◇ インタビュー

焼き肉のたれ等 が 牛 肉 消 費 に及ぼす影 響

 

企画情報部


  日本における食肉の消費は、 豚肉と鶏肉が低迷している中で、 牛肉は、 輸入牛
肉の急増によりかなり伸びている。 この背景には、 牛肉を誰でも手軽に美味しく
食べられるように商品開発された焼き肉のたれ等の調味料が一般家庭にも広がり、 
かなり利用されていることもあるといわれている。 今回は、 焼き肉のたれ等の販
売で急成長している日本食研株式会社の越智保夫取締役営業本部長に、 焼き肉の
たれ等が牛肉消費に及ぼす影響について10月4日にお話を伺った。 
  性化資金が創設されましたので、 経営改善指導の方向と併せて、 直接担当され
ている社団法人中央畜産会鶴見技術主幹にご投稿いただきました。
 
商品開発に力
◇ 会社の概要を教えてください。 
  日本食研は、 1971年 (昭和46年)に香川県高松市で、 ハム・ソーセージの製造
に必要な調味料等の販売からスタートしました。 その後、 食肉を中心にした調味
料の開発・販売へと事業が拡大し、 1981年には愛媛県今治市に愛媛本社工場の新
設、 1992年には千葉県印旛郡で千葉本社工場が稼働し、 全国展開しています。 ま
た、 従業員は約2千人ですが、 そのうち1割を超える二百数十名が研究部門にお
り、 商品開発に力を入れています。 
◇  「たれ」 には、 どの様な種類がありますか。 
 焼き肉用と鍋もの用があり、 焼き肉用には、 焼き肉のたれ、 焼き鳥のたれ、 ステ
ーキソース、 ハンバーグソース等があり、 鍋もの用には、 すき焼きのたれ、 しゃ
ぶしゃぶのたれ等があります。 また、 それぞれが家庭用、 業務用に分類されます。  
  業界全体では、 全ての 「たれ」 が成長していたので、 各社とも89年までは順調
に伸びていましたが、 近年、 生産量の多い焼き肉のたれが成熟期に入ってきたの
で、 全体では生産の伸びが鈍化してきています。 
 
  一方、 しゃぶしゃぶのたれは昨年からかなり伸びています。 しゃぶしゃぶは、 
料理方法が簡単で、 豪華なイメージがあることに加え、 材料の牛肉が安くなった
ことが要因と考えています。 この冬は、 しゃぶしゃぶがブームになるかもしれま
せん。 
 

焼き肉は一家団らんのメニュー 

◇ 最近の焼き肉のたれの生産の傾向について、 教えて下さい。 
  焼き肉は一家団らんのメニューとして定着していますが、 焼き肉のたれの生産が
伸び悩んでいることからみると、 外で食べるか、 家庭で食べるかの違いで、 業務用
が伸びたり、 家庭用が伸びたりしていると思います。 また、 業務用には、 スーパー、 
小売店でよく売られているたれ漬け牛肉の 「たれ」 も含まれますが、 「たれ」 に漬け
て販売することから、 高級牛肉でなくてもそれなりに食べることができます。 景気
が後退したことから、 外食向けよりも、 このような需要が伸びてきています。
◇ 焼き肉のたれの販売量に季節的な傾向がありますか。 それは、 毎年同じ
   傾向を示していますか。 
  一家団らんのメニューとして定着していることから、 夏休みの7、 8月がピーク
になっています。 もう一つのピークは、 家族が一緒になる年末です。 これは毎年同
じ傾向を示します。 最近は、 5月の連休にもピークがあります。 昨年は冷夏のため
、 7、 8月のピークが低かったのですが、 これは最近流行っている屋外バーベキュ
ーでの消費が少なかったのかと思っています。 
 また、 味覚については関東と関西の差がいわれますが、 焼き肉のたれは地域的な
差より、 年齢的な差の方が大きいでしょう。 
◇ 焼き肉のたれの販売は、 業務用と家庭用のどちらが多いのですか。 
  業務用と家庭用のシェアは、 各社違うでしょうが、 業界全体では約3割が業務用
で、 7割弱が家庭用といわれています。 最近は、 家庭用がわずかに伸びていますが、
業務用は頭打ちの状態です。
◇ 焼き肉の需要の増加が輸入牛肉の消費増につながっていると思われますか。 
  焼き肉をよく食べるのは、 成長期の子どもが多いと思いますが、 これらの子供さ
んは量をたくさん食べるので、 家庭の主婦としては、 価格の安い牛肉を買っている
と考えられます。 一般的には、 子供さんのいる家庭での焼き肉用としては、 価格の
安い輸入牛肉がよく買われており、 一方、 熟年層では、 柔らかくて美味しい和牛肉
を少量、 買っていると思います。  
◇  一般家庭で焼き肉のたれ一本でどれくらいの量の牛肉を食べているのですか。 
  家庭用の焼き肉のたれの主流は210g入りですが、 これは、 4人家族が1回の食事
で使うことを想定しています。 野菜も含んで1sくらいと思います。 ある調査では、 
月1回と2回焼き肉を食べる家庭がそれぞれ22%あり、 月3回が8%、 月4回以上
が5%ありますので、 牛肉の消費にかなり貢献していると考えられます。 
 
