★ 巻頭言


平成7年度保証乳価等の決定をめぐって

 財団法人 日本食肉流通センター 理事長 関谷 俊作 (畜産振興審議会酪農部会長)


 

決定の経過

 
  平成7年度の保証乳価等を審議する畜産振興審議会酪農部会は、平成7年3月
29日に開催され、政府試算について審議し、答申及び健議を行った。答申は「
政府諮門に係る保証価格等及び限度数量については、調整額の加算等につき一部
に不満があったが、生産条件、消費の動向及び需給事情その他の経済事情を総合
的に考慮すると、政府試算に示された考え方で定めることは、やむを得ない」と
いうものであった。次いで3月31日に試算どおりの保証価格等が決定され、告
示された。
 
 一見波乱のない決定経過であったように見える。しかし、答申の中の「調整額
の加算等につき一部に不満があったが」という言葉に保証乳価等の決定のあり方
にかかわる深刻な問題が姿を現している。
 
 
 
政府試算の提示
 
 保証価格については、従来どおり牛乳生産費調査結果に一定の評価替えを行っ
て算定された試算値(73円11銭/kg)に、前年度価格からの低下額(2円64銭)
を調整額として加算し、前年度と同額(75円75銭)とする試算が示された。
算定基礎の示されない調整額を加算した保証価格が示された点では前年度と同じ
である。
 
 しかし、前年度の調整額は前々年度保証価格からの低下額の2分の1相当額(
1円1銭)であったのに対して、今年度の調整額の加算は単純に保証価格を前年
度と同額とするものであった。
 保証価格の試算に用いられる農林水産省統計情報部の平成6年度牛乳生産費調
査(北海道)結果は、乳牛償却費の増加と副産物たる子牛価格の低下が主な原因
となって生乳100kg当たりで前年に対し 0.7%増加している。これに対し、試算
値は従来採用されている評価替え等の方法を用い、前年の試算値(74円74銭/kg)
より2.2%低い73円11銭と算定された。その際酪農ヘルパー費(2日分)の加算
などの微調整がなされた旨の説明がなされている。

  このほかの諮問事項については、安定指標価格及び基準取引価格は前年度どお
り据え置き、限度数量は前年度と同じ230万トンとされた。算定基礎はともかく
、保証価格を含めてすべての諮問事項が前年度どおりとされたのである。

 生産者方面の関心事項であった特別助成については、委員からの質問に応ずる
形で、前年度と同じ「酪農経営の一層の合理化の観点」から2円/kgの特別対策
に切り替えるという説明がなされた。強いて前年度との違いを求めるとすればこ
の最後の点だけであった。
  
酪農部会における論議
  今回の酪農部会における論議の最大の特徴は、生産者関係の委員が一様に政府
試算にほとんど留保のない賛意を表したのに対して、その他の委員はいろいろな
観点から政府試算の考え方を批判したことであった。
 第1は審議会の役割という問題である。国の全額負担による不足払い制度であ
る加工原料乳生産者補給金の交付の基準となる保証価格は、生産費調査結果を用
いた客観的な算定方法により算出することとなっていたが、近年は算定基礎の示
されない「調整額」の加算や価格の外で実質的に価格上乗せになる特別助成が常
態として行われるようになった。これらの価格への上乗せ部分は審議会における
検討にはなじまない。上乗せの幅の大きさと毎年当然のように上乗せが行われる
実態は審議会による審議の意味を著しく減殺することは否めない。

 第2はガット・ウルグァイ・ラウンド農業合意の実施初年度としての問題であ
る。初年度なるがゆえに生産者保護を手厚くすべきだという考え方も審議会の外
にはあったようであるが、6年間における関税相当額の圧縮などを考えるならば
少しでも内外価格差を縮小する方向を打ち出すべきであるという意見が酪農部会
の論議でも表現された。価格関係はすべて前年度どおりというのでは、今後の酪
農政策に関する中長期的な視点を持たずにただ足踏みしているだけだと言われて
も致し方あるまい、という見方をする向きもあった。
 第3は安定指標価格と基準取引価格についての論議がほとんどなされず、また
乳製品と生乳の需給問題についても十分な検討がなされなかったことである。
 保証価格と限度数量の据置きに伴う補給金財源の問題があって基準取引価格等
の見直しの余地がなかったのが実情ではないかと思われるが、そのことから、総
じて生産者保護に眼が向けられる余り消費者、乳業者の方面に対する考慮が足り
ないという批判的な意見が出された。需給問題はますます困難な様相を示してい
る。生乳生産の地域分担や酪農経営の長期展望を含めて、今年度に策定される平
成17年度目標の「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」に期待
するところが大きい。

 以上のような経過の中で、前年度からの「前進」といえることが1つだけある。
昨年度の酪農部会の建議の中に「乳製品需要のは行性にかんがみ、乳成分取引の
推進について検討すること」という項目があった。この問題について中央酪農会
議に設置された乳成分等評価取引推進委員会において検討の結果、今年4月1日
から乳脂肪分と無脂固形分の両方についてそれぞれ0.1%当たり40銭程度の乳価
を支払うことが決定された。このことを評価し、今年度の建議には「乳成分取引
の着実な導入を図ること」と記載された。

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