◇ 中央畜産技術研修会から

「食品業界における流通動向と

        乳業の販売戦略」

 

  雪印乳業株式会社 量販企画部長   須 永  靖 夫


 10月上旬に農林水産省畜産局の中央畜産施術研修会 (酪農) が開催されましたが、 
その中で 「食品業界における流通動向と乳業の販売戦略」 という題目で、 最近の小売
業の業態の変化と同社の販売戦略について、 雪印乳業株式会社量販企画部長の須永靖
夫氏から講議がありました。 同氏の了解を得てその要約を紹介します。 
  
 小売業の戦略転換
業態の変化 
 
 我が国の小売業の食品販売額は約40兆円 (1991年) ですが、 GMS (大型総合スーパ
ー)、 SM (スーパーマーケット)、 コンビニエンスストアの三つの業態で35%を占めて
います。 2000年の予測では、 約45兆円ぐらいまで増大し、 三つの業態の中でもSMとコ
ンビニが伸びると言われています (図1)。 
 アメリカでは規制緩和が進んでおり、 大型店でも24時間営業をしてよいことからコ
ンビニは全然振るっていません。 コンビニとSMには車で5分か10分で行くかだけの差
でしかないので、 品揃えが多く、 値段が安いSMのほうにお客さんが集まってくるのは
当然のことです。 
 また、 いま日本でデパートが非常に不振だというのは、 「何でもある」 ということ
が、 逆の意味では 「何にもない」 ということに通じてきているからです。 デパートに
は今、 100万アイテムがあると言われています。 普通のお店は3万から5万アイテム
しかものを置いていない。 間口を広げすぎたために、 ほしいものを探しにくると 「何
にもない」 というのが今のデパートが非常に苦戦している、 お客さまが寄りつかなく
なってきている最大の理由です。 
  したがって、 GMSは食品を中心としたSMに食品部門を取られ、 さらにトイザらスの
ような新業態であるカテゴリー・キラーに大きく伸びる部分を抜かれているので、 デ
パートと同じ運命をたどる危険性があります。 そこで今、 ダイエー、 イトーヨーカ堂
などの大手のスーパーがやろうとしているのが、 新業態の開発です。 
上位チェーンの寡占化

  各国の大手10社が食品小売高の何%ぐらいを占めているかを見てみると、 日本の食
品販売額55兆円のうち大手10社のシェアは18%でしかありません。 イギリス、 フラン
スなどでは全体の4分の3を大手10社が占めています。 アメリカは34%ぐらい。 日本
も70とか80までは無理としても、 アメリカのように3割近くまでは大手による寡占化
が進むのではないかと一般的に言われています。 


マーチャンダイジングの変化

  マーチャンダイジング (注) のなかでどんな変化が起きているかを見てみますと、 
日本の流通業がいま志向している方向性は、 「店をどういうふうにつくっていくのか」
と 「オペレーションの問題としてローコストでどうやって運営していくのか」 の二つ
に分かれるのではないでしょうか。 競争に打ち勝つために必要なのは差別化ですが、 
その差別化をどうやって作っていくのかが非常に大きなポイントになっています。 
 (注) 商品流通の合理的な管理方法で、 適正な販売数量・価格・時期などを検討して
、 商品を市場に流すこと。 
商品の共同開発

