部分肉流通高度化施設の開業にあたって

 

財団法人日本食肉流通センター  業務部長    小 林 喜 一 


 最近の食肉の小売単価の低下に伴い中小の食肉流通企業の物流コストを下げる必
要があることから、 この度、 部分肉流通の合理化を図るために共同配送ができる「部
分肉流通高度化施設」 が川崎市 (東扇島) と大阪市 (南港) で開業することとなり
ました。 その背景となった食肉流通の変化とオープンする施設について、 財団法人
日本食肉流通センターの小林業務部長にご投稿いただきました。 
 
1 施設建設に至る経緯とその背景
 
(1)輸入食肉の増加に伴う流通の変化

  牛肉の輸入が自由化され、 食料需給表 (農水省) によると、 1992年度に初めて国内需
 要の50%以上を輸入牛肉が占めることとなった。 以前から自由化されている豚肉につい
 ても、 1987年以降輸入量が大幅に増加し、 その結果、 全食肉需要量の約3割に当たる185
 万tが輸入食肉になっている。 本年も同様の傾向が見られ、 国内生産の状況をみると輸
 入食肉の増勢は今後とも止まらないのではないかと思う。 
 
  輸入食肉の流通は通関業務が伴うため、 必ず保税倉庫 (営業用冷蔵庫) を通過するこ
 とになり、 営業用冷蔵庫は輸入港に近い海岸地域にある。 一方で、 国産食肉は主に遠隔
 の産地食肉センター等から陸上やフェリーを利用してのトラック輸送であるため、 食肉
 の集散基地は国産・輸入物双方の輸送に便利な基幹道路網のインターに近く、 営業冷蔵
 庫を備えたベイエリアに位置すべきこととなる。 

(2)小売業界の動き

  テーブルミートの販売窓口は、 女性の社会進出→買物・料理時間の短縮→ワンストッ
 プショッピングという社会現象の影響を受けて、 チェーンストアのシェアが増大してい
 る (チェーンストア65%、 専門小売店35%) 。 また、 大店舗法による規制は緩和される
 方向にあり、 チェーンストアの店舗展開はますます急速に進められ、 その販売シェアも
 より高くなる傾向にある。 そして、 チェーンストア同士の競争は過酷を極め、 店舗での
  「売場面積の増加」 = 「バックルームの減少」 となり、 店舗段階での在庫圧縮は必須の
 要件になっている。 
 
  従って、 店舗へは少量で多頻度の納入が要求され、 しかも店舗への到着時間も決めら
 れている。 大手チェーンストアではこれらのオペレーションを確保するために、 配送、 
 加工センターを店舗展開に合わせて整備してきている。 
 
  中堅以下のチェーンストアにあっては、 配送センターを持っていても店舗展開に間に
 合わず機能マヒ状況にあったり、 各店舗納入の企業では卸売企業や冷蔵庫業の施設を頼
 って自社の配送センターと同じ機能を持たせる努力をしているケースも見られる。 
 
  また、 店舗での加工はパートタイマーでも可能なオペレーションを志向し、 納入され
 る部分肉も小分割され、 脂肪やスジを整形して、 スライサーにかければ商品になる形態
 となってきている。 発注の方法も店舗での負担を軽減するため、 チェーンストアの本部
 からEOS (補充発注システム) によってなされるものが増えてきている。 
 
  食肉卸売業界は、 これら小売業の変化に対応していかなければならないことになる。 

(3)食肉流通企業の苦悩

  食肉流通企業 (食肉加工メーカー・食肉卸売業) は、 産地センター等から1頭分のセ
 ットになった部分肉を入荷して、 部分肉のパーツ別に卸売する分荷機能をもつことによ
 り、 国産牛肉や豚肉の流通上大きな役割を担ってきたが、 チェーンストアのシェアが増
 大するにつれて、 部位別の需要格差が広がり、 分荷によるリスクが生まれてきている。 
 また、 小割部分肉での納入が増加しているため、 各企業の産地工場等では牛の部分肉取
 引規格とは別にチェーンごとに微妙に違う小割規格の製造に追われている。 
 
