★ 中央畜産技術研修会抗議


乳食品流通における最近の市場動向

全日本乳製品卸協会 会長 岩村 勇


 農林水産省畜産局中央畜産研修施設では、都道府県、市町村の畜産関係者等を対象として、毎年、約20のテーマで研修会を開催し、好評を得ております。

 これは、平成5年10月25〜29日に開催された「酪農」の研修会の中から、全日本乳製品卸協会岩村会長の「乳食品流通における最近の市場動向」の講義内容をご本人にとりまとめていただいたものです。
買っていただく時代

 メーカー、卸売業者、小売業者という流通の各段階は、最近、様相が大きく変化
してきています。それぞれの分野についてどのような動きが起きているか、ご理解
いただければと思っています。

 まず、流通の全体像を時代を追ってとらえると、昭和45年ぐらいまではもの不足、
高度成長期、消費者が未成熟、大量生産、大量販売、人並みの生活をしたいという
要求下の時代でした。作れば売れた時代といえます。このころは、メーカー・産地
が川上、消費者が川下であり、上から下へのものの流れと情報の流れがありました。
時代が変わり、50年代あたりからになりますが、消費者が川上に変わり、メーカー
・産地が川下というまったく逆転の時代になってきました。消費者のライフスタイ
ルの多様化が起こり、それにつれ、小売業に、GMS(ジェネラル マーチャンダ
イジング ストア)、SM(スーパーマーケット)、いろいろな業種店、外食産業
ができ、ものの流れ、情報の流れが様変わりしました。

 さらに時代が進み、もの余り、ゼロ成長、消費者成熟、生産・販売・消費のダウ
ンサイジング、モータリゼーション、出生率の低下、環境破壊、輸入自由化、国際
紛争の多発という時代になり、流通面でいえば、売りつける時代、売りまくる時代
から一変し、今度は消費者に買っていただく時代になってきています。


日本の食生活の特徴

 では、消費者の方々の動向についてお話します。

 電通の調査結果ですが、日本の食生活の特徴として6つのトレンドが上げられて
います。第1が健康志向です。食品の安全性、取りすぎのものと不足のものがある
というアンバランス、高齢化との関係などです。第2が高品質志向です。多少高く
てもちょっといいもの、自然・天然志向、伝統技術重視、鮮度に対する要望などで
す。第3が合理化志向です。社会構造の変化にともなう主婦の就業率の高まりによ
る調理時間の短縮・簡便化志向、手作りと手作り回避の使い分けなどに見られます。
4番目に国際化というものが最近の傾向です。これは、海外旅行の増大、海外体験
により諸外国の料理、食品への志向があります。さらに、海外の食品を取り入れた
新しい日本食の増大、たとえば日本食にチーズを組み合わせるといったものがでて
きています。5番目がコミュニケーション志向です。家族や友人と一緒になって食
事を楽しむというものです。6番目が環境志向。マスコミ等で毎日のように地球環
境問題が取り上げられています。環境を考慮した食生活や生態系を破壊しないよう
な食生活、我々の業界でしたら、牛乳パックの再利用、リサイクルが上げられます。

 こういった大きな6つのトレンドが、今の日本の食生活にでてきています。


今後の食生活の在り方

 雪印乳業が消費者に対して行ったメニューセンサスで、「今後の食生活にどのよ
うなことに気を使いますか」と尋ねたものがあります。

 1、2、3位のウェイトが特に高く、1位が成人病、肥満などにならないように
食事作りをしたい(68.7%)、2位が食品の安全性に気をつけたい(66.5%)、3
位がもっと栄養のバランスを考えたいという(51.1%)という結果です。また、将
来予防を心がけている病気を見てみると、ガン、心臓病、骨粗しょう症の順になっ
ています。骨粗しょう症の関心の度合いは40代で72%、50代で77%、60代で87%と
極めて高い割合になっています。

 これら2つの調査から、今後、注目すべき食のトレンドは、食生活のコントロー
ルという問題、自然新鮮志向、計画的合理的食生活志向にたって食生活を作り上げ
ていこうということといえると思います。