  差別化のひとつがメーカーとの商品の共同開発です。 特に大手ほどPB (プライベー
トブランド)、 NB (ナショナルブランド) を問わず、 独自の商品をつくって差別化を図
っていきたいという気持ちが強まっています。 これに代表される動きがイトーヨーカ堂
におけるグループ・マーチャンダイジングです。 
 小売側は、 POS情報によって自分たちの商圏の中でいま何が売れているか、 何の売上
が下がってきているかを把握しています。 そして常に回転率が良く、 売れる商品で埋め
ていこうというのが今の基本的な考え方です。 小売側がそういった情報を提供し、 メー
カーにお客さんの情報に沿った製品をつくってもらう。 
 今までメーカーは、 スーパー、 コンビニのどちらにもどうぞというものを提供してい
ました。 しかし、 量販店は、 販売の手段として特売ができますが、 コンビニは利便性を
武器に売っていますから、 値引きをして売るということはやらない。 そうすると、 全く
同じ品物でありながらコンビニとスーパーでは値段が違うという大きな矛盾が出てきま
す。 
 価格破壊などというシビアな状況が続いていきますと、 コンビニ側から 「おかしいじ
ゃないか。 同じものがなんでそんなに値段が違うんだ」 という抗議の声が強くなってき
ます。 今までは 「業態が違うからしようがない」 という解釈で、 皆さんが暗黙の了解を
していたんです。  差別化のひとつがメーカーとの商品の共同開発です。 特に大手ほどPB
 (プライベートブランド)、 NB (ナショナルブランド) を問わず、 独自の商品をつくっ
て差別化を図っていきたいという気持ちが強まっています。 これに代表される動きがイ
トーヨーカ堂におけるグループ・マーチャンダイジングです。 
 小売側は、 POS情報によって自分たちの商圏の中でいま何が売れているか、 何の売上が
下がってきているかを把握しています。 そして常に回転率が良く、 売れる商品で埋めて
いこうというのが今の基本的な考え方です。 小売側がそういった情報を提供し、 メーカ
ーにお客さんの情報に沿った製品をつくってもらう。 
 今までメーカーは、 スーパー、 コンビニのどちらにもどうぞというものを提供してい
ました。 しかし、 量販店は、 販売の手段として特売ができますが、 コンビニは利便性を
武器に売っていますから、 値引きをして売るということはやらない。 そうすると、 全く
同じ品物でありながらコンビニとスーパーでは値段が違うという大きな矛盾が出てきま
す。 
 価格破壊などというシビアな状況が続いていきますと、 コンビニ側から 「おかしいじ
ゃないか。 同じものがなんでそんなに値段が違うんだ」 という抗議の声が強くなってき
ます。 今までは 「業態が違うからしようがない」 という解釈で、 皆さんが暗黙の了解を
していたんです。 
PB戦略

 もう一つにPB戦略があります。 
  最近の価格破壊の中でPBが見直されてきています。 これは景気が非常に悪いというこ
とが背景にあるような気がします。 
  なぜPB商品をつくるのかは、 メリットを見ていくとわかりやすいと思います。 小売側
から見ると、 NB商品の場合は、 ものがタイトになってくると、 いくら注文しても入って
こないということがありますが、 PB商品は自分の責任で全部買い取るわけですから、 必
ず優先的につくってもらえる。 それからストアロイヤリティーのアップがあります。 要
するに、 そのお店にしかない商品を置くことによって他の店との差別化ができるのです。 
 メーカー側からみると、 一つのまとまった量の生産体制が組めるということで操業度
がアップし、 非常にメリットがあります。 すでにある工場の施設を使って商品を作るわ
けですから新規や追加の設備投資も要らず、 また、 まとめて生産しますからスケールメ
リットで安くできるのです。 
 さらに広告や販売促進がいらないということがあります。 特定の店だけに供給する商
品だったら広告を打つ必要はないわけで、 販売経費が非常に安くて済みます。 
戦略的同盟

 もう一つ、 流通業の中だけでなんとかしようということではなく、 枠を超えて、  「戦
略的同盟 (ストラテジック・アライアンス)」 という言い方をしていますが、 メーカーと
流通業が一緒にやろうという動きがでてきています。 今までどちらかというと、 一つの
利益、 あるいはパイを取り合うという関係が強かったのを単なる取引ではなく企業と企
業でどういう取り決めができるかをトップまで交えてやっていこう。 これが最近の大手
のメーカーと大手の小売業のなかで出てきた動きです。 
 その例がアメリカのウォルマートとP&G (プロクター・アンド・ギャンブル) が7年
ぐらい前から取り組んでいるものです。 ウォルマートは今年で7兆5, 000億円ぐらいの
売上で世界で一番ものを売っている小売業で、 P&Gは、 日本にも進出している企業です。 
 この関係の基本的な考え方は、 どっちが勝つか、 負けるかの関係ではなく、 両方とも
儲かるようにしよう (ウイン・ウイン・シチュエーション) というものです。 
  そのためにどういうことをやったかといいますと、 ウォルマートがP&Gにいろいろな
情報を積極的に提供し、 生産計画をきちっと作ってもらい、 生産、 物流、 販売の無駄を
省いて利益を生み出し、 その利益をお客さんと3者で分け合うのです。 そのために次の
四つの合理的取引制度を再構築して、 他社との差別化を図っています。

