★ 巻頭言


消費の動向と消費者ニーズ

−景気の低迷の中で消費者の求めているもの−

日本生活協同組合連合会 理事 日和佐 信子


生活のリストラ

 日本の経済、社会は大きく転換しようとしています。バブル崩壊を契機とした消
費の落ち込みは、予想を越えて、長期化しています。

 経済の成長を主眼としてきた日本の社会運営は、消費することを価値観とし、モ
ノを持っていること、買えること、が生活のレベルを規定するという生活スタイル
を構築してきました。いわば貨幣価値が最大の価値観であり、ステイタスであるこ
とを消費者にも定着させたといえます。生活を維持していくための基礎的な消費は
すでに限界にきていたにもかかわらず、消費を拡大するために、モデルチェンジ、
多機能化、ブランド指向、グルメ等、いわば作られたニーズによって、高級化指向
へと消費は誘導されていました。消費者も無理をして、購入していたといえます。

 消費の20%はクレジットやローンによるもので、多額債務による自己破産者が社
会問題になったことをみても、購買能力を越えて消費していたことが分かります。

 消費の低迷は、すでに限界にきていた大量消費、むしろ浪費といえる生活スタイ
ルを、消費者が見直した結果だといえます。消費者も生活をリストラしているので
す。地球環境保全の問題が世界的なレベルで緊急な課題として取り上げられたこと
も、その大きな要因になっていると考えられます。特に都市部においてはゴミ問題
が深刻な状況となり、ゴミ削減とリサイクル、省資源等に消費者の関心が強くなっ
てきたことも、生活スタイルを見直す契機になっています。


消費の動向 −納得できる価格−

 今、売れているものを一言で表すと「納得のできる価格」の物ということができ
ます。安い物が売れていることは全てについていえますが、さしあたって必要のな
い物は、安さの幅が大きくなくては売れません。同じ価格の物なら、商品としての
主張のあるものが支持されています。例えば、おいしさ、利便性、安全性、健康、
環境への配慮などです。かつてのように「いい物なら高くてもいい」とはならない
のです。「いい物で安ければ買う」が、今の価値観になっています。

 消費者は商品について、その品質にみあった価格かどうかを見極めるようになっ
ています。そして納得のできる価格かどうかが、買うか買わないかの判断基準にな
っているのです。流通業の中で、いち早く売り上げを落としたのがデパートでした。
一方では、紳士服やブランド物のディスカウントストアが伸びています。○○デパ
ートで買うのではなく、言い換えればどこで買うかは問題ではなくて、品質と価格
が納得できればそれでいいということです。まだ売る側と買う人のギャップが大き
いと感じたことがあります。最近、見掛けたSデパートのポスターに「安い 安い 
安い ばっかりでいいのかしら」とありました。デパートの売り上げをねらった巻
き返しと思って眺めていましたが、3日ほどたった頃に「安さが一番」「いいんだ
よ」の落書きが貼ってありました。私は、なるほどと感心してしまいました。この
落書きは、消費者の気持ちを率直に表していると思います。

組合員に変わらない人気のCOOP商品

 生活協同組合も、供給高の伸び悩みに苦慮しています。価格の安い物に集中して
いて、必要な物だけを購入している生活スタイルがうかがえます。組合員と普通の
消費者との差は、ありません。その中で、変わらない人気を保っている商品があり
ます。例えば、ミックスキャロットジュースです。この商品は、人参ぎらいの子ど
も達のために、果物をミックスしておいしく飲めるジュースにしたものです。いく
ら栄養価が高くても、まずくてはダメ、高くてもダメなのです。子ども用に開発し
たにもかかわらず、大人にも人気の商品となっています。国産小麦粉を使用した食
パン、フランスパンも、国産小麦を使っているけれど、おいしくて安いことが人気
となっています。同様に国産小麦使用のパスタ類もよく売れている商品です。肉類
では黒豚をあげることができます。グルメ食品といえるほど価格が高くなく、おい
しさが支持されている結果でしょう。利便性がかわれてよく利用されているものに、
バラ凍結の挽き肉があります。


食肉の消費動向 −購入量は増加、支出金額は減少−

 牛肉の輸入自由化や円高等で輸入量が増加して、輸入牛肉の価格が下がっていま
す。国産牛肉や豚肉等の価格にも影響を与えて、価格を引き下げる誘因になってい
ます。総務庁の家計調査報告(1993年10月)では肉類の支出金額は、前年同月対比
で5.1%の減少にもかかわらず、購入量でみると、特に牛肉は7.4%と大幅な伸びを
見せています。豚肉や鶏肉も、支出金額の減少ほど購入量は減少していないことが
分かります。規制緩和の結果、市場原理がはたらいたいい事例といえます。しかし、
安くて消費が大幅に拡大する範囲は限度があって、肉類の中での選択に止まるでし
ょう。健康への関心が強い現在の食生活からみても、蛋白源としては魚介類もあり、
胃袋と財布の大きさには限度があるということです。


畜産業への提言

 今後も消費の低価格志向が長期にわたって続くことは確実です。牛肉は勿論、豚
肉についても、輸入牛肉の影響と海外との競争で厳しい局面に立たされている状況
は続くと考えられます。酪農を支えてきた雄子牛の価格低迷は、牛乳の生産にも影
響を及ぼしているのでは。畜産業全体が厳しい状況にあることは事実です。飼料、
人件費等が高い我が国において、コストの削減には限界があります。バイオ等の技
術開発と特徴のある商品での勝負ではないでしょうか。補助金による生産者保護は、
決して生産者を育成する決め手にはならないと考えます。今日の米の不作の要因の
一つに、補助金農政が米生産農家を育成することにはなっていなかったことが指摘
されています。業界としても、国産畜産品の微生物・抗菌性物質・農薬等の検査制
度の充実や「輸入」「原産国」等の表示など、積極的に取り組まれるべき課題は多
いと思います。


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