小売業の変化

 次に小売業の動向をみてみましょう。小売業といっても販売形態により様々で、
店舗でものを売る形態と無店舗での販売に大きく分かれます。店舗でものを販売す
る形態についても、GMS、SM、デパート、コンビニエンス、これにデイスカン
トストア、アメリカでは倉庫のような所に常時ものを置いて販売するウエアハウス
ストア、メンバーシップホールセールクラブ(会員制のスーパー、年会費を払って
おいて大変安くて豊富にものがある)、カテゴリーキラー(「洋服の青山」のよう
にある分野の商品を徹底して安く)など多種類に分かれてきました。無店舗での販
売も、最近はダイレクトメール、テレショッピングなど様々な通信販売や、365日
24時間稼働の自動販売機も増えております。

 とりまく環境を年代順にみていきますと、もの不足、需給バランスがとれだした
時代、オイルショックを経て、ものが過剰になり、第2次オイルショックが起き、
慢性過剰となっていきました。ものの過剰は小売りの二極分化となり、スーパーを
中心として巨大組織化と零細企業の減少を起こしました。


セールスマンからカウンセラーへ

 次に卸売業についてお話します。

 物流といえば、皆さんは、ものを運ぶだけのことで物流が何で戦略なんだ、とい
われますが、卸売業が果たさなければならない役割が、それも大変経費のかかる問
題ばかりが増えてきています。

 小売業における物流ニーズというのは店の棚の欠品はゼロにしたいというのが基
本です。小売りが起点の流通システムになってきて、バイイングパワーで強大な力
を持つようになりました。小口配送、緊急配送、多頻度配送、時間指定の要求が強
くなりました。さらに、卸売段階で商品に小売り価格のラベルを貼って納めなさい
という要求もあります。これら全てに対応可能な流通業でなければ取引の継続はで
きませんともいわれます。

 社長から、売上拡大のために得意先を開拓しろといわれ、開拓して販売地域を更
に広げると配送効率が悪くなり、商品も多く用意する必要がでてきます。そのため
に倉庫を拡張すると人を増やさねばならずコストアップになります。悪循環の繰り
返しで、その会社はつぶれることになります。従って卸売業はどういう戦略デザイ
ンを描いて市場に対応するかを考えなければなりません。

 今後、卸売業に小売りサイドが強く要望するのは、商品の取引条件、物流、リテ
ールサポート、売れ筋情報の提供等々を求めることが多くなってまいります。その
中でも、ポイントは小売業への提案力、価値ある情報の提供と考えています。生き
残るためにはどう戦略化するか、情報化とネットワークの方向だと思います。

 コンピューター導入によって第1段階は事務処理の向上を図り、第2段階として
情報ネットワークによる経営効果の追及から一部戦略情報システムにさしかかって
いる状況です。今後は第3段階のネットワークの戦略活用システムレベルの活用に
あります。

 では、卸売業はどのような情報機能を持っているかということを私が勤務する雪
印アクセスで説明しますと、約4千のメーカーさんから4〜5万種類の商品を仕入
し、約2万の小売屋さんと取引しています。毎日毎日の売上・仕入のデータが全国
100カ所の支店、営業所から本社のホストコンピューターに入ります。この膨大な
量の取引情報というものは、各商品ごとに、地域別、業種業態別、季節別の消費実
績のデータベースに日々蓄積され、それを加工してそれぞれのメーカー、お得意先
に様々なお役立ち、提案をしていくことができます。メーカー、小売り双方への情
報提供、企画提案は合併前の5社バラバラより強力なパワーを発揮することができ
ます。

 セールスは販売する商品知識だけを持っていればいいんだという時代ではなく、
リテールサポートや経営指導コンサルタント、こういった知識を持つカウンセラー
の時代になると思います。


乳製品の市場

 さて、牛乳乳製品市場ですが、1993年の牛乳乳製品の生産額は2兆1千100億円、
10年前と比べて18.6%という高い伸びとなっています。メーカーの出荷額では全食
品工業34兆9千8百億円、43%の伸びに対して牛乳乳製品関係は2兆1千880億円、
23.2%の伸びとなっています。牛乳乳製品の伸びは他の食品に比べ低く、その結果、
シェアは10年前に比べ1%落ちました。