@ EDI (エレクトリック・データ・インターチェンジ) は、 システムの高度化によっ
  て両者のコンピューター間で各種の情報が瞬時に流れるようにすることです。 
A EDLP (エブリ・デー・ロー・プライス) は、 最近、 日本でも定着しましたが、 値段
  を日によって高くしたり安くしたりしないで、 いつも同じリーズナブルな価格で品
  物を売っていくという考え方です。 これがなぜ大事かといいますと、 日によって売
  場の値段を変えると、 ものの流れが非常にイレギュラーになります。 また、 毎日ト
  ラック1台で配送できていれは非常に計画的な配送ができるのに、 ある日は2台必
  要、 ある日はぜんぜん要らないとなると、 むだな経費がかかってくる。 そういうこ
  とをなくそうというのがこの考え方です。 
B バリュー・プライシングは、 一言でいえば、 こういう価格で売ったら、 それに対し
  て幾ら儲かるかということをオープンにして、 常にコンスタントに同じような流れ
  でものが動くようにすることです。 
C カテゴリー・マネージメントは、 売場を単品ではなく、 一つのカテゴリーにして管
  理していくことです。 今までどちらかというと、 牛乳なら牛乳でいくら売れる、 い
  くら買うという管理の仕方でしたが、 要するに牛乳類や飲料という枠まで広げたと
  きに売場はどうあるべきかという概念で少し枠を広くみて売場をつくるのです。 
 

雪印乳業の戦略的対応

ロジスティックスの強化

  乳業として私どもの施策の中で、 ロジスティックス (市場動向に敏感な情報システム
と物流システムの組み合わせ) と実際に消費者の動きに対応してどういうプロモーショ
ンをしていくのかということが非常に大きな問題になってきています。 
 食品のロジスティックスは、 図2のように各工場がそれぞれの自分の中間デポ、 要す
るに営業倉庫に商品を入れます。 営業倉庫からその商品を特約扱いしている特約店に届
け、 特約店が小売店へ届けます。 流れとしてはこの4段階。 しかし、 その間、 Bメーカー
のものが中間デポへ入ったら、 他の中間デポから同じ特約店に来る。 この特約店がいろ
いろな中間デポから来た商品をまとめて小売店に配達しますので、 このへんが日本では
、 非常に複雑になり、 経費がかかる原因になっていました。 
 それを10年前から図3の 「流通センター構想」 を打ち出し、 私どもで運営することに
しました。 私どもの商品も他のメーカーの商品も流通センターへ一緒に持って来る。 そ
して、 小売店ごとに共同保管・共同配送し、 トラック1台でまとめて届ける。 こういう
形で全国の地域を統廃合して整理しました。 
 今までは11の関連物流会社がテリトリーを分けてやっていましたが、 大変複雑だとい
うことで、 93年10月に流通関連5社が合併し 「雪印アクセス」 をつくりました。 残念な
がら北海道がまだ遅れていますが、 北海道を除く全国各地はこの1社で全部包括できる
ような物流体制を構築しています。 最大の特色は、 ドライ、 チルド、 フローズンの全温
度帯をカバーしていることで、 将来的にはコンピューターを使った一つのネットワーク
をつくっていきたいと考えております。 
 
プロモーションの強化
消費者購買行動の分析

 従来は 「4P (Product、 Price、 Place、 Promotion)」 という言い方をしていました。 
Product は製品のことで、 特に牛乳・乳製品は、 腐敗しやすい、 傷みやすく、 Priceは
原料乳価の制約、 価格弾力性が少なく、 Placeとはチャネル (流通経路) のことですが、 
特約店を通じて売り、 Promotionでは食生活、 メニュー提案、 店頭重視ということを留
意してやってきました。 最近、 私どもは 「4P」 を次のような 「4C (Consumer, Cost 
to satisfy、 Convenience to buy, Comunication)」 に変えたいと思っています。 @ 
Consumerは、 お客さんの中でも主婦をターゲットにする。 A Cost to satisfyは、 品
質・ブランドに対するコストに満足を得られるようにする。 B Convenience to buyは、 
今の物流体制も含めて、 全国どこに行っても同じものが安心して購入できるようなチ
ャネルを構築する。 C Comunicationは、 単に店頭活動だけではなく、 マスコミ、 特に
パブリシティーも含めて展開する。 最近は、 マスコミでやるとかえって売れないとい
う話もあります。 
  何が効果があるかというと、 お店とタイアップして出している雑誌、 あるいはNHKの
『きょうの料理』 等に載った素材がものすごく売れるとか、 非常にミニコミ的な動き
が顕著になってきているようです。 
店頭プロモーションの強化

