★ 自由化レポート


卸売市場の目指すべき方向U

大阪市食肉市場株式会社


 牛肉の輸入自由化から約1年半が経過しましたが、最近は、国内の牛肉流通量の
約半分が、輸入牛肉で占められるという状況の中で、牛肉、豚肉の生産流通現場に
様々な変化が生じてきています。そうした中で牛肉、豚肉の国内流通の拠点である
食肉卸売市場では、輸入牛肉の集荷、新しい取引方法の導入、交雑種肉牛(F1)
の分離等様々な試みがなされているようです。今回は、大阪市食肉市場株式会社か
ら、この食肉の流通変革期の中で、同社の置かれた現状と今後の対応等についてお
話をうかがう機会を得ましたので、その概要をご紹介します。

1、日  時 平成4年8月27日午後1時から

2、場  所 大阪市食肉市場株式会社 会議室

3、出席者 (敬称略)
  大阪市食肉市場株式会社
   専務取締役営業本部長  中 山 勝 美
   取締役商事部長     吹 田 陸奥雄
   総務部企画主幹     浜 口 義 則


−新市場は昭和59年にスタート−

 大阪市中央卸売市場南港市場は、肉類(鶏肉を除く)及びその加工品を取り扱う
市場です。ここで卸売り業を営んでいるのが、私ども大阪市食肉市場株式会社です。
前身の大阪市中央卸売市場食肉市場は、昭和33年1月16日大阪市西成区津守に全国
で最初の食肉を取り扱う中央卸売市場としてスタートしました。以来、長年にわた
り生産者と消費者の接点として市民の食生活の一端を担ってきました。

 しかし、近年の著しい食肉流通の変革と施設の狭あい・老朽化に対応するために、
南港南埠頭地区に移転し近代的で衛生的な食肉処理場などの設備を備え、緑に囲ま
れた市場として装いも新たに昭和59年4月2日から再スタートしました。荷受会社
も、旧来の大阪畜産株式会社と大阪中央畜産株式会社とを一本化した現在の大阪市
食肉市場株式会社に再編し、近畿圏の食肉の安定供給基地として頑張っています。


−大阪市場の現状−

 当市場の食肉の取扱概要を紹介させていただきますと、平成3年度では、表1の
ようになっています。取扱数量の74%が牛、26%が豚であり、取扱金額でみますと
90%が牛、10%が豚となっています。

 また、主要出荷地別と畜頭数については、牛では、全国43道府県から入荷されて
いますが、表2からもわかるとおり特に、佐賀県・鹿児島県・大分県・宮崎県等九
州からの出荷が多くなっています。豚では、他の市場でも同じような傾向でしょう
が、地元である近畿圏からを中心とした出荷になっております。

 と畜頭数の推移については、表3のとおり、牛については、牛は順調に伸びてお
り、元年度に比べ3年度では、約10%増加し約5万4千頭に至っております。一方、
豚は、環境問題等からここ大阪方面でも近郊の小規模農家では離農するところが多
く年々減少しており3年度には、約13万2千頭と元年度を20%以上下回っておりま
す。

表1 市場取扱高(平成3年度)
   数 量 金  額
枝肉 23,221 (60.3) 363億734万円 (79.3)
部分肉 5,414 (14.1) 47億1345万円 (10.3)
28,635 74.4 410億2079万円 89.6
枝肉 9,838 (25.6) 47億7735万円 (10.4)
部分肉 (−) −万円 (−)
9,838 25.6 47億7735万円 10.4
子馬・馬 0 0 8万円 0
合計 38,473 100 457億9822万円 100
内臓      12億1115万円
表2 主要出荷地別と畜頭数(平成3年度)(頭)

種類別

順位 県 名 入荷頭数 県 名 入荷頭数
 1 佐 賀 5,845 大 阪 24,391
 2 鹿児島 4,809 兵 庫 22,538
 3 栃 木 4,570 岡 山 20,385
 4 兵 庫 3,637 鳥 取 18,858
 5 鳥 取 3,515 京 都 15,626
 6 長 野 3,050 和歌山 9,483
 7 大 分 3,031 奈 良 7,470
 8 熊 本 2,823 三 重 7,186
 9 北海道 2,606 宮 崎 2,048
10 宮 崎 2,602 富 山 1,690
   その他 17,338 その他 2,282
   合 計 53,826 合 計 131,957
表3 と畜頭数の推移     (頭)

