◇ 投 稿

 バター・脱脂粉乳の需給対策と

  バター・生クリームの需要拡大

 

  社団法人日本乳製品協会  業務部長 石田 洋一


 
  11月5日に社団法人日本乳製品協会が主催する 「バター・生クリームを使ったプロ
による洋菓子・パンコンクール」が行われました。
同協会の石田業務部長から、 バター・脱脂粉乳の需給対策とバター・生クリームの消
費拡大を図るためのイベントとして開催された同コンクールについてご投稿いただき
ました。   
 はじめに
 (社)日本乳製品協会は、 昭和23年に設立され、 一貫してわが国の酪農・乳業の振興
と乳業者の社会的地位向上、 経済的基盤の安定確立に努力してきた。 その目的を達成
するために次のような事業を行っている。 

@  牛乳・乳製品の品質向上に関する事項
A 乳業および酪農の発展合理化推進に関する事項
B 牛乳・乳製品に関する知識の普及および消費拡大に関する事項
C 官公署・諸団体との連絡および陳情建議
 
 現在、 酪農・乳業界においては消費者ニーズの変化、 貿易の自由化等により、 従来
の産業構造の変革が迫られていることから、 この対応策として、 乳製品の内外価格差
縮小のための献策、 今回のテーマでもあるバター・脱脂粉乳の需給不均衡対策、 関連
法規改正等に対する業界としての意見具申などを行っている。 現在の会員数は乳製品
製造メーカーなど18社である。 
バター・脱脂粉乳の需給不均衡
−低脂肪乳の拡大−
  
  現在、 わが国の飲用牛乳市場はおよそ9, 300億円に達する巨大市場であるが、 中長
期的には低成長の成熟した市場である。 しかし、 飲用牛乳市場の中で低脂肪乳は消費
者の健康志向により近年2ケタの成長を続けており、 飲用牛乳市場の中での構成比が
10%に近づきつつある。 
 比較のためにドイツとアメリカをみると、 平成4年で脂肪率2%以下の低脂肪牛乳
の構成比は、 ドイツが29%、 アメリカが60%となっている (表1) 。 
  他の先進国も同様な傾向であることを考えると、 わが国でも低脂肪乳の売上高は今
後上昇し、 構成比がドイツ並みの30%になることも想定される。 その場合には、 無脂
乳固形分 (SNF) すなわち脱脂粉乳の需要が増大することになる。 
−消費者の脂肪離れ−

 5年度末に厚生省から発表された国民栄養調査結果によると、 エネルギーの栄養素
別摂取構成比は図1のとおりである。 脂肪の過剰摂取は心疾患、 がん等の成人病ある
いはそれにつながる肥満のリスクが増大することが疑われており、 その点から摂取エ
ネルギーに対する脂肪の比率は25%が上限とされている。 しかし、 昭和63年にこの比
率を超え、 現在も少しずつ上昇しているところである。 
 次に、 わが国の脂肪の総摂取量に対する国産の生乳に由来する脂肪の割合を推定し
てみると、 脂肪の総摂取量は平成4年に265万トン程度であった。 同年度の生乳生産
量は861万7千トン、 平均の脂肪率は3. 778%であることから生乳に由来する脂肪は
32万6千トンであった。 この2つの数字から、 脂肪の総摂取量に対する国産の生乳に
由来する脂肪の割合は12. 3%となる。 過去についても、 同様の計算をすると、 脂肪
の総摂取量の伸びに比較して生乳由来の脂肪の伸びが大きく、 乳脂肪の構成比が年々
増大している。 
  バター・脱脂粉乳の需給不均衡をいくらかでも緩和すべく、 バター・生クリームの
需要拡大はわれわれの重要な課題であるが、 上述のように成人病予防のため脂肪の摂
取量を注意しようとしている現状にあり、 乳脂肪の需要拡大はその特質を生かして他
の脂肪分からの置換によらざるを得ない。 
−バター・脱脂粉乳の需給不均衡−
 