  POPAI−JAPAN (日本POP広告協会) というところが4, 000人ぐらいのお客さんに店頭
で面接調査をした結果をみると、 何を買おうか決めてこない、 決められないでお店にく
るお客さんが実に8割以上いるのです。 お客さんというのはお店へ来る前までに何を買
うか決めてこられている方が多いんだろうと思っていたら、 意外や意外という感じです。 
  また、 実際に商品を買う動機も、 必ずしも安いから買うということは常にトップの理
由には現れない。 面接調査ですから 「私、 安いから買いました」 とはなかなか言いづら
いという心理的な面もあるのかもしれません。 しかし、 3分の2くらいは非価格要因で
、 何に使うかという必要性をきちっとわきまえて買われている。 
  したがって、 メーカーが定番の売場でお客さんにきちっとプロモーションしていくこ
とが、 小売の店頭においてやるべき非常に大切なこととなります。 品切れをさせないと
いうことだけではなく、 訴求ポイントをきちっとわかるようにする。 またメニューカー
ドみたいなものも付けて一緒に使い方まで啓蒙することが、 情報の発信の場として活用
するという店頭活動の基本になってきます。 
  牛乳ですと、 濃厚の4. 2牛乳から無脂肪牛乳までいろいろなアイテムがありますが、 
そういうものを一つの牛乳のカテゴリーとして見たときに、 この売場の中でどれに的確
な棚割り、 役割を持たせるのか。 例えばいちばんメーンの3. 5牛乳でしたら、 儲けはあ
まりなくても売上を稼ぐためにこの商品を並べたい。 あるいは無脂肪牛乳でしたら健康
志向ということで売場に対してお客さまのニーズ、 そういう健康志向のお客さまにお店
が対応しているよと、 一種のプロパガンダに使いたいという役割もあるかもしれない。 
それから4. 2牛乳でしたら最近のはやりのヨーグルトキノコみたいな一つの用途として
使ってもらいたいという役割を持たせることになります。 
 要は、 どうやってメーカーと消費者の接点である売場でお客さんに対応するかという
ことです。 メーカーというのは、 ふだんそういう接触の場がないものですから極力一定
の時期を決めて、 プロモーションや、 キャンペーンをやっていきたいと考えています。 
お客さんと乖離しない存在をどうやって維持するかということが最大のテーマになるの
です。  
コンシューマー・サティスファクション
  
  競争が激しくなるなかで、 メーカーが自分たちの存在価値をわかってもらい、 お客さ
んに理解してもらえるような政策をとるということが非常に大事になってきます。 
 小売業は、 寡占化が進み、 競争が激しくなっていきます。 業態がどういうふうに分か
れていくのか注目をしていかないと、 対応を見誤るという気がします。 最終的には業態
別に合った製品開発ということも必要になってくると思います。 
 価格が非常に安い方向に向かっていくことは、 あらゆる面からみて明らかです。 自分
自身でいかにリエンジニアリングするか、 あるいは国際的分業で海外で安くできるもの
はそこで供給する対応をとる、 こういう対応の仕方がメーカーとしても迫られてくるで
しょう。 産業の空洞化という問題はありますが、 選択肢の一つにそういう生産基地とい
う問題も国内だけにとらわれていたのでは大変ではないかという気がします。 
 それから製造メーカー、 問屋、 小売業という枠を超えて、 ここぞと思うところとは同
盟を組むという対応も必要になってきます。 
 そして何より大事なのは、 お客さまの満足、 コンシューマー・サティスファクション
 (CS) をどうやって勝ち取るのかということです。 この思想がないと、 これからメーカ
ーでも問屋でも小売業でも存在価値がなくなってきます。 
 結局は買い手市場なわけですから、 お客さまの動き、 考え方、 意識に対して常にアン
テナを張り巡らせて掌握できるような体制をつくっておく。 私どもも消費者のモニター
を持っていますけれども、 こういうところから入ってくる情報というのは間接的なわけ
です。 ですから実際の消費者に一番近い情報をどうやって掴んでいくのか。 こういうシ
ステムを持っている会社がこれから非常に強くなります。 そこから発せられた情報で商
品政策を組んで、 商品開発を行い、 販売政策をとっていくのです。 こういうことがます
ます必要になってくると考えています。 

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