種別

子牛・馬
年度・年
昭和33年
(食肉市場開場)
37,393 62,721 9,852 109,966
昭和59年度
(南港市場開場)
48,410 156,722 79 205,211
昭和60年度 51,644 179,340 59 231,043
昭和61年度 50,255 176,091 43 226,389
昭和62年度 48,240 182,415 12 230,667
昭和63年度 48,760 179,324 10 228,094
平成元年度 48,871 169,643 13 218,527
平成 2年度 50,552 143,117 26 193,695
平成 3年度 53,826 131,957 5 185,788
 私ども大阪市場は、乳牛中心の市場と言われておりますがそんなことはありませ
ん。和牛の取引は、年々かなりの伸び率を示しており、3年度の牛の取引頭数につ
いては、

  和   牛  22,798頭 42.5%

  乳   牛  22,534頭 42.0%

  交 雑 種   8,182頭 15.2%

  その他外国産   165頭  0.3%

  計      53,679頭  100%

となっており、和牛と乳牛とはほぼ同数で、平たく言って4(和牛):4(乳牛)
:2(F1)という状況です。

 旧市場の頃は、3(和牛):7(乳牛)ぐらいで、和牛が少なかったのですが、
新市場になってからは、和牛が増え、それが、品揃えがしっかりしているというこ
とで購買者の数が増える結果となりました。現在、仲卸は47人、売買参加者は237
人おります。


−F1の公表は、好評−

 自由化後、乳用種の卸売価格が大幅に低下しており、各市場とも大変だと思いま
すが、輸入牛肉と競合しないものとしてF1が全国的に相当増えており、まだまだ
増加するのではないかという感じを持っており、またF1の品質も向上しています。
大阪市場の場合、平成2年頃から産地の出荷者及び購買者からF1の取扱いに関し
て様々な苦情がでました。というのは、和牛産地の出荷者から見れば、F1を和牛
で販売すれば、産地のイメージを落とすこととなり、逆に購買者からみれば和牛と
思って買ったら枝肉からの歩留まりが悪いという苦情がでて、3年4月に和牛から
独立させてF1の公表することに踏み切ったわけです。踏み切ったというよりも、
まあ、産地の出荷者及び購買者の両方の意向が強かったということですかね。

 F1の枝肉公表に当たっては、送り状に自主的に申告して欲しいということで、
大阪市場として積極的に出荷者にPRし、その徹底を図ってきたところです。これ
だけF1が増えてきたら何としても表示することが必要だという私ども大阪市場の
気持ちもあったものですから、全国のトップを切ったということです。今では、売
り手側、買い手側、共に大変好評であり、自主申告によるF1表示は、出荷県、性
別、品種をきちんと送り状に明記され、現在では100%適正に表示されるようにな
っています。

 牛の出荷地域については、当大阪市場は、北海道から沖縄県まで多岐にわたって
いますが、F1を公表するようになってから出荷地も増加し、現在では、43道府県
になってます。当初、F1を表示販売することによって出荷者が減るのではないか
という声もありましたが、逆に出荷地は増えました。F1だけの共進会も開催され
るようになっています。F1については、産地での肥育技術の差等があり、まだま
だ品質の格差はあるようです。肥育技術のある出荷者は、当然和牛に近いものをも
ってくるし、逆に乳牛に近いような牛をもってくる出荷者もいます。それを購買者
がきちんと評価してくれるのが大阪市場の特色です。


−輸入牛肉のせり売りは目下準備中−

 牛肉の国内流通量の概ね半分が輸入牛肉という環境にありますが、当市場として
は、現在、輸入牛肉についての特段の方策は、打ち出していません。しかし、近い
将来は、輸入牛肉も取り扱いたい方向で準備を進めており、大阪市場へ来れば、国
内産の豊富な牛、豚そして輸入牛肉といった品揃えに富みバラエティ豊かな食肉が
確保できるという評価を得たいと思います。事業団からの委託上場の時代は、月1
回の上場でしたが、自由化を迎えた今日、輸入牛肉は、毎日、いつでも大阪市場で
買えるといった小口の売買参加者への配慮もしていきたいですね。東京市場さんや
愛知市場さん、そして福岡市場さんで実施されていることを、いろいろ学びながら、
準備していきたいと思っております。

 幸い、当市場の隣には、日本食肉流通センターがあり、部分肉が主である輸入品
の流通、ストックには恵まれた環境にあるといえるでしょう。「仕入はセットで、
販売は単品で」を基本方針に考えていますが、当然、売れ残り部位も生じてきます
ので、そのときは、当市場の仲卸業者と連絡を密にして、その分荷機能を充分発揮
できるよう対応してゆきたいと思います。


