−農業観測に係る6年度下期需要・価格の見通しから −
農林水産大臣官房調査課
調査専門官 菊池 淳志
既に、鶏肉、鶏卵については、6年度下期の需要・価格の見通しが公表されているが、 11月18日に、農業観測に係る畜産物(牛肉、豚肉、牛乳・乳製品)需給動向検討会が 開催され、6年度下期の需給・価格の見通しについて検討されたので、多少の解説を加え ながらその概要を紹介したい。 なお、本文中の変動の幅を表す用語は次のとおりであり、特に断り書きのない限り前年 度(前年同期、前年同月等)に対するものである。 [変動の幅を表す用語] わずか・・・・・・・・±2%台以内 やや ・・・・・・・・±3〜5%台 かなり・・・・・・・・±6〜15%台 かなりの程度・・・±6〜10%台 かなり大きく・・・±11〜15%台 大幅・・・・・・・・・±16%台以上
1 牛肉 (1)消費 1人・一年当たりの牛肉消費量を消費形態から「家計消費量」と「加工・外食等消費量」 (ハム・ソーセージ等の加工品、そう菜などの調理食品、外食等の消費量(一部調理を要 する半調理品も含む)。以下同じ。)に区分してみると、いずれも増加傾向で推移してお り、特に加工・外食等消費量は、食の外部化・サービス化の進展もあって、家計消費量よ りも高い伸びを示している。 6年4〜9月間は、家計消費については、販売価格が低下していること、夏の焼肉用の 需要が好調であったこと等から前年同期に比べ5.0%増となっている。なかでも、和牛の 消費については、その販売価格が低下していること、販売の主力を和牛へシフトさせてい る量販店が一部みられること(販売店にとっては輸入品に比べ利ざやが大きく、また、特 売品としても魅力がある。等から増加する傾向がみられ、牛肉購買量に占める和牛の割合 が増えている。また、加工・外食等消費量については、安価な輸入牛肉の出回り量の増加 等により前年同期の12.3%増となっている。 このようなことから、全体では前年同期に比べ9.0%増となっている。 6年度下期のい牛肉の消費量は、牛肉の販売価格の低下等から、引き続きかなりの程度 増加すると見込まれる。
(2)供給 ア・国内生産 成牛と畜頭数は、肉用種については、62年度からの堅調な子牛価格を反映して講師出 産数が増加したこと等から、その子牛の出荷時期となる元年度以降増加傾向で推移してお り、6年4〜9月間は、9.3%増となった。一方、乳用種は、牛乳・乳製品需要の増加を 反映した経産牛飼養頭数の増加に伴い子牛生産頭数が増加したことから、2年度後半から 4年度まで増加した。しかし、5年度以降は減少に転じ、6年4〜9月間は4.2%減とな っている。 この結果、6年4〜9月間の全体の成牛と畜頭数は1.1%増となっている。1頭当たり 枝肉重量は、6年4〜9月間は、去勢和牛、乳用肥育去勢牛に比べ枝肉重量が小さいめす 和牛、乳用めす牛の出荷頭数に占める割合が増加したこと等により、肉用種、乳用種とも わずかに減少し、全体では0.4%減となっている。 この結果、成牛の枝肉生産量は、乳用種が減少したものの、肉用種が成牛と畜産数の増 加により増加したことから、全体では0.7%増となった。 6年度下期の成牛と畜頭数は、おおむねこの時期に出荷を迎えるとみられる子牛の生産 動向(肉用種は出荷時から約29か月前、乳用種は出荷時から約21か月前の子牛の生産動向) 等からみると、肉用種は引き続き増加するとみられること、乳用種は減少するとみられる ものの乳用経産牛の出荷が見込まれることから、全体ではわずかに減少するとみられるも のの、成牛と畜頭数がわずかに増加するとみられることから、成牛枝肉生産量はわずかに 増加すると見込まれる。
