★ 中央畜産研修施設通信

                                                 農林水産省畜産局畜産経営課
                                                 畜産振興事業団企画情報部


 農林水産省畜産局中央畜産研修施設では、毎年、約20の研修会を開催しておりま
す。

 研修会は、畜産関係に携わる方を対象としておりますが、講座の内容は、新任畜
産技術職員や、管理者を対象とした総合的な講座、また、肉用牛や酪農等について
の専門的な講座や、パソコンを利用した情報処理の講座等幅広い分野にわたって実
施しております。

 研修会には、毎回30〜80人ぐらいの受講者が集まりますが、今後の業務に生かそ
うと、講師の話を熱心に聞き取る受講生の姿が見受けられます。その他、同じ研修
会に集まった受講生同士の友情も深まり、研修会終了後も、連絡を取り合ったり、
出張のおり旧交を温めながら、情報交換を行っているという話も聞いております。

 一方、せっかく良い研修会があるのに、出席できない方も多くいらっしゃいます。
そのような方々から、せっかくの有意義な講義の内容を、ただ受講者のみならず、
広く畜産関係者の方に紹介してもらえたらという要望もありました。このため、今
般、中央畜産研修施設の協力を得、今後、主要な講義のエッセンスを畜産振興事業
団が発行している月報 「畜産の情報」 に掲載することとなりました。

 今回は第1回といたしまして、平成4年8月4日に開催された養豚についての研
修会において講義いただいた、三菱商事竃島氏の講義内容をご本人にとりまとめ
ていただきました。

 なお、研修会の概要については、別紙の一覧表を参考にして下さい。また、研修
会についてのお問い合せは、次にお願いいたします。

   農林水産省畜産局畜産経営課  研究研修班
   電話 03−3502−8111(代)  内線 4038 


平成4年度中央畜産技術研修会講座一覧表

T 研 修 場 所:中央畜産研修施設 〒961福島県白河市十三原1
          TEL 0428−23−3570 Fax 0248−22−6755

U 受 講 対 象 者:都道府県・地方農政局(沖縄総合事務局、北海道開発局を
          含む。)・市町村の畜産関係職員、家畜改良センターの技術
          職員及び畜産関係団体職員

V 受 講 資 格:・新任畜産技術職員畜産に関する実務経験概ね3年以内の者
          ・中堅畜産技術職員畜産に関する実務経験概ね3年以上10年
           以内の者
          ・管理者場所長、課長、課長補佐又はこれに準ずる役職者
          ・畜産統計処理(U)畜産統計処理(T)の修了者又はそれと同
           等の知識を有する者
          ・畜産経営診断畜産簿記の修了者又はそれと同等の知識を有
           する者
          ・情報処理入門ワープロの基本操作ができる者〔定員40名〕
          ・情報処理システム開発入門情報処理入門の修了者又はそれ
           と同等の知識を有する者〔定員40名〕

W 講 座 部 門
@総 合 研 修 会 8講座:畜産局の重点施策に関連するなど新しい畜産の方向に
             即した総合的・体系的な高度の経営技術の普及を図る。
A専門技術研修会 6講座:高度の個別的・専門的技術のレベルアップを図る。
B基礎技術研修会 7講座:基礎的な知識・技術の体系的な付与を図る。 