  しかも、 通常規格よりも約50円高くなる製造費を価格に十分反映できずにいるのが現
 状である。 
 
  さらに、 チェーンストアから上がってくる店舗ごとの確定オーダーは、 納入前日の午
 後からのことも多くなっており、 なかには、 当日注文の当日納品もある。 このため、 オ
 ーダー後に産地で加工していたのでは納品に間に合わない状況で、 従って納入企業はこ
 れに応じるため、 都市周辺に小割等を行う作業場を持たざる得なくなる。 
 
  当然のことながら、 その作業場の衛生基準は一定水準以上のものが要求され、 施設へ
 の投資もかなりの負担となっている。 
 
  食肉流通企業では小口・多頻度、 そして時間指定の納品を都市の交通渋滞のなかで行
 わなければならず、 これら物流にかかる費用は膨大なものになっている。 
 
  日本を代表する食肉加工メーカーである日本ハム、 伊藤ハムでは、 それぞれ年間に145
 億円もの物流費を計上しており、 その他の企業においても売上額の2. 5%〜3. 5%の費
 用となっており、 しかも最近の5年間で23〜32%の物流費の増加が見られる。 これらの
 物流コストもまた、 納入単価に上乗せできず吸収できていない。 
 
  こうした状況をふまえ、 各食肉企業では物流拠点の見直しを行っており、 ある大企業
 にあっては物流拠点を港湾地区の営業冷蔵庫に集中し、 配送車も冷蔵庫会社の関連輸送
 業者に委託する方式を取り始めている。 また、 ある大手食肉企業では、 自社の物流・加
 工施設を都市周辺に建設し、 数ヵ所の分散した物流網を組み上げつつある。 
2 高度化施設の機能
  
(1)共同配送

  上記のような社会背景の中で、 物流や加工の施設設備が急がれているが、 それには多
 大の投資を必要とし、 中堅の企業にあっては対応に苦慮しているのが実情である。 物流
 コストを下げるためには、 一部の企業が取り組み始めたように、 食肉業界の枠を乗り越
 え、 営業冷蔵庫業界や運輸業界、 そして小売業界と協力し、 連帯して物流ルートの構築
 をしなければならない。 それと同時に、 食肉業界内でも流通面では企業の看板を取り払
 い、 共同で取り組む必要がある。 
 
  現に菓子業界やアイスクリーム業界では、 大手数社による共同配送を実施している。 
 最近新聞で報道された三越と大丸の共同配送に見られるようにその他の業界でも共同の
 配送拠点 (倉庫) を持ったり、 運輸業者と組んで共同で物流に取り組んでいる様子が見
 られ、 こうした動きが見られないのは食肉業界のみではないかと思われる。 
 
  ただ、 今のように食肉企業間の競争が厳しい中では企業同士の話し合いによる共同配
 送の構築は難しい。 そこで当日本食肉流通センターが音頭を取りその物流拠点としての
 環境を整えることとした。 
 
  部分肉流通高度化施設は、 3面をドッグシェルター付きのプラットホームとし、 1面
 を輸入物の通関や、 大量長期保管のための営業用冷蔵庫に、 もう1面を冷蔵輸送業者の
 共同配送のための冷蔵ピッキング (仕分け) 施設に、 さらにもう1面を食肉企業の冷蔵
 施設とし、 ドッグシェルターの中は、 温度コントロール (12〜15℃) されたプラットホ
 ームでつなげる。 
 
  食肉企業は、 自ら行う配送の他、 共同で行う配送の商品を共同配送エリア (施設) に
 持ち込む。 
 
  当日の夕方までに持ち込んだものは、 夜のうちにルート別にピッキングされ、 翌日早
 朝に積み込みして小売側には指定した時間までに納品される (図)。 
 
  この事業に参加する運輸会社は、 チルド輸送の大手である名糖運輸 (大阪施設) と明
 雪運輸 (川崎施設) であるが、 これらの企業は乳製品の輸送から発展してきた企業であ
 り、 夜間・早朝に準備作業を行ったり、 日曜祭日等の配送には牛乳等の配送で十分に慣
 れている。 食肉企業の社員の勤務は定時までに終了し、 後は配送部門に委ね、 分業する
 ことによって食肉企業社員の定着に寄与すること、 そしてこれら運輸会社の扱っている
 畜産物の配送とリンクすることにより流通コストの低減が図れるメリットをねらったも
 のだ。 
 