大容器のたれが好調
◇ 最近、 屋外でのバーベキューが盛んになっていますが …。 
  先ほども話しましたが、 休みの多い時期に焼き肉のたれの販売量が増えているこ
と、 また、 冷夏だった昨年に販売が減っていることから、 休みが連続して気候がよ
いときには屋外でのバーベキューの機会が増えていると考えられ、 焼き肉のたれの
消費にかなり寄与していると思います。 最近、 400〜500g 入りの大容量の焼き肉
のたれが、 210g 入りの小容量ものの売り上げを上回っていますが、 焼き肉の頻度
の多い家庭の買い置き用と屋外での多人数用の需要が増えていると考えられます。 
◇ 焼き肉のたれの売上げは、 景気動向に影響を受けますか。 
  家庭で焼き肉を食べる場合には、 価格がやや高くて、 より美味しい牛肉を買う
傾向にあり、 その牛肉の購入単価、 量は景気に左右されると思います。 景気のい
いときは、 家庭用が伸び、 景気が悪くなると業務用 (たれ漬け用) が伸びる傾向
にあると思います。 最近は、 焼き肉のたれ全体が伸び悩んでいるのですが。 
◇ 焼き肉のたれの商品開発は、 何を考慮して行われているのですか。 
  家庭用は、 ほとんど主婦が購入するわけですから、 その家族構成を考慮して、
商品のターゲットを絞るのです。 当社では、 ヤングミセスといわれる30代前後の
主婦層をターゲットにしています。 これらの層は、 食事を楽しみ、 味にこだわり
をもっているので、 香辛料の配合を工夫して、 その香ばしさを売り物にした商品
開発をしています。 
 
輸入牛肉で伸びたステーキソース
◇ 最近のステーキソースの生産の傾向について教えて下さい。 
  輸入牛肉の急増で、 スーパー等がステーキ用牛肉の売場を広げていることから、 
ステーキソースの生産はかなり伸びています。 牛肉の輸入自由化以降、 ステーキ
ソースの生産量は、 毎年20%前後の高い伸びを示しています。 季節的には焼き肉
のたれと同じような傾向ですが、 それ以上に、 輸入牛肉が買いやすい価格になっ
てきていることから、 ステーキも焼き肉と同じような感覚で食べるようになった
のだと思います。  
◇ ステーキソースの販売は、 業務用と家庭用のどちらが多いのですか。 
  断然、 家庭用が多くなっています。 外食の場合、 それぞれのお店が独自の味付
けをすることが多いので、 たれメーカーのものの利用が少ないのです。 当社では、 
業務用のシェアが高いのですが、 これはステーキ用牛肉に添えて販売されている
ステーキソースがほとんどで、 その販売量は頭打ちになっています。 一方、 味に
こだわりを持つ消費者が増えたことから、 種類の多い中から自分の舌にあった家
庭用のステーキソースを牛肉とは別に購入するようになってきています。 業界全
体では、 家庭用が約8割を占めていて、 その販売量はかなり伸びています。 
 
  ステーキの需要の増加は、 スーパー等の量販店が、 輸入牛肉をステーキ用で積
極的に売っていることから明らかだと思います。 昔の輸入牛肉は、 固いというイ
メージがあったのですが、 最近のものは柔らかくて美味しくなったことも、 その
要因だと思います。 
 

ステーキからしゃぶしゃぶへ

◇ しゃぶしゃぶやすき焼きのたれは冬場の商品と思いますが、 その販売量
はどれくらい伸びていますか。 
  すき焼きは、 頻度は高くありませんが、 昔から馴染みの深い料理として定着し
ており、 その調味料としてのすき焼きのたれは容易に受け入れられています。 急
成長はしていませんが販売量の伸びは10%前後と安定しています。 
 