  過去20年をみると、 生乳生産量の増加と脂肪率の向上により、 乳脂肪の生産量はコ
ンスタントに増加してきた。 一方、 SNFの増加率は乳脂肪のそれより低く、 また、 需
要も前述したように、 SNFに傾斜している。 このような状況からここ数年、 バター・
脱脂粉乳の需給不均衡が重大な問題になっている。 
 ここでは、 7年度の生乳需給をケーススタディーとして取り上げ、 バターと脱脂粉
乳の同年度末在庫レベルを試算してみた。 なお適正在庫レベルはバター2カ月、 脱脂
粉乳1. 5カ月とする。 
@  6年度の実績見込みは下記のように見込まれる。 中央酪農会議が11月10日に特別 
  生産枠7万5, 000トンを設定したこと、 農水省が11月11日脱脂粉乳の緊急輸入を 
  発表したことにより、 脱脂粉乳の年度末在庫レベルはかなり改善する。 
   
   (  ) は5年度年比  
   生乳出荷量       8, 180千t ( 97. 3%) 
  飲用牛乳等向け生乳   5, 250   (104. 3 ) 
  特定乳製品向け生乳   2, 170   ( 81. 9 ) 
  バター需要量      93. 3    (104. 4 ) 
  脱脂粉乳需要量     227. 0   (107. 7 ) 
  年度末バター在庫月数  4. 6カ月   
   年度末脱脂粉乳在庫月数  1. 3カ月 
A 7年度の生乳・バター・脱脂粉乳需給計算を次の条件を仮定して行った。 
   
    ア 生乳出荷量は3つのケースを考え、 それぞれ6年度比で、 
     T 99. 0%、U 100. 0%、 V 101. 0%とした。    
    イ 飲用牛乳等向け生乳は、 6年度比 98. 8% 
   ウ バター消費量・脱脂粉乳需要量については6年度は猛暑の影響が大きいこと
        から5年度の102. 0%と仮定した。 
       
        バター需要量   6年度比 97. 7% 
       脱脂粉乳需要量  6年度比 94. 7% 
  @の年度末在庫月数、 Aの条件下において、 生乳出荷量を3つのケースとしたとき
の計算結果を次のグラフに示す。  
  生乳生産量が6年度比で99. 0%と減少すれば、 バターの7年度末在庫は2. 2カ月
と適正在庫に近づくが、 脱脂粉乳は、 カレントアクセスを入れて年度末在庫は0. 5カ
月となり、 大幅に不足する。 一方、 生乳生産量が6年度比101. 0%に増加すると、 脱
脂粉乳の在庫は1. 2カ月と適正在庫にいくらか接近するが、 バターの過剰在庫の圧縮
は遅れる。 
 このように、 バターと脱脂粉乳の需給は片方を満足させれば、 片方がうまくいかな 
いという不均衡の関係にある。 今後、 バター・脱脂粉乳の需給の不均衡はますます広 
がることが予想されている。 単に生乳生産量を減らしたり、 増やたりするだけでは問 
題の解決につながらない。 生乳生産の面で見れば、 むしろ、 ミニマムアクセスに加え 
て一定の不足分 (現在の場合は脱脂粉乳) の輸入を是認することにより、 年毎の変動 
の少ない安定した計画生産をめざすべきではないだろうか。 
−乳脂肪分偏重の成分取引の是正−

  バターと脱脂粉乳の価格から計算した乳脂肪分とSNF相対的価値は世界的に1980年
代より根本的な変化が生じた。 例えば、 ECにおいて、 80年の相対的価値は乳脂肪:
SNFが55. 9%:44. 1%であり、 1985年には45. 7%:54. 3%となり、 1990年には
44. 0%:56. 0%となっている。 
 我が国においても、 このような需要の変化に対応するため中央酪農会議は 「乳成分
等評価取引推進委員会」 を設け、 従来の乳脂肪分偏重の成分取引を是正し、 SNFを加
味した取引に移行することを進めている。 具体的には、 飲用向け生乳取引において、 
乳脂肪3. 5%を超える脂肪分について、 従前0. 1%当たり0. 8〜1円を加算していた
ものを0. 1%当たり0. 4円に減額し、 SNFについては8. 3%を超える分について0. 1
%当たり0. 4円を新規に加算しようとする方向である。 早期に具体的な成果として現
れて来るよう期待している。 
 