X 研 修 内 容
  研修会講座名 研修期間 日数 研 修 内 容
B 畜産統計処理(T) 5.11〜5.22 12 統計処理の基礎講座
@ 管理者 5.27〜5.30 4 畜産行政効率化のための総合講座
@ 新任畜産技術職員 6.4〜6.12 9 新任畜産技術職員を対象とした畜産
技術等に関する総合講座
@ 中堅畜産技術職員 6.15〜6.19 5 畜産行政実務に関する総合講座
A 畜産統計処理(U) 6.29〜7.3 5 統計処理の専門講座
B 情報処理入門 7.6〜7.17 12 パソコンの既存システムを利用した
情報処理入門講座
A 情報処理システム
開発入門
7.20〜7.24 5 市販ソフトを利用し、システムの構築を
行う情報処理入門講座
B 養豚 8.3〜8.7 5 養豚経営指導のための専門講座
A 畜産簿記 8.24〜9.3 11 畜産簿記の専門講座
@ 畜産経営診断 9.7〜9.11 5 畜産経営診断に関する専門講座
B 養鶏 9.28〜10.2 5 養鶏指導のための専門講座
B 肉用牛 10.5〜10.9 5 肉用牛の生産及び流通に関する
専門講座
@ 国際化対応 10.12〜10.16 5 外国畜産諸制度の現状と農産物貿易
問題等に関する専門講座
A 草地 10.19〜10.23 5 草地の開発整備に関する専門講座
B 酪農 10.26〜10.30 5 酪農の生産及び流通に関する専門講座
A 自給飼料 11.9〜11.13 5 飼料作物の生産利用及び草地管理の
ための専門講座
A 畜産環境保全 11.16〜11.20 5 家畜排泄物処理に関する専門講座
@ 畜産新技術 11.30〜12.4 5 畜産に係る新技術の専門講座
@ 低コスト生産技術 12.7〜12.11 5 畜産物の低コスト生産に関する専門講座
B 飼料・畜産物の
安全性
1.18〜1.22 5 飼料・畜産物の安全性に関する専門講座
@ 畜産経済 2.1〜2.5 5 畜産経営・経済問題に関する専門講座
  計(21講座) 5.11〜2.5 128   
 

海外の養豚と輸入豚肉事情

三菱商事株式会社 畜産部 矢島章弘


世界の豚の飼養頭数及び豚肉生産量

 世界の飼養頭数は約7億6千万頭です。豚の飼養頭数を見るときは、穀物生産と 
重ね合わせて見てみると分かり易いと言われるように、主な生産国である中国、ア 
メリカ、ブラジル等は、穀物生産地帯と重なっています。しかし、日本、台湾は違 
っており、えさはほぼ100%輸入に頼っています。

 台湾とデンマークを比較してみますと、台湾は飼料穀物が輸入依存、70%が山地 
で30%の平地に人口が集中し、工業も盛んです。ですから、今後も豚肉を生産し続 
けられるかと言うと、疑問があります。現在、年間110万トン程度生産されており、 
3分の1が日本への輸出用、残りが自国内での消費です。公害問題が顕在化し、こ 
の輸出用の3分の1の生産を自粛、あるいはやめたらということです。外貨を豚肉 
で稼ぐ必要がないでしょうというわけです。

  世界の豚の飼養頭数及び豚肉生産量
      ('91USDA統計)
   飼養頭数 と畜数 豚肉生産量
(,000頭) (,000頭) (枝肉重量
,000MT)
世界総数 761,593 836,517 64,448
主な生産国
中国 362,410 315,086 23,009
アメリカ 54,477 88,436 7,258
ブラジル 32,500 11,400 1,100
ドイツ 30,818 43,400 3,325
ポーランド 19,739 22,000 2,085
スペイン 16,001 24,700 1,780
オランダ 13,788 18,000 1,610
ルーマニア 12,066 12,850 600
因みに・・・
日本 11,335 20,000 1,490
デンマーク 9,282 16,901 1,255
台湾 8,565 13,400 1,115
 ほぼ台湾と同様な面積(グリーンランドは除く)を持つデンマークは、丁度、日 
本の九州位の広さですが、穀物も自給自足でき、最近は、韓国にも輸出している位 
ですが、土地も平坦で人口も5百万人と現状の養豚生産を維持する基礎条件は、整 
っていると言えましょう。 

世界の豚肉貿易、消費量

 この表からは、豚肉をたくさん生産しているところが、必ずしも大輸出国でない 
ということがわかります。ただし、ECというところは、お互いに輸出、輸入を行 
っていますが、デンマーク、オランダ、ベルギー・ルクセンブルクは純輸出国で、 
それ以外は純輸入国になっています。

 豚肉の輸出入には、口蹄疫の汚染、非汚染が関係します。従前は、概ね島国、半 
島国が非汚染国でしたが、ECは92年の統合を前に、EC全体として衛生基準を高 
め、EC全体が非汚染国として牛肉、豚肉の輸出ができるようにと、取り組んでき 
ました。オランダは、1990年に牛に対する口蹄疫ワクチン接種も廃止しており、1 
年間口蹄疫の発生が見られなかったため、今年の6月にオランダ産の豚肉の輸入が 
可となりました。オランダは今年中に、早ければこの秋にも輸出してくると思われ 
ます。 