  一方、 しゃぶしゃぶのたれは、 急成長を示しています。 牛肉の輸入自由化の直
後にかなり伸びましたが、 その後少し伸びが鈍って、 再び昨年からかなり伸びて
います。 消費者が、 まず焼き肉からステーキへと牛肉の消費をのばし、 次に高級
料理のイメージの強かったしゃぶしゃぶが手頃な値段で食べられるようになった
のだと思います。 
◇ しゃぶしゃぶには、 輸入牛肉よりも、 国産牛肉の方が多く利用されてい
ると思われますか。 
  しゃぶしゃぶでどちらが多く使われているか分かりませんが、 輸入牛肉は味の
面では国産牛肉にはかなわないのではないでしょうか。 しかし、 たれの味で食べ
るしゃぶしゃぶは、 材料の牛肉をかなり薄くスライスすることによって、 輸入牛
肉でも十分食べられると思います。 
 
和牛のイメージを大切に
◇ 国産の牛肉は輸入牛肉に押されていますが、 「たれ」 の業界から見て国
産牛肉の消費拡大キャンペーンについて何かアイデアはありませんか。 
  国産の牛肉も和牛から乳去勢牛まで肉質の幅が広いので、 すべてを同じように
扱うことは無理があると思います。 日本の消費者は、 和牛のイメージをかなりい
いものと思っていますので、 それを損ねないように、 業界を上げて、 流通段階で
止まっている 「等級」 を消費者に徹底して普及させるのです。 そこで、 ある一定
等級以上の牛肉に統一した名前を付けてはどうでしょうか。 等級保証の表示を行
い、 国産であることを保証する表示を徹底することです。 生産者サイドから小売
業界に積極的な働きかけをすべきだと思います。  
◇ 牛肉は種類 (和牛、 乳雄、 輸入牛肉) によって肉質が違いますが、 それ
ぞれの種類に応じた商品開発は可能でしょうか。  
  以前は、 輸入牛肉の臭いを消すための 「たれ」 の商品開発がされましたが、 輸
入牛肉も臭いを気にすることもないくらいになっていますので、 牛肉の種類に応
じたたれの商品開発はしなくてもよいと考えます。 牛肉は他の食肉に比べて、 食
べる頻度が少ないのですが、 たまに食べるステーキとかしゃぶしゃぶでは、 味の
濃いものが好まれる傾向にあると考えています。 牛肉の消費の伸びに応じて、 そ
のようなたれの方が伸びています。 ところが、 牛肉を食べる頻度が多くなると、 
そのものの味がわかって、 さっぱりした 「たれ」 が好まれるようになると思いま
す。 
 
美味しい牛肉への回帰
◇ 国産の牛肉 (又は豚肉、 鶏肉) の消費を伸ばすには、 どのような方策が
必要だと思われますか。  
  最近の豚肉や鶏肉は美味しくなったと思います。 それは、 生産者の努力により、
消費者の好む美味しいものが多くつくられてきた証拠でしょう。 牛肉も市場が成
熟してくれば、 安いものだけでなく、 多少高いものでも美味しいものが売れます。 
消費を伸ばすには、 食肉の悪いイメージを払拭することと健康によいというイメ
ージを掲げていく必要があります。 それは、 生産者から小売店にいたるまで、 業
界全体で行う必要があります。 消費者が目にする店頭を利用してPRするのもひと
つの方法です。                   
  牛肉の消費がもっと高まり、 また、 景気がもっと回復すれば、 必ず美味しいも                  
のに消費者は向かうと思います。
◇ 御社にとってCMの効果をどのようにお考えですか。 
  「晩餐館」 というCMは、 フランス語の 「25歳」 に掛けて若い奥様をターゲット
にし、 ごちそうや高級感をイメージしています。 この名前をつくるには、 モニタ
ーを使ったりして、 何度もイメージを絞り込む作業をして、 約1年を要しました。
焼き肉のたれは、 従来の商品との競争があり、 また嗜好品ですので、 最初のCMを
見た人が商品を買って、 その味を評価して再び同じ商品を買ってくれるのを待つ
のです。 根気強くイメージを売り込んでその商品の味を試してもらって、 また、 
それを買ってもらうというふうに時間のかかるものなのです。 その効果が出て、 
最近はかなりの伸びを示しています。 
 (聞き手 企画情報部 南正覚 康人) 

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