛とは対照的な動向となっており、次の段階へ何らかの転換
が生じる兆候とも思われる。

 B 乳用めす牛のと畜頭数(図−2.参照)

 91年半ばの横ばい傾向から若干の増加傾向となったものの、92年1月以降は再び
横ばい傾向となっている。

 C 乳用おす牛のと畜頭数(図−2.参照)

 91年8月以降12月まで減少傾向が続いたが、その後は増加傾向に転じている。

 なお、3月号で分析した結果では、数量は小さいものの、91年5月以降乳子牛の
と畜が急増しており、18〜22ヵ月後にその影響がでてくると見れば、この秋から冬
には、乳用おす牛のと畜頭数に若干の影響が出てくるものと考えられる。

 以上の通り、畜種別の動向は、その変化が一様ではなくなりつつあり、今後の動
向をいままで以上に注意深く見守る必要がありそうである。


(2) 牛肉の輸入量(図−1.参照)

 91年度の輸入量は、対前年度比85.1%と大きく前年度を割り込んだが、輸入牛肉
の在庫の水準は91年度期首の103,276トンから期末の49,028トンに減少し、54,248
トンが流通に出回ったことになり、実輸入量326,923トンと合わせれば、381,171ト
ンの輸入牛肉が供給されたことになり、供給ベースでは対前年度比101.0%とほぼ
前年度水準であったともいえる。

 なお、輸入量は、年度替わりに関税が10%引き下げられることから、3月には極
端に少なかったこともあり、4月には53,539トンと初めて5万トン超の大量輸入を
記録した。

 その後、5月はやや少なかったものの、6月には38,066トンとなり自由化後では
92年4月に続いて2番目に多い輸入量となっている。


(3) 牛肉の在庫量(図−1.参照)

 自由化1年目の期首在庫は116,869トンであり、2年目の期首在庫は61,397トン
と、立ち上がりの様相は大きく異なっている。

 なお、期末在庫は4年2月以降6万トン台が続いていたが、6月には再び7万ト
ンを超えた。

 自由化決定(88年4月)以前の在庫量は、約6万トンが流通上のランニングスト
ックと考えられていたことからみて、最近の在庫の水準はほぼ適正在庫水準にある
ものと思われる。


(4) 牛肉の推定出回り量(消費量)(図−1.参照)

 事業団では、推定出回り量(消費量)を食肉の在庫調査に基づき、次の式により
算定している。
推定出回り量=期首在庫+生産量+輸入量−輸出量−期末在庫
 自由化以降の推定出回り量は、12月までは対前年同月比では100%を超えて推移
していたが、本誌3月号ではTC値がほぼ横ばいで推移していることから、巷間言
われているほどには牛肉の需要が拡大していないのかもしれないと指摘したとおり、
その後1月から3月までは対前年同月比で100%を切っており、景気後退の影響で
自由化1年目の需要は期待程には拡大しなかったものと思われる。

 4月以降は、輸入急増の影響で出回り量が急増し、需要が急拡大しているような
展開となっているが、最近の牛肉輸入の形態は冷蔵品が多くなってきており、事業
団の在庫調査対象の港湾地域の冷蔵倉庫から、通関後直接的に消費地域のストック
ポイントに流通する量が増えていることによるものとも思われる。従って、この動
向は、需要が拡大しているものかどうかを見極めるためには、さらに注意しながら
見守る必要がある。


2.牛肉の価格

(1) 牛枝肉価格

 分析に用いた原データは、前回の分析と同様に牛肉の枝肉取引のリーディング市
場である東京食肉卸売市場の月別、規格別の価格とした。

 @ 和牛(図−3.参照)

 最近の和牛枝肉価格の動向は、本誌3月号での指摘のとおり、和牛と言えども規
格上位(A−4、A−5)のものも値下がり傾向が顕著になってきている。 なお、
傾向的にみると、これまでは規格下位のものほど値下がる時点が早く、値下がりの
割合が大きかったが、最近の動向では規格上位、下位のものに比べ規格中位のもの
の値下がりが大きくなってきている。

 このことは、規格上位のものは、高級品に根強い需要があることを物語っており、
規格下位のものは値ごろ感がでてきていることによるものと思われる。

 A 乳牛(図−4.参照)

 乳用牛枝肉価格の動向は、B−5の価格動向を除いて値下がり傾向で推移してき
たが、最近の動向は、以前ほどの大幅な値下がり傾向は見られなくなってきており、
特に規格下位のものはほぼ横ばい傾向となっている。