第2回バター・生クリームを使った プロによる洋菓子・パンコンクール

−メーカーによる需要拡大策−

  乳業メーカーは、 バター・生クリーム需要拡大策としてさまざまな努力をしている。 
第1に消費者ニーズにあった商品の開発が必須であるが、 成功例として家庭用バター
で 「固くて切りづらい」、 「料理のときに計量しにくい」 という不満点があることに着
目して、 「切れて便利なバター」 が発売された。 また、 生クリームについては、 色々の
用途にあったクリームが開発されており、 最近では健康志向の影響から低脂肪タイプ
のものが好調である。 
  第2に需要拡大のためのパブリシティーについては、 昨年度にプロ向けの 「バター
&生クリーム ガイドブック」 を発行し現在も好評を得ている。 テレビや雑誌を利用し
たものは、 次の項で述べる 「バター・生クリームを使ったプロによる洋菓子・パンコ
ンクール」 の受賞作品を題材にして行っている。 
  当協会では乳脂肪分の需要拡大努力のひとつとして、 乳業メーカーから外部に販売
されるバターの65%が業務用需要であることを考慮して、 「バター・生クリームを使っ
たプロによる洋菓子・パンコンクール」 を実施したので、 以下その概容を報告する。 

−第1次審査−

 コンクールは、 11月5日(土)に昨年度と同じ東京製菓学校 (東京都新宿区高田馬場)
を会場に開催された。 
 このコンクールは、 バター・生クリームの需要拡大をはかるため、 「ヒット商品はこ
れだ!」 をキャッチフレーズに、 消費者のこころをつかむ、 洋菓子・パンの新しいヒ
ット商品を生みだすことを目的に行われるものである。 そのためには技術の正確さだ
けでなく、 多くの消費者に喜ばれることがポイントとなる。 審査は、 洋菓子・パンの
専門審査員7名による厳しい目と味覚による他に、 流行を生みだすトップランナーで
ある女子高校生15人が一般審査員に加わっている。 
  コンクールの出場者は洋菓子・パン製造に携わる全国のプロ。 9月30日の締切まで
に洋菓子部門126名 (164作品)、 パン部門37名 (47作品) の応募があり、 レシピとカラ
ー写真をもとに専門審査員による第1次審査が厳正に行われた。 その結果、 洋菓子部
門20名、 パン部門10名の合計30名 (30作品) により、 コンクール当日、 実際に作品を
作り、 農林水産大臣賞 (グランプリ) 他が競われた。 

−コンクール−

  開会の挨拶のあと、 洋菓子部門の審査委員長である大井川光照氏(社)日本洋菓子協
会連合会技術指導委員長)、 パン部門の審査委員長である三藤喜一氏 (ジャパンベッカ
ーマイスター協会会長) の競技上の注意があり、 すぐ製作に入った。 製作時間は洋菓
子3時間、 パン4時間である。 緊張感がただよう中、 洋菓子の方は複雑な工程が正確
に素早く進められていく、 パンの方は発酵時間等手待ち時間もあり、 余裕が感じられ
た。 