イ・輸入 63年度から2年度までの牛肉の輸入数量は、日米・日豪合意に基づく輸入枠の拡大に伴 い増加した。こうした輸入枠拡大の一方で、消費量の伸びが元年度に鈍化したこと等から 在庫量が増加し、輸入自由化直前の3年3月末には約10万トンとなった。 輸入自由化後の牛肉の輸入数量については、3年度には、冷蔵品の輸入数量は消費者の 生鮮品志向から前年度を上回ったものの、冷凍品の輸入数量は在庫が高水準であったこと から前年度を大幅に下回り、全体では14.9%減となった。 しかし、4年度は、輸入品の在庫量が前年に比べて大幅に減少したこと、関税率が引き ざげられたこと(70→60%)等から大幅な増加となり、5年度は、円高が進んだこと、関 税率が更に引き下げられたこと(60→50%)等から33.9%増と引き続き高い伸びとなった。 6年4〜9月間は、冷蔵品は引き続き増加してるものの、在庫水準が高かったこと等か ら冷凍庫がかなり減少しており、全体では前年同期に比べ、1.1%減となっている。 なお、6年4〜9月間の在庫数量は、消費が引き続き増加するなかで、輸入量がわずかに 減少していることから、減少傾向で推移している。 6年度下期の牛肉の輸入数量は、消費が引き続き増加するとみられること、在庫水準が 低下傾向で推移していること等から、かなり増加すると見込まれる。
(3)価格 取引規格別枝肉卸売価格(東京)を去勢和牛についてみると、3年度以降景気が低迷す るなかで国内生産量が増加したこと等から規格が低いものほど低下傾向が顕著に現れた。 しかし、5年度以降は下げ止まりとなり、ほぼ横ばいで推移している。 一方、乳用肥育去勢牛は、規格が低いものほど輸入牛肉との競合による影響が早期に現 れており2年度から低下してきた。しかし、6年度に入ると「B-3」及び「B-2」の加重平 均)についてみると、3年度後半から4年度にかけて低下傾向で推移し、5年度には前年 度を3.1%上回ったものの、6年4〜9月間は、前年同期を2.7%下回る989円/kgとなって いる。 6月期下期の牛枝肉卸売り価格(「省令」規格)は、消費が引き続き増加するとみられ るものの、輸入数量が増加するとみられること等から、わずかに下回ると見込まれる。
2 豚肉 (1)消費 最近の1人・1年当たりの豚肉消費量を消費形態から「家庭消費量」と「加工・外食等 消費量」とに区分してみると、食の外部化・サービス化の進展等から、家計消費量が増加 傾向で推移しており、全体ではほぼ横ばいとなっている。しかし、5年度は、景気低迷に 伴う内食回帰の影響もあって、これまで減少傾向にあった家計消費量が増加に転じる一方 、景気の低迷等により、特に外食での消費が低迷したとみられることから加工・外食等消 費量が減少し、全体の消費量は0.6%減となった。 6年4〜9月間は、家計消費量は、今夏の猛暑等の影響もあって3.5%減となったもの の、加工仕向量の増加により加工・外食等消費量が3.1%増と再び増加に転じ、全体では 前年同期に比べ0.4%増となっている。 6年度下期の豚肉の消費量は、家計消費量が減少するものの、加工・外食等消費量が増 加するとみられることから、全体ではほぼ前年並みと見込まれる。
(2)供給 ア 国内生産 肉豚と畜頭数は、子取り用めす豚頭数が減少していることから2年度以降前年を下回 って推移した。しかし、5年度は子取り用めす豚頭数の減少率が鈍化したこと(3年2 月:6.0%減、4年2月:4.5%減、5年2月:1.7%減)、事故率の低下等飼養管理技 術の向上がみられたこと等から0.4%増となった。 6年4〜9月間の豚肉と畜頭数は子取り用めす豚頭数が減少したこと、猛暑の影響に より夏場の出荷頭数が減少したこと等から、前年同期に比べ3.5%減となった。また、 6年4〜9月間の豚枝肉生産量は、このようなと畜頭数の減少に加え、猛暑の影響によ り特に夏場の1頭当たり豚枝肉重量が減少したことから、前年同期に比べ4.7%減とな った。 6年度下期の肉豚と畜頭数は、飼養農家戸数の減少に伴い子取り用めす豚頭数が引き 続き減少していること等から、やや減少すると見込まれる。 イ 輸入 豚肉の輸入数量をみると、3年度は、加工品消費量の回復に伴い冷凍品が増加したこ とに加え、国内生産の減少を反映して冷蔵品が台湾産を中心に急増したことから、全体 では29.4%増と大幅に増加した。