     世界の豚肉貿易、消費量
     輸入量 輸出量 1人当消費量
(,000MT) (,000MT) (枝肉重量
,kg)
世界総数 4,170 4,473
主な国
ドイツ 760 245 55.1
イタリア 530 45 31.0
イギリス 472 80 25.0
フランス 445 240 37.0
デンマーク 12 952 65.4
オランダ 75 1,020 41.9
ベルギー・
ルクセンブルク
50 465 47.5
日本 565 0 16.7
台湾 0 300 37.6
アメリカ 352 118 29.7
カナダ 13 275 31.6
日本の豚肉生産、輸入量、消費量

 日本の生産量は、89年をピークに減少しており、この代替といいますか、輸入品 
が増えています。輸入国別には、台湾の増加、アメリカの横ばい、デンマークの若 
干の増加、カナダの横ばいないし減少となっています。

 さらに、チルド、フローズン別には、チルドが大きく伸びています。その中でも 
台湾の伸びが目立ちますが、これは、日本までの距離によるものです。 

 特に、日本ではテーブル・ミートとしてチルドが好まれ、チルドで持ってこられ 
るのは、と殺後4週間あたりまでが限度です。このため、生肉として輸入できるの 
は、台湾、オーストラリア、アメリカあたりの、いわゆる環太平洋のグループです。 
その中でも、先ほど申し上げたように、穀物生産、国土の面積、環境問題等から台 
湾は、脱落していくと思います。韓国という話もありますが、経済の発展とともに、 
生活レベル、特に食生活のレベルがアップし、今輸出していても、そのうちに国内 
消費をまかなうだけで輸出ができなくなると思います。

   日本の豚肉生産量、輸入量、純消費量
      (MT,部分肉重量)
   63年度 元年度 2年度 3年度
生産量 1,104,288 1,117,766 1,075,224 1,025,111
輸入量 338,724 366,045 341,514 441,853
輸入先
台湾 122,423 123,297 160,203 223,545
アメリカ 44,033 52,423 42,856 44,901
デンマーク 127,826 138,334 107,247 141,743
カナダ 27,384 30,028 21,515 22,456
その他 17,058 21,963 9,693 9,208
チルド
台湾    18,951 25,030 49,036
アメリカ    12,386 13,479 19,952
その他    845 995 1,698
合計    32,182 39,504 70,686
フローズン
台湾    104,346 135,173 174,509
アメリカ    40,037 29,377 24,949
デンマーク    138,334 107,247 141,743
カナダ    30,028 21,515 22,456
その他    21,118 8,698 7,510
合計    333,863 302,010 371,167
純消費量 1,428,971 1,445,935 1,445,955 1,457,791
 デンマーク、オランダからの輸入も今後も続いていくと考えられますが、日本へ 
持ってくるのに30〜35日かかります。となると、チルドの輸入は問題があり、加工 
向けのフローズンになります。さらに、デンマーク自身小さい国ですし、さらに環 
境問題や動物愛護問題もあり、これ以上飼養頭数が増やせない状況にあります。ま 
た、今、GATT での輸出補助金の削減問題もあります。

 デンマークもこういった点から、ハンガリーやオーストラリアとタイアップして 
生産を始めるという動きがありますが、今後の5〜10年以内の日本や韓国への輸出 
を意識した布石でしょう。

 我々日本人は、自国内生産が減少した部分を、どこからか手当をしなくてはなり 
ません。結局、輸入しかありません。輸入先を確保しておかなければ、消費者は高 
いものを食べざるを得ません。日本への供給ばかりではありませんが、そういう安 
定供給の点で私達は、海外に生産地を確保した次第です。 

 豚肉については、アメリカのコーンベルト地帯の一つでありますインディアナ州 
に、一昨年前に日中稼働で年間120万頭規模のと場ををスタートさせました。今年 
1月からチルド・ポークを日本へ供給しています。

 その他、豪州での肉牛牧場、と場、ブラジルでのブロイラー、タイでもブロイラ 
ー処理場を建設中ですが、これらにより、日本で必要な食料の安定供給に携わるの 
みならず、三国貿易にも携わっています。 