− 「プラリネット」 が農林水産大臣賞 (グランプリ) −

 製作終了のチャイムがなり、 洋菓子とパンの作品がそれぞれの審査室に並べられた。 
洋菓子の方は芸術品のようであり、 一方、 パンの方は外見を見る限り地味な感じのも
のが多かった。 専門審査員と一般審査員が同時に所定の採点表に記入していくが、 ど
れも甲乙付けがたく採点は困難であったようである。 
 見た目、 おいしさ、 ヒット性等の総合点から、 グランプリに洋菓子部門からサロン
・ド・テ・スリジェの嶋根豊さんの作品で、 プラリネ・アーモンドと生クリーム、 カ
ラメルソースを組み合わせた 「プラリネット」 が選ばれた。 また、 畜産局長賞のパン
部門には、 (社)ホテル西洋銀座の隅 章さんの作品で、 バターたっぷりの生地にココ
ナッツ、 パッション、 オレンジを使った 「パン・オ・トロピカル」 が、 同じく洋菓子
部門には、 金沢ニューグランドホテルの藤田正昭さんの作品 「ガトーオーヴェルニュ
ー」 が選ばれた。 
  受賞後、 嶋根豊さんは 「大会の趣旨に沿うよう、 バター・生クリームの味が生かせ
るようにした。 賞に恥じないように今後もすばらしいケーキを作っていきたい。」、 隅
章さんは 「コンクールでは普段使いなれている窯と条件が異なり苦労した。 バターに
ついては、 焼き上げたときの、 発酵バターの香りはいいのでこれまでもよく使ってい
た。 ホテルの知名度をあげるためにも積極的にアッピールしていきたい。 今回のパン
も12月のはじめから販売することになった」 と受賞の喜びを語っている。  一般審査
員の女子高校生は 「鈴木芳男さんの 『ギャラクシー』 はピンク色のかわいらしい作
品だった。 グランプリの作品は高級過ぎるような気もしたが、 すごくおいしかった。 
『パン・オ・トロピカル』 はパンとケーキの中間のようで、 今までにない種類だった
と思う」 と感想を述べている。 
  洋菓子部門の審査委員長大井川光照氏の意見を紹介してまとめとする。 「このような
原材料を限定したコンクールは個性のあるイベントであり、 若い人をモティベートし
業界の活性化につながる。 ヒット性は大量生産する商品と専門店の商品と区別して考
えていかなければならないが、 いずれもヒット商品つくりにはしっかりした専門的な
技術的裏付けがなければならない。 今後、 サブレやパイなども応募してもらうように
すればもっとおもしろくなると思う」。 
 当協会では需要拡大のためのパブリシティーとして、 今年度、 テレビでは 「NHKき
ょうの料理」、 フジテレビ 「ワーズワースの冒険」 など、 雑誌では専門家向けの 「ガト
ー」、 「B&C」 等、 一般向けの 「レタスクラブ」、 「McSister」 に今回の入賞作品を紹介し
、 ヒット商品になるようサポートすることとしている。 

 (参 考) 
第二回バター・生クリームを使ったプロによる洋菓子パンコンクール 受賞者
・洋菓子部門
No. 出場者名 作品名 会社名
農林水産大臣賞 審査員特別賞

(プロ審査員賞)

14 嶋根 豊 プラリネット サロン・ド・テ・スリジェ
農林水産省畜産局長賞 19 藤田 正昭 ガトー オーヴェルニュー 金沢ニューグランドホテル
畜産振興事業団理事長賞 審査員特別賞

(女子高校生審査員賞)

16 鈴木 芳男 ギャラクシー ウエスティンホテル東京
(社)日本乳製品協会会長賞 9 布留川 祐之 クリーミー・クリーミー 舘ストラン クレッセント
(社)全国牛乳普及協会会長賞 11 福井 奈穂子 ディヤブロタンク ドゥ ソレイユ 日本洋菓子専門学院
・パン部門
農林水産省畜産局長賞 審査員特別賞

(プロ審査員賞・

女子高校生審査員賞)

3 隅 章 パン・オ・トロピカル ホテル西洋銀座
畜産振興事業団理事長賞   4 山宮 賢一 ミルヒキュンメル ホテル西洋銀座
(社)日本乳製品協会会長賞 2 中島 進治 ガンバーニュ・オー・クレム 長田商亊監ロワグロ
(社)全国牛乳普及協会会長賞 7 鈴木 亜加根 ベビーロール 京都ブライトンホテル
 

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