農林水産省畜産局畜政課 本郷 秀毅
木槌は振り下ろされた 1993年12月15日、第8回関税貿易一般交渉は足掛け8年にわたるガット史上最長 の交渉の末、実質的な合意にたどり着くことができた。 ジュネーブのガット本部で、サザーランド・ガット事務局長が終結宣言の木槌を たたいた瞬間、各国代表は立ち上がり、拍手が海鳴りのように広がったという。 長期にわたる交渉の末漸く合意にたどり着くことのできた農業交渉の中でも、特 に畜産物に関する交渉は最後の最後まで難航を極めた。主要国の政治情勢が、安易 な妥協を許さない厳しいものであったことを示すものといっていいであろう。 国別約束表等の概要 以下では、こうしたぎりぎりの交渉の末に書き込むことのできた国別約束表のう ち、主要畜産物の概要を中心に紹介することとしたい。 1 国内支持の削減は農業部門全体で 国内支持の削減約束は、「基準期間(1986〜88年)における農業全体のトータル のAMS(総合的計量手段:内外価格差、直接支払い及び削減対象補助金を加えて計 算される保護、支持の総額)を計算し、この数値を実施期間(1995年から6年間) において20%削減する」 というものであり、DFA(最終合意案)において要請され ていた産品セクターごとの削減がトータルAMSによる削減約束となったため、牛肉、 生乳等の個別産品ごとに20%の削減を達成する必要はなくなった。 なお、基準期間以降、既に一定の努力を行ってきたことから、AMSの削減目標は ほぼ達成している。 2 国境措置 (1) 乳製品、不足払制度の基本は維持 不足払制度の維持にとって必須と考えられていた国家貿易機能の維持等の措置は、 ほぼ確保することができた。 [関税相当量] 現在IQまたは国家貿易の下にある品目について、基準期間における国内価格と 国際価格の差を関税相当量として設定し、これを実施期間中に15%削減する。 ・ 脱脂粉乳 (基準期間) 466円/s+25 % ( 2000年 ) 396円/s+21.3% ・ バ タ ー (基準期間)1,159円/s+35 % ( 2000年 ) 985円/s+29.8% なお、この関税相当量により実現される輸入乳製品の国内価格は、実施期間の最 終年度においても、現行の安定指標価格より3割弱高い水準になると推定されるこ とから、国内への影響はほとんどないものと思われる。 [アクセス数量] ・ IQ品目については、原則として基準期間の割当を維持するが、日米合意に基 づくものについては一部枠を拡大する。 ・ 国家貿易品目については、畜産振興事業団が基準期間における生乳換算ベース での平均輸入量を毎年輸入する。 ・ これらの輸入については、原則として現行の関税率を適用する。畜産振興事業 団輸入分については、基準期間の差益分を上限として入札により国内へ販売する。 指定乳製品等(畜産振興事業団輸入) (1995年) (2000年) 生乳換算数量 137千トン → 137千トン 民間貿易 主要品目(学給・飼料・育粉用等) (品目別製品重量) (1995年) (2000年) 脱脂粉乳 93千トン → 93千トン ホエイ類 70千トン → 70千トン バター類 2千トン → 2千トン 調製食用脂 19千トン → 19千トン その他の乳製品(生乳換算数量) 125千トン → 134千トン [関税率] ・ ナチュラルチーズ 乳製品需要が低迷している中で、需要の伸びている数少ない品目の一つであるこ とから、一部のナチュラルチーズを除き、最終合意文書の最低削減率である15%の 削減を行う。 (現 行) 35 % (2000年) 29.8% ・ アイスクリーム(しょ糖分50%未満) 米国の関心品目であり、交渉全体の枠組みの中で適切な国境措置等を確保するた めにはやむを得ないと判断し、最低削減率を上回る25%の削減を行う。 (現 行) 28% (2000年) 21% (2) 豚肉は基準輸入価格を15%削減 関税化により高水準の関税相当量を設定できたため、差額関税制度はほぼ維持す ることができた。 また、基準輸入価格(分岐点価格×1.05)の相当の削減を約束せざるを得なかっ たが、発動が十分可能かつ相当高い水準まで分岐点価格の引上げが可能な緊急調整 措置を代償として取得した。 具体的なシステムは、これまでと同様、分岐点価格よりも高い価格で輸入される ものに対しては定率関税を適用し、同価格よりも低い価格で輸入されるものに対し ては差額関税を適用するというものである。 [定率部分] (現 行) 5.0% (2000年) 4.3% [基準輸入価格] (枝肉ベース) (現 行) 482.5円/s (2000年) 410 円/s [緊急調整措置] ・ 輸入数量が過去3年の平均輸入量の119%以上となった場合に、分岐点価格を バインド水準(国際約束上、これ以上引き上げてはならない水準)を上限として 引き上げることができる。 ・ 運用を四半期ごとに行う。 ・ 分岐点のバインド水準は、基準期間の分岐点価格から毎年度関税相当量の削減 額と同額を削減した水準とする。 分岐点価格(基準輸入価格) (基準期間) 553円/s(581円/s) ( 2000年 ) 489円/s(510円/s) (3) 牛肉の最終関税率は38.5% 最終合意文書で求められている最低削減率を上回る関税の引下げを行うこととす るが、その代償として、最終合意文書には認められていない、しかも現行の日米合 意とも異なる、発動が十分可能かつ相当有利な緊急調整措置を取得した。 [関税率] (現 行) 50 % (2000年) 38.5% [緊急調整措置] ・ チルド牛肉、フローズン牛肉各々について、輸入数量が対前年同期比の117% 以上となった場合、関税率を50%に引き上げる。 ・ 運用を四半期ごとに行う。 なお、豚肉及び牛肉の緊急調整措置は、4月の正式署名までの日米間の暫定的な 合意であり、今後、関税当局との調整を必要とするものである。 (4) その他センシティヴな品目は最低削減率に留める 最終合意文書の基準に従い、国内への影響の大きい品目(競走馬、肥育用素牛、 鶏肉、殻付鶏卵、はちみつ等)については、原則として15%の削減を行う。 正式署名は1994年4月15日頃 国別約束表については、3月31日までの期間は、お互いに内容をチェックし合う 確認プロセスとなる。 その後、4月15日頃、モロッコのマラケシで正式の署名・調印式が行われる予定 となっており、この際にウルグァイ・ラウンド合意の発効日が決定される運びとな っている。