事業団の需要開発調査研究から

牛肉輸入自由化前後における牛肉消費の変化

                                             財団法人農村金融研究会  銭 小平     

                                                    立正大学経済学部教授      森島 賢


   牛肉は91年4月から輸入自由化が実施され、 今年で4年目に入った。 牛肉の輸入
 自由化の影響は生産・消費・流通等の各分野に及んでいるものと考えられる。 
  ここでは、 (株)日本食肉消費総合センターの 『季節別食肉消費動向調査報告』 
 のデータを用いて、 輸入自由化前後の時期において牛肉に対する消費者の意識がど
 う変化したかという問題と牛肉価格の下落によって消費量がどの程度増えるかとい
 う問題の2点を分析した。   
 
1 牛肉に対する消費者の意識変化
  近年、 食肉消費が停滞する中で牛肉消費は着実に増えており、 これからも伸びが
期待されている。 ここで、 消費者の牛肉消費に対する意識の変化をみると、 

@ 牛肉の購入基準の順位は88年から93年まで、 ほとんど毎年、 鮮度、 部位、 価格、 
  赤身肉の順位となっており、 赤身肉とシモフリ肉の好みについては88年から92
  年まで全体的にシモフリ肉を好む世帯が赤身肉より多くなっているが、 その差
  が縮小しており、 93年に入ってから逆転し赤身肉を好む世帯が増えている (図
  1)。 

A 国産牛肉と輸入牛肉の好みでは、 国産牛肉の方を好む人が8割以上を占める。 
  輸入牛肉を好む人は全体的に少ないが、 上昇傾向を見せ、 特に92年から上昇し
  ている (図2)。

B 牛肉価格について国産牛肉の価格は、 変わらないと意識する世帯がこれまで大
  多数であったが、 91年の牛肉自由化の年から安くなったと意識する世帯が増え
  てきた。 輸入牛肉の価格については90年までは高くなったという意識が強かっ
  たが、 その後自由化に伴い輸入牛肉が安くなったと意識する世帯が増えた (図
  3)。 
 
2 専門店と量販店の分化
  食肉販売店の調査から国産牛肉の売れ筋価格 (多く売れる価格帯) の変化をみると、 
専門店の売れ筋価格は量販店より高く、 88年から急速に高くなっている。 量販店も88
年からの2年間高くなったが、 90年からは下がっている。 輸入牛肉の場合、 86年まで
の売れ筋価格について、 専門店と量販店の間の格差は小さかった。 86年からその格差
は拡大し、 91年では、 専門店の売れ筋価格は量販店より100g当たり50円以上の差をつ
けた。 国産牛肉と輸入牛肉の売れ筋価格の差は大きく、 専門店と量販店ともその差は
100g当たり200円近くになっている (図4)。 
 
3 肉類消費と所得との関係
  1週間1世帯当たりの牛肉の購入量と所得階層とは正の相関関係にあり、 所得の多
い世帯ほど牛肉の購入量が多い。 高収入階層となるほど牛肉を中心とした消費パター
ンに移行する傾向があるが、 豚肉の購入量と所得階層との関係を見ると、 このような
傾向はない。 (図5、 6) 
 
4 肉類消費と価格との関係
  
 牛肉価格が下がった場合に、 食肉購入量が増減するかどうかについての意向調査
の結果をまとめた (表1)。  (4つの選択肢‥T かなり増やしたい、 U やや増や
したい、 V 変わらない、 W 減らしたい) 
@ 国産牛肉‥93年ではやや増やしたいと思う世帯が5割の比率を占め、 かなり増
    やしたいのシェアを含めると6割程度もあることから、 国産牛肉に対する需要
    が強いことが伺える。 

A 輸入牛肉‥価格が下がっても輸入牛肉の購入量は今と変わらないと考える世帯
    が多く、 89年から全体の7割近くを占めている。 また、 減らしたいと考える食
    肉の中で、 輸入牛肉の割合は一番大きい。 

B 豚肉と鶏肉は同じような傾向で、 大部分の人が価格が下がっても、 購入量は今
    と変わらないと考えている。 

 牛肉価格が下がった場合、 食肉購入量が増減するかどうかについての意向調査を
データとして、 その価格弾性値を計算した (表2)。 この価格弾性値は意向調査のデ
ータについて、 次のように解釈して推計したものである。 

(1) 「価格が下がった場合」 を 「価格が10%下がった場合」 と解釈した。 
(2) 「購入量をかなり増やしたい」 を 「購入量を20%増やしたい」 と解釈した。 
(3) 「購入量をやや増やしたい」 を 「購入量を10%増やしたい」 と解釈した。 
(4) 「購入量を減らしたい」 を 「購入量を10%減らしたい」 と解釈した。 

