★ 事業団便り


鳥取県中央家畜市場を見て


 この度、鳥取県の肉用牛生産、特に、公共牧場の運営状況や里山を利用した経営を中心とした鳥取大学農学部小林助教授の調査に同行する機会を得ました。同氏の報告は別の機会に掲載させていただくこととして、以下は、その際訪れた新設の鳥取県中央家畜市場の概要の報告とその感想を述べさせていただきます。
今年の9月にオープン

 この家畜市場は、鳥取県倉吉市にあった中部家畜市場の再編整備を行う形で作ら
れました。というのは、県東部地域の肉用牛飼養頭数の減少と旧中部家畜市場が市
の整備事業に一部かかったため、移転を余儀なくされ、場所を検討した結果、県の
中央部にある赤碕町に県下を代表する家畜市場を建設することとなり、今年の9月
にオープンしました。

 ここには、約9haの土地があり、家畜市場が約4ha、同じく約4haが草地、そし
て残りが緑地帯となっています。4haの草地については、近隣の名和肉用牛センタ
ーの放牧場や草地として利用する予定です。

 さらに、鳥取県ではこの場所において、平成14年に開催予定の全国和牛能力共進
会の誘致を計画しており、関係方面にお願いしているところとのことです。


便宜を図って設計

 新市場が完成したのはこの9月で、子牛のセリも9月が最初となりました。しか
しながら、西部家畜市場(鳥取県岸本町)での取引も、まだ当分の間行われる予定
です。

 中央家畜市場の施設は、県下を統一しても十分運営できるように余裕をもった内
容となっています。例えば、子牛のつなぎ場の規模は432頭が可能で、年間5,000頭
以上の子牛を毎月セリにかけられます。また、セリが終わった子牛は、約500が飼
養できる係留場を備えています。現在では、買参人(購買者)がその日1日で一車
単位の頭数が集まらないとき、その場で係留しておき、西部家畜市場のセリが終わ
ってから中央家畜市場に集荷にくればよいということができますし、県外の方には、
子牛を休ませて翌日に運ぶことができるように考えています。その他、公害問題に
も対応した設備を整えています。

 遠くから来られる買参人の便宜をはかるためにも、統一して、頭数及び子牛の品
質をそろえ、一車単位の買い取りができるような規模にしたいと考えているとのこ
とです。


11月の価格は前回並み

 11月19日と前回の和子牛のセリの価格は、表1のとおりです。前回は初セリでし
たから祝儀相場といえるかも知れませんが、今回はほぼ前回並みということですか
ら、「しっかり」していると思います。因伯牛への買参人の評価は高いものがあり
ますが、逆に買参人の方からの要望もあります。それは「子牛の月齢が若く小さい、
完全に離乳ができていない」などです。

 出荷月令については、現在の200日以上を230日以上にして体重を重くし、離乳時
期を早めて4〜6カ月令で完全に離乳する飼養管理を徹底するということを検討し
ているそうです。

表1 和子牛のセリ結果
区分
千円 千円 千円 千円
9月期 140 236 7 310 169 322 316 284
11月期 98 220 5 1.342 126 320 229 300

めずらしい初妊牛のセリ

 この市場が繁殖牛の育成地帯にあるということから、年に2〜3回初妊牛のセリ
が開かれます。これは、農家が丹精込めて育て上げた繁殖用の雌牛に種付けを行い、
受胎が確認されたものをセリにかけるわけです。この地域の繁殖雌牛を飼育する技
術が一流だからこそできるのだと思います。

 今回の子牛のセリが終わった後、開かれましたが、価格的には思ったほどではあ
りませんでした(表2)。肥育県の経済連が高値で買っていますが、これは、鳥取
の繁殖用雌牛の評価が高いことから、受精卵移植のための雌牛の確保と思われます。

表2 初妊牛のセリ結果
上場  25頭
高値  840千円
安値  343千円
平均  500千円(単純平均)
 子牛価格が肥育農家の導入意欲を示すものなら、この初妊牛の価格は、繁殖農家
の拡大意欲を示すものともとれ、価格面で納得が得られず、本人取りが結構出てい
ることから、厳しい状況を感じるとのことです。


先行きが不透明な肉用牛

 鳥取県中央家畜市場で伺った内容は以上のとおりですが、前日に肉用牛農家でお
話を聞きました。「10月は5頭セリに出したが、5万円から24万円だ。現在の価格
ではとても継続していけない、怪我をしないうちにやめるべきかも知れない」、
「価格に応じて、繁殖を増やしたり、肥育を増やしたりしてきたが、今は先が見え
ない。規模拡大の事業への参加を言われているが、今の状態では決断がつかない」
というような話もありました。それぞれが里山等を利用してコストや労働の低減に
努力されていますが、牛肉の輸入自由化、景気の後退、さらに子牛の生産頭数が多
いという状況下での肉用牛経営、本当に大変な時期であると痛感しました。


人と自然のふれあい

 そのような中、大山放牧場で神奈川県の湘南学園の生徒さんたちが、体験実習を
しているところに出会いました。前日は、林業関係の勉強をしてきたそうです。生
徒さんたちには、初めて牛にさわる人が多く、「きゃー、きゃー」と言いながら餌
を与えたりしています。牛の方も、あまりの観客に、恐れをなしてエサ箱に近づけ
なかったり、人声に驚いて、足を滑らしてずっこける牛も出る始末です。

 大山放牧場の方は「生まれて初めて牛に直接触れた彼らの瞳は輝いていました。
わずか3時間足らずの実習がその目的にかなうものであったどうかは率直に言って
疑問に思います。しかし、実習に要した時間や内容はともかくとして何にでも挑戦
してみようという彼らの意欲は貴重なものだと思います」と語っていました。

 人と自然のふれあいをとおして、畜産の重要性、農林業の大切さを少しでも理解
していただければと思いました。

(企画情報部 村尾 誠)


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