事業団の需要開発調査研究から

牛乳等の購入場面、 飲用場面からみたトレンド研究

〜 今後の牛乳市場の活性化へ向けて 〜

      (株)社会調査研究所 鈴 木 常 夫   


  この報告は、 社団法人日本食鳥協会が財団法人外食産業総合調査研究センターに委託
して実施した 「外食産業鶏肉使用実態調査」 の結果を取りまとめたものです。  
 牛乳市場の状況
  飲用牛乳の生産量の動きをみると、 86年の僅かな減少を除き、 増加傾向が続いたが、 
90年代に入ってからは頭打ちの状況となり、 93年は、 対前年マイナスとなっている。
ピークとなった92年の生産量は75年の1. 5倍強にあたる (図−1参照)。 
 家庭内消費の市場規模をSCI (注1) からみると、 90年を頂点として下降線を描
く(図−2参照)。 90年まで店頭で購入される牛乳は順調に市場規模を拡大させている
が、 宅配牛乳は加工の一途をたどり、 年間の購入経験世帯は最近10年で1割近く下降
し、 現状では3割にも満たない。 しかし、 宅配牛乳の市場規模はこのところやや持ち
直した感もある。 

 購入場面からみた牛乳の現状
  
 購入ルートについてみると、 スーパーでの購入比率が年々増加傾向にあり、 93年に
は全購入量の61. 4%を占めるに至っている (表−1参照)。 また、 購入単価は、 店頭
で購入される牛乳がこの10年間191円〜200円/リットルを保っているのに対し、 宅配
牛乳は260円台/リットルから280円台/リットルへと値上がりしている。 
 牛乳の購入水準を主婦の年齢、 主婦の学歴、 月収ランクなど世帯特性別にみた場合
大きな差異はみられず、 世帯の属性にかかわらず平均的に購入されている―すなわち
市場自体が成熟した状況にある―といえる。 
 世帯での購入という側面から牛乳という飲料を特徴づけると、 過去長期にわたり安
定的に市場を拡大し、 他の飲料を大きく引き離している飲料であり、 また全国どの世
帯においても平均的に購入され価格的にも安定した飲料であるということができる。 
また、 市場としては成熟し、 伸び率が鈍化するといった飽和状態にあり、 今後の更な
る市場拡大のためには何らかの方策が必要とされているといえる。 
   
 飲用場面からみた牛乳の現状
   次に弊社実施の 「夏の飲料市場消費実態調査」 (注2) から牛乳飲用の実態をみる。
 93年8月の牛乳飲用者の割合は1日平均47. 6% (1カ月間の延飲用者数を調査対象
 者数と31日で除した1日あたりの飲用者の割合)、 1日の1人当たり平均飲用量は128.
 7リットルであり、 1日平均の飲用量は夏場の定番である麦茶に次いで2番目に多く
 なっている。 
 
   飲用者の性・年齢別に1日当たりの飲用量をみると、 0〜6才、 7〜12才の飲用量
 は男女ともに多く、 次いで男性では13〜18才、 女性では50〜59才の飲用量が多くなっ
 ている (表−2参照)。 
 
   次に牛乳の飲用シーンをみると、 朝食時が35. 8%と最も多く (図−3参照)、 これ
 はどの年代層にも共通しており、 87年との比較でも、 朝食時の比率は増加している。 
  
   朝食を含めた食事の割合は全飲用場面の53. 2%を占め、 その時の主食はパンである
 割合が高い。 食事時の牛乳の飲用比率、 その時の主食がパンである割合とも93年は87
 年に比べ、 増加している (図−4・図−5参照)。 飲用シーンをTPOの組み合わせて
 みると、 「自宅で」  「朝食時に」  「家族と一緒に」 が1/4を占めている (表−3参照)。 
  
   このように、 牛乳は極めて日常的に朝の家庭のテーブルでパンとともに飲用されて
 いる飲料であり、 その傾向はより強まってきているといえる。 
 
イメージ・飲用目的からの牛乳の位置づけ  
   牛乳に対する一般消費者のイメージは 「美容・健康によい」 がもっとも高く、 つい
 でのどの渇きをいやす」  「食べ物を飲みくだす」 となっている。 これに対し、 実際に牛
 乳を飲んだ時の目的をみると 「のどの乾きをいやす」 がもっとも高く、 「食べ物を飲みく
 だす」 「美容・健康によい」 が続く (図−6参照)。 
 
   牛乳以外の飲料についても同様にそれぞれのイメージ及び実際の飲用時の飲用目的を
 とらえ、 「数量化V類」 の統計的手法により、 それぞれの飲料をイメージ空間上にプロ
 ットした。 
 
  イメージのみからのプロットでは牛乳は 「美容・健康」 のイメージの高い飲料として、 
 ヨーグルトや乳酸菌飲料・野菜系ジュースなどと似通ったイメージがもたれていること
 がわかる (図−7参照)。 
 