また、4年度は、在庫水準が高かったことから冷凍品 が5.6%減となったものの、冷蔵品が61.1%増と引き続き大幅に増加したことから、全 体では5.7%増となった。しかし、5年度は、国内価格が低水準で推移したこと等から 冷蔵品の伸びは7.0%増と鈍化した。また、冷凍品は、加工・外食等の消費が低迷した こと等から5.8%減と引き続き減少し、全体では2.6%減と減少に転じた。6年4〜9月 間は、夏場の国内生産の減少により国内価格が上昇したことから冷蔵品が増加しており、 前年同期に比べ11.4%増となっている。6年度下期の豚肉の輸入数量は、夏以降の輸入 の急増により在庫水準が高まり、価格が軟調に推移していることから手控えられる動き もみられるものの、国内生産が減少するとみられること、加工・外食等需要が堅調とみ られること等から、やや増加すると見込まれる。
(3)卸売価格 豚枝肉卸売価格(「省令」規格(「極上」及び「上」規格の加重平均)、ただし東京) は、4年度は、国内生産量が減少したものの、冷蔵品の輸入数量が大幅に増加したこと から、夏期の価格が3年のように高騰することなく推移した。5年度は、景気の低迷に より加工・外食等消費量が減少したことなく推移した。5年度は、景気の低迷により加 工・外食等消費量が減少したこと、冷蔵品の輸入が引き続き増加したこと、国内生産が わずかながらも増加したこと等から前年度を10.2%下回った。6年4〜9月間は、猛暑 等の影響により国内生産量が減少したことから特に、8、9月と高騰し、前年同期を4.2 %上回る498円/kgとなっている。 なお、10月に入り国内の生産が回復するとともに、卸売価格が主要市場において、 安定基準価格(400円/kg)を下回る状況になったことから、生産団体や加工業者団体に よる調整保管が実施されている。 6年度下期の豚枝肉卸売価格(「省令」規格)は、冷蔵品の輸入が増加するとみられ るものの、国内生産量が減少すること等から、前年並みないしわずかに上回ると見込ま れる。
3 牛乳・乳製品 (1)消費 最近の飲用牛乳の消費量を飲用牛乳等向け処理量でみると、62年度〜2年度には成 分がグレードアップされたこと、消費者ニーズの多様化に対応して品揃えが増えたこと、 健康志向の高まりを背景に良質たん白、カルシウム等の供給源としての牛乳に対する認 識が浸透してきたこと等から増加した。しかし、3年度以降天候の不順等から再び伸び 悩む傾向にあり、5年度は記録的な冷夏による影響もあって1.5%下回った。6年4〜 9月間は、天候が順調であったこと等から増加に転じており、今夏の猛暑にも後押しさ れ特に8月には対前年比13.1%増となるなど、前年同期に比べ5.9%の増加となってい る。 一方、乳製品の消費量は順調な拡大を続けてきたものの、4年度以降は景気低迷によ る影響等から全体としては停滞していた。しかし、6年4〜9月間は、記録的な猛暑の 影響もあって飲用向け、はっ酵乳向け等の需要が好調なことから、脱脂粉乳等を中心に 賢調に推移している。 6年度下期の飲用牛乳の消費量は、秋に入っても前年を上回って推移していることか ら、わずかに増加すると見込まれる。
(2)供給 ア 国内生産 生乳生産量は、生乳需要の増加を反映して62年度以降増加傾向にあったが、2年度 は夏期の猛暑による影響等から伸び悩んだ。3年度に入っても昨年の猛暑の後遺症は続 いたが、8月以降搾乳牛頭数が回復してきたこと等から前年を上回って推移し、4年度 は3.3%増となった。しかし、5年度は、生乳需給の緩和を背景として、年度途中から 生産者団体による自主的な計画生産が前年に比べ減産とされたため、0.8%減と減少に 転じた。 6年度は、バターの在庫水準が依然高いこと等から引き続き減産の計画となったこと に加え、記録的な猛暑の影響により1頭当たり生乳生産量が減少したことから、6年4 〜9月間は前年同期に比べ2.7%の減少となっている。 