日本の牛、豚、鶏肉の生産量、輸入量

 日本の状況についてもう少しお話ししますと、牛、豚、鶏肉の生産プラス輸入量、 
いわゆる純供給量は大ざっぱにいって、400万トンです。その内4分の3が国内生 
産、4分の1が輸入品です。最近言われるように、畜産農家の離農や、後継者問題、 
環境問題等から、国内生産は減って、その分輸入品にとりかわっています。5年後 
になるか10年後になるかわかりませんが、現在の輸入量100万トンが150万トンとい 
うふうになるのではないでしょうか。口蹄疫のような病疫に対する衛生水準が上が 
り、輸出可能国が増えつつあるという状況下にあるということや農産物貿易の自由 
化傾向を十分認識しなければならないと思います。 

   日本の牛、豚、鶏生産量、輸入量
     (3年度、単位:MT)
    牛肉 豚肉 鶏肉 合計
生産量 406,601 1,025,111 1,372,796 2,804,508
輸入量 326,923 441,853 380,987 1,149,763
デンマークの豚肉生産

 最後に、デンマークの生産状況についてお話しし、日本の生産者の方の参考にし 
ていただければと思います。

 デンマークは、国家にとっても重要産業であり、飼い方、マーケットにまで国が 
力をいれて育てあげてきました。国土はほぼ平坦地で、面積は九州ぐらいですが、 
小麦4百万トン、大麦5百万トン、合計で900万トンぐらい生産しており自給自足 
しています。

 狭い面積ですから、産肉量を増やすにはどうすればよいかという問題がおきます。 
品種改良を進めて、赤肉歩留まりを最終60.5%までもっていこうとしています。3 
%を上げるのに7〜8年かかるという大変な事業ですが。
 
 PSE 豚肉(むれ豚)の発生も減らしています。1988年には、ロインで5%、ウデ 
で8〜10%発生したものを、90年には、ロインで3%、ウデで6%、さらに94年に 
はロイン2%、ウデ4%に下げようとしています。これには、遺伝的な問題もあり 
ますが、密飼いをやめる、輸送方法を改善する、と殺前のストレスを減らすなどの 
努力を行っています。

 この結果、日本の加工メーカーからは PSE 豚肉についてのクレームは無くなり 
ましたし、三枚肉(ベーコンなどのバラ肉)についても、逆に赤肉が多すぎるとい 
う評価です。その他、肉色が淡いことやタンパク質の含有量、さらに、脂肪酸組成 
についても研究しているという話です。

 格付についても統一的に行っています。格付は、ロボットが豚枝肉のと体長を計 
り、格付のための測定を行う場所をさがし、体長にあわせて針の幅を調整します。 
針は17ヶ所に刺され、脂肪の厚さ、赤身肉の割合等が測定され、同時にコンピュー 
ターに登録され、集計所に集められます。

 もう一つ、去勢していない雄豚を飼いだしています。日本のハムメーカーからは 
肉質が悪くなるとか、においがあるとか話がありましたが、今のところ問題なく商 
売が継続しています。日本も買わざるを得ないというところですが。この雄豚をい 
れることは、飼料効率、産肉性等でいい面を持っています。 

 すなわち、産肉性では、去勢豚に比べ2.5%赤身肉の割合が増えます。これまで 
は、品種改良によって、毎年、苦労して0.4%上げていたのです。あと、動物愛護、 
動物福祉の面からも消費者に好感をもたれています。それと、環境面でも良いこと 
です。これは、7〜8%飼料効率が良くなることが糞尿を減らすことにつながると 
いうことです。ただ、雄臭というのですか、肉から雄臭さが放されやすくなるので、 
各と場に検査器を設置し、臭気成分が0.25PPM より多い枝肉は普通の用途からは排 
除されます。ただ、廃棄とかいうのではなく、国内向けに熱処理をしないドライソ 
ーセージなどの製品に回されるわけです。

 このように、自国の広さをわきまえて、国を挙げて品質や産肉量を上げようと努 
力するデンマークの養豚は、我が国の養豚の今後進むべき途に何等かの示唆を与え 
てくれるのではないでしょうか。


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