バターと脱脂粉乳の流通経路

 平成3年度の資料ですが、バターの流通経路と扱い割合をみてみます。乳製品メ
ーカーで作った100の商品は社内需要量が23.1%、残りが販売されます(76.9%)。
販売数量の内、製菓・製パンメーカー(24.3%)、乳業メーカー(13.5%)、外食
その他(5.8%)などいわゆる業務用分野で消費されているのが65.2%です。家庭
消費はまだまだ少なく34.8%となっています。圧倒的に業務用メーカーに廻ってい
ます。脱脂粉乳は社内の需要量が43.0%、残り57.0%が販売されます。販売数量の
内、乳業メーカー(24.3%)、発酵乳・乳酸菌飲料メーカー(21.9%)、飲料メー
カー(11.3%)などいわゆる業務用分野で全量消費されています。


戦略性のある需給調整策

 最後に私の意見として、行政への要望も入りますが2、3述べてみます。

 56年以降4年度までの生乳の生産量、処理量をみますと、生産量は61年度に前年
を下回ったほかは、飲用向けも毎年伸張しています。生乳需給としては問題ないよ
うにとられますが伸び率にギャップがあり、そのしわ寄せを乳製品が受けています。
バターと脱脂粉乳の生産量は年度毎に増減を繰り返し、振幅の幅は大きいものとな
っています。年度末在庫をみましても、適正在庫はバターが需要の2カ月分、脱脂
粉乳が1.5カ月分といわれていますが、適正水準であった年度は極めてまれです。
特に平成3年度以降、バターの在庫が急増しています。

 バター、脱脂粉乳についても、作れば売れる時代は終わりました。消費者の多様
化など時代の変化により買っていただく時代になっています。需要構造を知らずし
て生産しても、売れないものは売れません。市乳にしても100%果汁、無糖飲料、
ミネラルウォーターなどの競合食品が次から次にでています。

 平成5年夏頃からバターの過剰在庫が問題化し、生産者にとってはマイナスの生
産調整が行われ、業界としては需要拡大に努力しているところです。

 これは、乳製品の不足の期間が長ければお客さんを逃し、過剰の時は在庫品に係
る金利、倉敷料の負担によるダブルパンチを受け、多年度にまたがる保管調整に、
問屋やメーカーの需給ギャップを埋める財源的体力がなくなってきたことも一因で
す。

 乳製品生産のぶれは、市乳化率が日本は61.3%と先進国の中では唯一50%を超え
る国であり、逆に乳製品の国内生産が少ないためと考えられます。自由化論議の中
で、飲用は輸入されないから飲用を伸ばしておけば自由化になっても国内酪農は守
れるという声があります。しかし、国内乳製品の生産は年度毎にぶれ、不安定な供
給を消費者に続けていれば、それだけ消費は離れていくことになります。

 日本の酪農の需給を語るには、生乳需給表でなくバターと脱脂粉乳の需給表で判
断しないと需給は見えないと思います。


農業ルネッサンス

 経済の合理性だけで農が語れるとは思っていません。マスコミも農業批判を行い
国際分業論でもって、自由化で安い食品が入れば物価が下がり生活も良くなるとい
う論です。しかし、反論を申し上げるなら、風土、自然環境システムと社会経済シ
ステムとを結ぶ人間関係の根源をなすのが農業です。

 過去の歴史でみますと、18世紀にイギリスで起こった産業革命の進展の過程で、
食糧の国際分業について、マルサスとリカードが議論しています。リカードは経済
合理性を追求し一層の工業化を推奨しました。マルサスは国民を養うよりどころは
農業であるという観点から、農業・工業同時発展論でした。イギリス政府は1846年
食糧の自由化を国会で決めました。アメリカ、ドイツ、日本、フランスの工業化が
進み、イギリスの経済的繁栄はわずか25年でした。第1次、第2次大戦により英国
は未曾有の食糧危機にあい、戦後、食糧の国内生産に励みましたが、自給できるよ
うになるのに100年かかりました。

 一方、貿易黒字、円高問題、ガットウルグアイラウンド、日米構造協議の例など
日本は世界から見逃してもらえない時代に入ってきています。翻って、自由化され
たものについて、つぶれて壊滅的になったものはありません。品質、技術革新に対
し、日本の農家は大変な技術を持っていたのでした。やはり規模の問題と専業で高
い管理能力を持った農家は生き残り、拡大してきました。農業は弱い者という見方
をしないで農業は先進型産業であり、研究開発型産業だと位置づけることで強い農
業ができていくのではないでしょうか。ふるさと創世事業におけるように、21世紀
に向けて知恵を出して、若者に夢を持たせる農業ルネッサンスを進める道があると
思います。


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