   これに対し、 実際の飲用時の飲用目的からのプロットをみると、 牛乳の飲用目的はイ
 メージの場合に比べ 「気分」 よりも 「機能」 方向、 「美容・健康」 よりも 「リラックス」 
 の方向にプロットされる。 ヤクルト類や野菜系ジュースとは似通った目的で飲用されて
 いるが、 イメージでは比較的近いところにあったヨーグルトとは離れたところに位置し、
 イメージ的には近いものの実際の飲用目的では 「気分寄り」 のヨーグルトに対し 「機能
 寄り」 の牛乳といった傾向が見てとれる。 
今 後 の 展 望 
   日本人の牛乳消費量を諸外国と比べてみると、 イギリスの47%、 アメリカの57%、 オ   
 ーストラリアの34%といった水準にしかすぎない。 ヨーグルト、 チーズ、 バターについ   
 ても欧米に比べると低い消費水準にとどまっているのが現状である。 
    
   日本では現在チーズ市場が順調に推移しており、 特にナチュラルチーズが関心を集め   
 ている。 また、 最近の一時的な米不足により、 パンやスパゲティなどの乳製品との併用   
 機会が比較的多い主食の消費量が伸びていることから、 牛乳が日本の食文化により深く   
 入り込む好機が到来しているとも考えられる。 ほとんどの家庭に定着した 「飲む牛乳」    
 に加え、 チーズやヨーグルトとともに、 より 「豊かな食文化を築き上げる素材としての   
 牛乳」 はまだまだ活用の余地が大きいであろうと思われる。 
 牛乳のイメージや飲用目   
 的において 「のどの渇きをいやし」  「食べ物を飲みくだす」 といった機能以外に 「美容   
 ・健康によい」 といった効果もあげられており、 牛乳は数ある飲料の中でも美容・健康   
 のイメージが高いものであるといえる。 健康の視点に立ってみた場合、 日本人の食生活   
 において唯一不足しているカルシウムについて牛乳がすぐれた供給源であることも見直   
 されてきている。 特に昨今高齢女性がかなりの割合で骨粗しょう症にかかっているとい   
 ったデータも公表されており、 牛乳の消費量拡大に向けて追い風の状況にあるともいえ   
 る。  
    
   地域、 年齢を問わず国内で広く普及している牛乳市場の今後を展望するならば、 生産  
 物としての牛乳の価値をどう文化としての価値に変え、 新たな牛乳文化を創造してゆく  
 かが問われているともいえる。 
今後の牛乳市場活性化に向けて
   通常、 商品のマーケティングを行う場合、 その商品のコンセプト (消費者に対する訴    
 求のポイント) ならびにプロダクト (モノとしての製品自体の特性) についての検討を    
 行い、 その結果に応じたマーケティングプランを策定する。 これに従い、 牛乳のコンセ    
 プトおよびプロダクトについて考察する。      
    
   現在の牛乳のもつコンセプトについて考えると、 やや陳腐化してきてはいるものの 「    
 健康・美容」 イメージが高く、 100%ジュースや野菜ジュースなどとともに飲料として   
 望ましいポジションを獲得しているといえる。 さらにこの 「健康・美容」 イメージをイ   
 ンパクトのあるものとするためには、 たとえば人参ジュースでβ・カロチンを強調した   
 ように、 カルシウムや骨量関係を訴求するなどの方策が考えられる。 新聞や雑誌広告な   
 どの媒体を用いたコミュニケーション戦略や保健所または健康教室などの機関とのタイ   
 アップによる啓蒙活動も有効であろう。 快適さや本物が求められる時代の要請に応じ、    
 牛乳の純粋でナチュラルなイメージを改めて訴えかけてゆくことが求められよう。 
     
   次にプロダクトについてみると、 現状においては、 のどの渇きや食べ物の飲みくだし   
 を主な目的として飲用されてはいるものの、 やはり基本的な用件として 「おいしさ」 を   
 満たしていることは不可欠の条件である。 たとえば、 一般消費者を対象とした牧場体験   
 の企画などにより、 新鮮でおいしい牛乳との接触機会を提供し、 牛乳のおいしさを再確   
 認させることなどにより牛乳離れを防ぎたい。 また、 カルシウム強化やビタミンD添加   
 など積極的な栄養強化により、 より健康イメージの高いプロダクトを提供してゆくとい   
 ったバリエーションも考えられる。 さらに、 牛乳を単に飲料としてのみ捉えるでなく、    
 料理の素材としての市場、 牛乳を用いた美容市場 (牛乳風呂・牛乳パックなど) への展   
 開も検討の価値があるのではないだろうか。      
    
   現在、 日本全国どの世帯でも平均的に飲まれ、 家庭の朝食の食卓に当たり前のように   
 並んでいる牛乳を再び魅力的な飲料としてゆくためには、 時代の潮流に合った何らかの   
 差異性を求めてゆかなければならないであろう。 牛乳は自然で栄養価に富んだ本物の飲   
 みものという優れた素材であることから、 今後の方策次第でマーケットの可能性はまだ   
 まだ開かれていると思われる。     

 (注1)  「SCI」   「社会調査研究所全国消費世帯パネル調査」 我が国が唯一の全国
         消費世帯パネル調査 (全国約1万世帯を対象とする)で、 毎月の食料品、 雑貨
         品などの購買動向をとらえている。     
 (注2)  「夏の飲料市場消費実態調査」  8月の飲料飲用実態の把握を目的とした全国
         調査。0〜69才の男女個人3, 600人を対象に実施。  本レポートでは87年と93
         年との結果から飲用実態についてまとめている。

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