  共同配送は、 各チェーンの配送センター向けのセンター便と、 専門小売店をはじめチ
 ェーンの店舗をフォローするエリア便とコース便により行うが、 いずれも食肉企業数社
 の食肉を混載させることになるし、 食肉以外の同じ温度帯の食品も同時配送することに
 なる。 
 
  高度化施設と銘打っているのは、 食肉企業が荷捌のために保管 (営業) 冷蔵庫へ行う
 入出庫依頼や運輸部門へ行う配送依頼は、 それぞれの事務所に準備してある情報機器に
 入力することによって、 オンラインで連絡できる情報ネットワークを構築しているから
 で、 運輸事務所に設置したワークステーションを通じて相互に通信できるようになって
 いる。 

(2)附帯施設

  チェーンストアへの納品対応のため、 都市部に加工施設を持たなければならないこと
 は前述したが、 部分肉流通高度化施設には2階に部分肉の小割加工施設を持つこととし
 た。 特に、 従来の食肉加工工場よりも衛生に留意し、 アメリカやEUの衛生基準をクリア
 する基準を採用している。 エアーシャワー付きの入口、 エアーフィルターによる空気清
 浄やアワ洗浄による日常清掃等、 種々工夫したものになっている。 
 
  また、 川崎の施設では、 東京・横浜の食肉卸売市場からの枝肉を搬入して部分肉に加
 工する協同組合事業を行う。 この搬入・加工面の衛生にも十分考慮し、 東京食肉市場で
 開発した枝肉懸垂車での共同輸送を想定した導入口を設置、 加工施設にはカーニレベレ
 ーター (脱骨補助機械) を導入して、 加工された部分肉の衛生レベルを上げることとし
 た。 
 
  大阪の施設にはラック洗浄室や急速解凍室もあり、 その他にも、 この施設で働く人の
 福利面を考慮して、 仮眠室・シャワールームを備え、 また、 来場されるお客様との商談
 室や男女のロッカールームも完備している。 


(3)これから

  これからの流通コスト低減のためには、 冷蔵・運輸・食肉卸売の協力と共に、小売業界
 の理解と、 連携をとった活動が必要となる。 今までは売る側と買う側とのぶつかり合い
 的な側面がみられたが、 これからは生・販一体となった体制でトータルコストを下げて
 いかなければならない。 
 
  部分肉流通高度化施設で行う共同配送 (数社によるセンター・店舗への一括納品等) 
 は、 小売側にとっても検品の簡素化を図れることとなる。 
 
  また、 配送センターを持たない小売チェーンや配送センターを持っているチェーンにあ
 っても一部エリアについて限定する形で、 食肉のみでなく畜産物や冷凍食品を含めた食品
 の配送に、 当施設を利用していただくことも可能である。 
 
  川崎の施設は10月1日に、 大阪の施設は11月1日に開業することになるが、 共同配送等に
 ついては日本食肉流通センター卸売事業協同組合 (理事長 宮代茂氏)、 大阪部分肉冷蔵事
 業協同組合 (理事長 石田政春氏) が事業主体として運営することになる。 
 
  これらの事業については、 参加する食肉卸売企業にとっても初めてのことで今まで自社
 の看板を背負って走っていた車を全面的に共同配送に切換えることも無理な話であり、 徐
 々に移行していく地道な努力が必要となる。 
 
  さらに、 異業種である、 食肉卸売業、 運輸業、 冷蔵保管業がそれぞれのノウハウを出し
 合い、 協力していかなければならない。 

  困難な道のりであるかも知れないが、 当センターと協同組合そして参加企業が力を合わ
 せ、 一歩一歩これら事業を軌道に乗せていきたいと思います。 関係各位のご指導、 ご協力
 をお願いする次第であります。 
 
 

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