  推計の結果、 次のことが分かった。 
 
@ 国産牛肉の価格弾性値は、 輸入牛肉、 豚肉、 鶏肉のそれより大きく、 輸入牛肉、
  豚肉と鶏肉の価格弾性値はかなり小さい。 これは価格が下がっても、 輸入牛肉、
  豚肉、 鶏肉の需要量はほとんど変化しないことを表す。 

A 関東と関西の価格弾性値を比べた場合、 概ね関西の方が関東より大きい。 近年、 
  国産牛肉ではこの傾向が顕著で、 もし国産牛肉価格が下がったら、 関西の世帯
  当たりの購入量は関東よりさらに増えるであろう。 

B 時系列でみると、 国産牛肉の価格弾性値は大きくなる傾向にある。 輸入牛肉は、 
  その値はほぼ0に近く、 輸入牛肉の購入量は価格の上下に左右されず、 変化し
  ないことが分かる。 また、 豚肉、 鶏肉についても輸入牛肉と同じような傾向を
  示し、 購入量は価格によってあまり変わらない。 関西も関東も同じような傾向
  を見せている。 

C 以上の推計結果を、 既往の研究結果 (表3) と比較してみよう。 本計測結果と
  は計測方法、 データなどが違うため、 その結果には若干の差があるが、 ここで
  は、具体的な数値よりその食肉品目間の価格弾性値の傾向に注目したい。 表から
  分かるように牛肉価格弾性値は豚肉のそれより大きい (澤田、 佐々木、 Mori and 
  Lin)。 この点では本計測と同じ傾向が出ており、 牛肉価格の変化による需要量
  の増減は豚肉のそれより大きい。 また、 国産牛肉の価格弾性値が輸入牛肉の価
  格弾性値より大きい点もMori and Linの研究結果と同じである。 

5 ま と め
   以上、 主に(財)日本食肉消費総合センターの 「季節別食肉消費動向調査報告」 
  を用いて、 牛肉消費の動向を分析したが、 このうち、 牛肉消費と所得、 価格との
  関係を中心にみると同センターの意向調査をデータとする所得弾性値、 価格弾性
  値の推計値と実際の消費量と所得、 価格をデータとする既往の推計値との間には
  整合的な関係が見られることが分かった。 
 
    その特徴は国産牛肉の所得弾性値と価格弾性値はともに輸入牛肉、 豚肉及び鶏
  肉のそれと比べると比較的大きいことである。 このことは、 今後、 消費者の所得
  が増えれば国産牛肉の消費量は増えることと、 国産牛肉の価格が下がれば消費量
  が増えることを示唆している。 
 一般に商品の成長は表4のようになると思われる。 
   高級品は高価なもので、 この段階では、 高所得者だけが消費するので、 所得弾
  性値は大きい。 また、 高所得者であるため、 高価とはいっても価格に対する反応
  は鈍い。 従って、 価格弾性値は小さい。 メロン (マスクメロン) を例にすれば、 
  かつてメロンは社長が食べる高級で高価な果物であった。 部長や課長は食べられ
  なかった。 社長が食べるものだから価格が高いとか安いとかは気にしなかった。 
   価格が下がって中級品の段階になると、 所得が中程度の消費者も消費し、 価格
  に反応するようになる。 このため所得弾性値も価格弾性値も中程度になる。 部長
  や課長もメロンが食べられるようになった。  
    さらに価格が下がって商品が普及し大衆品になると、 所得弾性値は小さくなり、
  価格に敏感に反応するようになるので価格弾性値は大きくなる。 新入社員も価格
  が安い時にはメロンが食べられるようになった。 
 
    さらに普及すると、 いわば必需品になって、 所得の大小にかかわらず一定の量
  を消費するようになるので所得弾性値は小さくなる。 また、 必需品なので、 価格
  の高低にかかわらず、 一定の量を消費するようになって、 価格弾性値も小さくな
  る。 誰もが価格をあまり気にしないでメロンを食べられるようになった。 
 
    牛肉はこのような成長の段階の中で、 中級品と大衆品の中間にあると思われる。 
  つまり、 中級品から大衆品へ移行する過程にあるので、 今後、 消費者の所得が増
  え、 牛肉価格が下がれば、 牛肉消費量はさらに増え、 大衆品になると思われる。 
 
    これに対して、 豚肉や鶏肉はすでに大衆品から必需品へ移行する過程にあると
  思われるので、 今後消費者の所得が増えても消費量はそれ程増えないと思われる。 
  価格弾性値については、 大から小への移行過程にあると思われるので、 豚肉や鶏
  肉の価格が下がれば消費量の増も期待できると思われる。
 

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