 このことは、和牛の規格下位のものと同様に値ごろ感がでてきているものによる
ものと思われる。

 なお、規格中、上位のものでTC値が上昇し、価格の値上がり傾向を示している
ものが見受けられるが、EPA法による時系列分析では、傾向変動の振幅が若干大き
く表れることもあり、さらに傾向を見極めないと、値上がり傾向に転じたとの判断
はできない。

 いずれにしても、一時期のような急激な値下がり局面にはなく、ある程度の値ご
ろ感が出だしていると判断される。


(2) 牛部分肉価格

 分析に用いた原データは、前回と同様に国産牛部分肉価格については、(財)日本
食肉流通センターが公表している牛部分肉価格、輸入牛肉(部分肉)価格について
は当事業団調査による仲間相場とした。

 また、国産牛肉と輸入牛肉の価格を直接的に対比するために、部分肉のカット、
トリミング等には若干の差異はあるものの、ほぼ同一の部位を用い、国産(冷蔵品)
及び輸入牛肉(豪州産;冷凍、冷蔵品、米国産;冷凍品)について、高級部位(サ
ーロイン)、中級部位(うちもも)及び低級部位(かたばら)に分けて比較を行っ
た。

 @ 高級部位(サーロイン[国産]、ストリップロイン[豪州産、米国産])
  (図−5.参照)

 高級部位では、国産牛にあっても去勢和牛と乳おす牛のサーロインでは価格差が
拡大する傾向にあったが、最近になって、去勢和牛サーロインの価格低落割合が大
きくなっており、品質間の価格差は縮小してきている。

 一方、最近の輸入牛肉の動向は、米国産のストリップロインはほぼ横ばいから若
干の値上がりで推移し、豪州産のストリップロインは値下がり傾向が継続している
ものと思われる。

 米国産の牛肉は基本的にはグレインフェッド(穀物肥育)であり、豪州産はグラ
スフェッド(牧草肥育)であることから、輸入牛肉における品質格差も明確になり
つつあるものと思われる。

 A 中級部位(うちもも[国産]、トップサイド[豪州産]、トップラウンド
  [米国産])(図−6.参照)

 中級部位の最近の価格動向は、前回の分析結果とほぼ同様の傾向を示しているが、
乳おす牛のうちももの価格は、去勢和牛や輸入牛肉に比べて値下がりが大きくなっ
ている。

 「もも」系の部分肉の用途が余り広くないことと、和牛のような比較的品質の高い
ものと輸入牛肉のように比較的品質の低いものとの狭間にあって、品質と価格がど
っちとらずの位置にあり、需要が落ちているものと思われる。

 なお、豪州産のトップサイドは他とことなり昨年半ば以降横ばいで推移しだして
いるのが注目される。

 B 低級部位(かたばら[国産]、フル・ブリスケット[豪州産]、ブリスケット
  [米国産])(図−7.参照)

 低級部位の最近の価格動向は、去勢和牛のかたばらは横ばい、乳おす牛は横ばい
から若干の値下がりで推移しており、一方、輸入牛肉は豪州産、米国産とも依然と
して値下がり傾向にあるが、昨年の5〜6月以降の値下がりはそれ以前ほど大きな
ものではなくなってきている。

 以上を総括的にみると、自由化2年目を迎えた牛肉の動向は、


(1) 供給面では

 @ 在庫はほぼ適正水準にあり、過剰と言われていた在庫からの圧迫懸念は無く
  なっている。

 A 輸入量は、4月、6月とかなり多めの輸入となっている。しかし、自由化1
  年目の昨年4月、5月にも同様に多めに輸入されたが、その後は比較的落ち着
  いた輸入が行われた経緯からみると、今回の場合も関税の引き下げを折り込ん
  だ一時的な現象と思われる。

 B 国内生産は、和牛、乳牛ともにと畜が増加傾向で推移している。若干鈍化の
  兆しがみられるものの、当分の間は増加が続くものと思われる。


(2) 需要面では

 景気後退の影響を受けて、家計消費支出も停滞気味で推移しており、当分の間は
消費需要が拡大する局面にはないと思われる。


(3) 価格面では

 枝肉価格、部分肉価格とも最近の動向は、総じて見れば値下がり傾向で推移して
いるものの、自由化決定(88年4月)後から自由化(91年4月)の間に見られたよ
うな大幅な値下がりが見られなくなってきている。特に、枝肉価格では、規格下位
のものが安価ながらもある程度一定の価格を維持しており、部分肉にあっても同様
に、安価な輸入牛肉の値下がり傾向が鈍化し、それぞれに、値ごろ感が出てきてい
ることからみて、今後供給面が安定的に推移するとすれば、和牛の規格上位のもの
や高級部位のものはある程度の値下がりがあるものの、従来の値動きに比べて価格
は比較的安定した動きで推移するものと思われる。


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