なお、このような中、乳用牛の飼養頭数をみると、6年8月は、経産牛のうち搾乳牛 については、夏場の猛暑のなか生乳生産を確保するため、前年同月に比べ1%の減少に とどまっている(経産牛全体では2%減であるが、搾乳牛の割合が高まった。)が、未 経産牛については、これまでの生乳需給の緩和を反映して6%程度減少しており、後継 牛への影響が懸念される。 次に、生乳の処理量の推移を用途別にみると、優先的に仕向けられる飲用牛乳等向け 処理量は、3年度以降伸び悩む傾向がみられ、5年度では記録的な冷夏による影響もあ って1.5%減となった。しかし、6年4〜9月間は猛暑の影響から増加に転じ前年同期 に比べ5.9%増となっている。一方、乳製品向け処理量は、2年度には猛暑の影響から 生乳生産が伸び悩むなかで、飲用牛乳の消費が増加したことから前年度を2.3%下回っ たが、3年度は、生乳生産量が回復するなかで飲用牛乳の消費の伸びが鈍化したことか ら増加に転じた。 その後5年度半ばまでかなり高い伸びを示したが、後半は生乳の生産計画が前年に比 べ減産とされたことから前年を下回って推移した。 6年4〜9月間は、減産計画、猛暑の影響より生乳生産が減少する中で、飲用牛乳等 向け処理量が増加したことから、乳製品向け処理量は前年同期に比べ16.1%減と大幅に 減少している。 このように生乳の乳製品向け処理量が減少する一方で、乳製品の需要は、記録的な猛 暑の影響もあって賢調に推移している。このため、バターの在庫は依然として高い水準 にあるものの減少しており、脱脂粉乳の在庫については、飲用向け、はっ酵乳向け等の 需要が好調なことから減少し、需給がひっ迫している。 なお、生産者団体は、生乳需給がひっ迫していること等から、今年度に限り特別生産 枠を設定し追加生産を行うこととしている。 6月度下期の生乳生産量は、飲用牛乳等向けなど生乳需要のひっ迫はみられるものの、 バターの在庫水準が依然高いことを背景とした生産者団体による自主的な計画生産の取 組等からみて(特別枠の追加生産分を加味しても)、わずかに減少すると見込まれる。 また、用途別処理量については、飲用牛乳等向け処理量は、飲用牛乳の消費動向から わずかに増加すると見込まれる。 一方、乳製品向け処理量は、生乳生産量がわずかに減少するとみられるなかで、優先 的に仕向けられる飲用牛乳等向け処理量がわずかに増加するとみられることから、かな り減少すると見込まれる。
イ 輸入 乳製品の需要調整を図るために畜産振興事業団が一元的に輸入する指定乳製品につい てみると、3年度は乳製品需給のひっ迫から、バター1万4,500トン、脱脂粉乳3万 7,500トンが輸入された。 4年度は、夏期の需要期の需要及び価格の安定を図るため、年度前半に脱脂粉乳1万 6,800トンの輸入が実施された。 その後は乳製品需給の緩和から輸入されなかったが、6年度は、夏期の猛暑により 脱脂粉乳の需給がひっ迫していることから、当面13,000トンの脱脂粉乳を輸入するこ ととしている。
(3)価格 生乳農家販売価格(総合乳価・全国)は、3年度は、需給実勢を背景に生産者団体と 乳業者の交渉によって決定される飲用乳価が年度半ばから引き上げられたこともあって 前年度を0.5%上回り、4年度は、飲用乳価、加工原料乳保証価格とも据え置かれたこと 等から、ほぼ前年度並みとなった。 しかし、5年度に入ると加工原料乳保証価格は据え置かれたものの、生乳需給の緩和 を反映して飲用乳価が引き下げられたこと、生乳処理量に占める飲用牛乳等向け処理量 の割合が低下したこと等から前年度を2.1%下回る87.1円/kgとなった。 6年4〜9月間は、加工原料乳保証価格、飲用乳価とも引き下げられたこと等から前 年度を2.1%下回る85.7円/kgとなっている。 6年度下期の生乳農家販売価格(総合乳価・全国)は、飲用牛乳等向けの出荷割合は 増加するものの、加工原料乳保証価格が引き下げられたこと、生産者団体と乳業者の交 渉によって決定される飲用乳価が引き下げられたこと等から、わずかに下回ると見込ま れる。