農林水産省畜産局長 東 久雄
平成6年の年頭に当たり、新春のお慶びを申し上げますとともに、現在の我が国 畜産をめぐる情勢と課題及び対策について所信の一端を申し述べ、決意を新たに新 年に臨みたいと思います。 御承知のとおり、昨年は、ガット・ウルグアイ・ラウンドが合意に達し、今後、 乳製品の関税化や畜産物の関税の引下げを余儀なくされることとなったところであ ります。このウルグアイ・ラウンド最終合意文書の受け入れは、我が国の置かれて いる国際的立場等も考慮し、国内生産に対する影響を最小限にとどめるべく所要の 国境措置を確保しつつ、ぎりぎりの選択として行ったものであり、関係する皆様方 の格段の御理解を切にお願いする次第であります。 まず、乳製品については、ガット規定の見直し等により関税化の例外となるよう 鋭意交渉してきたところでありますが、現在の輸入制限措置が、かつてガット・パ ネルにおいて、ガット違反であるとしてクロ裁定が下された経緯等により、関税化 の受け入れはやむを得ないと判断せざるを得なかったわけであります。しかしなが ら、我が国酪農・乳業に対する影響を最小限にとどめるため、その基本である不足 払制度の維持に必要な国家貿易機能の確保をはじめ、相当高い関税相当量の設定等 を図ることができたところであります。 また、牛肉については、米国が自国の食肉輸入法による輸入制限措置の関税化と の関係で、その二次税率とほぼ同水準の32%への引下げを強く要請してきたのに対 し、最終期限を控えたぎりぎりの交渉の結果、38.5%への関税の引下げを受け入れ る一方、現行の日米合意により相当改善された別途の緊急調整措置をその代償とし て取得したところであります。 さらに、豚肉については、差額関税制度は、最低輸入価格制度であるとして、そ の撤廃を強く要求されたものの、最終的には、原則として本制度を維持することが できるとともに、最終合意文書の特別セーフガード及び輸入急増時の別途の緊急調 整措置を確保することができたところであります。 このように、乳製品の関税化や畜産物の関税率の引下げは受け入れざるを得なか ったものの、ぎりぎりの交渉の結果、乳製品については国家貿易機能の確保等、牛 肉及び豚肉については輸入急増時の緊急調整措置等を取得することができたもので あり、関係各位の特段の御理解を重ねてお願い申し上げます。 この結果、我が国畜産は新たな国境措置の下において一層厳しい環境に置かれる こととなりますが、我が国畜産が農業の基幹をなし、地域経済を支える重要な産業 であることを考慮して、その在立、体質強化を図っていくため、万全の対策を講ず ることに最大限の努力を傾注していく覚悟であります。 今後は、このような状況の下で、国民への畜産物の安定供給と畜産経営の健全な 発展を図るため、先の農政審議会報告「経営展望と政策展開の基本方向」を踏まえ、 経営体の体質強化、ゆとりある経営の実現、環境問題への適切な対応及び産地体制 の整備、加工、流通の改善等に努めることを基本とし、さらに、緊急農業農村対策 本部での検討等を踏まえ、生産、価格、消費にわたる各般の施策を講ずることとし ているところであります。 その際、それら諸施策を円滑かつ効率的に実施し、我が国畜産の一層の発展を図 っていくためには、関係各位の御理解と御協力に待つところが大であることは申す までもありません。 皆様方におかれましても、我が国畜産の発展のため、旧年にも増して御尽力賜り ますようお願いいたしますとともに、皆様方の一層の御発展を祈念いたしまして新 年のごあいさつといたします。