調査報告

牛が好きだから

      企画情報部 安井 護  


 「自分で牧場を持ちたい。 そのために、 ここで牛の世話をしているんです」 と将来
の夢を話してくれたのは、 北海道江別市にある酪農学園大学3年生の小寺さん。 同
大学の牛好きが集まる学生サークル 「肉牛研究会」 の会長を務めている。 
 
  学生サークルといっても、 この肉牛研究会は同好会とはちょっと違う本格派であ
る。 校内の施設では、 牛の種付けに始まって、 分娩、 育成、 肥育そして出荷までの
すべてを研究会のメンバーが分担して、 こなしている。 牛が、 病気になったときの
治療はメンバーの中の獣医の卵が担当。 除角や削蹄ももちろんみんなで協力して行
う。 エサもデントコーンを自家栽培しているほどである。 研究会は独立採算になっ
ており、 単に牛を飼っていればいいだけでなく、 経営にも自分たちが責任を持って
当たらなければならない。 
 
  設立は1967年、 今年で27年目を数える歴史のあるサークルである。 最初は、 酪農
専門の大学らしく、 乳牛の老廃牛の肥育からスタートした。 その後、 他の品種にも
手を広げ、 80年からは繁殖も始めた。 繁殖の主体はアンガスとヘレフォードであっ
たが、 数年前から和牛も手がけている。 
 
  現在、 研究会が飼っているのは繁殖雌牛が5頭、 育成牛が6頭、 肥育牛が4頭の
合計15頭。 品種は、 和牛、 ホルスタインから、 アンガス、 ヘレフォード、 F1など
と幅広く、 ジャージーもいる。 さらに、 6頭のホルスタインも肥育試験中である。 
  
  牛舎の一部は40〜50年前の元豚舎を手入れして利用しており、 究極の低コスト生
産といえる。 
 
  研究会は全部で38名、 うち女性が20名と半分を超える。 実家が農業という人は少
なく、 畜産をやってみたいと北海道にやってきた人が多い。 当然、 牛を飼うのは初
めてというメンバーが多いが、 1年経ち、 2年経つと一人前になっていく。 牛を育
てながら、 自分も育っていくのだ。 
 
  研究会のOB (OG) には、 牧場を経営している方が多い。 タレントの田中義剛
さんもその一人。 タレント活動をやりながらも、 いつか牧場を持ちたいという夢を
持ち続け、 とうとうその夢の実現。 今年十勝に田中義剛牧場をオープンした。 
 
  気になる研究会の財政状態だが、 「1頭売ればそこそこの収入になりますよね」 
という質問に小寺さんは、 「儲かるというまではとてもとても、 収支とんとんに持
っていくが精一杯です」 と首を振る。 牛舎と部室などの施設は学校から無償で借り
ているものの、 エサや施設の手入れなどに結構経費がかかるという。 
 
  メンバーの多くは会長の小寺さんと同じく、 自分で牧場を持つことを目指してい
る。 ここでは、 教室の中だけでは学べない現場での実際的な技術を身につけること
ができ、 また、 経営の大変さを実感することができる。 ここでの経験はみんなにと
って大きな財産になることだろう。 小寺さんの 「牛が好きだから、 この研究会に入
ったし、 自分の牧場を持って牛と一緒に暮らしたい」 という言葉がとても印象に残
った。  

元のページに戻る