−減少に歯止めをかけたい豚肉の取引−

 豚肉の取引数量は、年々減少しています。都市近郊での環境問題などで養豚をや
められたところが多いからと思っています。聞くところによれば、東京市場をはじ
め、多くの市場でも、豚の取引量は、減っているとのことで、これは、何か卸売市
場全体として新たな手を打たなければならないと感じているところです。取引数量
の減少は、いいかえれば、出荷者からみると卸売市場へ出荷するメリットがなくな
ってきていることだと思います。市場へ出荷すれば、手数料がかかってしまうので、
それなら、市場外で取引きした方が得だというのが出荷者の素直な気持ちかと推察
します。また、豚は、規格で取引きされるものですから、買受者は、牛に比べ一頭
一頭細かな目で見る必要性が薄いのかもしれません。過去に、当市場では、鳥取や
徳島からもだいぶ入荷しておりましたが、今は、現地で部分肉にして大阪に入って
きているようです。かといって、大阪市場の豚の部分肉の取引数量が増えたのかと
いうとそうでもありません。

 企業としての採算性も考えなければなりませんし、何とか豚の取引数量を増やし
たいと考えておりますが、思うようにいかず、頭が痛い問題です。

 例えば、南九州では、大阪市場の豚の前日相場を基本として現地で取引をしてい
るようです。ということは、大阪と南九州とでは、相場は変わらないということで
すね。現地でのカットのコスト・輸送コストと市場までの輸送コスト・手数料との
比較になってくるのでしょう。

 とにかく、適正な価格形成の場というのが市場の使命ですから、また、私どもの
価格が、他の地域の取引の指標ともなっていることからも、市場への出荷量を増や
し、出荷者からみれば、自分の作った豚が、適正に評価してもらえるのだというメ
リットを生かしたいと思います。

 また、買参人からみても、市場へ来れば、各産地の牛の良い商品もあれば、同様
に各産地の豚の良い商品もあるといった品揃えの豊富さというメリットを生かした
集荷体制の再構築に向けて頑張っていきたいと考えております。


−副生物価格は、全国トップ−

 私ども大阪市場の特徴の一つに、副生物価格の水準の高さがあります。特に、牛
内臓肉については、平成3年の数値ですが、1頭当たり22,004円(年平均)となっ
ており、日本一の価格となっています。また、牛の原皮価格については、5,867円
(年平均)と、これも、全国で一、二を競う取引価格となっています。出荷者から
みれば、大阪市場の魅力の一つといえるでしょう。


−安定した集荷と公正な価格形成、そして親しまれる市場へ−

 大阪市場は、「親しまれる市場」をキャッチフレーズにしておりますが、「安定
した集荷と公正な価格形成」が一番重要なテーマとなります。「安定した集荷機能」
と「公正な価格形成機能」は、車の両輪みたいなもので、どちらかが欠けるともう
一方にまで影響が出てきます。私どもでは、卸売市場機能の担い手として、買受人
のニーズや需要動向を的確に把握し、生産者への情報のフィードバックをおこなう
とともに産地でのきめ細かな肥育指導を、精力的に実施することによって、計画的
な集荷と、かつ、豊富な品揃えの確保に努めています。そのことによって、初めて
公正な取引の場が確保できると考えています。

 具体的には、各種統計数値や、当市場での格付け状況などを産地へフィードバッ
クしたり、肥育技術を中心に、専門の指導員を現地へ派遣する産地指導などを実施
しており、特に佐賀県などでは、たいへん喜ばれております。

 共進会、共励会も昨年は、年間42回も開催しましたし、生産者の方々を大阪市場
に招いて実施した研究会も年間80回を超えました。

 「公正な価格形成の場」については、大阪市場で形成せれた価格が産地での値決
めに利用されているという、いわゆる「全国的な取引における指標」としての役割
もあることから、経験豊かな仲卸業者や、多数の売買参加者に支えられながら、せ
り開始前に充分な検品時間を設けたり、自動せり機械などの機能を駆使して、公正
で、スピーディーな取引がなされています。

 当社は、牛、豚とも、冷と体取引となっておりますし、水引のない実貫重量によ
る売買は、正に公正な取引をテーマにしている当市場の特徴の一つでしょう。

 最後に、「親しまれる市場」という面からは、特に、消費者の方々が関心をもた
れる衛生面ですが、新鮮で安全な食肉を供給するために、トータル・オン・レール
・システムによる衛生的な解体処理をはじめ、徹底した衛生管理により運営されて
います。

 また、見学コースもありますし、隣には、ステーキハウスもあり、市民の方々に
は、たいへん親しまれております。毎年10月には、当市場において、食肉祭を開催
し、楽しいひとときを過ごして頂いております。本年も10月10日に開催すべく準備
中ですので、そのときには、ぜひおいでいただけたらと思います。


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